Arc A770M搭載NUCは容積約2.5Lの小型サイズでミドルクラスゲーミングPC並みの性能だった
ASCII.jp / 2022年10月20日 11時0分
自作PC界隈ではCPUもGPUも新製品ラッシュが続いている昨今だが、インテルは9月に小型ベアボーンPC「インテルNUC 12 エンスージアスト・キット」(型番:NUC12SNKi72)も発表している。国内では10月初旬あたりからPCショップに並んでおり、実売価格は25万円前後。現時点で在庫ぶんが完売している店舗もあるようだ。
開発コードネーム「Serpent Canyon」の名前でも知られ、インテルの小型PCプラットフォーム「NUC」シリーズとして初めて、インテル製ディスクリートGPU(以下、dGPU)の「インテルArc」シリーズを搭載している点が最大の特徴となる。
CPUはノートPC向け第12世代インテルCoreプロセッサーの「Core i7-12700H」、dGPUは同じくノートPC向けの「インテルArc A770M」(以下、Arc A770M)を採用している。国内では、Arc A770Mを搭載するノートPCが現時点でほぼ出回っていないこともあり、その性能に興味を抱くユーザーは多いのではないだろうか。
本稿では、NUC12SNKi72の実機をもとに、外観や内部構造のチェック、簡単なベンチマークによる性能検証をご紹介する。参考になれば幸いだ。
なにはともあれ開封の儀
冒頭で述べた通り、NUC12SNKi72はベアボーンキットだ。CPUおよびGPUは内部基板に実装済みだが、メモリーとストレージ、OSは別途購入して自身で装着・インストールする必要がある。ちなみに、ACアダプターに装着する電源コードも付属していないので、用意がなければこちらも購入しなければならない点には注意してほしい。
さて、NUCを運用する上でのおさらいが済んだところで、早速パッケージを開けていこう。
容積約2.5Lの小型&多機能なベアボーンキット
ここからはじっくり本体を見ていこう。本体サイズは230(W)×180(D)×60(H)mmで、容積約2.5Lの筐体を採用。大きさ的にはHades Canyonこと「NUC8i7HVK」<221(W)×142(D)×39(H)mm>よりも若干大きい。
しかし、さすがにビデオカードが内蔵できたGhost Canyonこと「NUC9i9QNX」<238(W)×216(D)×96(H)mm>ほどは大型化していない。デスクトップPCとしては十分「小型」と呼べる部類であることは間違いない。
インターフェースは正面および背面を合わせると、Thunderbolt 4×2、USB 3.2 Gen 2(Type-A)×6、3.5mmヘッドフォンジャック、3.5mmスピーカー/光デジタルコンボジャック、SDXCカードリーダー、2.5GbE有線LANなどを備え、かなり豪華な仕様と言える。映像出力はThunderbolt 4ポートに加え、HDMI 2.1やDisplayPort 2.0×2も使える。
通信系は2.5GbE有線LANのほか、無線機能としてKiller Wi-Fi 6E AX1690iによるWi-Fi 6通信、Bluetooth 5.2を利用できる。このようにNUC12SNKi72はかなり多機能なのだが、その小ささゆえに内部の温度も心配になる。しかし、側面や底面には多くの通風口を備え、十分配慮していることがうかがえる。
ネジを6ヵ所外せば内部にアクセス
いよいよここからは内部を見ていこう。
CPUのCore i7-12700HはノートPC向けとはなるものの、Pコア6基+Eコア8基で合計14コア/20スレッドと、これまでのNUCと比べると極めてコア数の多い構成だ。ブースト時の動作クロックは最大4.7GHzに達する。 プロセッサーのベースパワーは45W、最大ターボパワーは115WとノートPC向けとしてはいずれも高めで、現行ハイエンドゲーミングノートPCでも多く採用されている優秀なSKUと言える。
そして、NUC12SNKi72の目玉とも言えるdGPU、Arc A770MはノートPC向けインテルArcの最上位モデル。独自のマイクロアーキテクチャー「Xe-HPG」を採用し、32基のXe-core、512基のXeベクトルエンジン(XVE)、32基のレイ・トレーシングユニットを備える。
この核となるユニットの構成はデスクトップPC向けの上位モデル「Arc A770」と変わらないように見えるが、動作クロックやビデオメモリーまわりの仕様がノートPC向けにカスタムしている。
例えば、Arc A770Mの動作クロックは1650MHzであるのに対し、Arc A770は2100MHz。ビデオメモリーはGDDR6 16GBを採用する点やバス幅こそ256bitと共通だが、Arc A770Mはメモリー速度が16Gbps、メモリー帯域幅が512GB/sで、Arc A770はメモリー速度が17.5Gbps、メモリー帯域幅が560GB/sとなっている。
一方で、TGP(GPUの消費電力)は120~150WとノートPC向けとしては高めだが、デスクトップPC向けのArc A770は225W(こちらはボード全体の消費電力を示す「TBP」ではあるものの……)よりも大幅に抑えている。
なお、dGPUを搭載しているが、CPU内蔵GPUである「インテルIris Xeグラフィックス」が利用できないわけではない。どちらが作業したほうが都合が良いか自動で判断して、処理効率や電力効率を最適化した運用が可能だ。また、対応アプリ利用時に、Arc A770と協調してエンコードやストリーミングを高速化できる「インテルDeep Linkテクノロジー」にも対応している。
SO-DIMMスロットは2基、M.2 SSDスロットは3基
2基のメモリースロットはSO-DIMM仕様で、最大容量64GBでDDR4-3200をサポート。ストレージ用のM.2スロットは合計3基あり、そのうち2基がPCI Express 4.0×4接続、残り1基がPCI Express 3.0×4/SATA 3.0(6Gbps)接続となる。
可搬性に関して言えば、メモリーとストレージを組み込んだ本体重量は2kgをわずかに下回る。ただし、ACアダプターの重量が実測で約1.5kgなので、合わせると3.5kg程度になってしまう。屋内なら気軽に移動できる重さではあるが、常時携帯するにはやや覚悟が必要になるかもしれない。
専用ソフトでもモニタリングできる
起動画面はゲーミング系のNUCではおなじみのドクロマークが表示されるが、これも密かな「インテル純正」の楽しみだ。また、専用ソフトとして「インテルNUCソフトウェア・スタジオ」を利用できる点も注目ポイント。各種設定変更のほか、さまざまなシステムの情報をモニタリングできる。
定番ベンチマークで性能をチェック!
