ペア1500万円超、DALIのフラッグシップスピーカーを聴いてきた
ASCII.jp / 2022年10月4日 11時0分
超ハイエンドなのに、DALIの音がする
人の背丈ほどもある大型スピーカーなのに、フルレンジのようなまとまり感がありながら、スムーズに音がつながる。音色は華やかで、耳あたりがよい。音調はなじみあるDALI製品の延長線上にある。低域は非常に深く十分な量感を持つが自然さを失わず、まったく嫌味がない。
大型スピーカーにありがちな仰々しさはない。しかし、聞けば聞くほど、高い解像感や広大な音場を感じ、それが実は圧倒的な力を持っていることに気付く。空間にぱっと浮き出るサウンドステージは、緻密で深く気付けば音楽を聴くことに没頭してしまう。その気になれば音の世界に頭から飛び込み、実在感にも満ちた音にたっぷりと浸ることができる。
「DALI KORE」の音を聴いて最初に持った印象がこれだ。
D&Mホールディングスは10月4日、デンマークDALIの最上位スピーカー「DALI KORE」の国内販売を10月26日に開始すると発表した。完全受注生産の機種で価格は1本825万円。KOREは5月にドイツのミュンヘンで開催された「HIGH END 2022」で発表。1983年の創立以来、ブランド40周年を前にした集大成的な製品。ただし、記念モデルではないという。
ハイエンドオーディオの世界では1000万、2000万円といった価格のスピーカーも珍しくなくなってきたが、数万円のエントリークラスから、ハイエンドでも100万円程度のレンジで勝負してきたDALIとしては、これまでにないクラスの製品となった。
かなり独自性の高い設計に取り組んできたDALI
KOREは5ドライバーを使用し、低域/中域/高域/超高域の4ウェイ構成。音楽の賞賛をテーマにDALIの精神が反映された製品だ。ルーツは2008年に構想し、2011年にプロトタイプを完成させたコンセプトモデル「EMINENT ME9」にあるという。ME9は弧を描き、独特なバッフル面が印象的な機種だったが、リーマンショック後の世界的な不況はハイエンドオーディオの市場にも影を落とし、市場に出る機会が得られなかったモデルだという。
また、DALIは1990年代半ばの“MegaLine”(多数のユニットを備えたラインソース型)、1988年の“DaCapo”(ワイドレンジのリボンドライバー)、1992年の“SKYLINE”(オープンバッフル型)など独創的なデザインの製品を過去に手掛けている。また、1987年の“40 SE”では複雑なカップルド・キャビティによる低音負荷、2002年の“EUPHONIA”では世界初のドーム型とリボン型のハイブリッドツィーターの搭載といった技術革新に取り組んできた。KOREそのものはゼロベースからの開発であったが、過去40年に渡るスピーカー製造と評価のノウハウが存分に生かされた製品になっている。
キャビネットの製造は曲木を得意とするデンマークの家具メーカーHudevad Furniture社に委託している。筐体は積層合板をプレスして曲面を作っており非常に手のかかった仕上げだ。バッフル面はツィーターとミッドレンジがある中央部分がアルミ製、上下が木製となっており、緩やかな曲面を描いている。
本体サイズは幅448×奥行き593×高さ1675mmで、重量は180kg。
KOREのために1200もの部品を新規に開発
ユニット構成は4ウェイと書いたが、低域のダブルウーファーと高域のハイブリッドツィーターは、担当する周波数帯域をズラしたスタガー接続になっている。ウーファーは上下で担当する帯域が若干違い200Hz以下と350Hz以下、ハイブリッド式のツィーターはドーム型が2.1kHz以上、リボン型が15kHz以上を担当する形だ。つまり、3ウェイを基本にしつつ、低域に0.5ウェイ、高域に0.5ウェイを足した「3+0.5+0.5ウェイ」の構成だという。
