選ぶなら感覚性能の「iPhone 14 Pro」通常版とProの差が開いたiPhone 14世代(本田雅一)
ASCII.jp / 2022年9月23日 12時0分
毎年のようにアップデートされる中で、現行iPhoneのコンセプトはiPhone 11、iPhone 11 Proの世代で確立され、それを洗練させてきたのが昨今のiPhoneだった。今年もそのコンセプトを継続し、デザインだけをみるとiPhone 12以降に現在の姿にほぼ到達。
さらに自社開発のSoCも、iPhone 14は13 Proと同じで14 Proも新規開発とは言っても、大きなCPU、GPU性能の更新はなさそう。
このような状況でスペックだけを見ていると「今年はあまり変わらない」と思う人も多いだろう。実際、そのような意見をSNSの中では多数見かけたし、自分自身もさすがに今回は新しい仕掛けをいくつか仕込んでいるとはいえ、難しいのではと思っていた。
しかし、製品が届きセットアップした上で外に持ち出してみると、スペックでは語れないよさに注力し、特定の性能数値を上げるのではなく、さまざまな使い方をする上での「体験の質」にフォーカスを当てて開発をしていたことを実感できた。
ボケの自然さが向上したシネマティックモード。逆光時のゴーストはやや気になるが、それも味として捉えれば面白く使えそうだ。24コマ表現は被写体位置をキープしながらパンする際など、被写体を見せながら背景を溶かす表現などにも使える
特に通常版とPro版の違いは、初めてPro版が登場したiPhone 11 Pro以降、最も大きなものだ。スペックの違いももちろんあるが、そこは今年の注目点ではない。感覚的な部分に訴えるエモーショナルな性能が、特にPro版についてとても高い。
iPhone 14世代のよさは必ずしもカメラだけではないが、わかりやすいのでカメラについて、そのエモさについて書き進めよう。
フロントカメラでのシネマティックモード撮影。日陰での画質が上がっている
スペックや性能の高さを体験の質に
実は今年もまずはベンチマークテストから評価を始めてみたのだが、予想通りにクロック周波数は少しだけ(200MHzほど)向上していたものの大きなものではなかった。A16 Bionicは、新しいユーザーとのインタラクティブ要素である「ダイナミックアイランド」のために、Display Engineという回路を追加したり、4800万画素CMOSセンサーを活かしたカメラ機能を実現するための新しいISP(イメージシグナルプロセッサ)、常時点灯モードを実用的にするためのOLEDパネルコントローラなど、具体的な利用体験の向上を目的にA15 Bionicを改良したものだと考えられる。
過去最も高性能なiPhone向けのSoCであり、業界でもトップの実力であることは疑いようがないが、それはA15 Bionicも同様。今回はあえて異なる部分に力を入れている。
そしてカメラについてだが、「4800万画素」というスペックに着目するならば、これまでより高精細、高画質という部分を強く訴求するため、その画素数を大きくフィーチャーするのだろうが、iPhone 14 Proは4800万画素のRAWファイルを記録することはできるが、JPEGやHIEFなど現像後の画像を記録する際には1200万画素でしか吐き出さない。実際に1200万画素で十分、体験の質を高めることができるからだ。
4800万画素になったことで、とくに色情報の密度が高くなり、細かな描写の情報量も確実に増えているが、実際にiPhone 14 Proのカメラを使い始めて最初に驚かされるのは、そうした拡大しなければわかりにくい細かな違いではない。もっと感性に訴える、エモーショナルな部分に響くところが大きく改善している。
最終的にそれらはiPhone 14 Proに搭載しているカメラのレンズ、センサー、ディスプレイなどと関連し、その上で動かしているソフトウェアの信号処理、それを効率よく処理するための半導体設計などとつながっていく。
しかし使い始めて感じるのは、そうした文字上のことではなく、アクションモードの驚きの安定性、安定した配光特性で明るさも十分な内蔵LEDフラッシュ、自然なボケ味が得られるようになったポートレイトモード、感情を煽るようなさらに雰囲気のある動画が得られるようになったシネマティックモード、暗所での驚くべき高感度や十分な光がない撮影場所でも見えてくる素材ディテールなどだ。
日が暮れた後の動画撮影。かなり明るく見通しの良い映像になる
アクションモードは撮影時に走っても安定するほど。画角は超広角カメラで20mm相当ぐらいの間隔で撮影できる
