急激な円安にどう対応? AWSジャパンが為替変動にも効くコスト削減策を提案
ASCII.jp / 2022年9月20日 12時0分
2022年9月16日、アマゾン ウェブ サービス ジャパン(AWS ジャパン)は、クラウドサービスにおけるコスト最適化の手法について説明を行なった。今後も長期的に円安基調が継続するとの観測もあるなかで、AWSジャパンでは、それに向けた対策を自ら提案した形になる。AWSのユーザーは、果たしてどんな手法で対策を取ればいいのだろうか。
「円安の影響でコスト効果を実感できない」という声も
AWSのクラウドサービスの契約は、米国ドルでの支払いが基本となる。そのため、急激な円安で実質的な利用額が増加するという状況が生まれている。これについてAWSジャパン 事業開発統括本部 統括本部長の佐藤有紀子氏は、「コストに対する意識や関心は、これまで以上に高まっている。円安の影響で『想定よりコスト効果を実感できない』という声も挙がっている」とコメントする。
また、今回の急速な円安にあわせて、一部の企業からは為替を固定した形での料金設定を求める声があったという。これについて佐藤氏は、「クラウドサービスを安定的に利用してもらうために、こうした要望には個別に対応している。一般的なプログラムとして提供するものではなく、個別企業のケースに応じて対応しているものである。対応について、特別な条件などを設定しているものではなく、営業部門を通じてお客様との会話を続け、対応しているところである」と述べた。
説明会では、持続可能なクラウドの利活用のための、さまざまな支援プログラムが紹介された。 1つめがセルフ診断ツールとして提供している「AWS Trusted Advisor」である。ここで用意されている「コスト最適化」の項目では、14個のチェックポイントがあり、利用しているクラウドサービスの状況を確認し、コスト削減のためのアドバイスを行なう。
AWSジャパン パブリックセクター技術統括本部長の瀧澤与一氏は、「月額料金の節約の可能性を確認できるツールであり、使用率の低いサーバーを確認し、コストを最適化したり、AWSの購入オプションであるリザーブドインスタンスやSaving Plansの提案を行なったりする。AWSのユーザーは、まずはAWS Trusted Advisorにアクセスしてもらい、チェックをすることで、コストを下げられる要素を見つけることができるだろう」と説明する。
リザーブドインスタンスとSaving Plansによるコスト削減
2つめが、前述したリザーブドインスタンスの利用である。Amazon EC2を1年間連続して使用することや、3年間固定して使うことがわかっている場合には、リザーブドインスタンスを購入することで、割引を得られる。平均割引率はスタンダードクラスでは1年間で40%、3年間で60%となっており、全額前払い、一部前払い、前払いなしという選択を選ぶことで、さらに割引率が変化する。
瀧澤氏は、「100台のサーバーのうち、60台をリザーブドインスタンスで、40台はオンデマンドで利用するといった組み合わせでの利用も可能である。全額前払いであれば、現時点での為替レートに基づいて価格がセットされる。今後もさらに円安が進行すると予測している場合には、全額前払いという選択肢もある。100台のうち、60台までを全額前払いにし、残りの40台は為替の動向を見てみるという選択もできる。これは利用者側が自由に選択できる」と説明。リザーブドインスタンスが為替対策にも有効であることを示した。
また、より多くの柔軟性を提供するSavings Plansを利用することでのコスト削減も可能になるという。Savings Plansでは、Compute Savings PlansやEC2 Instance Savings Plansなどを用意。インスタンスファミリーの移行やテナントの移行、コンピューティングオプションの変更のほか、コンテナやML(Machine Learning)への適用も可能なプランとなっている。設定の変更によってコストを削減したり、各種サービスの購入オプションの見直しによって、コストダウンが可能だ。
瀧澤氏は、「リザーブドインスタンスと同様にさまざまな購入オプションを用意しているため、柔軟に購入方法を選択できる。どんなプランがいいのか、Savings Plansとリザーブドインスタンスのどちらがいいのかといった点については、AWSのソリューションアーキテクトがアドバイスすることができる」と説明。Savings Plansでも、リザーブドインスタンスと同様に、全額払いを選ぶことで、現在の為替レートでの長期間利用が可能になり、今後の円安の進展を想定している企業にとっては為替対策につなげることができるという。
データ重複排除機能でストレージの課金を減らす
3つめが、ストレージサービスである「FSx for Windows File Server」におけるデータの重複排除の提案だ。ファイルサーバーを運用していると、複数の場所に同じファイルが点在したり、複数のコピーとバージョンを保有したりといったことが発生し、これを探し出すことも難しい。その結果、大規模なファイルサーバーでは、無数の重複が存在し、ストレージコストが増大することになる。
瀧澤氏も「データ重複排除機能を使用することで、平均で50~60%ほどの容量を削減することが可能となる。これによってストレージへの課金額を減らすことができる」とする。
さらに、オブジェクトストレージであるAmazon S3においては、用途に応じたストレージタイプに変更することでコストを削減できることを提案。瀧澤氏は「S3では、標準アクセスのほか、標準低頻度アクセス、1ゾーン低頻度アクセスなどを選択できるようになっている。アクセス頻度や可用性によっても、タイプを選択できるようになっていることから、すべてを標準アクセスで利用しているユーザーは、ストレージタイプを見直すことで、コスト削減につなげることができる」と指摘した。
