1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 芸能
  4. アニメ・コミック

「あの花」「ここさけ」の3人の“新たな挑戦”が心を揺さぶる― 映画「ふれる。」長井龍雪&田中将賀インタビュー

アニメ!アニメ! / 2024年10月5日 12時0分

絶賛公開中の映画『ふれる。』。『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』などで知られる長井龍雪監督、脚本・岡田麿里さん、キャラクターデザイン&総作画監督・田中将賀さんが送り出す、オリジナル長編アニメーション映画だ。


本作は、「ふれる」という不思議な生き物を介して心がつながる青年たちの友情物語。ともに上京して共同生活を始めた秋、諒、優太は、とあるきっかけでお互いの心の底や友情に向き合うことになる。


青年期、都会、海、不思議な生物など、秩父3部作(『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』『心が叫びたがってるんだ。』『空の青さを知る人よ』)とは異なる要素が随所に散りばめられている本作。新たな挑戦を選んだ経緯を、長井龍雪監督と田中将賀さんにうかがった。


[取材・文=ハシビロコ]


◆秩父3部作との“対比”が軸になった


――秩父3部作を手掛けた3人による最新作がいよいよ公開となりました。本作の制作はどのように決まりましたか?


長井 『空の青さを知る人よ』(『空青』)が終わったあとに、「次は何をする?」と軽い雑談をしていて。スペインの映画祭に行ったときにその話が出たのですが、同行していたプロデューサーの方が、「一緒にやりますか」と声をかけてくださり、前作からの延長線で本作の制作が決まりました。


田中 なんなら『空青』制作中から、「次、何やりますか?」と雑談していたくらいです。前作からの延長線上で『ふれる。』の制作が始まった感覚ですね。


――本作は舞台が高田馬場となり、20歳の青年たちがメインキャラクターなど、秩父3部作との違いも多いです。どのように作品を形作られていきましたか?


長井 高校生を主人公にした秩父の物語が一区切り付いたので、「そこから一歩進めた話にしよう」とすぐに決まりました。早い段階で「上京」というキーワードも出てきて。男の子3人がメインなのも前作までとの対比で、新しいチャレンジとして取り組みました。


――短くシンプルなタイトルも、秩父3部作との違いのひとつです。タイトルはどのように決まったのでしょうか?


長井 今までもわりとそうだったのですが、岡田さんからいただいた最初の脚本に書かれていた仮タイトルをそのまま使いました。
でも、今回は本当に仮のつもりだったんです。そもそも仮タイトルが先にあって、生き物の「ふれる」があとからできました。「ふれる」が生まれた時点で、もうタイトルを動かせなくなって(笑)。しっくりきてしまったので、「(仮)」を取ってそのまま使いました。


田中 ビジュアルはあとから決めたものの、「ふれる」の役割や能力などの根本的な部分は変わっていませんよね。だからタイトルの『ふれる。』は作品のテーマにとても合っていると思いました。僕も試写を見て、このタイトルでよかったと感じましたし。


僕はマスコットキャラクターや小動物的なものに対して「かわいい」、「愛でたい」という気持ちがあまり強くないので、最初は「ふれる」を出すことにしっくり来なかったんです。画面内でどう見えるのだろう、本当にかわいいのかな?などの不安のほうが強くて。でもフォルムができあがるごとに「かわいい」と思う気持ちがどんどん大きくなりました。だからこそ完成した映像を見て、よい読後感のようなものをもらいましたし、「なんて魅力的なタイトルなんだろう」と感じたのだと思います。


◆「海」と「都会」を舞台にした理由


――秋たち3人の故郷である島の設定は、どのように決めましたか?


長井 これまでは秩父が舞台で山に囲まれた土地が多かったので、「海を出すか」とアイデアが出ました。海を出すなら島だろう、とその流れで決まった記憶があります。海は表現方法が難しいのでこれまでは避けてきましたが、近年はCG技術が発展したので、ようやく海を描く決心がつきました。


田中 今回は3DCGアニメーション制作会社のサブリメイションさんに入っていただけたおかげで、すごくいい波ができました。手描きの作画アニメで波を表現していた頃は、いかに波打ち際をうまく描くかに苦心していて。だから海を出す作品は大変だったんです。


長井 でも今回は、遠慮なく海岸線で芝居ができました。これも本作でチャレンジできたことのひとつですね。


――そして、上京して3人の共同生活が始まりますが、舞台に高田馬場を選んだ理由や、ロケハン時のエピソードをお聞かせください。


長井 自分が東京に出てきたばかりの頃も同じく西武新宿線沿線に住んでいて。だから上京といえば高田馬場のイメージがありました。あとはロケハンをあらためて行い、都会すぎない下町の雰囲気と東京を感じられる部分がどちらもあったことが決め手になったと思います。


田中 いろいろな表情があって、どこを切り取っても画になりそうな点も舞台としてありがたかったです。駅前の混沌とした感じだけでなく、少し裏に入るとジャンクな雰囲気もある。それも含めて魅力的でした。僕は初めて高田馬場をきちんと歩いたので、感心する部分や発見が多かったです。



◆「ふれる」が揺れ動くたびに、作品も変化する


――秋、諒、優太の設定やビジュアルはどう作りあげていったのでしょうか?