「一目でわかる」違い、離れられなくなるシンプルさ
アクションモードは4Kで捉えた映像を切り出して、手ブレを電子的に補正して安定させる。そのため焦点距離にして1.7〜1.8倍程度の望遠寄りの画角になる。このため超広角レンズで撮影することが多いことになるだろう。実際、デフォルトでは0.5倍カメラが選択される。
同じくアクションモードの映像
アクションモードが素晴らしいのは、言い換えれば超広角カメラの質が高く、明るいレンズで高速シャッターが切れるからこそ、アクションモードでの動画が成立するとも言えるだろう。明るいレンズを搭載し、映像処理が見直されたことで超広角カメラが高画質になったからこそ、アクションモードを手軽に使いこなせるとも言える。
狭い店内でモデルを追いかけながらの撮影をアクションモードでしてみたが、当然ながら歩きながらの撮影では、まるでステディカムのようにだ。「アクション」ではあるが、必ずしもGoProのような使い方をする必要はなく、自分自身が動きながらの撮影で積極的に使えばいい。
前述したピンが合っている距離より手前のボケ(前ボケ)をきれいに描写する機能も、被写体の切り抜き精度が高いかといえば、確かに改善されているが完璧ではない。髪の毛の切り抜きでは不自然な部分も残る。
しかし、切り抜きは完璧ではないが、奥行きを表現するボケがより自然になったことで、写真全体を見渡した場合の「いい感じ」は増している。こうした感覚的な調整がかなり進められている。
シネマティックモードは24フレームをサポートすることで、絵作りやボケ感だけでなく、動きボケやパラパラ感も映画っぽく描ける。4Kでの記録も可能になった
4800万画素センサーを搭載するメインカメラの画質も、数字ではなく描写で評価するならば透明感のあるたたずまいで、スマートフォン内蔵カメラの域を超えていることを「感じる」が、実は操作性の面でもよい影響を与えている。
4800万画素センサーのメインカメラは25mm相当の画角から24mm相当に広がったが、その中間を切り抜いた2倍モードが追加されたと書いた。これは48mm相当。加えて超広角カメラの12mm、3倍モードの77mmカメラが加わり、まるで単焦点レンズを切り替えながら撮影しているかのような感覚だ。
48mmの画角は通常撮影時はもちろんだが、マクロ撮影時やポートレイトでも使いやすい。そこでiPhone 14 Proのカメラでは、ポートレイトモード時に1倍(24mm)、2倍(48mm)、3倍(77mm)が選べるようになった(残念ながらシネマティックモードには2倍モードがない)。
しかも、メインカメラの1倍時が最も高画質とはいえ、望遠モード時のマクロ撮影を除けばフロントカメラも含め、カメラ画角を切り替えることで画質が大きく下がったり、色味が目に見えて変化するということもない。少なくとも端末を使う上では感覚的に同等に揃えられている。
こうした「体験重視」の部分は今後、ジワジワと評価を上げていくことになるだろう。
「通知」「状況表示」「操作パネル」を兼ねるダイナミックアイランド
一方でダイナミックアイランドは、決してなくすことができないノッチ(フロントカメラのための切り欠き)への積極的な解決策だ。Face IDなどのために深度センサーを必ず搭載するiPhoneの場合、ノッチはどうしても大きくなってしまう。フロントカメラの画質面を考えても、ノッチの小ささを争うよりも「うまくデザインで吸収した方がよい」という考え方には個人的に共感した。
ダイナミックアイランドは「通知」「状況表示」「操作パネル」という3つの役割を果たしており、特にユーザーに通知する際には注意を引くようにアニメーションしてくれる。
たとえばFace IDが動作する際には、少しだけアイランドが大きくなりつつ左端に鍵マーク、右端にFace IDマークのアニメーションが表示され、ロックが外れると下のサイズに戻る。サイレントモードのオンオフスイッチを操作すると、その結果をアイランドを少し大きくして表示して戻る。
これまでなら上部からスライドインしていたような通知、たとえばHomePod miniにかざしたときに再生機器が切り替わる際の通知など、さまざまなお知らせがダイナミックアイランドへと移された。AirPodsの接続時など下部に新規接続のハードウェアを発見したパネルなどは従来通りだが、上部にポップアップしていた通知はダイナミックアイランドに統合されると考えるとわかりやすいだろう。
