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メタ「Quest Pro」仕事に使えるかは疑問だが、とりあえず予約した

ASCII.jp / 2022年10月20日 9時0分

 メタが10月12日、新型VRヘッドセット「Quest Pro」を発表しました。10月26日発売で、価格は22万6800円(北米では1500ドル)です。

 メタはQuest Proをビジネス用と位置づけ、従来機の「Quest 2」とは差別化しました。基調講演の中でも繰り返し「for work」と語っていました。ザッカーバーグCEOが今年の春ごろから掲げてきた「ラップトップのPCに置き換えるようなハード」のコンセプトを体現するのが目的だったのではないかと思います。「現実と複合したマルチディスプレー環境を作り出す」といった、去年彼らがコンセプトムービーとして見せた世界観を、現時点で出せる最高のものとして出すことを目指したのではないかと。

 ただ、そもそもの出発点は「カラーパススルーを搭載した、ARに寄せたハイエンドのVRハードウェアを出そう」というところだったはず。理想的なハードを目指したら値段が高くなりすぎてしまったため「結果的にそうなった」という部分があるんじゃないか、とも思っています。1500ドルという価格は、事前にリークで出ていた情報とも一致していた価格です。

最大の特徴は軽量化・薄型化

 Quest Pro最大の特徴は、メタが数年ごしで開発してきたパンケーキレンズが完成し、劇的な軽量化・薄型化ができたことです。映像を見ただけでも相当軽くなっていそうな印象で、以前のように前のめりになってしまうことはなくなりそうです。頭上に通すバンドがなくなったことで、髪型が乱れなくなっているのもメリットですね。

 気になったのは視野角が少し小さくなったことです。円形になったディスプレーの特性が関わってるんだろうと思いますが、「Quest 2」の110度から106度に狭まっているんですね。たとえば同系統の製品である「PICO 4」はQuest 2に比べて視野角が広がったことをアピールしていますが、Quest Proは視野角を狭めてまでも体験価値を引き上げられているのかと。解像度はQuest 2の1832×1920ドットとほぼ同じ1800×1920ドットなので、装着すれば違和感はないのかもしれませんが、少し気がかりです。

 もうひとつの大きな特徴はリアカメラの刷新によるフルカラーパススルー対応ですね。映像を見ている限り、Quest Proを装着したまま部屋を歩き回れるくらいの効果が出ることが期待できます。予想通りではありますが、本格的なカラー化の時代に入るのだなと感じました。実際にパススルー機能を使って作業ができるかというと、今のQuest 2のモノクロパススルーでもそれなりにブラウジングはできているので、割といけるかなというところです。あとは自分の脳みそがついていけるのかどうかですかね。

 アイトラッキングとフェイストラッキングも目玉機能でした。これは対面のコミュニケーションをとるときに大きく影響が出るところなので、最初に同社のメタバースサービス「Horizon World」で実装されると思います。問題はどれだけの人がそれを実感できるかというところでしょうね。ただでさえ価格が高くて、体験できる人が限られている中、相手にちゃんと伝わるのかというのは、また別の焦点となってきそうです。Horizon Worldはまだ日本でのサービスを開始していないので、手軽にその効果を体験できる場は限られています。早く日本でもサービスを開始してほしいところです。

「パソコン代わり」とまではいかないかも

 一方、Quest Proで仕事をする際に気になっているのが日本語入力です。これまでのQuestシリーズはVR内で使用できるキーボードの種類も限られ、なかなかスムーズに日本語入力ができませんでした。文章が入力できるかと言われたら「できなくはないけど……」という感じです。同社のVRワークスペース「Horizon Workrooms」をミーティングで使用していた人はいるかもしれませんが、パソコン代わりとして作業していた日本人はほとんどいないんじゃないでしょうか。私自身も挑戦したことがありますが、使いにくくてすぐ挫折してしまいました。

 性能面でもやや疑問は残ります。搭載するチップ「Qualcomm Snapdragon XR 2 +」は「+」と付いているとおり、Quest 2に搭載されていたチップをクロックアップして機能に最適化した程度のもので、次のアーキテクチャまでは進んでいないと考えられます。新型とはいえ一世代前のSnapdragonで処理をしているわけですから、性能面での限界があります。AR機能を実現するところで多くのコンピューティングパワーを取られ、思ったよりも新機能で広がりを生み出せないのではないかとも思ってしまいます。

 そもそもOS自体、メタが自社OSの開発を諦めたためAndroidベースのものなんですよね。ハードウェアに完全に最適化されたものではないので、ムダにパワーをとられてしまう面は残っていると思います。チップについては来年以降に発表すると言われている「Quest 3」で次世代に移行するだろうと予想していますが、このあたりは購入時期が悩ましいところですね。

