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吉沢亮の「たたずまいはまるで職人。誠実さがある」呉美保監督が明かす。

ananweb / 2024年9月20日 20時0分

吉沢亮の「たたずまいはまるで職人。誠実さがある」呉美保監督が明かす。

今回、ご紹介するのは、映画『ぼくが生きてる、ふたつの世界』。耳のきこえない母ときこえる息子の心に響く物語です。呉美保監督と原作者で作家・エッセイストの五十嵐大さんにお話をうかがいました。

「素晴らしい方に主役を演じていただきました」

左から、呉美保監督、五十嵐大さん

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映画『ぼくが生きてる、ふたつの世界』の原作は、作家・エッセイストの五十嵐大さんによる自伝的エッセイ『ろうの両親から生まれたぼくが聴こえる世界と聴こえない世界を行き来して考えた30のこと』(文庫化に際して『ぼくが生きてる、ふたつの世界』に改題)。

五十嵐大さんは、コーダ(CODA、Children of Deaf Adultsの略。親のどちらか、あるいは両方がきこえない・きこえにくい、耳がきこえる子どもたちのこと )という生い立ちを踏まえて、社会的マイノリティに焦点を当てた執筆活動をしています。

映画『ぼくが生きてる、ふたつの世界』のメガホンを取ったのは、2014年キネマ旬報ベスト・テン1位を獲得し、モントリオール世界映画祭最優秀監督賞を受賞した『そこのみにて光輝く』の呉美保監督。主演を務めるのは、『キングダム』シリーズ、『東京リベンジャーズ』シリーズなどの話題作から、作家性の強い監督作等、幅広い作品に出演し、2025年には吉田修一原作、李相日監督『国宝』の公開が控える吉沢亮さん。

本作では、手話に挑戦し、耳のきこえない両親の元で育った息子・五十嵐大の心の軌跡を体現しています。

呉美保監督

ーーおふたりはいつ頃、初対面されたのですか?



呉監督 脚本作りの段階でお会いしました。



五十嵐さん 幻冬舎(原作の出版社)の会議室で3時間ほどお話をさせていただいたんです。時間的に会議室が使えなくなり、泣く泣く終わるほど、たくさんお話を聞いてくださいました。ありがたいなと思いました。



呉監督 伺ったことをそのまま表現できないかもしれないけれど、きちんと事実を掘り下げたうえでどこをチョイスするのか。原作以外の資料も読みながら、考えました。



五十嵐さん 初めてお会いした時、呉監督や脚本を手掛けた港(岳彦)さんがコーダについて真剣に耳を傾けてくださって、その真摯な姿に感動したことを覚えています。それもあって、この方たちなら大丈夫だと確信し、「根底に流れるテーマさえ変わらなければ、細部は自由にしていただいて構いません」とお伝えしました。



呉監督 そう言っていただけて、ありがたかったですし、身が引き締まる思いもしました。

五十嵐大さん



五十嵐さん セリフを手話に翻訳する現場に同席したり、舞台となっている地元(宮城県塩竈市)を一緒にシナハンしたりして、制作の過程を見ることができました。ただ、自分の書いた本がどのような映像になるのかは最後まで想像ができなくて、良い意味でドキドキしていたんです。でも、出来上がった映画は想像以上の仕上がりで、やっぱりお任せして間違いなかったと思いました。



呉監督 今回、企画の段階から、ろう者の役は、ろう者の俳優さんに演じていただくことは決めていました。オーディションではたくさんのろう者の俳優さんにお会いしました。

ーー吉沢亮さんを起用された理由は?



