Astell&Kernの新フラッグシップを聴く、Odysseyのセットでは約120万円
ASCII.jp / 2022年10月3日 18時30分
9月13日に発表されたAstell&Kernの新製品。10月発売予定の「A&ultima SP3000」は60万円台中盤と高価なハイレゾプレーヤー。「Odyssey」はEmpire Earsとのコラボモデルで60万円弱。11月発売予定で、全世界600台の生産、国内販売40台のプレミアムなイヤホンだ。
信号経路も駆動経路もデュアルに
A&ultima SP3000のデザインコンセプトは「光に包まれる」だ。これはこれまで蓄積した“技術の集約”をも意味しているという。特徴はバランス出力(2.5mmと4.4mm端子)とアンバランス出力(3.5mm端子)の回路を完全に分離するだけでなく、デジタル信号とアナログ信号の分離も実現したオーディオ回路の構造だ。これにより130dBと過去最高のS/N比を実現したとしている。S/N比はノイズの少なさを示し、音の解像感や見通しの良さに関係する数値だ。
この“デュアルオーディオ回路”は、バランス出力とアンバランス出力を切り替えるために従来使っていたスイッチを廃し、より高音質を追求したもの。実質的に2台のDAPが1つの筐体に収まっているのと同じだ。「A&futura SE200」を想起させる構成だが、A&ultima SP3000では、アンバランス側の回路を駆動している時はバランス側の電源がカットされるなど、さらに徹底した設計がなされている。これはバッテリーマネージメントの向上にも寄与している。
デジタル/アナログ信号の分離は、量産を開始したばかりのDAC「AK4499EX」を、世界で初めて採用することで実現している。AK4499EXは4基搭載。さらにデジタル信号処理専用に「AK4191EQ」も2基搭載している。もともとAK4499EXはAK4191と組み合わせることを前提とした設計だ。
さらに「A&ultima SP2000」よりバッテリー容量が大きくなった。省電力化を進めるだけでなく、消費電力の増大もカバーしているのだ。
回路は高純度銀シールド缶に格納し、電気的な絶縁を図っている。「A&futura SE180」から採用された技術である。また、PCM384KHzまたはDSD256にリアルタイムでアップサンプリングする“Digital Audio Remaster”(DAR) 機能も搭載している。A&futura SE180の交換モジュール「SEM4」で実現された機能だ。
Astell&Kernが培った技術を集大成的に搭載
このようにA&ultima SP3000は、最新のDACチップを搭載したということにとどまらず、最近のA&futuraシリーズで実現した先進的な機能を巧みに取り入れた設計になっているのが特徴だ。 イヤホン出力端子は3.5mmアンバランス出力(光出力兼用)と2.5mm、4.4mmバランス出力に対応している。
筐体にはデジタルオーディオプレーヤーとしては世界初となる、904Lステンレススチール製ハウジングを採用している。904Lステンレスは高級時計に使用される素材で硬度がきわめて高く製造難易度が高い。
プレーヤー部分はSnapdragon 6125(8コア)を搭載。5.46型のフルHDディスプレーを搭載している。また、新世代のGUIを採用して操作性を向上させた。
世界最高峰の一角を占めるイヤホンブランドとも協業
Odysseyは共同開発だが、実質Empire Earsの現行フラッグシップになる製品だ。A&ultima SP3000と組み合わせることを念頭に設計されている。Empire Earsは日本での知名度は高くないが、アメリカではオーディオフォーラムのHeadFiを中心として人気が高いブランドだ。新機軸の機能を積極的に取り入れるブランドでもある。
Odysseyは独自の10ドライバー構成(Quadbridシステム)を搭載している。これは2基のサブウーファー、5基のBAドライバー、2基の静電ツイーター、そして1基の骨伝導ドライバーから構成されている。このドライバー群を統合するために7ウェイの「synX」クロスオーバーネットワークが採用されている。Empire Earsでは、骨伝導ドライバーと従来型ドライバーを組み合わせた構成をデュアル・コンダクション・アーキテクチャーと呼んでいる。
