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日立製作所が取り組むCMOSアニーリングマシン&量子ゲート型のシリコン量子コンピューター

ASCII.jp / 2022年11月14日 8時0分

 日立製作所では、2つの観点から量子コンピューティングに取り組んでいる。

 ひとつは、2013年に研究をスタートしたCMOSアニーリングマシンである。

 日立製作所では、CMOSアニーリングマシンの位置づけを、量子アニーリングの仕組みを半導体上で疑似的に再現し、手軽に扱える利便性を有しながら、量子コンピュータが得意とする膨大で、複雑なパターンから最適解を探索する独自のコンピュータ技術としている。

 磁性体の性質を説明するために考案されたイジングモデルを用いて、大規模な組み合わせ最適化問題を、常温環境で、高速に解くことができる計算技術だ。

 2015年には20kビットのCMOSアニーリングチップを開発。2018年には、PoC(概念実証)に取り組むとともに、新たに30kビットのCMOSアニーリングチップを独自に開発した。ソフトウェアとハードウェアのコ・デザインを行う「チックタック開発」という研究開発手法を採用し、顧客との接点で活躍するシステムエンジニアが積極的に開発に関与、フィードバックを繰り返しながら、技術を進化させてきたという。

 その成果をもとに2020年からは、CMOSアニーリングマシンの事業化に乗り出している。

CMOSアニーリングマシンの事業化

 たとえば、損保ジャパン日本興亜では、10万件の契約対象に対して、保険を組み合わせ提案する最適化問題に活用。古典コンピュータでは2.6年を要するような計算を、5.5日で完了させた。これをもとに新たな保険商品の開発につなげることができるという。

 また、三井住友フィナンシャルグループのコールセンターでは、数百人規模の勤務シフトを作成する最適化ソリューションとして活用。余剰配置の発生を80%削減し、要員配置の適正化で高い有効性が発揮できたという。

 日立では、「日立のCMOSアニーリングマシンは、解ける問題の規模に相当するスピン数を高くし、様々な目的に応じて使い分けることができるようにしたのが特徴である。各種業務への適用を通じて、知見を蓄えており、それによって、成果を実証している」とする。

 2021年10月には、高速での金融商品取引に適用するための技術を開発。多数の金融商品と複雑な売買ルールを考慮した取引をリアルタイムで処理可能になったという。

 CMOSアニーリングの実用化において大きな一歩となるのが、2022年10月から新たに提供を開始したCMOS アニーリングのクラウドサービスである。

 CMOSアニーリングの計算性能だけでなく、アプリケーションまでを一括で提供し、幅広い業種や業態の実業務において、手軽で、迅速に適用を進め、コスト削減や収益向上などを実現。企業のDXに貢献できるとしている。

 「業務にすぐに適用できるアプリケーション群を組み合わせて、手軽に使えるクラウドサービスとして提供するため、導入までのリードタイムを短縮することができる。高度な専門知識を必要とせず、導入する業務部門で操作できる」という。

 従来は、日立側でCMOS アニーリングを活用し、計算結果をレポート形式で提供していたが、CMOS アニーリングクラウドサービスでは、大規模最適化計算を行うシステム環境とアプリケーション機能を組み合わせたSaaSとして提供すること、さらには、必要に応じて、各企業特有の項目を個別カスタマイズして開発することができるという特徴も持つ。

 また、必要に応じて、企業の業務に熟知したSEと、CMOSアニーリングに精通した日立の専門チームによるコンサルティングサービスを提供するため、業務への迅速な適用が可能だ。

 今後は、在庫管理や渋滞解消など、提供するアプリケーションを順次拡充していくことになるという。

 CMOS アニーリングの幅広い利用が一気に増えることになりそうだ。

日立が取り組むシリコン量子コンピュータの優位性

 もうひとつの取り組みが、量子ゲート型のシリコン量子コンピュータの開発である。

 日立製作所では、2011年7月に、同社中央研究所において、新世代コンピューティングプロジェクトを発足。これが量子コンピュータに取り組むきっかけになっている。また、日立では、CMOS半導体回路技術を用いたシリコン量子コンピュータの実現に向けては、日立ケンブリッジ研究所を中心に研究開発を進めてきた経緯がある。

 同社では、量子コンピュータでは、複雑な計算を解くために量子ビットを大規模に集積することが重要であり、そこにシリコン量子コンピュータは優位性を発揮できると見ている。

 「シリコン半導体技術の特徴は、素子の微細化とともに、素子の高集積度であり、量子コンピュータの大規模化には、シリコン量子ビットアレイや、高精度制御・読み出し回路などの集積度を高めることが重要になる」とする。その上で、「従来は、量子ビット素子の完成度向上を重視し、量子ビットの数を徐々に増やしていく質を重視したボトムアップ的なアプローチを行っていた。だが、シリコンには、均一な特性の素子を、多数集積することが可能だという特徴がある。日立は、2018年から、シリコン半導体技術の優れた集積性を最大限に生かし、はじめから量を重視した量子コンピュータの開発アプローチへと変更し、質にアプローチするトップダウン方式を採用した。研究開発の手法をギアチェンジした」とする。

 この取り組みをもとに、2020年には64量子ビットが形成可能な量子ビットアレイの基本構造の試作を行うことに成功した。従来、量子コンピュータは、大規模集積化に伴い、量子ビットを動作させるための信号配線数が増えることで小型化が困難だったが、同量子ビットアレイでは、CMOS半導体回路技術を応用し、複数の量子ビットを制御する信号配線を共通化することで、配線数の増加を抑制しながら量子ビットを2次元状に配列して大規模集積化を実現することができたという。

 さらに、2021年9月には、研究成果として「Q-CMOSプロセス」を発表した。Q-CMOSプロセスでは、128個の量子ドットアレイと電子を制御するCMOS回路を同一チップに混載できるようにしており、高精度制御と読み出し回路、シリコン量子ビットアレイの集積度を高めることができ、これがシリコン量子コンピュータの実現に大きな一歩につながるとしている。

 Q-CMOSプロセスでは、電子1個が格納された量子ドットを、アレイ上の所望の位置に安定的に形成できるようになり、さらにこれを制御できるようにすることで、量子ビットとして動作させることができる。シリコンの集積性を最大限に生かしたアプローチが可能になる技術が完成したといえる。

2027年度までにシリコン量子コンピュータのクラウド運用目指す

 同社では、ここで開発したシリコン量子チップは、大学や研究機関に提供し、オープンイノベーションによる研究開発を推進する考えを示しており、これにより、同チップの研究開発を進展させようと考えている。

 政府では、ムーンショット型研究開発事業を通じて、2050年までに、経済、産業、安全保障を飛躍的に発展させる誤り耐性型汎用量子コンピュータの実現を目指しており、ハードウェアについては、超伝導、イオントラップ、光量子とともに、日立が取り組むシリコンが含まれている。

 日立では、次期中期経営計画の最終年度になると見込まれる2027年度までには、シリコン量子コンピュータを、実験的にクラウドで運用できることを目指すという。

 日立が開発するシリコン量子コンピュータは、将来の量子コンピュータの実現において主流になることができるのかが注目される。

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