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今年最大のヒット作? VRゲーム「BONELAB」

ASCII.jp / 2022年10月13日 16時0分

 メタが10月12日、自社イベントConnectでついに「Quest Pro」を発表しました。10月26日発売で、価格は22万6800円(!)。発表内容についてはあらためてまとめますが、今回はQuest Proの売上を左右しかねないVRゲームの話をしようと思います。

 いまVRゲームで久々にヒット作品が出ているんです。Meta QuestおよびSteam VR(PCVR)用の「BONELAB(ボーンラボ)」というゲームなんですが、現段階でも既に私の推計で30〜40万本を売っていて、先週見ていたところ同時接続数は一時Steamのみで4000くらいまで行っていました。今年最大のヒット作になる可能性もあると予想しています。

最大のポイントは「物理体験」

BONELAB 発売日 2022年9月30日 価格 3990円 Stress Level Zero https://store.steampowered.com/app/1592190/BONELAB/

 BONELABは物理体験によるパズル要素と、シューター要素が入ったゲームです。

 作っているのはアメリカのベンチャー、ストレスゼロラボ。BONELABは彼らが2019年に発売し、Steam VR発売から3日で20万本程度を売ったヒット作、「BONEWORKS(ボーンワークス)」の続編にあたります。BONEWORKSは見るからにFPSゲー厶「ハーフライフ(Half-Life)」を意識していて、「VR版ハーフライフ」と言われていたこともありました。

 ゲームのポイントは、VRならではの没入感を強調する物理体験をうまく実現していたことにありました。VR空間の中でモノに触ったり、オブジェクト同士を動かして干渉させたりという体験です。彼らはBONEWORKSを出す前にデモンストレーションを出していたんですが、そのとき最初にやったのも、手でモノをつかむといった普遍的な物理システムをちゃんと作ることでした。

 今回のBONELABでも物理体験へのこだわりがしっかりと追求されています。リリース前にアピールされていたゲーム内機能のひとつがアバターに関連する物理体験です。

 NODEという彼らの自社メディアを見てみると、ゲーム内のアバターに関する解説が出てきます。ゲームを進めていくとアバターを切り替えられる部屋が出てきてサイズを指定できるようになっていますが、たとえば相撲取りのようなキャラクターを選んでも腕がめりこんでいないことがわかります。体のラインに合わせた当たり判定が設定されていて、体をさわっていることがフィードバックでわかるようにも設定されています。

 あるレビュアーはYouTubeで「これが最高のゲームだということはもう問題じゃない、BONELABは超弩級の成功を保証している。なぜならアニメ調の美少女キャラが使えるんだ。おっぱいをさわれる状態で!!」と語っていました。これも胸に当たり判定が入っているから手で触ることで「揺らせる」わけですが、みんな好きですよねぇ……(笑)。

 ゲームにはいろんなMODを入れられるようになっていて、ゲーム本編が終了した後もサンドボックスとして物理体験を活かして遊び続けられるようになっています。こういうところもゲームの製品寿命を長くしてきたところではないかなと思っています。キャラクターを追加できるMOD機能もリリースされており、今後様々なキャラクターがユーザーにより追加されるといったことが起きてくるでしょう。

優れたタイトルが市場を牽引する

 もうひとつ注目すべき点は、BONEWORKSをリリースした後にメタが開発支援金を出していたことです。つまり「Quest 2で動かしてほしい」という要望を出していたわけです。メタがメタバースの上で重要視しているのは“実在感”を強化してくれるものなので、BONELABの物理体験はメタ側のニーズに合致していたということなんでしょう。

 とはいえ当時は「PC VRで動くのはわかるけど、Quest 2で動くの?」と疑問を感じていましたが、今作はQuest 2への移植を前提に、PC VR向けにクオリティを上げることを止めたのかもしれないと思われる内容になっていました。たとえば物理演算の量が大きくなってしまうので、ゲームに出てくる一つ一つの部屋はBONEWORKSに比べてあまり広くありません。Quest2に対応するためにうまく要素を絞り込んだように見えます。

 また、Quest 2でどう動くかを検証するレビュアーも出てきています。実際、映像自体は粗めになっていますが、PC VR版と比較しても、体験する上でそれほど違いはないんじゃないかと思います。照明などの演出はシンプルになっていますが、空間内でバールのようなものを持ったりして物理的にパズルを解きながらすすめていくという体験は同じですからね。

 物理体験がVRゲームのヒットにつながるというのは本作に限った話ではありません。有名なところでは「Blade and Sorcery」もアップデートで物理挙動や、武器や魔法などを追加することでインタラクションを強化しています。ただし、Quest版の「Blade & Sorcery: Nomad」は2021年11月ではあるのですが、オリジナルのBlade and Sorceryは2018年12月に発売されたかなり前のゲームです。そのため、BONEWORKSのような新作が出ることはVRマーケットにとって重要な意味があります。

 VRマーケットもまたヒット作がいかに出るかによって大きく変わってきます。毎年ゲーム機の売上のピークはクリスマスがピークになります。この傾向は、Steamでも、Questでも大きく変わりません。一般的にソフトウェア売上は、11月~12月の2ヵ月で、1月~10月分の売上合計と同等ぐらいの販売となる傾向があります。そのため、シーズンが終われば落ち着くというパターンの繰り返しになります。

 Steam VRのデータを見ると、VRユーザーはクリスマスをピークに緩やかに落ち込みを繰り返しつつ増加し続けるというパターンをとっていました。ところが今年の夏場は落ち方がすごく急激で、過去のパターンに見られないほど減っていました。要因として、コロナが一段落つきつつ、人々が外出をするようになり、巣ごもりによるユーザー増が減ったからではないかと考えています。

 さらにVRマーケットにとっては、今年に入ってから有力な新作タイトルがなく、ヒットタイトルがなかったことが大きく影響していました。ようやくここに来て大型のタイトルが来てくれたな……という状況になっています。逆に、優れたタイトルが登場することが、ハードを牽引するというのは、VRもゲーム機と変わらないとは思えます。

 もちろん、BONELABの1本だけで市場を支え続けるのは難しいと思いますが、VR的な体験をきちんと追求することでヒットするゲームとなることが証明されたことは、VRゲームをヒットさせるには「VRらしい体験」とは何かを考えるべきかということを改めて示していると思います。

 

筆者紹介:新清士(しんきよし)

1970年生まれ。「バーチャルマーケット(Vket)」で知られる株式会社HIKKY所属。デジタルハリウッド大学院教授。慶應義塾大学商学部及び環境情報学部卒。ゲームジャーナリストとして活躍後、VRゲーム開発会社のよむネコ(現Thirdverse)を設立。VRマルチプレイ剣戟アクションゲーム「ソード・オブ・ガルガンチュア」の開発を主導。著書に8月に出た『メタバースビジネス覇権戦争』(NHK出版新書)がある。

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