メタバース的な未来を感じる「Wooorld」が面白い
ASCII.jp / 2022年11月10日 16時0分
前回は「Meta Quest Pro」を買ったというお話でしたが、今回は最近面白いと思っているQuest向けアプリ「Wooorld」についてご紹介したいと思います。
Wooorld 発売日 2022年10月26日 価格 1490円 Quest 2、Meta Quest Pro向け 開発者 Wooorld Inc https://www.oculus.com/experiences/quest/4360608937312293/
Google Earthで「バーチャル観光」
Wooorldは一言で説明するならGoogle Earthビューアー。最大8人でGoogle Earthをベースにコミュニケーションができるアプリです。これまでもQuestシリーズ用Google Earthビューアは何種類か出ていましたが、Questなので表示領域に限界がありました。Wooorldはそれを逆手にとって、あえて表示できる領域を狭くとることによってボードゲームのような体験にしてしまうというコンセプトになっています。10月25日に発売されましたが、Quest Pro発売に合わせて用意してきたのだろうと思います。
開発元は2020年設立のベンチャー企業。VRやAR分野への投資を専門にやっているベンチャーキャピタルのVenture Reality Fundのティパタット・チェーンナワーシン氏がここに投資をしていて、アプリのリリース後、ちょっと見てもらえないかと頼まれたのがアプリを知ったきっかけでした。
アプリがよくできているなと感じたのは、Google Earthの体験を、最初から雑談などのおしゃべりをベースとしたソーシャル体験にしているところです。ワールドにログインすると、まずロビーに通され、ほかのユーザーがいるルームが表示されます。ここでチャットルームのように地名が示されたルームを選び、コミュニケーションに参加します。初めて入ったルームには6人ほどのユーザーが入っていました。自分で新しい部屋を作ることもできます。
![](https://ascii.jp/img/2022/11/10/3447618/x/510651ac0739afd9.jpg)
ポイントは、アプリ上で他のユーザーと一緒に「メタバース観光」のようなことができることです。
まずマップを開いたら、ハンドジェスチャーで見たいところを探します。VRを触ったことがある人なら、すんなりと理解できるUIです。ボードゲームのボードのように中央にあるマップを操作しながら、見たいエリアを探していきます。
東京なら山手線圏内がしっかりデータ化されていて、大都市部の一部ではマップも3D立体化されていました。たとえば新宿副都心や、丸の内、秋葉原といったエリアではかなり建物に近づけます。近くに来たところで「360 view」をクリックすると、周囲の風景がGoogleストリートビューの360度表示でバーンと出てきます。
![](https://ascii.jp/img/2022/11/10/3447619/x/4e1730d3b14158b1.jpg)
PC版Googleマップに比べると解像度が低く、データも一部古かったりもしますが、Questベースで複数人と遊べるのが新しいですね。データがどのような基準で選別されているのかはわかりませんが、Google Earthの情報は若干古く、新国立競技場が建設前のようで、2014年以前のデータのようです。ただ、Googleストリートビューでは、2022年の最新のデータも使われているのを確認しています。この辺はデータに応じて使用料が違っていたりするのかもしれません。
ハンガリーの「ソーシャル観光」ができた
プレイして新しい体験だなと感じたのは、たまたま部屋が一緒になったハンガリーの方と会ったときのことでした。
お互いにプレイを始めたのはその日が初めてだったのですが、たまたま2人だけという状況になったので、話す必要が生まれました。軽い挨拶をして、ハンガリーからアクセスしている方だということがわかった後、彼は私の住んでいる家を見てみたいと言い出しました。
そこで私は地図を動かして、住んでいる場所の近くを表示してみせました。彼はタイで暮らしたことがあるが、日本で暮らしたことはないとのことで、日本の風景は目新しく感じられたようです。コンビニが並び、公共交通機関が発達している姿はハンガリーにはなく、町並みがまったく違っていたためです。
次は、彼の番でした。彼はハンガリーの首都のブタペストから来るまで数時間の田園地帯が広がる古い街に住んでいると言い、その街で有名な古城を案内してくれました。「ここはトルコとの戦争で有名な古いお城なんです」といった歴史を教えてくれました。そのあたりは日本と違って地震がないこともあり、古い石造りの家が整然と並んでいました。
![](https://ascii.jp/img/2022/11/10/3447620/x/a1f19c2d8857495e.jpg)
ハンガリーの街並みを見た後、東京のゴタゴタした自分の家の周りを見ると、やっぱり全然違うなあと感じました。私はハンガリーに行ったことはありませんが、バーチャル空間でそうしたソーシャル観光的な新しい体験ができることはかなり新鮮で、なるほどこれは面白いなと感じました。
もうひとつWooorldが面白いのは、メタが公開しているアバターのAPIが使えることです。
このアプリを使っているあいだは、自分の姿も相手の姿もメタのアバターで表示されることになります。日本ではまだメタのメタバースサービス「Horizon World」が開始していないこともあり、なかなかメタアバターの姿を見ることはまれという状態です。しかしメタは積極的に他社に対して、メタアバターの採用を働きかけているんですね。
Wooorldの中では、メタアバターは下半身のないモードとして登場しますが、不自然さは感じません。アプリの中で見る分には、意外と気にならない点です。
![](https://ascii.jp/img/2022/11/10/3447621/x/309678dbfdb2574d.jpg)
また、Quest Proでこのアプリを使用した場合、フェイシャルトラッキングやアイトラッキングも対応しているので、表情や目の動きも反映されます。どのハードを使っているのかが明示的に表示されることはありませんが、他のユーザーを見て表情の動きなどを見ていると、Quest 2か、Quest Proなのかを区別することができます。
Wooorldは「メタバース」とまではいかないかもしれませんが、メタのアバターでコミュニケーションがとれる点で考えると新しい体験でした。メタのアバターは評判としてはやや微妙ですが、こうしたソーシャル体験を前提としたコミュニケーションアプリで十分に使えることは、アバターの方向性としてアリだなと感じました。
メタやグーグルのAPIを使っていくことで、極端に多くの開発リソースを使わなくてもメタバースのようなものをつくれるという提案としても、アイデアとして非常に優れているなと思いました。こうしたアプリもまた、ひとつの未来の提示だなと感じています。
筆者紹介:新清士(しんきよし)
![](https://ascii.jp/img/2022/08/15/3404636/x/ac4a6115cb203aaa.png)
1970年生まれ。「バーチャルマーケット(Vket)」で知られる株式会社HIKKY所属。デジタルハリウッド大学院教授。慶應義塾大学商学部及び環境情報学部卒。ゲームジャーナリストとして活躍後、VRゲーム開発会社のよむネコ(現Thirdverse)を設立。VRマルチプレイ剣戟アクションゲーム「ソード・オブ・ガルガンチュア」の開発を主導。著書に8月に出た『メタバースビジネス覇権戦争』(NHK出版新書)がある。
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