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【レビュー】新iPad(第10世代)は「iPad Air」の普及バージョンだ

ASCII.jp / 2022年11月13日 12時0分

新iPad(第10世代)

 この秋のiPadの新製品は、名前の後ろに何も付かない「iPad」と、これまで通りの2つのサイズが同時にアップデートされた「iPad Pro」の2種類だった。「Air」は今年の春に第5世代となる新製品が登場しているので、やや取り残された感のある「mini」を除けば、順番としては妥当なところ。「Pro」については別記事で取り上げることにして、ここでは新しい「iPad」について掘り下げていく。なお、iPadOS 16によるところが大きいソフトウェアの操作性についても、あらためて別記事で取り上げる予定だ。

「iPad」の後継機というよりも「iPad Air」の普及バージョン

 オリジナルのiPadは、2021年9月に登場したモデルが第9世代とだったので、今回の新モデルは記念すべき第10世代となる。言うまでもなく、iPadシリーズのほかの機種と比べても世代番号として最大のものだ。しかし、オリジナルiPadの新モデルとしては、かなり異例の製品となっていることも確かだろう。

 その要因の1つは、デザインにある。今回のモデルは、オリジナルiPadというよりも、iPad Airの新製品のようだと感じた人も多いはず。新しいiPadを黙って渡されれば、多くの人がiPad Airだと思ってしまうだろう。

iPad(第10世代)はホームボタンをなくした初めてのモデルだ
iPad(第10世代)のカラーバリエーションは、シルバー、ブルー、ピンク、イエローとカラフルなビタミンカラーのラインアップだ

 とはいえ、新しいiPadと現在のiPad Airには、外観だけではわからない、いろいろな違いもある。そこで、まず第9世代のiPadと第5世代のiPad Air、そして今回の第10世代のiPadの特徴的なスペックを抜き出して比較してみよう。

 これを見ると、新しいiPadは、旧来のiPadと現在のiPad Airを折衷したようなマシンであることがよく分かる。

 まずサイズからして旧iPadではなく、iPad Airに近いプロポーションになっている。おもしろいことに、縦、横、厚さとも、ほぼ1mmずつ、iPad Airよりも新しいiPadの方が大きい。つまり、iPad Airをすこしだけぽっちゃりとさせたデザインとサイズ感なのだ。重さは、旧iPadよりは10gほど軽くなっているが、iPad Airよりは16gほど重い。画面のサイズは、物理的な寸法も、解像度もiPad Airと同じになった。この点でも新iPadは旧iPadよりもiPad Airに近い。

 それでいて、内蔵するチップはあくまでもスタンダードなiPad系統だ。旧iPadがA13 Bionicを装備しているのに対し、新iPadはそれより1世代進んだA14 Bionicを採用している。iPhoneで言えば2020年に発売されたiPhone 12と同等のものなので、パフォーマンス的にはM1を搭載する現行iPad Airに見劣りすると言わざるを得ない。

 一方で、本体の形状や大きさがiPad Airに近いこともあり、バッテリー容量はiPad Airと同じ28.6Whで、旧iPadよりもやや減っている。また充電やデータ通信に使うポートも、旧iPadのLightningからiPad Airと同じUSB-Cタイプに変更された。それでいて対応するApple Pencilは旧iPadと同じ第1世代となっている。これは明らかにちぐはぐな仕様で、そのために「USB-C to Apple Pencil」という、いかにも間に合わせのオプションを使わないと、Apple Pencilを充電できない。

別売りのアダプターと、Apple Pencilに同梱されるアダプター

 本体の形状からすれば、第2世代のApple Pencilをマグネットで吸着して充電する機能を内蔵できたはずだと考えるのも当然だろう。そうしなかった理由は大きく2つ考えられる。

 1つは当然ながらコストを下げるため。第1世代と第2世代では、iPadの機種をまたぐ互換性はないから、ディスプレイに内蔵されたPencilの検出機能は異なる。そのコストの違いがどれほどかは分からないが、少なくとも第1世代には不要なワイヤレス充電機能を内蔵しなければ、その分コストは下げられる。

 もう1つは旧iPadとの互換性を維持するため。今回のアップデートで、本体のサイズ・形状や充電ポートの互換性は失われてしまったが、標準iPadを名乗る以上、ソフトウェアの互換性は可能な限り維持しておきたかったのかもしれない。そのためには、同じ世代のApple Pencilに対応していた方が、いくぶんかでも有利になる。

