「1円スマホ」転売問題 通信と端末の分離は正しかったのか
ASCII.jp / 2022年11月15日 9時0分
公正取引委員会が、スマートフォンの「1円販売」に関して実態解明に乗り出したという報道があった。公取委では独禁法40条に基づく強制権限によって不当廉売やキャリアによる優越的地位の乱用がなかった調査し、年内にも改善を促すように報告書を公開するという。
1円スマホ「転売ヤー」が問題に
2019年に電気通信事業法が改正され、通信契約が伴う端末販売においては割引額が上限2万円という設定になったものの、街中では1円で売られているスマートフォンをよく見かける。
1円で売れるようにするため、ディスプレーやチップなどのコストを抑えて、本体価格を2万円程度にしてしまうAndroidスマートフォンもあれば、2年後に端末を返却することを前提にしつつ、特別な割引も付与することで1円を実現しているiPhone SEなどもある。
ガイドラインなどでは「完全分離」を掲げており、通信契約がなくても端末を買えるようにする決まりがある。しかし一部店舗では通信契約を伴わない端末単体の販売は「在庫がない」「販売するのに時間がかかる」として、やんわりと拒否するというケースも目立っている。
また、端末を安価に購入し、転売する「転売ヤー」の問題も浮き彫りになっている。
表向きは「やめたい」キャリア
そもそも、キャリアとしても1円販売はやめたいという表向きのスタンスなのだが、販売代理店にお願いはできても強制することはできず、止めることは難しい。1社が1円で売れば他社も対抗せざるを得なくなるため、コントロールが全く効かないのだ。
ソフトバンクの宮川潤一社長は「キャリアがユーザーに新規契約してもらいたいと、端末を安くしていったなかで1円スマホが生まれてしまった。社会現象として良くないと思っているので、今後是正させていただきたい。ただ、1社単体で行なうのは難しい。全体で下限値を設けるということには賛同しており、すぐに追従していきたい」としている。
NTTの島田明社長も「宮川社長に同意する。1円スマホは決して良い商慣行とはいえない。問題は転売ヤーの存在であり、転売が最大の問題。世の中にとっても良いことではないので、解決策を一緒に議論できればと思う」としている。
NTTドコモの井伊基之社長は、「販売代理店に『利益を捨てて、そういう販売はしないように』と忠告できても『いくらで売りなさい』とは言えない。それが実情。私自身はスマホを1円で売ることには反対の人間でして、新品を中古より安く売るっていうのは信じられない。いくらお客様を確保したいからと言っても、やっぱり健全な競争であるべき。でも残念ながら、他社がやるとやり返すっていうのがこの業界の1つの習慣になっている。全体として歯止めが利くような端末価格の設定を求めたい」としていた。
そもそも「完全分離」は正しかったのか
そもそもの話として端末販売と通信契約を完全分離することが正しいことなのかということから改めて検証する必要があるのではないか。
端末を単体で売らなければならないルールになっているが、それにより、割引を適用した場合、転売ヤーに狙われている状態に陥っている。これが、通信契約と紐付いた状態だけで販売していれば、転売ヤーが何台も購入するということは避けられるはずだ。
転売ヤーを敵視するなら、通信契約と紐付いた売り方に戻せば済む話だ。
総務省では端末販売時はSIMフリーであるべきとしてきたが、一方で、キャリアが販売する端末は、そのキャリアでしか使えない周波数のみに対応し、他社が使う周波数には対応しないという状況があった。それでは端末を持ち続けて他社に移行するのが難しいということで、他社を契約する際には「電波をつかまない恐れがある」などの情報開示を求めるようにもしようとしている。
電気通信事業法をあらためて見直しては
ただ、キャリアとすれば、自社が所有する周波数帯にキッチリと対応した端末のみを扱いたいというのが理想だろう。
たとえば、5Gに関してはNTTドコモだけがn79というバンドを持っている。ほかのバンドは衛星との干渉もあり、結構、エリア展開が難しかったと言うこともあり、NTTドコモはn79を主力に5Gエリアを展開してきた。
しかし、グーグル「Pixelシリーズ」がなぜかn79に対応してこないことから、KDDIやソフトバンクがPixelシリーズを扱うものの、NTTドコモは扱えない状態が続いているということもある。
NTTドコモの井伊基之社長は「キャリアは回線とセットで端末を売るのが仕事であり、端末だけ売るのはキャリアの仕事ではない。与えられた周波数帯をいかに有効に使って、その利便性を享受できる端末をセットで売ることが重要で、その中で合理性のあるメリットを打ち出していきたい」とも語っている。
つまり、端末と通信回線は分離できるようで、実は切っても切れない関係にあるのだ。
2019年の電気通信事業法の改正により「転売ヤー」という問題が浮き彫りになってきただけに、改正は何がダメだったのかを改めて見直すほうが良さそうだ。
筆者紹介――石川 温(いしかわ つつむ)
スマホ/ケータイジャーナリスト。「日経TRENDY」の編集記者を経て、2003年にジャーナリストとして独立。ケータイ業界の動向を報じる記事を雑誌、ウェブなどに発表。『仕事の能率を上げる最強最速のスマホ&パソコン活用術』(朝日新聞)など、著書多数。
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