「監督・北野武」その男、鬼才につき(7) 津田寛治を素人から抜擢した「アドリブ撮影」の感性

アサ芸プラス / 2012年10月17日 10時54分

「悔しい表情はなくていい」

 北野組の場合、ストーリーに沿って撮影される順撮りが基本。それだけに役者は、ストーリーの序盤に登場するか否かが重要な要素となる。オープニングに近ければ近いほど、少しの出演シーンでも膨らむ可能性があり、逆に後ろのほうだと、どんなに大きい役でもストーリーが変わって、出番がなくなってしまうこともあるのだ。

「撮影中にストーリーが変わるなんてことは、他の監督では、ほとんどないことです。予算がないとできないことですから。有名な話ですが、『ソナチネ』の時に“隠れが”として、家を一軒建てたんですね。セットとしてではなく、本建築で。でも、監督は結局、それを最後まで使わなかったんですよ(笑)」

 日本映画の中では資金が潤沢な北野映画ならではの豪快なエピソードである。

 そして北野映画の信条は、ナチュラルな演技だ。

 津田は、「キッズ・リターン」で監督が安藤政信に指導している姿をたまたま目撃した。悔しい思いをして立ち去るというシーンのテストで安藤の演技を見て、北野監督はこう言ったという。

「悔しい表情はなくていいや。悔しいと思うだけで表情は変えないで。映画ってテレビと違って大きい画面で映るから、思うだけで伝わる。表情はなくても大丈夫なんだよ」

 自分への指導ではなかったが、津田は感銘を受けた。

「舞台は別なんでしょうけど、映像は体感する仕事なんだと。役者ってのは、表現者ではなく、感じる仕事であって、表現する仕事ではないんだと思いましたね」

 デビュー作を含め、過去7作品もの北野映画に出演してきた津田だが、役者に限らず、世の中のどんな仕事でも「最初に何をしたのか」ということが重要なことだと感じている。

「いきなりどやしつけられたり、自分のプライドを傷つけられたら、たぶんつらい思いがどっかに残っていて、現場というものは怒られるものなんだ、怒られても頑張るものなんだ、と思っている俳優さんはたくさんいると思いますよ。僕の場合、『ソナチネ』で本当によかった。映画って夢のように楽しいものなんだ、ということを最初に植え付けていただきましたから」

 だからどんなに苦しい現場でも、無意識のうちにちゃんと楽しみを見つけられるようになった。

 いち素人を抜擢し、一人前の役者へと育つ道筋をつけてくれた、北野監督への感謝は尽きない。

「北野監督との出会いはビッグバンでした。物語の作り方、役者のあり方、映画の作り方から何から、自分の中で渦巻くように成長していった。グワッーと一気に広がって、そこからそれがしぼむことなく、徐々に広がり続ける“もの”をいただいたと思っています」

 ドラマ、映画での俳優活動のほか、みずから短編映画の監督を務めるなど、活躍の幅を広げる津田。“北野イズム”の遺伝子はしぼむことがなさそうだ。

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