 それでは、採用したチップやApple Pencilの世代への対応の差が、コストにどれだけ影響したのか、現行製品の販売価格で比べてみよう。上の比較と同じように、旧iPad、現行iPad Air、新iPadで、価格に与える影響がもっとも大きいストレージ容量別に、Wi-Fiモデルの定価を比べてみよう。少し意外な気もするが、これらの3モデルのストレージ容量は、いずれも64GBか256GBかの2通りで共通している。

 まず新旧iPadを比べると、64GBモデルは4万9800円から6万8800円へと1万9000円の値上げ、128GBモデルは7万1800円から9万2800円へと2万1000円の値上げとなっている。64GBモデルの方が上げ幅は小さいが、いずれも旧世代から3割近い値上げとなっている。これは、同じ機種の世代交代時の上げ幅としては、これまでになく大きいものだろう。この点でも、新iPadはむしろiPad Airの一種だと考えると納得しやすいかもしれない。

 新iPadの価格を現行のiPad Airと比べると、新iPadの128GBモデルが奇しくもiPad Airの64GBモデルと同じに設定されている。この比較だけを見れば、逆に新iPadが、かなりプライスパフォーマンスの高いマシンに思えてくるのではないだろうか。ちなみに、64GBと128GB両モデルの価格差は、どちらも2万4000円で同じになっている。旧iPadの64/128GBの価格差の2万2000円から若干拡大しているのは残念だ。

iPad(第10世代)にMagic Keyboard Folioを装着

iPadの操作性を格段に向上させるMagic Keyboard Folio

 新しいiPadには、本体には含まれないオプションながら、ほかのiPadでは利用できない魅力的な製品が用意されている。それはずばり「Magic Keyboard Folio」だ。

 これまでのiPadで利用可能だった純正のキーボードオプションは「Smart Keyboard」のみだった。それと比べると、Magic Keyboard Folioは大きく2つの点で優れている。その違いは、「Smart」が「Magic」になり、後ろに「Folio」が付いた製品名に現れている。

 まず「Smart」には、特に機能や仕組みを表すような意味はないが「Magic」は違う。これは、MacBookシリーズの内蔵キーボードや、iPad ProやiPad Air用の外付けキーボードと同じ「シザー構造」を採用した、打ちごごちに優れたキーを採用したことを意味している。実際にタイプしてみると、キーの大きさからくるわずかなタッチ感の違いはあるものの、ほかのMagic Keyboardとほとんど同じ感覚でキー入力が可能となった。以前のSmart Keyboardのタッチも、それほど悪いものではなかったが、長時間のタイプでは、やはりMagic Keyboardの方が疲労が少ないと感じる。

 キーのサイズの違いについて言えば、2つの点に注意する必要がある。

Magic Keyboard Folioのキーボード

 まず1つは、通常のアルファベットキーの大きさ(ピッチ)だ。MacBookシリーズや、12.9インチiPad Pro用のMagic Keyboardのキーピッチが標準的な19mmなのに対し、Magic Keyboard Folioでは、ちょうど1mmほど狭い18mmになっていること。これについては、たぶん指摘されなければ気付かないという人もいるだろうと思えるような、微妙な違いだ。特に指の太い人でもない限り、打ちにくいと感じることは少ないだろう。

12.9インチiPad Pro用のMagic Keyboardのキーボード部分

 もう1つは、右端に近い部分の記号キーや、Return、Shiftキーなどのキーが特に小さく、ピッチも狭くなっていること。ピッチは、そのあたりだけ13mmになっている。これにはさすがに気付かない人はいないだろう。ブラインドタッチをする人は、慣れないとタイプミスをすることになる。ただし慣れれば、むしろこの方がReturnキーが近い分だけ打ちやすいと感じる人もいるだろう。右手の小指のホームポジションの「;」キーの中央からReturnキーの中央までの移動距離は、標準的なMagic Keyboardの場合、約60mmだが、それが45mmほどに15mmも短縮されるからだ。また、ピッチは短くなっているものの、配列が変更されているわけではないので、慣れるのに時間はかからない。

