学生のやる気が高まる3D都市モデル。テンションを保つ工夫とは?
ASCII.jp / 2022年10月26日 12時0分
この記事は、国土交通省が進める「まちづくりのデジタルトランスフォーメーション」についてのウェブサイト「Project PLATEAU by MLIT」に掲載されている記事の転載です。
アカデミア発の研究成果やゼミ学生への教育として、ゲームエンジンを使った都市空間シミュレーションを多数制作している文教大学情報学部情報システム学科の川合康央研究室。後編では、川合康央教授に、現在の取り組みやPLATEAUを使って今後やってみたいこと、そして、これからはじめるひとへのアドバイスを聞いた。
大きなデータは小さく切って軽量化する
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――今回PLATEAUを用いるにあたって、技術的な考慮点、難しかった点、工夫すべき点などをお願いします。
川合:一番は、データの重さです。大きなデータを扱うので、それなりに時間がかかります。慣れれば問題ありませんが、学生が初めて扱う場面では、処理中なのか、それとも止まっているのかがわからないことがあります。また、同じ方法で東京都ではうまくいったけれども、横浜市ではうまくいかないなど、地域によって、少しデータ設定が違ってくることもあり、そのあたりも考慮が必要です。
PLATEAUでは、地形データの範囲は2次メッシュ、建物データは3次メッシュというように、地域の大きさが異なるデータが組み合わされているので、たとえば、LOD2の建物データと地形データを組み合わせると、地形データが、とても大きな範囲になってしまいます。不要な部分をカットして使うとか、そうした工夫も必要です。
一方でデータの大きさ・重さとの兼ね合いで矛盾するのですが、今後出てくるであろうLOD3やLOD4などのより詳細なデータが都市の近景にあると面白いですね。
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ドライブシミュレーターで言うと、テクスチャーデータがLOD2なので、近くまで行くと、これはテクスチャーだとわかってしまいます。津波避難シミュレーションも、今は三人称視点というか、神の視点で見ているわけですが、一人称視点で見てみようとすると、高解像度データとかLOD3とか、あるいはLOD4であれば建物内避難や垂直避難など、さらなる検討ができるので、面白くなってきます。その一方で、よりデータが大きくなってしまうので、いったいどうやって実現するんだろうというところは、課題でもあります。
[補足] メッシュは、正式には「地域メッシュ」と呼ばれるもので、国土を緯度・経度により方形の小地域区画に細分したもの。総務省が定めたもので、国勢調査をはじめとする、さまざまな統計の区切りとして使われている(https://www.stat.go.jp/data/mesh/m_tuite.html)。PLATEAUで提供される主な地図は、約10km四方の「2次メッシュ」や約1km四方の「3次メッシュ」で区切られている。
――2次メッシュと3次メッシュのお話ですが、具体的に、どのように分割するのでしょうか。
川合:これは難しいです。航空写真は横に10分割して、さらに縦に10分割すればよいだけなので、画像ソフトで単純に切ってしまえばよいのですが、3Dモデルに関しては、ツールでカットしようと思っても、変な形にポリゴンが割れてしまったりするので、課題のひとつです。きれいに形が切れていません。
知っている街の3Dモデルは、モチベーションが上がる
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――PLATEAUを使ったり、都市空間シミュレーションシステムを作ったりしたいと思っている人に向けて、ここから学ぶとよいというアドバイスをお願いします。
川合:ゲームエンジンやコンピューターグラフィックスというのは、最初のモチベーションをもたせながら使っていくことが大事なのではないかと思います。
たとえばLOD2のデータは、学生が最初に触ったときに、すごくモチベーション上がります。これは「知っている街の3Dモデルだ」ということで、テンションが上がる。テンションが上がるだけではなく、LOD2データをダウンロードしてUnityに入れてみる。そこでキャラクターを一人称視点で歩かせる。あるいは車のモデル、それも最初からあるようなものでよいので、それで街の中を走ってみる。そうすると、このモデルがどこまで作り込まれているかとか、あるいはスケールも修正しないとだめだとか、いろいろ一通りの手続きみたいなものができます。
このように、まず、LOD2データをダウンロードしてゲームエンジンに入れる。そこで何かインタラクションのあるキャラクターを歩かせる、車を走らせるというところをスタートにするとよいと思います。
ここを起点に、ほかの技術を取り入れていけば、さまざまなものが作れるようになるはずです。
うちのゼミは情報系ですが、他の分野を専攻している人たちも、それぞれの使い方があると思います。
たとえば僕はもともと建築学科でしたが、建築学科の学生にとって建物を設計するということは、建物単体で設計するのではなくて、周辺敷地の中で、その建物がどういったデザインや機能を持っているのだろうというのが大事です。
建物の模型を作るときも、その建物だけではなくて、周りの建物をたくさん作ります。こうした模型でやってみるのと同じように、PLATEAUに含まれている本物のデータを使って、そこに自分の設計した建物をCADデータで置いてみると、ものすごく現実味を持ったプレゼンテーションができますし、考え方も変わってくることでしょう。
実際にやってみると、こうした操作は、それほど難しくありません。昔のBlenderのほうが、よほど使いづらかったです(笑)。PLATEAUは、使いやすいデータセットなので、ぜひLOD2データから始めるとよいかと思います。
[補足] 昔のBlenderは、キーボード操作が多く、習得が難解なソフトだった。
――今まで、ほかの分野の先生に勧めたり、逆に何か聞かれたりしたことはありましたか。
川合:交通事故の話は、土木系の研究室からお声がけいただいてます。最初は車メーカーでしたが、そのシミュレーションを見たあと、土木の人からお話がありました。
