ソニー「PlayStation VR2」期待したいが、すでに課題も
ASCII.jp / 2022年9月29日 16時0分
9月15日から18日にかけて東京ゲームショウが開催されました。メタも出展していましたが、何も発表されませんでした。メタは10月にイベントを控えているのでそちらが本番なのでしょう。一方、実機を公開して話題になったのはソニー・インタラクティブエンタテインメントの「PlayStation VR2」です。
使いやすくなり、機能も向上
初代「PlayStation VR」が発売されたのは2016年。Oculus Riftと同時期に発売されて、「VR元年」と呼ばれた年でした。PlayStation VRはソフトとのバンドルを売ったこともあり、2020年1月には合計500万台以上売れたと明らかにされています。
初代機がもっとも問題だったのは、接続方法が複雑だったことです。
PlayStation 4と接続する必要のある配線が大量にあって、モニターにカメラをつないで自分の位置をトラッキングする仕組みも簡単とは言えませんでした。ユーザーからは「置いておくと場所をとり、ケーブルを外してしまうとつなぎなおすのが大変なので稼働率が低くなってしまう」という声もあがっていました。
さらに後継となるPlayStation 5との互換性がなかったため、そのままPlayStation VRを接続することができず、アダプターを使う必要が出てきてしまいました。ここでかなりのユーザーが脱落したのではないかと思います。
そこで配線をシンプルにしたのが新製品のPlayStation VR 2です。
機能としてはアイトラッキングがあり、頭の部分に振動コントローラーを入れていて、ダメージがあるとブルブルッと震えたりします。ビデオパススルー機能も搭載しますが、コスト面を考慮してか、Meta Quest 2と同様にモノクロです。
グラフィックとしてはPlayStation 5のハードウェア性能をそのまま使えるのできれいな映像を出せますが、PlayStation 5とはUSB-Cケーブルで接続する必要があります。本体を軽くできるのがメリットですが、ケーブルがあるぶん取り回しの面倒くささはあります。今後は無線機能をつけるのではないかという予想もありますが、当初は主にコスト面から有線にしたという判断ではないでしょうか。
気になるのは値段がいくらになるのか。日本円では5万円くらいでしょうか。4万円台になれば相当頑張ったほうだと思います。
課題は目玉タイトルが用意できるか
そんなPlayStation VR2ですが、既に課題も見えはじめています。最大の課題は発売までにタイトルが用意できるのかということです。
今のところ目玉タイトルとして出ているのは、ソニー傘下のゲリラゲームズが開発する「Horizon Zero Dawn」シリーズ続編「Horizon Call of the Mountain」のみ。「バイオハザード ヴィレッジ」の対応も明らかになっていますが、初代PlayStation VRのときと同じように既存のタイトルをVR上で動くようにしたものにすぎません。
初代PlayStation VRからタイトルをそのまま移植することもできません。PlayStation VR2は、PlayStatin VRとの互換性がないとされているためです。新たにインサイドアウト方式のトラッキングなどが使われてくるので、初代とは要求されるものが変わり、内部の仕様を分ける必要があるんですね。
VR最大の市場はMeta Quest 2ですが、仕様が異なるQuest 2向けのタイトルをそのまま移植するわけにもいきません。人気タイトル「Beat Saber」のPlayStation 2版が出るのかも謎です。Beat Saverのツイッター公式アカウントはPlayStation VR2リリースの知らせに「Exciting!」と返していますが、よくわかりません(笑)。
PlayStation VR2のライバルになってくるのはどちらかというとPCVRですが、PCVR向けには有力タイトルが出ておらず、ランキング上位は「Half-Life Alex」「VRChat」「Rec Room」「Blade and Sorcery」など、以前から同じタイトルが並んでいる状態。今年に入って有力な新作は出てきていません。
PCVRは求められるグラフィックス品質が上がってしまうので、ゲームを開発するほうも大変なんですよね。世界的にコロナが落ち着いてきた影響もあり、巣ごもり需要が一段落したのか、市場の成長が緩やかになっている傾向も見られます。新作タイトルの開発に積極的に取り組むのが難しい市況でもあります。
ここ数年で有力なハードも出ておらず、いまもっとも人気があるValve Indexも既に発売されて5年が経っています。後継機を開発しているという噂も出ていますが、開発販売元のValveも最近ではPCVRよりもSteamを動かせるモバイルゲーム機「Steam Deck」に注力しているように見えます。今回の東京ゲームショウでもSteam Deckには大きなブースが出て一般日では長い行列ができていました。
ソニー版「メタバース」の登場も不明
連載のテーマであるメタバース系のタイトルについても不明です。2008年のPlayStation 3世代には、当時の「セカンドライフ」ブームを受け、1つの空間に64人が集まれることを目玉とした「PlayStation Home」というメタバースのようなサービスを展開していました。しかしあまり人気を獲得することはできず、2015年にサービスを終了しています。
ただし現在、ソニーはメタバースを重要なサービスであると改めて定義づけています。その核となるのが「ライブサービス」と呼ばれるものです。
ライブサービスは「持続的なサービス」という意味で、Epic Gamesの「Fortnite」や、Bungieの「Destiny」のように終わりなく続くゲームをあらわします。ソニーは今年7月にBungieを買収しましたが、Bungieからサービスを運用し続けるノウハウを吸収して、そうしたライブサービスを今後10本程度出していきたいとも話しています。
ソニーは優れたゲームを開発する自社スタジオを数多く持っていますが、単発のゲームとして販売されるのが基本で、ライフサービスとしては展開してきませんでした。長期的なライフサービスとして展開することで、ゲームの寿命を伸ばしたり、コスト高に伴う恒常的なコンテンツ不足の解消を目指しているのではないかとも思えます。
現時点ではユーザーのクリエティビティを取り込むような一般的なメタバース観までは踏み込んでいない印象がありますが、ソニーが今後メタバース系のタイトルを開発するとしたら、候補に挙げられるのはPlayStation VR版が発売された「Dreams」でしょうか。
Dreamsは高機能なUGCベースで、ゲーム制作など様々なことができるユーザー向けの開発環境をパッケージとしてまとめたタイトルです。ユーザーの創造性を活かしていくとしたら方向性としてはこういうものになるのかなと想像します。
そういうわけで、PlayStation VR2向けタイトルは大きな課題になりそうです。そもそもPlayStation 5自体がタイトル不足に悩んでいますから、初期はやはり同じ悩みを抱えることになるのではないでしょうか。PlayStation VR2は、まだ発売価格や発売時期は明らかにされていないものの、来年前半には登場すると予想しています。新しいハードの登場はVR市場の活性化につながるので、正式発売の発表を楽しみに待ちたいと思います。
筆者紹介:新清士(しんきよし)
1970年生まれ。「バーチャルマーケット(Vket)」で知られる株式会社HIKKY所属。デジタルハリウッド大学院教授。慶應義塾大学商学部及び環境情報学部卒。ゲームジャーナリストとして活躍後、VRゲーム開発会社のよむネコ(現Thirdverse)を設立。VRマルチプレイ剣戟アクションゲーム「ソード・オブ・ガルガンチュア」の開発を主導。著書に8月に出た『メタバースビジネス覇権戦争』(NHK出版新書)がある。
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