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転売業者は大損、修理屋は地方へ 複雑怪奇な深圳の電気街でのiPhone業者事情

ASCII.jp / 2022年10月10日 9時0分

 iPhoneが発売されると深圳の電気街「華強北」がざわつき盛り上がる。今年9月のiPhone 14発売でもそうだった。これまでも新型iPhoneが発表・発売のたびに、華強北の一部が活性化することからメディアも取材に入る。それにしても今回はどうにも異常事態だった。「iPhoneの最高の時代は終わった」という声も出ている。

ネット上ではiPhone 14転売業者情報が駆け巡った

1つの産業と化していたiPhoneの転売 しかし、2022年は少し様相が異なるようだ

 深圳の地価は中国でトップクラスに高い。販売スペースのテナント料は1カウンターで30万元(1元=約20円)もすると言われている。加えて中国のゼロコロナ政策によって、すぐ近くの香港と行き来ができなくなり、密輸が厳しく取り締まられていることから商品確保が難しく、近年は華強北のテナントから撤退する店が相次ぎ、もぬけの殻の状態になるフロアもある。ただiPhoneの発売は話は別だ。アップルの発表会で発売日が明らかになると、華強北は再び生き返ったと各メディアは伝える。

深圳の電気街である華強北(写真はコロナ前)

 iPhone 14発表の1ヵ月前の8月には早くも情報が回っていて、新型iPhoneのモックアップを入手した業者もいて、ケースの量産を開始。いつでも売れるよう体制を整えていた。また「華強北で作れないものはない」とばかりにニセモノ業者も動いていたという。

500円以内のiPhone 14用ケースが多数売られている

 そして発表会が行なわれるや、転売業者が一気に動き出す。転売業者は複数のチャネルディーラーに連絡を取り、一方で買い手となる顧客にも「iPhone 14は要らないか?」とコンタクトを取る。そして出所不明だが、本物のiPhone 14を仕入れる。ある転売業者はリリース後に高値になるだろうと、2週間後に転売するつもりで購入した。中国人だけでなく外国人の業者も混ざる。

 これまでもiPhoneは中国の転売業者にとって打出の小槌だった。iPhone 4発売時は2万元、iPhone 6は2万8000元もの高値で転売し、1台で1万元近く儲けたという。そこまで行かなくても、当時は1台で5000~6000元、1ヵ月で30万元稼ぐことが当たり前で、絶頂期には100万元以上というとんでもない大金を得たともいう。そのため多くの人が並んで転売目当てで購入した。楚天都市報によれば、転売業者を集めて転売業務だけをする会社を立ち上げる人もいた。

 「iPhoneがいい商材だとはここの誰もが知っている。新製品発売で波をつかむことができれば、生き残ることができるだろう。つまり華強北全体がiPhoneを売っているということ」と、ある業者は語る。

アップルが製品大量供給で転売業者が大損か ネットではその不幸のニュースで盛り上がる

 iPhone 14シリーズが中国で発売された9月16日には、各地で購入のための行列ができた。転売業者の見立てでは2週間くらい寝かせれば高くなるはずだった。時間単位で激しく転売相場が上下するなか、やがて相場は下がっていきついには発売数日後には定価よりも安くなった。つまり転売業者が初めて新型iPhoneで損をしたのである。

 9月18日にはSNSで「転売ヤーがiPhone 14で100元損した」というフレーズが注目ワードになった。転売業者の不幸のニュースに、中国ネット世論が「いい話だ!」と盛り上がったのだ。このとき「iPhone 14が発売された日、ある転売業者は全機種を買い取り、累計300台以上を購入し、結果1日に数十万元の損失を出した」「購入した2台のiPhone 14 Pro Maxを定価より1600元プラスして転売業者に売り、2日後に定価より100元プラスして転売業者から買った。1500元×2台で3000元儲かった」などさまざまなエピソードが出てきた。

華強北の路上でiPhone 14を泣く泣く売る転売業者(微博より)