ここでは、「Amazon S3 Intelligent Tiering」と呼ぶサービスを紹介。顧客の要件と使い方、コストのバランスを見て、自動的に最適なタイプに移行することができることも紹介した。「30日間のアクセス状況を見て、アクセス頻度が低いストレージであれば、アーカイブとして利用できるサービスプランに自動的に移行し、コストを削減するといったことができる。これを繰り返すことでコストの最適化ができる。利用者がアクセスできなくなるということはなく、利用には影響がない」(瀧澤氏)とした。
そのほか、クラウドへのリフト&シフトへの取り組みもコストダウンにつながることを提案。ワークロードに応じた段階的な最適化を実施しながら、サーバレスやマネージドサービスをフル活用したクラウドネイティブアーキテクチャを実現していくことでコスト削減が可能になるとした。
Flywheelの仕組みにより、16年間で115回以上の値下げを実施
一方、佐藤氏はAmazonの基本姿勢として「Flywheel」という考え方を持ち、安定的に回転するビジネスモデルを構築していることを示した。
AWSが示すFlywheelは、低コスト構造でビジネスを開始することで、サービスの低価格化が可能になり、顧客に体験を提供。顧客は満足なサービスを受けることで、顧客の数が増加し、あわせてパートナーが増加すると、サービスそのものの数も増え、それにより、さらに低コストの体質が強化され、顧客に対して低価格でのサービスを提供できるという仕組みだ。
AWSではこの仕組みを具現化しており、2006年に日本でサービスを開始して以降、16年間で115回以上の値下げを実施し、直近1年間だけでも8回の値下げを実施しているという。
さらに、「オンプレミスでは、緻密な要件定義やサーバーなどの調達による高い初期投資、リソースの余剰や不足のリスクがある。それに対して、AWSのクラウドでは、初期投資が不要だあり、わずか数分でITリソースを用意し、ニーズにあわせて拡張したり、停止したりできる。また、弾力性はクラウドの最大の特徴である。オンプレミスでは余剰キャパシティを想定して、必要以上の投資をしたり、予測できないピークに対してはリソース不足によって、サービスが停止し、機会損失につながることもある。クラウドの価値は、必要なときに必要なだけ調達できる点ある。さらに、クラウドのメリットはコストだけではなく、迅速にアイデアを試し、イノベーションを加速することができる点にもある」などとした。
その上で、「AWSでは、AWS Well Architectedを提供し、アーキテクチャのベストプラクティスを使って、学習、測定、構築を行うことが可能になっている。ここでは、6つの柱を用意し、そのなかにコスト最適化、持続可能性が含まれている。AWS Well Architectedによって、コスト最適化を提供し、クラウドを利用してもらえる」と述べた。先に触れたセルフ診断ツールの「AWS Trusted Advisor」で用意されているチェック項目もAWS Well Architectedに準拠したものだという。
オンプレミスからクラウドへの移行の際にコスト最適化を推進
AWSでは、日本独自の仕組みとして、オンプレミスをクラウドに移行することを支援する「ITトランスフォーメーションパッケージ2.0(ITX 2.0)」を2022年3月から提供しており、評価段階では総保有コストを評価する「クラウドエコノミクス」、クラウドの移行には、想定通りのコスト削減を支援するための「コスト最適化支援」を用意しており、これらもクラウド活用によるコスト削減を支援できることを示した。
また、クラウド移行後のコスト最適化支援を行う「Cloud Financial Management(CFM)」、組織横断的なワークショップ支援である「Financial Hackathonワークショップ(FinHack)」、そして、2022年4月から提供を開始したケイパビリティの可視化を支援する「Capability Assessment(CFM-CA)」を通じて、AWS 移行前から移行後も含めた一気通貫の支援で、顧客のイノベーションを加速できることも強調した。
「クラウドを使う前、使い始めた直後、数年後に組織全体で活用している場合にも、必要な支援を適切に提供していくことになる」と述べた。特にCFMでは、「顧客の利用状況を可視化し、最適化し、財務部門、技術部門をまたいだ形でFinOpsを実践し、持続的なコストの最適化が推進できる」と述べた。
CFMは、2020年から日本市場で提供しており、NTTドコモなどが採用。2022年8月までに200社以上の顧客に提供し、顧客数は前年比で71%増になっているという。「CFMを利用した顧客の多くが約15~20%のコスト削減効果を実現している。コスト最適化支援施策で詳細な数値が得られ、数字どおりの効果が得られたという声があがっている。多くの顧客にこのプログラムの存在を知って欲しい」と述べた。
また、AWSでは「AWS Cloud Value Framework」の提供により、コスト(TCO)削減、スタッフの生産性、オペレーションレジリエンス、ビジネスの俊敏性を実現することができ、同社の調査によると、コスト削減ではオンプレミスからクラウドへの移行により、27.4%の削減効果を達成する。また、スタッフの生産性ではAWSに移行したことで、1台のサーバーあたりの管理者コストは57.9%削減したという効果を発揮。障害発生時のダウンタイムは56.7%削減、必要なタイミングで機能やアプリケーションを提供できる時間が37.1%向上したという。
加えて、「持続的なコスト最適化を実現するためには、アーキテクチャのクラウドネイティブ化に留まらず、人材育成、組織体制等をクラウド向けに適合していくことが必要である。とくに日本の企業では人材育成が重要なテーマになっている」とし、「AWSでは、2022年4月に、人材育成のための『AWS Skills Guild』を発表し、組織全体でクラウド活用を推進するための包括的なスキル向上プログラムを提供している。お客様のスキルレベル向上は AWS活用の効率化や、コストの最適化、コストダウンにも影響する」と語った。
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