「監督・北野武」その男、鬼才につき(6) 津田寛治を素人から抜擢した「アドリブ撮影」の感性

アサ芸プラス / 2012年10月16日 10時55分

監督の直感だけで予定変更

「こういう仕事の決まり方って、日本じゃありえないじゃないですか。ハリウッドとかでも、ウエーターを俳優に抜擢、みたいな話を聞いたことはありますけど、いきなり出演シーンまで決まるもんじゃないですよね」

 津田は約束どおり、「ソナチネ」で喫茶店のウエーター役を与えられた。

 客の女性をナンパするシーンもプラスされた。助監督に、手書きで5行ぐらいのセリフをその場で渡されると、すぐに本番が始まったという。

「その当時、北野監督は『用意、スタート』も言わないんですよね。助監督が代わりに言ってました」「北野監督流」は続く。

 津田を気に入った監督は、「あんちゃん、ヤクザの事務所のシーンにも出てもらおうか」と出演シーンをさらに増やした。最終的には、まったく予定になかった、沖縄ロケにまで参加することになる。「『ソナチネ』の中で、たけしさんの『夢みてぇだな』というセリフがあるんですけど、まさに僕もそういう気持ちでした。それは『ソナチネ』に参加したスタッフ、俳優さんも、みんな同じ気持ちだったと思いますね。北野組では、明日、何を撮影するかということが、監督にしかわからないんです。僕の場合は映画の現場は初めてでしたが、長いキャリアのベテランスタッフでも、明日、何やるかわからないという意味では僕と一緒。ドキドキの連続でしたね」

 当初、「ソナチネ」で津田が渡された台本はA4紙2枚だけだったという。

 津田がこれまで見てきた現場では、映画のスタッフは台本を丸めてズボンのポケットに入れているのが通常だ。しかし北野組のスタッフは、誰ひとり台本を持っていないという。「監督が朝、みんなを集めて、ネタ帳みたいなかわいらしいノートを見ながら、『えーと、今日はね、こういうシーンを撮るよ』と告げる独特のシステムですね

 アドリブとも思える撮り方は、生放送でしゃべくり続けてきた芸人としてのスタンスがかいま見える。

 96年公開の「キッズ・リターン」(オフィス北野/ユーロスペース)でもまた、津田は現場での“北野監督節”を体感した。

「キャスティングのスタッフさんが喫茶店に来て、『ラーメン屋のシーンでカウンターの中が寂しいかもしれないんで、マスターの横に店員として立ってるだけの役があるけど、それでもよかったら明日来る? 背景だぞ。それ以上のことはするなよ』と言われたんです。それでももちろん、即答でOKして、撮影現場の川崎のラーメン屋に行きました」

 現場で津田が挨拶に向かうと、北野監督はその場で、こう口を開いた。

「おっ、あんちゃん、今日来てたのか? 来るなら来るって言わなきゃ。(喫茶店の)奥さん元気? このあんちゃんのアップ一つ増やすから」

 いきなりカメラマンに指示を出したという。

「まるで親戚の子に小遣いあげるみたいに(笑)。さらに、『あんちゃん、ラーメン屋の店員というよりはヤクザだな』と、ただの店員から、ラーメン屋で働いてる息子なんだけどヤクザ、という役に変更になったんです。『カズオ』という役名をいただいて、どんどんシーンが増えた。最後はピストルでヤクザを殺した兄貴分の身代わりで刑務所へ、というシーンまで加わってましたよ」

 撮影現場における監督の直感で、予定はどんどん変更される。

 ただし、真逆の立場に身を置くこともある。津田の場合は、07年の「監督ばんざい」(東京テアトル/オフィス北野)がそうだった。

「『監督ばんざい』は台本上、かなりいい役だったんですよ。『やった!』と思っていました。でも、総合スケジュールを見たら、僕の撮影日がかなり後半のほうだったんです。北野組の今までの経験からして、嫌な予感がしましたね。案の定、クランクインしたら、連絡が入って、僕の役はなくなってました(笑)」

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