グーグル「Pixel 7/7 Pro」円安無視の価格設定と下取り強化、他社と友好関係を維持できるか(石川温)
ASCII.jp / 2022年10月11日 9時0分
グーグルは新製品スマートフォン「Google Pixel 7」「Google Pixel 7 Pro」を発表。10月13日に発売する。
グーグル製プロセッサ「Google Tensor G2」を搭載し、AIのチカラによって写真や動画の撮影、画像処理、テキスト起こしなどを実現。グーグルのクラウドで培ったAI処理を、デバイス上で行えることをウリにしている。
円安基調を無視した驚きの価格設定
今回の発表で、驚きを持って受け止められたのが価格だ。
Pixel 7は8万2500円、Pixel 7 Proは12万4300円からとなっている。昨今の円安基調で、スマートフォン全体が値上がりしている感がある。シャープ「AQUOS」やソニー「Xperia」などではフラグシップモデルが20万円近くするなど、気軽に購入できる価格ではなくなってしまった。
そんななか、グーグルは、7月に発売されたPixel 6aが5万3900円とかなり手頃な価格に設定してきたのに続き、Pixel 7 ProとPixel 7はPixelのフラグシップでありながら、価格を相当、抑えてきた感がある。
実際、Pixel 7のアメリカでの価格は、Pixel 7が599ドル、Pixel 7 Proが899ドルとなっている。税別であることから計算すると、1ドル125円程度となる。直近の為替レートが1ドル145円程度であることを考えると、円安基調を無視したかたちでの価格設定とも言える。
グーグルのバイスプレジデントでデバイス&サービスビジネスのAPAC担当であるマイク・アバリー氏は「競争力を持つにはマクロ経済的な要因も考慮する必要がある。為替レートにも配慮している」と語っている。
「実質ゼロ円」グーグルの大盤振る舞いな下取りに Pixelシリーズを扱うキャリアとの関係はどうなる?
さらに話題となっているのが下取りキャンペーンだ。Pixel 7 Proが「実質ゼロ円で買える」と盛り上がっているのだ。
グーグルストアで購入する際、Pixel 4やiPhone 11を下取りに出すと、最大6万1500円で引き取ってくれる。さらに2万1000円分のストアクレジットが付与されるため、合計で8万2500円分、お得となり、実質ゼロ円で購入できるというわけだ。
ちなみにPixel 4を大手中古買取業者のサイトで検索したところ、買取上限金額は1万7000円であった。つまり、グーグルは4万円以上、買取価格を上乗せていることになる。
市場価格を超える額での買取は、キャリアが通信契約と紐付けて実施すると、総務省に怒られる案件だ。キャリアによる買取価格が市場における買取価格を超えていると「利益の提供」と見なされしまうのだ。
しかし、グーグルの場合は通信契約と紐付くことなく、完全分離で端末のみを売っているので、特に問題はなさそうだ。
グーグルとしては日本市場を重視、買取価格を上乗せすることで、すでにPixelを使っているユーザーにはPixelシリーズを使い続けてもらい、さらにiPhoneや他社Androidを使っているユーザーにはPixelに乗り換えてもらいたいのだろう。ユーザーとしては、中古下取業者に出すよりもお得になるので、このキャンペーンを喜んで受け入れることだろう。
しかし、Pixelシリーズを扱うKDDIやソフトバンクは正直言ってグーグルのやり方に、不満を持っていてもおかしくない。
KDDIとソフトバンクにしてみれば、せっかくPixelを取り扱っているにもかかわらず、グーグルに大盤振る舞いな下取りを展開されると在庫のリスクを抱えることになる。
一般的にはまだまだネットではなく、キャリアショップで購入するユーザーが大半なので、影響は軽微なのかも知れないが、キャリアショップとして客から「ネットで買った方がお得だけど、なんとかならないか」と言われても、どうすることもできない。
グーグルと同じ下取りキャンペーンをキャリアが展開できればいいのだが、それでは総務省に怒られてしまう。過剰な下取りキャンペーンはキャリアとの関係を気まずくさせる可能性があるのだ。
端末販売で儲けなくてもいいグーグルに 他の端末メーカーが太刀打ちできるのか?
もうひとつ気がかりなのが、他のAndroidメーカーだ。
日本メーカーだけでなく、韓国、中国メーカーは円安に逆らえず、日本での価格設定に相当、苦労している。なんとかコストを削減しようと、カメラの数を減らしたり、指紋認証を安価なものにするなど涙ぐましい努力を続けている。
一方のグーグルは、チップは自分たちで設計し、製造を委託。販路も自分たちで持っている。値段を自由に決められる裁量が多い。
グーグルの主な収益源は広告であり、ぶっちゃけて言えば端末販売で儲けなくてもいいぐらいだ。純粋に端末販売だけで生きている他の端末メーカーが、グーグルに互角に太刀打ちするのには無理がある。
グーグルがPixelの価格設定で頑張りすぎると、他のAndroidメーカーが疲弊し、製品を出せなくなることにつながりかねない。将来的に「AndroidはPixelだけ」なんてことになったら、困るのはグーグルのほうだ。
グーグルが下取りを強化するのはユーザーにとっては大歓迎なのだが、あまりやり過ぎるとキャリアや他のメーカーにそっぽを向かれかねない。グーグルとしては、他社と友好な関係を維持しつつ、Pixelのシェアを上げていくという難しい舵取りが求められそうだ。
筆者紹介――石川 温
スマホ/ケータイジャーナリスト。「日経TRENDY」の編集記者を経て、2003年にジャーナリストとして独立。ケータイ業界の動向を報じる記事を雑誌、ウェブなどに発表。『仕事の能率を上げる最強最速のスマホ&パソコン活用術』(朝日新聞)、『未来IT図解 これからの5Gビジネス』(MdN)など、著書多数。
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