元々、そこに存在する黒い楕円形がスッと大きくなって必要な情報を与え、必要なくなると元へと戻っていく。発表イベントでは対応するバックグラウンド動作のアプリがアイランドを積極的に使う様子がデモされたが、むしろ普段、iPhoneを使っている中で自然にそのよさを感じる設計になっている。
バックグラウンドで動作するアプリの動作状況は、Music、タイマー、ボイス録音、通話などが代表的なところだが、メディア再生アプリで使われるNow Playing、通話アプリで使われるCallKitといったiOS機能を使っているサードパーティアプリも、このエリアを利用可能だ。
すでにSpotify、PANDORA、Skypeなど多くのアプリが対応しているが、筆者が確認した時点ではLINE(LINE Music含む)、AWA、Meta Messenger、Rakuten Linkなどは非対応だった。ただし対応は簡単とのことなので、アプリ開発側にその気があるなら、すぐに対応は進むと思われる。
最後に、このダイナミックアイランドは操作パネルとしても使われる。
通知などに合わせてタッチすれば対応するアプリや機能設定などに飛び、またバックグラウンド動作しているアプリ画面を呼び出せる。タップ&ホールドすると操作パネルが表示され、バックグラウンド動作中アプリをポップアップパネルで操作できるといった具合だ。
なお、このダイナミックアイランド対応のポップアップパネルは、iOS 16の新しいロック画面においても自動的に反映されて表示される。
利便性を確実に上げる常時点灯モード
Apple Watchでも使い始めるとその利便性を実感する常時点灯モードは、6月に開催されたアップル世界開発者会議「WWDC」で発表されたiOS 16のロック画面とともに使うことで、こちらも手放せない機能になっていきそうだ。
発表当初は「ロック画面をカスタマイズしてまで、コンプリケーションを表示する必要があるのか?」とやや懐疑的だったのだが、前述したようにバックグラウンド動作するアプリの操作パネルが統合され、さらに常時点灯モードも使えるようになると、使っている時の感覚、目の前の景色がガラリと変わってくる。
iOS 16の新しいロック画面デザインは、まさにこの14 Proシリーズのために作られたようなものだ。
屋外使用では最大2000nitsまでブーストする高輝度表示や、PRO Display XDR同等のピーク1600nitsを誇る映像や写真のHDR表示も、もちろん美しい。高評価のポイントではあるが、日常的な操作の中での快適性、ルーティン操作の中に組み込まれる使いやすさという面で、これらの改良もスペック向上ではなく利用体験の向上を主眼に端末全体のデザインを見直した形になっている。
このように、実機を使い始めてみるといたるところに「iPhoneからの離脱」を困難にさせるほど日常的な操作の中に独自の要素が組み込まれる。そんな作りの丁寧さこそがiPhone 14 Proのよさだ。
「長く使うならiPhone Pro」がおすすめ
例年、どちらを選んでも高性能、高機能、最新であることは同じで「Proではない通常版が費用対効果でもっともよいですよ。カラーバリエーションも豊富ですしね」と説明しているのだが、今年のモデルに限ってはここまでに挙げてきたような、感覚的な面での使いやすさや品質の追求がいたる所に見られるiPhone Proをすすめたい。
スマートフォンも製品として成熟が進み、買い替えサイクルも長くなってきている。iPhoneはOSアップデートの期間が長く、長期間にわたって現役で使える上、今回のモデルからはバックパネルが簡単に開く構造になったためバッテリ交換などの修理が容易になっている(iPhone 14、iPhone 14 Pro/Pro Maxともに)。
毎年のように買い替えしている最新機器を求める方はもちろん、普段はあまり細かな機能へと目を向けていない、また長期間買い替えずに使い続けるという方ほどiPhone 14よりもiPhone 14 Proシリーズの方がいいだろう。
両者の違いは長く使い続けるほど実感できるものが多い。全体に端末価格が上がっていることもあり、その価格差は両者の違いほど大きくはないと思う。
筆者紹介――本田雅一 ジャーナリスト、コラムニスト。ネット社会、スマホなどテック製品のトレンドを分析、コラムを執筆するネット/デジタルトレンド分析家。ネットやテックデバイスの普及を背景にした、現代のさまざまな社会問題やトレンドについて、テクノロジ、ビジネス、コンシューマなど多様な視点から森羅万象さまざまなジャンルを分析する。
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