呉監督 吉沢亮さんは、もともと好きな俳優さんでした。多くを語らず感情をおさえた演技がとても魅力的なんです。主人公の大を、吉沢さんなら自然体で演じてくださるだろうと、お願いさせていただきました。

演技力が絶賛されている吉沢亮さん



五十嵐さん コーダの仲間が、吉沢さんの演技を見て、「本物のコーダみたいだね」「手話が上手くてびっくりした」と言っていて、原作者としてもとてもうれしかったです。手話をただなぞるだけではなく、相手に伝わるようなものにするのは、一朝一夕にはできないもの。でも、吉沢さんの手話は驚くくらいナチュラルでした。

撮影現場で吉沢さんに直接お会いして、「手話がお上手ですね」とお伝えしたら、「いやいや、とんでもないです!」と謙遜されていましたが、吉沢さんは相当な努力をされて、わずか数カ月で手話を身につけられたんだと思います。素晴らしい方に主役を演じていただいたなと。吉沢さんでなければ、映画が成立しなかったかもしれないと思いました。

ーー吉沢さんが演技についてアドバイスを求めることは?



呉監督 撮影現場での彼のたたずまいは、まるで「職人」なんです。私がこのようにして欲しいと言うと「はい」とだけ答えて的確にその表現をしてくださる。多くを語らずとも求める以上のものを出してくれました。誠実さがある、すごい俳優さんだなと思いました。

ーー原作の映画化について、先ほどの「根底さえ変わらなければ」というのは、具体的にはどのようなものでしょうか?



五十嵐さん コーダやろう者は決してかわいそうな存在ではないというメッセージだけは変えてほしくない、と思っていました。例えば、思春期に主人公がお母さんとぶつかるシーン。あのシーンだけを切り取ると非常に悲しく映るかもしれませんし、悲劇的な演出をすることもできると思います。だけど劇中では、その後、お母さんがあっけらかんとした感じで「障害者の家に生まれたくなかったなんて言われちゃったよ」とお父さんに愚痴を言うんです。



呉監督 あれはかわいらしいシーンですよね。



五十嵐さん そうなんです。ここでお母さんがメソメソ泣いていたら、胸が痛んで、話が変わってきてしまう。でも、映画ではそんな風に描かなかった。もちろん大変なことはそれなりにあるんですが、コーダの主人公もろうの両親も、かわいそうな存在ではなく、ひとりの人間として映し出しています。

それこそがまさに、僕が伝えたいことでした。ろう者やコーダへの認識が変わると思いますので、ぜひ多くの方に観ていただきたいです。

ーー最後に見どころを教えてください。



呉美保監督 この映画は、耳のきこえない両親のもとに生まれたコーダの物語ですが、誰もが成長過程に抱くであろう感情がたくさん詰まっています。自分のことのように共感していただけるといいなと。ぜひ劇場に足を運んでいただけると嬉しいです。

インタビューのこぼれ話

呉監督が吉沢さんの俳優としてのすごさの一端を明かしてくれました。「吉沢さんが手話を使うシーンとして初めて撮ったのは、父親との長い会話のシーンで、ワンカットで撮ったんです。踏切のタイミング、電車や車の通りがあるから、テイクを重ねるだろうなと予想していたら、吉沢さんの演技も手話も、電車や車のタイミングも完璧で、一発OKでした。

吉沢さんは撮休(撮影が休みの日)も手話の練習にあてたいと言って、勉強されていました。現場ではクールな雰囲気でしたが、ものすごく努力をされる方だなと思いました。ご本人はそういうことを明かされたくないと思うのですが」

Information

映画『ぼくが生きてる、ふたつの世界』
9月20日(金)より、全国順次公開
監督:呉美保
脚本:港岳彦
主演:吉沢亮
出演:忍足亜希子、今井彰人、ユースケ・サンタマリア、烏丸せつこ、でんでん
原作:五十嵐大「ろうの両親から生まれたぼくが聴こえる世界と聴こえない世界を行き来して考えた30のこと」(幻冬舎刊)
企画・プロデュース:山国秀幸 手話監修協力:全日本ろうあ連盟
製作:「ぼくが生きてる、ふたつの世界」製作委員会(ワンダーラボラトリー/博報堂DYミュージック&ピクチャーズ/ギャガ/JR西日本コミュニケーションズ/アイ・ピー・アイ/アミューズ/河北新報社/東日本放送/シネマとうほく)
配給:ギャガ
©五十嵐大/幻冬舎 ©2024「ぼくが生きてる、ふたつの世界」製作委員会 

写真・鳥羽田幹太 文・田嶋真理

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