 名前の後ろに付いた「Folio」は、アップル純正キーボードの場合、背面カバーを意味すると考えればいい。つまり、キーボード部分と背面カバー部分で、iPad本体をサンドイッチのように挟み込むのがFolioだ。

iPad(第10世代)にMagic Keyboard Folioを装着

 旧iPad用のSmart Keyboardは、角度調整ができなかったが、新iPad用のMagic Keyboard Folioは、背面カバーから引き起こすようにして使うスタンド機能によって、無段階に画面の角度が調整できるようになった。この効果は、使い勝手にかなり大きく影響する。iPad ProやiPad Air用のSmart Keyboard Folioにしても、角度調整は2段階だったので、これも新iPadの大きな優位となっている。角度調整の方式は違うが、iPad ProやiPad Air用のMagic Keyboardに近い使い勝手を獲得したと言ってもいい。

Magic Keyboard Folioのスタンドは、ある程度任意の角度を付けることができる

 ただし、Magic Keyboard Folioには欠点もある。その1つは、厚みがかなりあるということ。背面カバー部分だけで、実測の厚みは約4.5mmある。これはMagic Keyboardの背面カバー部分の厚みの約3.5mmより1mmも大きい。その理由は、背面カバー部分が、カバーとスタンドの2重構造になっているためだ。キーボード部分、iPad本体、背面カバー部分を合わせると、厚みは実測で約17mmとなってしまう。これは、MacBookシリーズのどのモデルよりも厚い。たとえばMacBook Proの16インチモデルでも16.8mmなのだ。

 それでも救いはある。Magic Keyboard Folioは、キーボード部分と背面カバーを分離できるのだ。背面カバーを外して、キーボード部分だけを装着した状態でも、キーボードは機能する。キーボードは単独でも、iPadの側面にあるコネクターに強い磁力で吸着されるので、そうした使い方でも不安はない。iPadを使用する場所の背後に壁や窓枠があれば、そこに立て掛けて使えばいい。背面カバーを外せば5mm近くも薄くなるのはありがたい。

 逆に、キーボード部分だけを取り外して、背面カバーだけをスタンドとして利用する使い方もある。iPadの前に紙の資料や本、ノートなどを置いて使いたいことは、特に学習の補助として利用する場合にはよくあるだろう。その際にはキーボードがじゃまに感じられるもので、MacBookシリーズに対してiPadのほうが自由度が高いと感じられる場面の1つだ。Magic Keyboard Folioは、そうした組み合わせの自由を確保できる唯一の純正キーボードオプションなのだ。

 もう1つの欠点は、やはり価格だ。旧iPad用のSmart Keyboardの価格が2万4800円なのに対し、Magic Keyboard Folioは3万8800円で、価格差は1万4000円もある。これで、純正キーボードオプションを含めた新旧iPadの価格差は、さらに大きくなってしまう。救いは、11インチiPad ProやiPad Air用のMagic Keyboardの4万4800円と比較すれば6000円も安価なことだろう。

 いずれにせよ、今のところMagic Keyboard Folioは新iPad(第10世代)専用のもの。この点だけも数あるiPadの中から新iPadを選択する意義があると感じる人がいても不思議ではない。新iPadの魅力は、そこまで含めて評価すべきだろう。

パフォーマンスとバッテリー持続時間の絶妙のバランス

 新しいiPadの基本的なパフォーマンスは、いつもと同様のベンチマークテストで評価する。あまり多くの機種を比較すると、かえって分かりづらいので、旧iPad(第9世代)、今年の春に発売されたiPad Air(第5世代)と、新iPad(第10世代)の3モデルで比べることにした。搭載するチップはすべて異なり、旧iPadがA13 Bionic、iPad AirがM1、新iPadがA14 Bionicとなっている。

 実施したテストは、Geekbench 5、Geekbench ML、Antutuの各ベンチマーク専用アプリと、Safari上で動作するJetStream 2、そしてiMovieによるビデオエンコード時間の大きく5種類だ。それとは別に、ビデオの連続再生時におけるバッテリーの持続時間も計測した。それぞれのテスト結果を示しつつ考察する。

・Geekbench 5  Geekbenchは、なるべく純粋なCPU性能とGPU性能を計測するテスト。CPU性能では、1つのコアだけを使用したシングルコアと、搭載するすべてのコアを使用したマルチコアの性能を別々にしめしてくれる。ここでのGPU性能(Compute)は、グラフィック性能ではなく、GPUを数値計算に利用した際の性能の評価となる。まず全結果を表で示す。

 これをグラフ化すると、各モデルの性能の違いの特徴がよく分かる。まずはCPU性能を見てみよう。

 概して、シングルCPUの性能はさほど変わらないが、マルチCPUの性能は大きく異なっている。もちろんM1チップを搭載するiPad Airが有利だが、新旧iPadのCPUコア数が6(高性能2+高効率4)なのに対し、iPad AirのM1は8コア(高性能4+高効率4)となっているのも大きい。高性能コアの数が2倍なのだ。iPad Airは、旧iPadの2倍以上、新iPadの2倍近い性能が出ているのもうなずける。