Odysseyの筐体デザインは、ENIGMAと呼ばれる独自のダイクロイック・フェイスプレートを採用、9つのポリマー層を3ステップで積層している。これは特定の波長の光をフィルターして反射させるというユニークな機能を持っていて、見る角度によって色が変化する。
標準ケーブルはUPOCC高純度銅のリッツ線材が採用され、プレーヤー側端子は4.4mm5極のPentaconnプラグになっている。
Astell&Kernと蜜月の関係にあるAKM
9月13日の発表会では、旭化成エレクトロニクスのオーディオマイスター佐藤友則氏がスペシャルセッションで参加した。
「AK4490」は「AK380」、「AK4497」は「A&ultima SP1000」、「AK4499」は「A&ultima SP2000」と、旭化成エレクトロニクスのフラッグシップDACチップは、常にAstell&Kernに採用されてきたという歴史に触れ、新開発の「AK4191」と「AK4499EX」も同様にA&ultima SP3000が世界初搭載したと紹介した。据え置きのハイエンドオーディオではなく、ポータブル機が旭化成エレクトロニクスのフラッグシップDACチップを搭載してきたことになるが、これはDACチップの製開発サイクルが、ハイエンドオーディオよりもポータブル製品の開発サイクルのほうが速いためのようだ。
AK4191とAK4499EXのデジタル・アナログ分離は、佐藤氏が長年温めてきたアイディア。LSIのレベルで分離することで、より高性能が実現できたという。AK4191とAK4499EXの間はI2Sではなく、独自のインターフェースを使い、マルチビットデータ(7bit)の受け渡しがなされている。また32bit処理は、より細かく演算できるため、低音域の再現に寄与するといった話も興味深かった。旭化成エレクトロニクスのDACチップの供給は一時不安定になっていたが、本製品については既に問題がない状態であるという。
切れ味が鋭いサウンドに舌を巻く
A&ultima SP3000は、A&ultima SP1000やA&ultima SP2000と似た外観で、それらがステンレス・スチールシャーシになったかのような印象を受ける。筐体はずっしりと重い。ハードボタンは従来通りの3ボタンで、いままでのユーザーが混乱することは少ないだろう。microSDカードはトレーではなくスロット方式だ。
新しいGUIはCDジャケットが表示されるような遊び心とストリーミングサービスの選びやすさを両立した今の時代にふさわしいものとなっている。またA&futura SE180にあったミニプレーヤー機能を追加し、画面下部だけでも再生が可能となっている。
聴き慣れた「AK Pathfinder」を組み合わせて、試聴してみた。音質は予想通り優れたものだ。S/N感が極めて高く、全域がシャープで切れ味がいい。ボーカルの声質が豊かで細かく再現されるのに驚かされる。低域には重量感と深みがあり、パンチがあってタイトだ。トーンバランスの誇張感は少なくオーディオファイル調なのはA&ultima SP1000やA&ultima SP2000と同様だ。A &ultima SP3000はフラッグシップらしいオーディオファイル調でありながら、モニター的な無機質さは少なく、音楽をパンチがある楽しいものとして聴ける。
低ノイズの追求と有機的に楽しめる音楽の再現性を両立させ、まさに今年で10周年を迎えるAKの集大成と言えるサウンドになった。
Odysseyは手に取ってみると豪華なフェイスプレートの質感がよくわかる。標準添付されているケーブルもかなり高品質なものである。
音質はとてもワイドレンジでオーディオファイル調だ。高音域は伸びやかだが刺激成分が抑えられて聞きやすい面もある。低域も誇張感は少なく深みがあり、タイトでパンチがある。音場も立体的な広がりがよく感じられる。性能が高いだけではなく、きめ細やかにチューニングされているのが分かる。たしかに音調はA&ultima SP3000と似たものが感じられ、併せて楽しむとより高いレベルの音を楽しむことができるだろう。
両製品とも高い音性能とともに、最近のオーディオでの新技術を巧みに取り入れた設計を感じることができた。10年の節目を迎えたAstell&Kernが開発した集大成であると同時にさらにこの先の10年に向かっていく意気込みが込められている製品であるともいえるだろう。
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