長井 最初に岡田さんから「3人の男の子を出そう」と提案があって。さらに「お酒を飲むシーンも入れたいし年齢は少し高めにしたい」などの要望を出し合って設定を作っていきました。
本作は「環境によって変わっていく関係性」が軸にあるので、3人をバラバラな環境に置くことも意識しています。秋はアルバイトをしているので、あとはバランスをとるために諒は社会人、優太は学生にして。こうした設定を文字で詰めていきながら、田中さんにもその場でビジュアルを描いてもらいました。


田中 脚本とキャラクターデザインは、ほぼ同時進行でしたよね。最初に描いたのが少年期の3人と、人間の姿の「ふれる」。そのときはまだ企画段階で、「ふれる」が人型のお兄さんでした。同世代とお兄さんがいるのは、僕の中では映画『スタンド・バイ・ミー』のイメージ。だから3人と1人を一気に描いて、都度セットで見てもらいました。


僕はだいたいキャラクターを作るとき、1人メインのキャラクターができたら、そこには含まれていない要素を別のキャラクターに割り当てていきます。秋の「きれいな顔をしているけれど、口下手ですぐに手が出る」という設定は最初からあったので、まずは少年期の秋を中性的な顔で描いて。そのあとは秋にない要素を諒に、秋にも諒にもない要素を優太に入れました。


――先ほどの話に出ました「ふれる」が人型から、ハリネズミのような見た目になっていった経緯も教えてください。


田中 ハリネズミみたいになる前にも、シャチなど紆余曲折がありました。さまざまなクリーチャーを経てできあがったのが本作の「ふれる」です。
確か、打ち合わせで「ハリネズミのようなものにしよう」と言われたときに、僕がその場で“イメージハリネズミ”を描いたんですよ。それがほぼ一発採用されてしまって。そのあとハリネズミを検索して、あまりにも違っていたのでびっくりしました(笑)。でも、そこがよかったみたいです。


長井 よかったです。シナリオ段階で「糸っぽい見た目になる」というアイデアがあって、そこから逆算して今の形になりました。どこかほどけそうな雰囲気があるビジュアルです。田中さんに描いていただいたラフがそのイメージ通りだったので、「ぜひこれでいきましょう!」と採用しました。


田中 「ふれる」はデザインが決まるまで、脚本でなかなか形作っていけないキャラクターだったので難産でした。「ふれる」の存在が揺れ動くたびに、作品の形も変わってしまうんです。


――3人の共同生活には、樹里と奈南ら女性陣も加わっていきます。彼女たちの設定やデザインはどう作りあげましたか?


長井 今回はあくまでも男性キャラがメインだったので、女性陣はヒロインキャラではない、という前提がありました。ステレオタイプではありますが、意思の強い子と女の子らしい子という性格をつけ、田中さんにラフを描いてもらいつつ設定作業を進めていきました。


田中 デザインでは、キャラクター性をどうわかりやすく出すかを意識しました。例えば、樹里は“東京の女性”のイメージ。最初に思い描いたのは、バブル期のワンレンボディコンの派手な雰囲気でした。とくにロングのストレートは、僕にとって象徴的な髪型だったので、“東京感”を出すために入れました。あとは強いキャラらしく猫目系で、派手にするために唇も厚くして化粧もして。そのカウンターとなる要素を全部奈南に詰め込みました。奈南は樹里とは対極で、すごく身近にいそうな子なんですよ。その結果かわいい感じに仕上がったのは、僕にとっての発見でした。


長井 田中さんがビジュアルのバランスを調整してくれたので、5人と1匹が揃ったときの見え方も全然心配なかったです。あと、作画では秋の背の高さを意識してもらいましたね。


田中 (秋が)樹里と言い合っているシーンの身長差はかなり思い切りました。今回はサブリメイションさんに部屋の中を3Dでほぼ組んでいただけたので、そこにキャラクターの身長を反映させた素体も置いてレイアウトを確認しました。実際にそのデータが上がってくると、びっくりするぐらい秋が大きくて。190cm近くある秋の、高身長が醸し出す恐ろしさのようなものを感じました。多分自分だけで描いたらここまでの身長差には気付けませんし、はっきりした対比が怖くてできなかったと思います。


――そういったリアリティーのある描写を追求する一方で、「ふれる」のようなファンタジックな存在もいます。ファンタジーを描こう、という意図は最初からあったのでしょうか。