ここからはNUC12SNKi72のパフォーマンスをベンチマークで確認していこう。OSはWindows 11 Home(22H2)で、グラフィックスドライバーは30.0.101.3267を利用した。
まずは、CPUレンダリング性能を計測する定番ベンチマーク「CINEBENCH R23」の結果を見てみよう。
Multi Coreテストのスコアーは17610pts、Single Coreテストテストのスコアーは1744ptsを記録した。過去に計測したデスクトップPC向けのSKUと比較してみると、Multi Coreは「Core i5-12600K」と同等程度だ。
また、1世代前のデスクトップPC向け最も上位モデル「Core i9-11900K」が15000pts前後の値だったことを考えれば、性能的には十分すぎると言っていいだろう。
続いて、3Dグラフィックスの描画性能を計測する「3DMark」のベンチマーク結果だ。「Fire Strike」系テスト3種、「Time Spy」計テスト2種のほか、DXRを利用したテストである「Port Royal」でテストを実施している。
いずれもミドル~ミドルハイクラスのゲーミングデスクトップPCと肩を並べられるスコアーだった。フルHD(1980×1080ドット)解像度のゲーミングであれば、ほとんどのゲームタイトルで高いフレームレートが出せるだろう。WQHD(2560×1440ドット)解像度でも極端に画質を落とさなくても、快適に遊べるレベルだ。
また、ASCII.jpの過去記事を参照してみると、CPUが異なるため厳密な比較はできないものの、競合NVIDIAのデスクトップPC向けGPUと比較した場合、おおむね「GeForce RTX 3060」以上、「GeForce RTX 3060 Ti」未満といったところ。小型PCとしてはかなり優秀な結果と言えるのではないだろうか。
ドライバーの成熟を待ちたいタイトルも
こちらも定番だが、「ファイナルファンタジーXIV: 暁月のフィナーレ ベンチマーク」の結果を見てみよう。画質はいずれも「最高品質」で、フルHD(1980×1080ドット)、WQHD(2560×1440ドット)、4K(3840×2160ドット)の3パターンの解像度でテストしている。
3DMarkの結果が好調だったが、こちらは期待したほどではなかった。基本的にNVIDIA製GPUがスコアーを伸ばしやすいベンチマークではあるものの、それにしても振るわないな、という印象を受ける。
デスクトップPC向けのエントリーGPU「Arc A380」のレビュー記事でも同じような傾向が確認されているようなので、後発製品ならではの最適化状況の課題がありそうだ。このあたりは将来的にグラフィックスドライバーによる改善が期待できる。
まとめ:将来性に期待したい現状唯一無二のベアボーン
NUC12SNKi72はCPU・dGPUともにインテル製という、現時点では極めてユニークな特徴を備え、小型PCでありながら現行のミドル~ミドルハイクラスゲーミングPCに比肩する性能を発揮できるベアボーンキットだ。
ただし、ベンチマークセッションでも確認したとおり、今の時点ではゲームごとの最適化が十分ではなく、タイトル次第で性能がバラつきやすそうな不安はある。現状のドライバーでは評価が悩ましいところだが、アップデートでいかようにも改善できるところではあるので、将来性に期待したい。
そもそも3DMarkの結果を見れば、このサイズでしっかりとPCゲームをプレイできるだけのポテンシャルを秘めていることは明らかだ。現状、コンパクトなハイスペックPCが欲しい場合、選択肢はそれほど多くない。自分の用途にマッチするかどうかをしっかり吟味した上であれば、NUC12SNKi72は有力な選択肢の1つになりえるはずだ。
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