 次にGPU性能をグラフで比較しよう。

 新iPadは、旧iPadから大きく向上しているものの、やはりM1を搭載するiPad Airには遠く及ばない。これには新旧iPadのGPUコア数が4なのに対し、iPad Airは8コアとなっているのが大きく影響している。

・Geekbench ML  Geekbench MLは、機械学習に関する処理を、CPU、GPU、そしてCore MLを使って実行した場合の性能を別々に評価する。結果の数値を示す表と、それをグラフ化したものを続けて示そう。

 CPU性能では、Geekbenchの結果に比べて差が詰まっている。これは、なるべく純粋なCPU性能を評価しようとするGeekbenchに対して、同MLは応用的な処理になるためだろう。つまり、CPU性能の違いが一般的なアプリの処理速度に及ぼす程度は、こちらの結果に近いものだとも予想できる。

 GPU性能は、やはりGPUをグラフィック処理ではなく、演算処理に使うため、GeekbenchのComputeの結果に近い傾向を示した。

 それに対してCore MLの結果は、旧iPadが遅く、新iPadはiPad Airに迫るものとなっている。Core MLの処理は、アップル製チップが内蔵するNeural Engineを使うはずだ。旧iPadのA13 Bionicは8コア、新iPadのA14 BionicとiPad AirのM1は倍の16コアのNeural Engineを採用している。その違いがはっきりと現れたと考えられる。

・Antutu  Antutuは、主にAndroid搭載のスマートフォンの性能評価に使われるベンチマークテスト専用アプリだが、iPadOSで動作するバージョンもApp Storeで入手できる。通常、総合得点だけが注目されるが、それはCPU、GPU、MEM(メモリ)、UX(ユーザーエクスペリエンス)の各性能値を合計したもの。それぞれの結果と合計値を数値とグラフで示そう。

 この結果を見ると、新旧iPadの性能差は、それほど大きくないが、iPad Airの性能は、それらを大きくリードしている。特に差が大きいのはGPU性能だ。やはりここでもGPUコア数の差が大きく結果に影響しているものと考えられる。Antutuのテストは、アップル製のチップの特徴を活かしたものではないため、Neural Engineを使うようなテストは含まない。新旧iPadの差が開かないのも、新iPadとiPad Airの差が大きいのも、そのためだろう。

・JetStream 2  JetStream 2は、Browser Benchmarksのサイト(https://browserbench.org)が提供するベンチマークテストアプリで、ウェブブラウザー上で実行するもの。ブラウザー内蔵のJavaScriptとWebAssemblyを使った実行速度を評価する。ここではもちろんSafari上で実行した。結果の数字とグラフを確認しよう。

 このプログラムの実行は、主にCPUを使ったものとなるため、結果はこれまで見てきたCPUテストのものに近い。やはり実際のアプリを使った動作だけに、各iPad間の性能差は比較的小さくなっている。実際にブラウザーを使った際の体感速度の差も、これに近いものとなるはずだ。

・iMovie  iMovieを使ったテストは、ファイルサイズが約125MB、再生時間が約50秒の4Kビデオを、540pで再エンコードして出力する時間を計測する。もちろん時間が短いほど高速ということになる。このテストは、CPU以外にもストレージなど、様々な要素が絡む総合的なものだが、それだけに説明しにくい結果となることもある。結果の数字とグラフを示そう。

 結果には、ほとんど差が見られないが、しいて言えば、新iPadが最も速い。実際のiMovieの動作では、編集時の操作に対するレスポンスも、編集結果の出力時間も、ほとんど変わらないということになる。

・バッテリー  バッテリー持続時間のテストは、Wi-Fi経由でインターネットに接続し、YouTubeのプレイリストとして編集したApple Eventのビデオを連続再生可能な時間を計測した。iPadの場合、設定などの条件は定量的に示しにくいが、音量は消音状態から1段階上げ、画面の明るさはスライダー全体の1/4程度の位置とした。