長井 画面を派手にするために、僕からオーダーした部分です。僕は劇場作品を作るときに常に「映画っぽいものにしたい」と思っていて。画面を派手にする要素としてファンタジーの描写を積み重ねてもらいました。


田中 ファンタジーをどのくらいの塩梅に落ち着けるのか、自分の中では難儀した印象です。例えば「ふれる」の能力をどこまでのものにするのか。リアルな東京で20歳の男の子が過ごす、という主軸があるので、それを壊してしまうほどのものは、ただのノイズにしかならない気がしていて。最終的にはリアルに軸足を置いて、ファンタジーを描くことになるのだろうと予想していました。だから「ふれる」のビジュアルを作っているときは、浮いた存在にならないかと相当ビビっていたんです。


――秋たち3人の心がつながるときの演出も印象的です。この演出は最初からイメージが固まっていたのでしょうか?


長井 シナリオを進めつつ、演出も決めていきました。心がつながるとはどういうことか、を重点的に考えて。最初は手をつないでいるときに口に出さなくても会話ができる、という表現だったのですが、それだと心がつながるイメージとはなんとなく違うと思ったんです。単に口を動かさずにしゃべっているだけに見えてしまう。試行錯誤した結果、セリフをいくつも重ねて、心の中にある言葉が一気に伝わるような表現にしました。また、秋たちが過ごした島の延長線上にあるような映像にしたかったので、撮影さんには海のような青みがかった処理をお願いしています。


田中 絵コンテを見たとき、心がつながるときはお互いの目線を合わせないほうが効果的に見えると思ったので、作画に反映させました。物語の仕掛けとしては、渦のように飛び交っているセリフをよく聴いてから先の展開を見ると「あれ?」と気付く部分があるはずです。ひとつひとつのセリフがどう扱われているのか、「ふれる」に隠された能力を知ったあとに見るとまた印象が違ってくるので、発見していただければと思います。



◆実は皆勤賞のキャラ? コアなファンへの注目ポイント


――秩父3部作のメインキャストが別の役で登場していたり、見覚えのある小物があったりと、ファンが喜ぶ要素も随所に見られます。こうした仕掛けを入れた理由を教えてください。


田中 今までだと、僕がそういう要素を入れたいって言って、長井さんが削るパターンが多かったですよね。


長井 そこまでたくさん削ってはいませんよ(笑)。たとえば「ウサミチ」というウサギのキャラクターは、秩父3部作だけでなく今回の『ふれる。』にも登場しています。


田中 コアなファン向けの仕掛けとしては、モブの中に『とらドラ!』の頃から皆勤賞の子が1人います。ヒントは女の子。誰も気付かないだろうと思って今までずっと仕込んでいたので、もし発見したら教えていただけるとうれしいです。


長井 秩父3部作に登場したキャストに関しては、これまでは舞台が同じ場所だったので、別の役を演じてもらうのを控えていた部分があって。今回はその縛りがなくなったので、「せっかくなら皆さんに演じていただこう」とお声がけしました。


――最後に、とくに注目してほしいポイントを教えてください。


長井 僕はメインにマスコットキャラクターが出てくる作品をあまり作ってきませんでしたし、新しい生き物を作る試みが本当にチャレンジングでした。皆さんの力をお借りしてかわいい存在になったので、「ふれる」というキャラクターをぜひ楽しんでいただけたらと思います。


田中 僕も「ふれる」に注目してもらいたいです。「ふれる」がメインではないカットでも、ちょこちょこ動いていますし、意外と感情表現もしているのでぜひご覧ください。
「ふれる」にいちばん依存しているのが秋なので、彼らの触れ合いも丁寧に描きました。実は「ふれる」を見るときの目が、秋とほかのキャラクターでは違うんです。秋は「ふれる」に対してとても優しい目をしていますが、それに比べると意外とほかの2人はドライで(笑)。その違いも含めて、本作を楽しんでほしいです。



オリジナル長編アニメーション映画『ふれる。』
永瀬 廉 坂東龍汰 前田拳太郎
白石晴香 石見舞菜香
皆川猿時 津田健次郎


監督:長井龍雪
脚本:岡田麿里
キャラクターデザイン・総作画監督:田中将賀
音楽:横山 克 TeddyLoid 監督助手:森山博幸
プロップデザイン:髙田 晃
美術設定:塩澤良憲 榊枝利行(アートチーム・コンボイ)
美術監督:小柏弥生
色彩設計:中島和子
撮影監督:佐久間悠也
CGディレクター:渡邉啓太(サブリメイション)
編集:西山 茂
音響監督:明田川仁
制作:CloverWorks


YOASOBI「モノトーン」
(Echoes / Sony Music Entertainment (Japan) Inc.)


配給:東宝 アニプレックス 
製作幹事:アニプレックス STORY inc. 
製作:「ふれる。」製作委員会


(C)2024 FURERU PROJECT
絶賛公開中





この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください