「ジョジョ」DIOや吉良の悪役誕生秘話を荒木飛呂彦自身が語る書籍が発売「悪役には作者の哲学が反映される」【コラム】
アニメ!アニメ! / 2024年12月29日 11時0分
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アニメやマンガ作品において、キャラクター人気や話題は、主人公サイドやヒーローに偏りがち。でも、「光」が明るく輝いて見えるのは「影」の存在があってこそ。
- 敵キャラにスポットを当てる「敵キャラ列伝 ~彼らの美学はどこにある?」第53弾は、荒木飛呂彦の書籍『荒木飛呂彦の新・漫画術 悪役の作り方』を取り上げます。
この連載はアニメの悪役を含む敵役を取り上げている。それは、敵役の存在が物語に深みを与え、作品を豊かにする重要な要素だと考えているからだ。
実際にプロの作家も同様に考えているのだと教えてくれる書籍が、最近出版された。『ジョジョの奇妙な冒険(以下ジョジョ)』で知られる漫画家の荒木飛呂彦による、『荒木飛呂彦の新・漫画術 悪役の作り方』(集英社新書)だ。
『ジョジョ』には、DIO(ディオ・ブランドー)をはじめとして魅力的な悪役が数多く登場する。荒木氏はどのような考えと手順で悪役を創造し、それが同氏の作品にどのような奥行きを与えているのかを知ることができる、貴重な本だ。
◆荒木飛呂彦が考える、悪役の重要性
本書は、2015年に荒木氏が書いた『荒木飛呂彦の漫画術』を補完する内容だ。荒木氏は執筆動機をこのように語る。
もし『漫画術』に書いてあることを理解し、それを自分の血肉としてデビューした人がいるのであれば、本当にすごいことだと思います。しかし、そんな才能あふれる新人漫画家が、この先、何かで道に迷い、「黄金の道」を外れて違う方向に行ったままかえってこられなくなったとしたら、それは漫画界にとって大きな損失です。「やっぱり、もうちょっと深い話も伝えておかなければいけないのではないか」という気がしてきて、今回の『新・漫画術』を書くことになりました。
(『荒木飛呂彦の新・漫画術 悪役の作り方』荒木飛呂彦著/集英社新書)
そうして、荒木氏が選んだのが「悪役のつくり方」だった。なぜ、悪役なのか、荒木氏は「悪役は、漫画をヒットさせるために欠かせない最重要ポイントのひとつ」だと説明している(P8)。物語は、何らかの障害を乗り越えていくように構成されなければ面白くならない、そのための障害として悪役がいる、それが魅力的で強大であればあるほど、漫画が面白くなるのだという。
荒木氏の代表作『ジョジョ』シリーズは、まさに魅力的な悪役の見本市といえる。DIOのようなカリスマ的な悪もいれば、子悪党のような奴もいるし、ホル・ホース(第3部『スターダストクルセイダース』登場)のようなどこか憎めない奴もいる。
荒木氏自身「時には悪役があまりに魅力的で、主人公以上に熱狂的な支持を集めること」もあると言う。それは、悪役という存在が「きれいごとではない、人間の生々しい感情を体現する存在だからでしょう」と荒木氏は語る。
人間の生々しい感情を体現するというのは、まさにその通りだ。本連載の第1回は『鬼滅の刃』の鬼舞辻無惨を取り上げたが、理想に燃える鬼殺隊と好対照に、どこまでも自分の欲望に忠実で、生き汚い存在として描かれていた。だが、そういう「きれいごと」ではない側面は、人間誰しも持っている。そして、そんな側面を強調した悪役がいてこそ、主人公側の美しい側面も輝いていく。
主人公は基本的に物語に1人であり、そのキャラクターがぶれてはいけない。ということは主人公を通して表現できる人間性は、基本的には一種類ということになるが、立ちはだかる悪役は多彩にできる。さらに、その都度、異なる悪役と対峙することによって、主人公の新たな一面が引き出されていく。
悪役は、そのように物語と主人公に多面的な光を当て、作品を豊かにする存在であり、ヒット漫画に欠かせないものであるわけだ。
◆『ジョジョ』の悪役は“恐怖”から生まれる?
荒木氏によれば、『ジョジョ』という漫画は「『戦うときに何が一番怖いだろうか。時間を止められたりするのも怖いけど、やっぱり先祖のわけのわからない因縁が世代を超えて自分に降りかかってくるのが一番の恐怖なんじゃないか』というところから生まれた漫画」だという。自分にとって一番怖いものを考えると、面白い漫画が描けると荒木氏は本書を通して伝えているのが、重要なポイントだ。
その恐怖を克服していく存在として主人公があり、恐怖を象徴する存在として悪役がある。そのために、主人公と悪役をセットで考えていくのだという。そして、荒木氏の描く主人公と悪役には、共通点があるという。それは、「どちらも前向きに生きている」ことだ。
確かにDIOは前向きに自らの欲望を遂げようと邁進しているし、ディアボロ(第5部『黄金の風』登場)もプッチ神父(第6部『ストーンオーシャン』登場)も吉良吉影(第4部『ダイヤモンドは砕けない』)も自分に素直に生きている。自らの在り方を否定しておらず、前向きに野望や欲望を達成しようと頑張っている。『ジョジョ』のストーリー運びの面白い点は、悪役であるキャラクターが窮地に追い込まれ、機転を利かせて解決してゆくエピソードが多く描かれる点にあると思う。
吉良吉影は、“川尻浩作”へと名前を姿を変えて潜伏するが、川尻になりきろうと筆跡を練習するなど、悪役側の努力すら描かれることもある。プッチ神父の有名な「素数を数えて落ち着く」シーンなども、そういう事例のひとつに含まれるだろう。
本書には、そんな名悪役をどのように生み出したのかも記述されており、そのテクニックと手法は、漫画家を目指す人はもちろん、物語をより深く楽しみたい人に向けてもおおいに参考になるはずだ。
荒木氏は「悪役には作者の哲学が反映される」と説く。本書はその哲学の裏側を垣間見ることができる貴重な内容だ。筆者にとっては、本連載の意義があらためて確認できる書籍であった。
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