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量子コンピューティングの元祖をうたうNECが目指す超伝導回路を用いた量子アニーリングマシンの開発

ASCII.jp / 2022年10月3日 8時0分

 NECは、1999年に、量子コンピュータの基礎である「個体素子量子ビット」を世界で初めて実証した企業である。これは量子コンピュータの実用性に道を開く画期的なものであり、同社では、この成果をもとに、「量子コンピューティングの元祖はNECである」と、自らを位置づける。

 2003年には、2ビット論理演算ゲートの動作に世界で初めて成功し、2007年にはビット間結合を制御可能な量子ビットの実証にも成功。量子アルゴリズムに従った量子演算を可能にした。

 さらに2014年には、超伝導パラメトロン回路を用いて、量子ビットの高精度、高速、非破壊な単一試行読み出しに成功し、世界で初めて、高感度読み出し可能なパラメトロンと量子ビットの融合を実現した。

 現在は、この超伝導パラメトロン素子による超伝導回路を用いた量子アニーリングマシンの開発に取り組んでおり、2023年までに実用化を目指している。超伝導パラメトロン素子を一定ルールで平面上に並べると、ノイズ耐性に優れ、多ビット化しても量子重ね合わせ時間がキープされやすいとされ、従来とは桁違いの量子状態時間を実現するポテンシャルを持つという。

 その一方、スーパーコンピュータを活用して、組み合わせ最適化問題を解くことができるシミュレーテッドアニーリングマシン(疑似量子アニーリング)も開発し、実課題への適用を進めているところだ。

本格的な事業化とNEC Vector Annealingサービス

 NECは、2020年に量子コンピューティング推進室を設置。2022年4月から量子コンピューティング事業統括部を新設して、本格的に量子コンピューティングの事業化に踏み出したところだ。

 ここでは、D-Waveとの協業による「Leap Quantum Cloud Service」の提供、企業や大学による量子コンピューティングの利活用の推進に向けた量子コンピューティング適用サービスおよび教育サービスの提供。そして、NEC独自の疑似量子アニーリングプラットフォームにより提供しているNEC Vector Annealingサービスを展開している。

 なかでも、NEC Vector Annealingサービスは、量子コンピューティング事業統括部における事業化において、重要な柱に位置づけられている。

 NEC Vector Annealingサービスは、大容量の高速メモリと高速行列計算を可能とするベクトル型スーパーコンピュータ「SX-Aurora TSUBASA」を活用。許容解の存在範囲を高速検索するシミュレーテッドアニーリングエンジンを組み合わせて、大規模処理と高速処理を可能にする疑似量子アニーリングプラットフォームとして提供している。

 2022年8月に発表したNEC Vector Annealingサービスの機能強化では、従来サービスと比べて最大30倍となる求解性能の高速化を実現。これは、組み合わせ最適化問題の制約条件に基づいて、不要なアニーリング計算を削減するフリップオプション機能の強化など、アルゴリズムの改善によって高速化した。

 また、「SX-Aurora TSUBASA」に搭載するカード型ベクトルエンジンを複数枚高速に接続することで、30万ビットに規模を拡大。たとえば、約500都市を対象にした巡回セールスマン問題といった、従来は解くことが難しかった課題も、高速に解くことが可能になったという。

11月からクラウド型の疑似量子アニーリングサービスを開始

 これらのサービスは、クラウド型とオンプレミス型で提供することになる。

 オンプレミス型は、2022年9月1日から提供を開始。情報の持ち出しが難しいなど、自社内で利用したい顧客向けに、「SX-Aurora TSUBASA」とともに利用できるオンプレミス型ソフトウェアライセンスとして提供する。

 一方、11月1日から提供するクラウド型では、スタンダードプランが月額25万円からとなり、業界最安値で疑似量子アニーリングサービスを利用できるようになる。求解性能を重視した、基幹業務での活用を想定したプロフェッショナルプランは、月額125万円からとなっている。

 NECでは、「月額25万円から利用できるようにしたことで、様々な企業が、量子という新たな技術を、時間制限や利用制限がなく利用でき、様々な挑戦ができるようになる。量子コンピューティング市場を広げるきっかけにしたい」と述べている。

本番環境でのシミュレーテッドアニーリングマシン活用事例

 NEC Vector Annealingサービスは、シミュレーテッドアニーリングマシンの特徴を活かして、人員スケジューリングの最適化のほか、配車スケジュール、配送ルート、荷積み、生産計画、金融ポートフォリオの最適化などへの応用が期待されている。これまでにも、SMBCグループや日本総合研究所とのパートナーシップにより、シミュレーテッドアニーリングマシンの実用化を模索してきた経緯がある。

