孫正義 長者日本一への⑦決断 ボーダフォン電撃買収で見せたむき出しの闘志(3)

アサ芸プラス / 2012年9月26日 10時54分

客でごった返していた店舗

 06年8月からは、「ハッピーボーナス」として、日本の携帯電話業界では初となる割賦方式の販売を、30店舗で実験的に始めた。営業手法の変更には、失敗すれば一気に崩れてしまうリスクが伴う。そこで、まず狭い範囲内で実験したのだった。さらに、9月からは、「スーパーボーナス」としてすべての店舗で始めた。

 7月からの「予想GUY」のCM効果、プロ野球球団の福岡ソフトバンクホークス買収効果もあって、携帯電話会社ソフトバンクの認知度はますます上がった。

 一方、ソフトバンクは、10月24日の番号ポータビリティの導入を目前にして、ひそかに新たな料金プランを準備していた。

 日本の携帯電話業界初の同一ブランド携帯間の音声通話定額プラン「ゴールドプラン」である。基本料金9800円で、1日のうち、午後9時から午前1時までの4時間を除く20時間は、ソフトバンク携帯電話同士はかけ放題。通話料金は無料であった。しかも、もっとも電話使用の多い午後9時から午前1時の夜間も、200分まで無料であった。

 孫は、佐々木に提案してきた。

「『ゴールドプラン』の広告で、『0円』とうたうのはどうだろう」

 NTTドコモにしても、auにしても、さまざまな割引サービスを打ち出していた。その中で、孫はニュース性の強いアピールをもう一度したかった。

 だが、問題があった。0円というのは、ある一定の条件を満たしたユーザーに適用されるサービスである。「0円」を訴えるだけでは誤解を招く恐れがあった。そこで、CM、広告の下段に、そのことを書き込んだクレジットを入れなくてはならなかった。

 孫は、不満げであった。

「何で、そんなにクレジットを打たなくてはならないのか」10月24日に番号ポータビリティが導入されるのに合わせて料金プランであるゴールドプランを発表した。テレビや新聞の広告で「通話0円、メール0円」「全機種0円」と表示し、安さを強調した。

 通話料が0円になるには、携帯電話を割賦で購入すること、通話相手が同社の携帯電話を使っていることなどの複数の条件があった。携帯電話の購入も、高額商品は利用者にも負担が生じ、途中解約すれば残額を払うといった条件があった。しかし、「0円」というインパクトに加え、07年1月15日までの加入であるのなら、基本使用料9600円が7割引きの2880円になるということに、ユーザーはすぐさま反応した。

 宮内は、街中にある店舗を見て回った。そこには、信じられないような光景があった。狭い間口のボーダフォン店舗は、あふれんばかりの客でごった返している。中には、順番待ちだと割り切って店前にある灰皿の横でタバコを吹かしている客もいた。

 契約数も、ボーダフォン時代は新規で1カ月10万件も取れなかったのが、ソフトバンクにブランド名を変えた10月には、いきなり2倍以上の20万件に達した。それが30万件にもなった。それでも、番号ポータビリティ制度を導入してからの契約者数と解約者数の差である純増分では、ソフトバンクは純減となった。しかし、ボーダフォンを受け継いだままの状態で続けていれば、勢いのあるauに契約者をかっさらわれたかもしれない。

車座になっての会議の日々

 ところが、その反面、思わぬ事態にも陥った。

 スキルのある店舗の女子販売員が、次々に辞めていった。彼女たちは不満を口にした。「ソフトバンクは、忙しすぎる」

 ボーダフォン時代の2倍、3倍の顧客がいきなり訪れたのである。忙しくなるのは当然のことであった。ソフトバンクの労働環境は、「結婚できない」、「帰れない」、「汚い」などといった7つの言葉に表され、「7K」職場だとまで言われた。

 ソフトバンクは、1店舗あたりの負担を少しでも、軽くするために、ブランド名変更から1年間で、1000店舗増やした。全国のソフトバンク直営店は2700店舗にものぼった。

 女子販売員が次々と辞めていくことよりも痛手だったのは、斬新なサービスであるゴールドプランの広告で「メール・通話0円」とうたったことに対し、公正取引委員会が、景品表示法違反(有利誤認)の疑いもあるとして「待った」をかけてきたことであった。「ソフトバンク携帯同士」であることなど、ただし書きはつけていたものの、文字が小さくわかりづらいという。

 とにかく、やることなすことすべてがマイナスとして捉えられた。

 ソフトバンクは、広告を修正することはもちろん、10月までに、「ゴールドプラン」、「ブループラン」、「オレンジプラン」を契約した計約9万入の通話料などは請求せず、約5000万円もの費用を負担した。

 孫は、「ゴールドプラン」で躓いたことで、逆に闘志をむき出しにした。07年1月15日までと期限付きで売り出した「ゴールドプラン」に替わる、新たな料金プランに向けて知恵を絞った。それも、CMや広告でただし書きをしなくても済むプランである。連日のごとく、車座になって経営会議を開いた。

 その発想から作られたのが、音声通話定額プラン「ホワイトプラン」であった。基本通話料が、画期的な980円。午前1時から午後9時の間は、ソフトバンク同士の通話が無料。ソフトバンク以外の携帯電話は、30秒ごとに21円となる。ゴールドプランでの反省を踏まえ、新スーパーボーナス必須などの付帯条件は一切なかった。契約継続期間による割引もなかった。「ホワイトプラン」は、ソフトバンク携帯電話事業を一気に浮上させた。2007年1月16日の提供開始からわずか3週間で、契約数が100万件を突破した。

 その年の3月で、「ホワイトプラン」、「Wホワイト」プランの契約者数は、延べ300万人を突破した。

 やがて、大ヒットとなる犬を主人公とした「白戸家CM」が編み出されるのである‥‥

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