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全社体制でPixel 7とPixel Watchに注力するグーグルの意気込み(西田宗千佳)

ASCII.jp / 2022年10月11日 12時0分

同社のスンダー・ピチャイCEOも登壇。それだけ日本市場が重要、というアピールだ

 気がついてみると、Pixelも第7世代に突入した。その前の「Nexus」時代から考えると、グーグルはもう12年にも渡ってスマホ事業を展開していることになる。

 だが、Pixelも昨年の「6シリーズ」からグーグル自社設計半導体を採用する形に変わり、今年のPixel 7シリーズは、実質的に「第2世代Pixelシリーズの第2世代」ということになる。その辺がどういう意味を持っているのか、改めて少し考えてみよう。

Pixelにとっての「日本市場」とは

「なんか、ピチャイ、日本に来てるらしいよ」

 そんな話がメディア関係者の間で噂として流れ始めたのは、国内発表会前日、10月6日のことだった。日本時間深夜にアメリカで開催された発表会に、スンダー・ピチャイCEOの姿はなかった。だから「こりゃあ日本にいるのは間違いない」と思ったものの「発表会に来る」という確信は持っていなかった。発表会の式次第にもピチャイCEOの名前はなかった。

 とはいえ、会見開始前には「ピチャイCEOが来る」のは公然の秘密となっていた。最初に「シークレット」として登場した時には「やはり」という感覚だった。

 それはともかく、ピチャイCEOが日本の発表会に来たことは、それだけPixel事業に関し、日本が重要な地域であることを示している。ピチャイCEOはPixelのプロモーションのためだけに来日したわけではないが、Pixelの発表がなければこの日程を選ばなかった、というのも事実だろう。

 実のところ、Pixelがよく売れているのはアメリカと日本。他での売れ行きは日本で多くの人が予想するよりも低い状況にある。日米以外での売れ行き拡大が必須だが、同時に、Pixelが強い市場である日本市場の維持拡大も大切な要素である。

「Google Tensor」から見える「オールGoogle」体制

 そして、Pixel 7・Pixel Watchを多数売ることが重要である理由は、それぞれの販売収益が重要、という点以外にもある。それは、現在のPixelが「グーグルの持つリソースをすべて生かすプロジェクト」になってきているからだ。

 冒頭で書いたように、昨年のPixel 6以降、同社は「第2世代Pixel」に移行した。その中核となっているのは、グーグル自社開発のプロセッサーである「Google Tensor」を採用したことだ。

 Google Tensorは評価が難しいプロセッサーである。第1世代である「G1」は、ベンチマークで比較する場合、他のハイエンドスマホで使われるSoCに比べて性能は低い。だが、それでPixel自体の性能を評価することはできない。

 Google Tensorに搭載されている機械学習系コアの優秀さが、「カメラ」「画像認識」「音声認識」などの快適さにつながっていたからだ。ほとんどがクラウド処理でなくデバイス内で処理できていた、という点も大きい。特にプレス関係者からは、オンデバイスによる音声認識機能の評判が高かったが、そこでもGoogle Tensorの機能が使われていたし、カメラの画質も同様だ。結果として、コストを抑えたがSoCとしてはGoogle Tensorを使った「Pixel 6a」のコストパフォーマンスの良さが注目される結果となった。

 Pixel 7シリーズは次の世代となる「G2」を使っている。G2の性能は現時点では不明だが、機械学習系の処理については高性能化しており、消費電力も20%削減されていることがわかっている。性能評価は後日に譲るとしても、こうした要素が音声認識やカメラの性能をより向上させるカギになっているのは間違いない。

Pixel 7シリーズのSoC「G2」も機械学習系処理を担当する「TPU」の性能で差別化を狙う

 Pixel 7ではピンボケや被写体の動きが原因で明瞭でない写真を、機械学習処理で高画質化できる。しかも、Pixel 7で撮影したものだけでなく、過去に他のカメラで撮った写真でもいい。これは間違いなく大きな魅力の1つだ。

ピンぼけ写真をよりきれいに。これを「スマホ内」で処理するのが興味深い

 こうした機能を作るには、ハード・ソフト・サービスでの連携が必須であり、自社内にあるリソースをうまく生かすことが重要になる。すなわち、ハード開発・OS・クラウドのそれぞれを持っている企業が有利なルールなのである。

 そのパターンで成功したのがアップルであり、スマホを持たないAmazonも、音声アシスタントや強力なクラウドを背景に、ハードウエアビジネスを10年間で成長させた。

 グーグルもその路線に行こうと考えるのは必然であり、そのためには、彼らの強みである「クラウドとAI」を活かせるAndroidスマホを開発し、販売する戦略が必要であった、ということなのだ。

 このことは、昨年発売のPixel 6シリーズから自明のことであり、今年もさらに継続してきた。Pixel 7シリーズの差別化点としてアピールされた部分、ほぼすべてに「G2」が関わっている。

 こうした仕組みの場合、新機能のどれだけがG2の効果によるもので、旧機種やクラウドへの提供がどうなるかがわかりにくい、という問題はある。その点、グーグルはあえてやっている部分もあると感じる。

Pixel Watch(左)とPixel 7 Pro(右)

3年越しで登場したPixel Watchの意味とは

 そしてさらに今年は、グーグル自身のブランドとしては初のスマートウォッチとなる「Pixel Watch」も登場した。あの機能で3万9800円というのは、かなりお値打ちだと感じる。

 ご存知の通り、Pixel Watchはフィットネス関連機器で知られる「Fitbit」をグーグルが買収した結果生まれた製品だ。だが、同じく2019年に時計会社Fossil Groupから、同社のスマートウォッチ関連の知的財産や関連技術、開発チームを4000万ドルで買収しており、その結果生まれた、という点も忘れてはならない。

 すなわちグーグルは、この時期から、「他社へOSなどのプラットフォーム提供はするが、同時に自社ハードウエアも持たねば、価値の最大化はできない」という判断に至っていたことがわかる。

 Google Tensorのようなプロセッサーについても、サムスンのような強力な開発パートナーがいたとしても、開発には年単位の時間が必要になる。

 Pixel Watchでは、心拍数や睡眠計測の「正確性」をアピールしている。だがそれも、Fitbitが過去に収集した大量のデータと、グーグルの処理能力が合わさって実現されている、と考えていい。

 さらにPixel 7と連携してセットアップを簡便化しているのも、デザインで「Material You」を活用して統一感を持たせているのも、「製品全体を連携して提供している」からできることでもある。そういう意味でも、Pixel Watchは間違いなく「戦略製品」だ。

 そして、スマホとしてのPixelが好調である日本市場は、スマートウォッチで成功を目指すためにも重要な市場である。FitbitでSuica対応の経験があるから、という事情はあるだろうが、コストをかけてスタート時点からSuica対応してきた。定期券への対応ができていない、といった課題もあるが、そうした部分からも「日本でPixelシリーズ全体を成功させたい」という意気込みが見えてくる。

 

筆者紹介――西田 宗千佳

 1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。 得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、アエラ、週刊東洋経済、月刊宝島、PCfan、YOMIURI PC、AVWatch、マイコミジャーナルなどに寄稿するほか、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。近著に、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「ソニー復興の劇薬 SAPプロジェクトの苦闘」(KADOKAWA)などがある。

 

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