 そうしたなか、2022年10月には、本番環境でシミュレーテッドアニーリングマシンを活用する事例が初めて生まれることになる。

 NECの100%子会社であるNECフィールディングが、NEC Vector Annealingサービスを活用して、保守部品の配送計画立案システムの本番稼働を予定しているからだ。

 NECフィールディングは、NEC製や他社製の法人向けICT機器のほか、医療機器や業務用洗濯機、業務用冷蔵庫などの非ICT機器などに故障が発生した場合に、CE(カスタマーエンジニア)が現場に出向いて保守、修理サービスを行っている。

 全国15か所にパーツセンター、全国44カ所にパーツブランチを配置しており、全国規模で8万5000種類、130万点の在庫を持ち、年間400万件、560万点の入出庫実績があるという。

 今回、配送計画立案システムを導入するのは、首都圏をカバーする東京パーツセンターであり、約6000平方メートルの倉庫に、約15万点の保守部品を保有している。24時間365日体制で稼働しており、東京23区の顧客を対象に、1日あたり数百件の保守作業が発生している。

 首都圏で保守および修理を行うCEは、公共交通機関を利用して顧客先を移動し、CEが顧客先に到着するタイミングにあわせて、車両などで部品を届けることになる。

 東京パーツセンターでは、30台の軽車両、8台のバイクで部品を配送。配送地域や配送時間、部品の違いや配送量、道路の混雑状況などの組み合わせから、最適な配送ルートと配送手段を導き出す。組み合わせは10の753乗にも達するという。

 これまではベテラン社員が、毎日2時間(120分)かけて、翌日分の保守部品の配送計画立案の作業を行っていたが、配送計画立案システムを利用することで、これを10分の1となる12分にまで短縮し、自動的に生成。配送車の削減や距離の短縮化などを実現することで配送効率を30%向上できるという。

 2022年2月から行ってきた実証実験では、ベテランの人手による計画と同等水準の計画が自動生成でき、さらに、ベテランでも気がつかないような計画提案が可能になったという。

 今後は、他のパーツセンターにも展開することを検討するほか、全体の5~6割を占める当日に発生する緊急対応にも対象範囲を広げ、短時間で最適な配送を行えるようにするという。また、この成果をソリューションパッケージとして製品化し、量子技術を幅広く活用してもらう環境を広げることも視野に入れている。

量子技術の研究開発の歩みを進めるNEC

 先に触れたように、NECは、超伝導回路を用いた量子アニーリングマシンの開発に取り組んでおり、2023年までに実用化を目指している。ここでは、量子重ね合わせ状態が持続する時間の長さを示す量子コヒーレンス時間を、従来の研究成果に比べて、100倍にすることを目指しているという。

 また、量子暗号通信技術では、2つの技術に取り組んでいる。

 重要基幹システム向けの長距離伝送技術に位置づけられるBB84方式は、約20年間に渡って研究を進めてきたもので、現在、プロトタイプを開発し、2022年度中の製品化を目指している。同方式では、鍵配送専用ファイバーが必要になるが、光通信装置などで培ったNEC独自の技術を応用することで、環境条件が厳しい既設の光ファイバーでも安定動作を可能にしている。都市間基幹網での安全性を確保し、重要情報の早期保護を実現するという。

 もうひとつのCV-QKD方式は、2024年の商用化を目指しており、研究開発を加速しているところだ。課題となっていた安全性が保証され、安価な汎用部品の活用が可能であるほか、光通信装置などで培ったデジタル技術の応用により、装置の小型化や低コスト化が可能であり、既存の通信用光ファイバーとのデータ通信の共用も可能になっている。オフィスビルや店舗など、あらゆる拠点での保護が実現できるのが特徴で、量子暗号技術の導入障壁を解消できるとする。

 BB88方式とCV-QKD方式の両方の技術に取り組んでいるのは、日本の企業ではNECが唯一。これにより、量子暗号技術の導入を促進し、安心、安全なデータ流通基盤を整備する考えだ。

 さらに、NECでは、量子ゲート型量子コンピュータ領域においても、研究開発を進めているという。

 NECでは、科学技術振興機構(JST)による研究開発プロジェクト「超伝導量子回路の集積化技術の開発」に参加し、超伝導量子回路の集積化技術の開発に取り組んでおり、この技術を活用することで、超伝導量子ビットの大規模化や高集積化が可能になると見込まれている。長期的な取り組みにはなるが、2050年には、大規模な超伝導量子コンピュータの実現を目指しているという。

 「量子コンピューティングの元祖」を自負するNECは、将来に向けて、量子技術の研究開発の歩みを着実に進めている。

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