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「けいおん!」から「きみの色」へ… 山田尚子監督のキャリアの軌跡と変化― “日常もの”から掬い上げてきた“感情”

アニメ!アニメ! / 2024年9月27日 17時30分

現代の日本アニメを代表する作家、山田尚子監督の最新オリジナル映画『きみの色』が公開中です。


2009年の『けいおん!』での監督デビュー以来、ハイレベルな演出能力で注目されてきましたが、『きみの色』には、彼女のこれまで手掛けてきた作品の香りが色濃く漂いつつも、新しさにも満ちていて、作家としての成熟を感じさせる作品です。


山田監督のこれまでのキャリアは、おおまかに3つに分けられます。ここでは、それぞれ1期、2期、3期と分けてそれぞれの時代の作風を振り返りたいと思います。


◆1期:『けいおん!』から『たまこラブストーリー』


1期は監督デビュー作となった『けいおん!』シリーズと、初のオリジナル作品『たまこまーけっと』とその劇場版『たまこラブストーリー』の時代です。


かきふらい原作のマンガをアニメ化した『けいおん!』は軽音部に集った女の子たちを、大きな事件や物語を描くことなく、彼女たちの日常を温かく見つめた作品です。この作品が山田監督のデビュー作となったことは、非常に重要なことだったと思います。彼女の何気ない小さなものから素敵なものを見つけるそのセンスが、余すところなく活かせる内容だったからです。


『きみの色』も、派手な事件で物語が展開していく作品とは真逆の内容ですが、それゆえに山田監督は、登場人物の些細な部分に着目して感情を掬い上げることを徹底します。こうしたセンスはいわゆる「日常もの」である『けいおん!』で磨かれたものでしょうし、もっと言えば、『けいおん!』以前から日常系の優秀な作品を作り続けてきた京都アニメーションに所属していたから身につけることができたのかもしれません。


続く、『たまこまーけっと』では、もち屋の娘・たまこを主人公にアットホームな商店街の日常を描いた作品で、その続編である劇場版『たまこラブストーリー』はその名の通り、たまこと幼馴染のもち蔵の恋愛模様を温かく見つめた作品です。京都にある古い商店街の心地よい雰囲気と、悪人が出てず多幸感に溢れた作風で、見ていて心地よい作品です。


これら1期では、人の悪意のようなものはあまり描かれず、人の善性が全面的に描かれていると言えます。また、キャラクターデザインを務めた堀口悠紀子さんの柔らかいフォルムのデザインも温かい雰囲気作りのためには欠かせないものだったでしょう。


◆2期:『聲の形』から『リズと青い鳥』


山田監督の作風に変化が見られた最初の作品は、2016年公開の『映画 聲の形』でしょう。この作品では、聴覚障害の女の子を小学生時代にいじめてしまった少年・石田将也が自殺を試みるところからスタートする作品です。キャラクターデザイン担当が西屋太志さんに代わり、温かさよりも張り詰めた緊張感がみなぎる作風へと変化し、妬みや嫉みなど、美しいだけじゃない人の醜い部分も描かれるようになっています。


続く、『リズと青い鳥』は、シリーズ演出として深く関わった『響け!ユーフォニアム』のスピンオフ的な位置づけで、シリーズ随一の高い緊張感と繊細な感情描写が絶賛されました。わずかでも狂えば壊れてしまいそうな繊細なみぞれと希美の関係性を、微細な動きと音楽で表現し、2人の濃密な関係性を描き出し、絶賛されました。


こちらの作品もただ美しいだけじゃない、嫉妬などの感情も描かれる内容で1期の頃と比べて人間を描写する鋭さが増していると言えるでしょう。


◆3期:『平家物語』から『きみの色』


そして、京都アニメーションから制作拠点をサイエンスSARUに移してから、山田監督の作風はさらに変化していきます。2021年放送のテレビアニメ『平家物語』では、日本人なら誰もが知る平安時代の歴史ものに挑戦。キャラクターデザインや美術などは、これまでの写実的なスタイルから一変し、絵であることが強調されるようなビジュアルに挑んでいます。


しかし、山田監督の根本のセンスは変わらず、ビジュアルを変化させても、カメラを意識した演出で切り取る意識は健在。その他、短編作品『Garden of Remembrance』や、Amazon Prime Videoの『モダンラブ・東京』の1エピソード「彼が奏でるふたりの調べ」(本作はアンサー・スタジオでの制作)でも、それぞれ異なるキャラクターデザインで臨んでいて、作風の拡がりを感じさせます。


最新作『きみの色』も、キャラクター原案はリチャード・ダイスケさん、小島崇史さんのキャラクターデザインでこれまでと異なるスタイルのキャラクターが躍動的に描かれます。同時に、『けいおん!』のときのような軽やかさも感じさせ、さらには『リズと青い鳥』のように濃密な関係性を見事に切り取っているのが見て取れ、これまでの山田監督作品のさまざまな要素が感じ取れる作品になっているのです。


◆バンド、吹奏楽…音楽へのこだわり


また、山田監督はキャリアを通して「音楽」に対するこだわりを発揮しています。デビュー作の『けいおん!』がガールズバンドものブームを生み出していますし、『たまこまーけっと』ではたまこの父親がかつてバンドマンだったことが重要な要素になっています。
『聲の形』からは作曲家の牛尾憲輔さんと組み、映像と音楽がさらに一体となった表現を突き詰めるようになってきました。『リズと青い鳥』では演奏シーンが最も強い感情の発露になっていましたし、『きみの色』では、再び高校生たちがバンドを組む物語を描いています。


こうして、山田監督のキャリアを振り返ってみると『きみの色』は、これまでの彼女の作風の変化の延長線上にありつつも、一貫して変わらないこだわりやセンスの核が感じられます。今後も、さらなる進化をしていくと思われる山田監督の“4期”はどのようなスタイルになっていくのか、これからの活躍も楽しみです。


『きみの色』(C)2024「きみの色」製作委員会


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