松田優作「死神を連れた演技」

アサ芸プラス / 2013年1月31日 10時0分

 観る者に強烈なインパクトを与える映画の中の“悪”。中でも映画史上に燦然と輝く「ベスト・オブ・悪役」を、業界きっての悪役ツウ・映画評論家の秋本鉄次氏が選出する!

 まず秋本氏が真っ先にあげるのは、ハリウッド映画「ブラック・レイン」(89年)の松田優作だ。

「結果的に優作の遺作となりましたが、公開から20年以上たった現在でも強烈にインプットされた伝説的な悪役です」

 監督はリドリー・スコット、共演にはアメリカの刑事役にマイケル・ダグラス、誠実で仕事熱心な日本の刑事役に高倉健と、重厚感あるキャストの中でも、2人に追われる殺し屋役の松田の存在感は圧倒的だという。

「撮影中から体調を崩していたのか、死相が漂い、まるで死神を連れてきているかのような凄みがありました。特に、日本刀を手にマイケル・ダグラス相手に凄みを利かせるシーンは圧巻のひと言。海外での評価も高く、ロバート・デ・ニーロが優作との共演を熱望したと言いますが、納得の怪演です」

 松田優作以外にも、病身で悪役に挑んだ俳優がいる。実在のヤクザ・石川力男の破滅的な生涯を描いた「仁義の墓場」(75年・東映)の渡哲也だ。

「渡自身も、思い入れのある映画の一つとしてあげる作品です。渡は同作の前年、大河ドラマ『勝海舟』を病気で降板したため、撮影当時はまだ快癒していなかったと思います。しかし、その死相漂うごとき不健康さが、破滅的なアウトロー役にぴったりハマった。まるで肺病患者のような青白い顔で魅せる凄みは、非常にインパクトがありました」

 特に印象的なのが、「死んだ妹の遺骨をかじるシーン。供養のためにかじったのでしょうが、鬼気迫る表情に思わず慄きました。そして最後に、刑務所の屋上から毛布をマントのようにひるがえして自殺するシーン。飛び降りる直前、ニヤッと笑うんです。ゾッとしましたよ」

 他にも、実在の悪人をモデルにした映画は数多く存在する。その一つが、戦後まれに見る残虐さで有名な「三菱銀行人質事件」の犯人・梅川昭美の、犯行までの軌跡を描いた「TATTOO〈刺青〉あり」(82年・ATG)の宇崎竜童だ。

「猟奇的なシーンはないですが、梅川の屈折した精神をみごとに演じました」

 同じく実際の事件からヒントを得た「飢餓海峡」(65年・東映)では三國連太郎が、人殺しから名士に上り詰め、徐々に悪事が暴かれていく悪人を演じている。

「偽善的悪が散見しています。三國が持つ、いやらしい“オスの魅力”がまた、悪人らしい性的魅力をもり立てていますね」

“悪人らしい悪人”が目立つ一方、一般市民から転じた悪もまた魅力的である。「新幹線大爆破」(75年・東映)の高倉健がその筆頭にあげられるだろう。

「この健さんは泣けますよ。観る側にシンパシーを抱かせます。社会に不満を持つ仲間とともに、新幹線を爆破する中小企業のおやっさん役で、一口でテロリストとは片づけられない、中年オヤジの抵抗・反逆がはかなくも切ないのです」

 特に観る者の涙を誘う名シーンがこれだ。

「警察に追い詰められる健さんのもとに、妻と息子がいるんです。刑事が息子に『あれはお前の父親だな』と問うと、息子は『知らないおじさんだ』と言うんですよ。それで一時は逃れますが、結局は撃たれてしまいます」

アサ芸プラス

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