 また、致命的な問題としてバッテリーも1〜2時間しか保たず、急速充電にも対応していないので、それで実作業に耐えうるのかというのは、使ってみないとわからないところです。まだまだ、ラップトップの代わりとまではいかないのかもしれません。

ペンとして使えるコントローラーは面白そう

 本体以外で面白かったのはコントローラーです。リング状の部分をなくしてスペースを取り、左右のコントローラーそれぞれに独立のチップを搭載することで、いろんなことができるようになっていました。

 特に面白かったのは、コントローラーのグリップ先端部に付属のペン先をつけることでペンのように使えるようにしたこと。「Gravity Sketch」という3Dのモデリングツールでは、空間上に絵を描くための機能を持たせています。このアップデートははなかなか便利そうなポイントだなと思います。

 もうひとつのポイントは、このコントローラーがQuest 2でも使えることです。現在のコントローラーは先端部分の感覚が体感とズレてしまい、絵を描こうとすると非常に不便だったんですよね。そこを一体化させるという意味では非常に優れていると感じました。コントローラーはほかにもいろいろな機能が仕込まれていそうなので、今後何ができるようになるのか期待したいところですね。

 今後の注目点としてはDepthセンサー周りでしょうか。今回あまりアピールをしていなかったのが意外でした。過去には、メタで行なっている研究として、3Dスキャンした空間を表示して、「Mirror World」化できることをアピールしていました。しかし、今回Quest Proで空間をスキャンして立体化するなどの機能ができるかということは一切アピールしていませんでした。チップ性能からくる限界なのか、センサーの限界なのか、まだ言いたくない部分なのか……というあたりはSDKが公開されないとわかりません。せっかくセンサーが入っているなら今までにないVR体験ができてもいいはずですよね。リリース以降また新しい情報が出てくるかなと期待しています。

やっぱり高めの価格設定、仕様的には「欲張りセット」

 そして何より気になるのはやっぱり、1500ドル(22万6800円)という価格ですよね。新開発の有機ELやパンケーキレンズがコストを相当引き上げたのだろうと思いますし、コントローラーにセンサーとチップを搭載したことも大きそうです。RAMやストレージなどの全体的な仕様を見ても「欲張りセット」だなという印象がありました。

 個人的に予約をしてしまったのは、新しい体験をしたいというか、VR系の人間としてはつっこまないと仕方がないというところがあります(笑)。それでも怖いのは、本当に価格相応の価値があるのかということですね。

 この価格はこれまでのVR系の買い物でも最高クラス。最近の製品で言えば、エルザ・ジャパンが日本で販売代理店をしているフィンランドVarjo の「Varjo Aero」くらいじゃないでしょうか。Varjo Aeroを持っている人の評価はとても高いんですが、これくらいになるとPC VRとゲーミングPCをセットで買えるくらいの価格になっちゃいますからね。ゲーミングPCを買えば稼働率は高そうですが、Quest Proは果たして同じだけの稼働をしてくれるんだろうかと。1500ドルの製品でやるのが「Beat Saber」だったら……(笑)。Beat SaberのAR機能も実験的なものとして紹介されていたので、必ずやると思うんですけど。

 いずれにしても、Quest Proを購入するのがQuest 2とは違う層になることは価格的には避けられないですよね。Quest 2はコンシューマー向けのローエンド製品で、誰でも手に入れるところがコンセプトになっていて、年末もゲーム機的な商品展開をすることで成功してきたので、その流れを今年も継続すると思います。Quest Proはそれに比べてはるかにリッチで、発表を見ているだけでも、本当に最高の体験を追求したのだろうということがよくわかりました。

 Quest Proは、VRハードの歴史の中、本格的なAR機能に取り組んだハードとして、常識を大きく変える製品になることは間違いないと思います。ただ、価格の高さから普及には限界を抱えることは間違いなく、まずは一部の人が未来を垣間見るという状況になるのでしょう。それでもやはり実際に手にしてみないと、ここに長期的な未来があるのかどうかははっきりとしません。

 その意味で10月25日の発売日を楽しみに待ち、自分のハードを入手できたら使い込んで可能性を探っていきたいと思います。

 

筆者紹介:新清士(しんきよし)

1970年生まれ。「バーチャルマーケット(Vket)」で知られる株式会社HIKKY所属。デジタルハリウッド大学院教授。慶應義塾大学商学部及び環境情報学部卒。ゲームジャーナリストとして活躍後、VRゲーム開発会社のよむネコ(現Thirdverse)を設立。VRマルチプレイ剣戟アクションゲーム「ソード・オブ・ガルガンチュア」の開発を主導。著書に8月に出た『メタバースビジネス覇権戦争』(NHK出版新書)がある。

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