 その理由はいくつかある。まず、アップルは中国市場でこれまでになく一気に大量の製品を供給した。それを知らなかった転売業者が仕入れ過ぎてしまったのだ。次にiPhone 14はiPhone 13から大きな違いがあるわけではないこと。その上で中華スマホこと、中国スマートフォンメーカーの高級モデルが台頭し、iPhoneユーザーの他社スマホへの乗り換えが起きているという理由がある。

 加えて中国の景気が悪く、消費者がスマートフォンの買い替えやデジタル製品の購入をそもそも控えるようになったという理由もある。「転売ヤーの成績は今年は去年ほどよくなかった。来年はこの傾向が強まるだろう」と深度科技研究員院長張孝栄氏は華夏時報の取材に答えている。

深圳の都市住民にはiPhoneは熱心に修理する機器ではなくなった iPhoneの修理屋はまだまだ経済格差がある地方へ

 ところで転売業者から話は変わる。深圳・華強北のiPhone業者と言えば、修理屋の存在もまた目立つ。こうした修理屋は、転売業者とは別の事情で続々と撤退している。

かつて華強北にたくさんあったiPhoneの修理屋

 不景気とはいえ、中国では毎年のように平均所得が上がっている。華強北で2016年からiPhone修理をしている郭兄弟によれば「当時最も需要があったのは、iPhone 4Sのバッテリー交換と壊れた画面との交換」だったという。「当時の深圳の平均給与は5000元強だったのを覚えています。このときiPhone 7の定価は5400元でした。だからニーズもあった。深圳の人々の賃金は上がり、一方でiPhone定価は6000元以下で、もう多くの人々にとって半月分の給料で買えてしまう状態になっています」。昔は多少問題が起きても修理してiPhoneを使い続けたいというニーズがあったが、それがなくなってきた。加えてテナント料がどうにも高い。

 「信じられないかもしれませんが、2013年リリースのiPhone 5を持っている人がまだ地方都市では健在なんです」。「一線都市」と呼ばれる先端を行く深圳と、「三線都市」「四線都市」「五線都市」と呼ばれる中国全土に点在する小都市では経済格差が大きく、今でも地方都市では多数のiPhone 6ユーザーがいる。それらiPhoneは当時買った新品だけでなく、一線都市から流れた中古品もある。

 所得が低い中で当時5000~6000元で購入したiPhoneから、新しいスマートフォンに買い替える気にはなかなかならない。正規の代理店が小都市にはないので修理を依頼するということもできず、かといって無理して新品を買おうとも思わない。そこで小都市のiPhoneユーザーは、修理屋にバッテリー交換を依頼して延命をする。古いiPhoneを継続してあと数年使用するという需要は結構あるため、深圳よりも地方のほうが修理のニーズが高いし、テナント料は圧倒的に安い。ならば華強北にいる意味は薄れるわけで、撤退ブームが起きるのも納得だ。

 ところが中国各地に修理屋が行くことで中国全土に救いの手が入って、よかったよかったという話にはならない。もともと小都市ではニーズがあることから、日本で言うなら、商店街の電器屋さんのような地元に根付いた街の修理屋がいる。ここに深圳からやってきた修理屋が安くパーツを入手して事業を始めて、より安くサービスを提供するのだから、もともと地場に根付いていた修理屋はたまったものではなく、中国各地で揉めているという話を聞く。

 このようにiPhoneと深圳・華強北は社会習慣に根付いた複雑怪奇なもので、最近ではアップルの意向や中華スマホやテナント高や所得高など様々な理由により、華強北からiPhone業者が減っている。次に華強北に行ったときには、iPhone業者だらけだった以前と随分違うと感じそうだ。

山谷剛史(やまやたけし)

著者近影
著者近影

フリーランスライター。中国などアジア地域を中心とした海外IT事情に強い。統計に頼らず現地人の目線で取材する手法で、一般ユーザーにもわかりやすいルポが好評。書籍では「中国のインターネット史 ワールドワイドウェブからの独立」、「中国のITは新型コロナウイルスにどのように反撃したのか? 中国式災害対策技術読本」(星海社新書)、「中国S級B級論 発展途上と最先端が混在する国」(さくら舎)などを執筆。最新著作は「移民時代の異国飯」(星海社新書、Amazon.co.jpへのリンク)

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