「初めて買うiPad」ならコレと言い切れる製品になったiPad(第10世代)
ASCII.jp / 2022年11月9日 12時0分
iPad(第10世代)を一足先に使い始め、すでに1週間ぐらいか経過しようとしている。こうして記事を書いているのも、実はiPad(第10世代)とMagic Keyboard Folioの組み合わせだ。iPadOSがここ数年で大幅にアップデートされ、また日本市場特有の事情で言えば日本語入力の改善幅が大きかったこともあり、iPad ProやiPad Airを使っての執筆作業やコミュニケーションには、まったく困らなくなっていたが、第9世代iPadを同じ目的で使おうとは思ってこなかった。
Apple Pencilに対応し、パフォーマンスが強化されても、「無印」のiPadを毎日の取材に持ち歩くパートナーとしては持ち歩く気にはなれない。自分ならiPad Air以上と感じていたし、誰かに相談されても、そう答えただろう。
しかしiPad(第10世代)が登場した現在、イラスト制作や動画編集、写真現像など、何かしらのクリエイティブな作業をしたいという目標が定まっていないのなら、初めて使うiPadとして最初に検討すべきはiPad(第10世代)だ。
受け身の端末から「クリエイティブツール」に
すでに登場から12年以上が経過しているが、最初のiPadはプロが使うクリエイティブツールでもなければ、メールの返信など基本的なコミュニケーションの領域でも、文字入力などの効率が高いとは、お世辞にも言えない製品だった。
意識的に悪意を持って紹介するなら、iPhoneの画面を大きくした上で、その大画面を活用するアプリを準備しただけといった製品だったとも言える。基本ソフトもiPhoneのものをほぼそのまま使って、画面拡大に合わせて調整した程度だから、あながち厳しすぎる批判というわけではない。
画面の大きさと応答性の良さ、軽量さ、バッテリ持続時間などから、これをノートPCの代わりにしようと試みた人を何人も知っているが、ことごとく断念していたのを思い出す。とはいえ、そもそも現在とは時代背景が異なり、iPadは別の側面から個人向けコンピュータ端末の常識を変えたのだ。
当時はスマートフォン黎明期で普及と並行してクラウドにアプリケーションの価値が流れ込んでいた。今では当たり前だが、パソコン向けにソフトウェアを開発するのではなく、モバイル向け開発が優先され始める切替の時期だった。
高価なフル機能のパソコンではなく、性能や機能には制約はあるものの安価でコンパクトなノート型端末「Netbook」が流行。その実態はというと、見栄えばかりで将来性が低い安普請なノートPC以外の何者でもなかった。そんな中、iPhoneの画面を大きくし、大画面に最適化したアプリを動かす新しいタイプの端末として登場したのがiPadというわけだ。全体的な処理能力は限られていたが、応答性がよく、タッチパネルを使って誰でもネットサービスを快適に利用することができた。
モバイルPCをダウングレードしてネット社会に適合させるのではなく、スマートフォンの閲覧性や操作性をアップグレードしてネット社会に新しい価値を提案したというわけだ。
このようにiPadを進化させてきた到達点が、ここ数年の無印iPadだったと言えるだろう。この間、性能が向上するとともにApple Pencilへの対応、キーボードへの対応もあり、教育向け、あるいは業務用端末として費用対効果の高いタブレット端末となった。
一方でアップルは、より付加価値の高い端末としてiPadを改良しようとしてきた。
ネットサービスを利用するための最適端末という「受け身の情報端末」から、タッチパネルとスタイラスペン、それにキーボード、昨今はトラックパッドなども組み合わせ、ビジネス、音楽、アート、写真、動画などのジャンルでクリエイティブな作業をするために使うノートPCと同等以上にパワフルで、なおかつシンプルに使いこなせる端末としての進化だ。
その流れが異なる製品シリーズへと分化したのがiPad Proだったが、今回のiPad(第10世代)はそんなクリエイティブ志向へと枝分かれしたiPadの系譜の中で、ベーシックな、つまり最も基本的な価値と機能を提供するモデルに仕上げられている。
「iPad Air」「iPad mini」に引き続いて 「Proで再定義されたiPad」へと移行
iPadには「Air」「mini」というラインもあるが、それらもかつてはオリジナルiPadの末裔だった。iPad Airはオリジナルに対して薄く軽量な先端端末の位置付けだったが、現在は先鋭化が進むiPad Proの核となる機能を備えるメインストリームの端末になってきている。言い換えれば、アップルはiPad Proとして進化を促してきた製品の枠組みを今回のアップデートでラインナップ全体に展開し終えたのだな、というのが、この製品を最初に触れて感じたことだ。