 このテストに関しては、過去データの蓄積がないため、新iPadの結果だけを示す。満充電状態から電源アダプターを外して再生を開始し、バッテリー残量が尽きて強制的にスリープ状態になるまでの時間は19時間17分だった。これは、アップルが仕様として公開している「Wi-Fiでのインターネット利用、ビデオ再生:最大10時間」の2倍近い数字だ。厳密な測定条件は不明だが、アップルのバッテリー持続時間の仕様は、MacBookシリーズなどでも、かなりの過小評価となっている。新iPadの場合、実際には仕様の2倍近くは連続で使えることになる。

 また、強制スリープになった状態から、電源アダプターを接続して、100%まで充電されるのにかかる時間は約2時間29分だった。新iPadの場合には、95%あたりを超えてから急に充電が遅くなる印象がある。ちなみに50%までは約1時間、75%までは約1時間半で充電できた。これも実用的に十分短時間と言えるだろう。

難しい世代交代

 すでに述べたように新しいiPadの位置づけは、これまでの標準iPadの新型というよりも、iPad Airの「普及版」という印象の強いものとなっている。以前にも述べたように標準iPadは、業務用としての多く利用されていて、メーカーとして形状や仕様を不用意には大きく変えられないという制約を負っている。

 しかし今回のiPadは、そのような制約を打ち破るように、かなり大きく仕様を変えてきたと言える。外形寸法も異なるし、充電・通信用のポートもLightningからUSB-Cへと変更された。カメラも4Kビデオの撮影が可能となるなど、性能的にも新世代のiPadシリーズの仲間入りを果たしたと言える。それでいて、Apple Pencilへの対応は第1世代のまま、採用するチップはAシリーズと、旧来の仕様をキープしている部分もある。

 これをどう捉えるか、現状で答えを見つけるのは難しい。アップルは、この第10世代のiPadで、「標準iPad」の世代交代を狙っているのだろうか。今のところ旧iPad(第9世代)も現行製品として併売されていることからすれば、業務用の標準iPadの役割は第9世代に任せ、一般ユーザー向けのiPadには独自の進化を始めさせようとしているのかもしれない。今回のiPadの仕様は、どっちつかずのようにも感じられる。その答えが見えてくるのは、次の第11世代のiPadが登場するころになるのだろう。

 思い出してみればiPad Airも、2019年に登場した第3世代のモデルまでは、第9世代のiPadのように、旧世代のiPadのデザイン、レイアウトを採用するものだった。わずか3年前のモデルだ。それが、現在のiPad Airのデザインに変更されたのは、たった2年前、2020年に登場した第4世代からだ。それを追うようにiPad miniも、昨2021年に登場した第6世代から、iPad Air風のデザイに変更された。iPad Airはもちろんminiも、もはやそれで何の違和感もない機種として定着している。本家のiPadが、その方向に進化するのは、むしろ当然のことだろう。

 いずれにせよ、新しいiPadは一般のユーザーにとって旧世代よりもかなり魅力的なマシンに進化したことは間違いない。価格だけを比較すれば、確かに旧世代からの値上げ幅が大きいように感じられる。しかしiPad Airが、M1チップを採用するなど、iPad Proの領域に近づき、価格帯も10万円前後とハイクラスになってしまったことを考えれば、64GBで7万円弱、256GBでも9万円強で買えるiPadのプライスパフォーマンス的なメリットは大きい。新世代デザインのiPadは使いたいが、iPad ProはもちろんiPad Airでも価格が高すぎると二の足を踏んでいた人には、新iPadは間違いなく買いだ。新iPadでのみ使えるMagic Keyboard Folioの魅力も大きい。

Apple PencilとiPad(第10世代)は接続してペアリングする

 それでも返す返す残念なのは、対応Apple Pencilが第1世代だということ。さらに、ケーブルとアダプターを介して充電しなければならないのはやむなしとしても、Apple Pencilは充電中は機能しない仕様になっている。仮に充電中でも使えるなら、iPad AirやiPad Proの側面に吸着させて充電する第2世代では不可能な、新iPadのメリットとなっただけに、この点も残念だ。

 

筆者紹介――柴田文彦  自称エンジニアリングライター。大学時代にApple IIに感化され、パソコンに目覚める。在学中から月刊ASCII誌などに自作プログラムの解説記事を書き始める。就職後は、カラーレーザープリンターなどの研究、技術開発に従事。退社後は、Macを中心としたパソコンの技術解説記事や書籍を執筆するライターとして活動。近著に『6502とApple II システムROMの秘密』(ラトルズ)などがある。時折、テレビ番組「開運!なんでも鑑定団」の鑑定士として、コンピューターや電子機器関連品の鑑定、解説を担当している。

 

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