ドライバーについては、DALIの特徴であるSoft Magnetic Compound(SMC)を“SMC Gen-2”にアップデート。SMCは2013年の「EPICON」から採用している技術で、鉄粉の表面を化学処理で絶縁したもの。電気的には導体で、化学的には絶縁体という独特の特性を持つ。これまでは磁気回路などに用いてきたが、コイルにまで使用したのは「KORE」が初めてだ。
低域を担当するのは、300mm近い口径のウーファー(11.5インチ)。ウッドファイバーで強化したペーパーコーンをハニカム構造の梁で強化したサンドイッチ構造の振動板を使用。これを珍しいダブルボイスコイルで駆動する仕組みだ。DALIでは「バランスドライブSMCテクノロジー」と呼んでいる。ボイスコイルの直径も60.7mmと大きく、±15mmとかなり深いストロークが得られるのが特徴だ。上と下で担当する周波数帯域が異なるのは、ミッドレンジとのマッチングを取るため。ミッドレンジの中心から見て、異なる距離にそれぞれのウーファーが設置されているため、そのぶんの波長を調整しているそうだ。背面のスリッドでおおわれているバスレフポート(リフレックスポート)の設計も独特。スピーカーバスケットもかなり巨大である。
7インチ(約177.8mmのミッドレンジは専用開発。こちらも特徴的なウッドファイバーコーン、ダブルボイスコイル駆動、磁力の高い大口径ネオジウム磁石を使用している。重要な放熱についてはボビンを熱伝導率の高いチタン製にしている。振動板については、表面に制動剤を塗布しているが、塗料の厚みをへこみの形状に沿って微妙に変えることで強度を確保するといった試みも取り入れているそうだ。重視したのはストロークではなく均質性だという。
高域を担当する「EVO-Kハイブリッド・トゥイーター」は、2.1kHz以上の音をフルレンジで担当する直径35mmのソフトドーム型ツィーターを、15kHz以上高域を担当するリボンツィーターで補う構造だ。ただし、リボンツィーターは周波数帯域を補う目的ではなく、指向性を広く取るため使用しているそうだ。ドーム型ツィーターでも20kHz以上の帯域を出せるため、聴感上は特に問題ないが、10kHz以上では振動が中心に寄り、音の直進性が上がってしまうため、それに対策したものだそうだ。
35mmのツィーターはDALIとして最大サイズ(一般的に見てもかなり大型)。一般的な25mmのユニットと比べて約2倍の放射面積を持つ。ミッドレンジとのつながりがよくなるほか、能率も高く取れる。これは放熱にも有利。ボイスコイルの冷却(熱拡散)に使用する磁性流体は粘性があり、音への悪影響もあるが、これを取り除く工夫となっている。また、ツィーターユニットのバックスペースもかなり広く取っている
これらドライバーのほか、端子、クロスオーバー、スパイクなども新規開発で、KOREならではのものになっている。DALIがこのスピーカーのために新規開発した部品は1200点以上に及ぶという。合板を重ねてプレスする曲面成型など、デンマークならではの加工技術を応用して作られている。制約なく最善を尽くして、DALIのテーマを追求し、完成させたものがKOREである。その最大のテーマは「エフォートレス」だという。無理がなく、自然な音世界。大型の筐体だが、スペクタクルな音を狙ったものではない。
設計にあたっては「ロー・ロス(低損失)」「ホログラフィック・サウンド・イメージング」「タイム・コヒーレンス(統一性)」「クラリティ(明瞭性)」「ワイド・ディスパージョン(音の広がり)」「安定してリニアなインピーダンス」「低共振キャビネット」などをポイントとしたという。
1点豪華主義でスペックを出すよりも、リニアリティや不自然なピークを作らないことを重視した設計にしているという。例えば、カタログスペックを見ると、インピーダンスは4Ω、感度は89dBとこの種の大型スピーカーとしては意外なほど普通。大口径ウーファーなどを採用しているにも関わらずだ。これは音圧よりもリニアリティを重視した結果だという。実際、計測すればこの感度だが、空間放射量は非常に大きく、一般的なスピーカーとは比べ物にならない量とのことだ。
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