というのも、iPad(第10世代)はコストを下げるためにさまざまな取り組みがされている一方、iPad ProとiPadOSの進化によって作ってきた、新しいiPadの体験価値を一通り引き継いでいるからだ。
スタンドの形状など全体の設計が異なり、少々、奥行きは取るものの、やや低コスト化が進んだMagic Keyboard Folioは、ファンクションキーが使える上、トラックパッドも広いため(使い方次第だが)、こちらの方が好みという人もいるだろう。タッチに関してはMagic Keyboardと全く同じだ。フルラミネーション構造ではないディスプレイは、iPad Pro/Airほど鮮やかな色再現はできないが、一般的なモバイルパソコンに比べると正確な色を表現してくれ、HDR対応ではないとはいえ輝度も500nitsと十分な明るさを確保している。解像度はiPad Airと全く同じでiPad Proの11インチモデルとも遜色ない。
違いを感じるとすればApple Pencilを用いる場合で、液晶面とガラス面の間に空気層があるため明所でのコントラストが下がることに加え、ペン先と実際に描かれる場所の差(視差)が大きいという弱点はある。また、横画面時にフロントカメラが画面中央になるようカメラ位置が変更されたことで(こうすることでオンライン会議などで視線が自然な方向になる)充電用モジュールが搭載できず、第2世代Apple Pencilが使えないという違いもある。
とはいえ、搭載SoCをA14 Bionicに更新したことで、最新のiOS 16が搭載するさまざまなNeural Engineを用いた機能が的確かつ快適に動作するなど、システムトータルで体験の質をきっちりと提供する、「安普請ではない」ベーシックモデルだ。
Macとのシームレスな使い分けにも最適
もし、もっとシンプルな従来からのiPadが欲しいのであれば、併売している第9世代iPadが適しているが、それはあくまでも「オリジナルiPad」の完成系だ。近年のiPadOSが、よりクリエイティブな作業に向くようにアップデートされていることを考えれば、これからiPadを使いこなしたいと思っているなら、第10世代から始めるのが良いだろう。
また、Macでの作業を外出先でシンプルにこなしたい、あるいはMacとともに使い、時に外部ディスプレイやペンタブレットとしても活用したい人の中には、iPad ProやiPad AirよりもiPad(第10世代)の方がずっと費用対効果が良いという方もいると思う。フルラミネーション構造ではないディスプレイだが、そもそも一般的なモバイルPCはフルラミネーションではないものがほとんどだ。それらは、色再現域や色再現の正確さなども含めたトータルで、iPad(第10世代)を明確に超える製品は少ない。
つまり、iPad ProのMini LEDが実現する黒沈みとHDR表示の両立、iPad AirのDisplay-P3による鮮やかな色再現などを必要としないならば、iPad(第10世代)でも不満はない。
Apple Pencil対応が第1世代という点に関しても、現実的な話をするならば、サードパーティ製のスタイラスがある。しかも、安価で充電手段もUSB Type-C端子からの充電が可能なものもあるため、選択肢を拡大すると「第1世代しか対応していない」という部分はあまりマイナス点とは思えなくなってくる。
筆者の場合、イラストを描くことがなく、Apple Pencilの用途は主に印刷物や文書図版の校正指示、メモ書きがほとんど。Macとセットで使って資料をiPadで見ながらMacで仕事をしたり、あるいはiPadを持ち出してMacでの原稿作成の続きをiPadでするといった使い方だ。
iPadならではのサードパーティ製品も含めた広がりにも期待
ここ数年で、こうしたMacとiPadの間を往復したり、あるいは併用することで作業性、利便性を高める方法が多数提供されるようになっている。とはいえ、そのためだけにiPad Air以上の投資はなかなか踏み込みにくい。
すでにApple Pencilにサードパーティ製を含む広がりが見られるように、今後はキーボードも純正のMagic Keyboard Folioだけではなく、さまざまな選択肢が現れるだろう。iPad(第10世代)で、このシリーズにおける接続端子の位置やマグネット配置などが確定したこともあり、さまざまなサードパーティ製品が登場することも多いに期待できる。
おそらくiPad全体の中で、最も多くの数が販売されるだろう「無印」iPadだけに、その市場の大きさがもたらす選択肢の広さもユーザーにとっての利点だ。
筆者紹介――本田雅一 ジャーナリスト、コラムニスト。ネット社会、スマホなどテック製品のトレンドを分析、コラムを執筆するネット/デジタルトレンド分析家。ネットやテックデバイスの普及を背景にした、現代のさまざまな社会問題やトレンドについて、テクノロジ、ビジネス、コンシューマなど多様な視点から森羅万象さまざまなジャンルを分析する。
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