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サイクリングシミュレーターの活用についての話もありました。電動バイクが話題になったことがありますが、そのころ警察の方が、電動バイクは推進してよいのか、それとも止めたほうがよいのか迷っていて、検証してくれといった話です。
実際に街中で電動バイクに乗って走らせることは、事故などのリスクもあり、研究倫理的に採用できません。そこで仮想空間のシミュレーターの中でやればよいのではないかと考えました。
電動バイクは、こういう使い方であればよいのではないかとか、こういうシーンは危ないなど、自転車の事故と同じようなことが起こり得るケースと起こり得ないケースなど、いくつかの環境を作ってほしいという依頼をもらいました。いま、そうしたものを進めています。
ほかにも、まだPLATEAUには落としきれてないのですが、観光との組み合わせも進めているところです。
メタバースから環境音の保全まで、PLATEAUを活用していきたい
――PLATEAUを今後どのような場面で活用していきたいかを教えてください。
川合:環境省さんからのお話で、景観保存の一環として、自然の音を保存するプロジェクトがあります。一時期、音の風景を選定しようという事業がありました。自然の音や人工的な音、複合的な音、お祭りの音のようにある時期でないと聞こえない音もあれば、年中聞こえるせせらぎの音、鳥の声、そういったものを選定してから20年ぐらい経ちました。
いまでは、こういう文化的な音風景がなくなりつつあります。そこで、こうした音を保存しようという話がありまして、その地理データとしてPLATEAUが使えないか。逆に言えば、地理情報に対して、音という違うレイヤーの情報を重ねていくことによって、保存や記録ができる。あるいは、可視化ができるのではないかということで取り組んでいます。
CesiumJSというWeb GISでは、録音データが比較的扱いやすいことがわかっています。ゲームエンジンとは、また違う方法なのですが、いま、こうした環境で、何ができるのかを考えているところです。横浜全域のLOD1のデータを入れたところ、それなりに動いているので、これは使えそうだなというところまで来ています。
[補足] CesiumJSは、ブラウザでGISを扱えるソフト。PLATEAU VIEWも、このCesiumJSをベースに作られている。
PLATEAUの継続を強く望む
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――PLATEAUに今後、期待すること、こうなるとうれしいことを教えてください。
川合:ぜひ、このサービスは閉じないで続けてください。ある日、突然使えなくなってしまうと困ります。
要望としては、地域の拡大をお願いしたいです。東京23区や横浜市はありますが、藤沢や茅ケ崎がなかったり、熊本市はあっても阿蘇がなかったりと、やはりないところがまだ多いので。
また今後、LOD3のデータが出てくると、さらに面白くなってくると思います。地図データのほうは点群も公開されていて、試験的にいろいろと中を見ているのですが、これはやはり自分の地域がほしいし、ないならないで作らなければだめだろうとも思いました。
国土交通省さんのほうでしっかり精度のあるデータをアーカイブしてもらうとともに、一方でOpenStreetMapのように、ユーザーが投稿できるようなサイトやサービスが並列してあってもよいのではないでしょうか。
OpenStreetMapのデータは、怪しいものもありますが、自分たちで作ったものがどんどんオープンデータになっていく側面があります。今は、スマートフォンにLiDARが付いていて、ある程度点群も取れるので、全部公開するのにふさわしくないデータもあるのかもしれませんが、ユーザージェネレートな情報とPLATEAUのデータがうまく組み合わされていくと、いろいろ使えるのではないかなと思います。
[補足] PLATEAUを使った「みんなで地図を作ろう」という主旨のサービスとしては、株式会社アナザープレインと株式会社ホロラボが運営する「みんキャプ」(https://mincap.tomap.app/)がある。
――PLATEAUを使っているときに、難しい部分があれば教えてください。
川合:さきほどの話と重複しますが、ひとつは、データが提供されている範囲です。活用する我々もがんばらなければならないのですが、範囲をどんどん広げていって、いろいろな自治体や、いろいろなデータが使えるようになってほしいです。
もう一つは、データの重さです。データの詳細度をLOD3、LOD4と上げたものを作っていただきたい一方で、そのデータはものすごく重いでしょう。いろいろなメッシュの大きさを用途に応じて使い分けるなど、詳細度とそのデータの重さのバランスみたいなところを我々のほうも工夫していく必要があるし、そういったうまい使い方ができればいいと思います。
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あとは、PLATEAUのWebサイトの取り組みは、新しいですね。普通、国土地理院の場合、「オープンデータを公開しています。使ってね」で終わりになるのに、PLATEAUの場合、ユースケースとか、こういう使い方しているとかを出していますよね。
ハッカソンで去年優勝した、ゴジラが国交省を壊しに行くという、あれはインパクトがありました。それをツイッターなどSNSでうまく展開していくから、これまでの国のデータセット、オープンデータとは、違う角度から見せているなと感じています。
学生もそういうものを見せるといい反応をします。やはり、地理院の基盤地図情報だと、あのページを見てみんな逃げ出してしまうので。
PLATEAUは、ファーストページがすごく学生の心をぎゅっとつかむんですよ。新作のゲームみたいな感じで。結局、中身は同じところに行くんですけれども、これまでにない見せ方をされているので、ぜひ、途中でサービス終了ということがないように、継続して使えるようになっていただけると、うれしいと思います。ぜひ、よろしくお願いします。
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