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ガンダムの富野監督が海外だと功労賞ばかり獲る理由

ASCII.jp / 2022年11月22日 15時0分

引き続き、「新潟国際アニメーション映画祭」のプログラムディレクターに就任したジャーナリストの数土直志さんにお話を伺う

〈前編はこちら〉

新潟は「泊まらざるを得ない」からこそ、交流が増えるはず

数土 ここまで難しい話ばかりをしてしまいましたが、当然受け取る側の人たちがいての話なので、アニメファンにも楽しいイベントにするというのは非常に重要なことです。おそらくコスプレイヤーが商店街を練り歩くみたいなこともあると思うし。

まつもと 新潟では「がたふぇす」――正式名称はにいがたアニメ・マンガフェスティバル――というイベントがコロナ禍前まで開催されていました。数土さんが今おっしゃったコスプレで商店街を練り歩く光景などもありました。

 ですから新潟側としては、すでにあった企画やノウハウを活かすことはできて、しかもそこに新潟国際アニメーション映画祭という国際的な看板が付けられるということで、すごく期待値は高いなと思っています。

アニメイベントの「がたけっと」は、会場を新潟市内に広く分散させている

数土 東京や大阪ではない場所で開催する意味はまさに「交流」にあると思っています。新潟開催ならお泊まりイベントになるはずなんですよ。クリエーターの方も当然、食べに出なければいけない。すると、「あの●●監督が普通に街を歩いてるじゃん!」と。

 そういった意味では、ファンと作り手の距離が近い映画祭をめちゃめちゃ目指していますし、そのための仕掛けも作らなければいけないなと思っているので。クリエイターだけでなく、好きな人同士でも交流できるイベントになるといいなと。

まつもと 大変楽しみにしております。あともう1点の注目ポイントを、まず産経新聞の記事から紹介します。「重要視するのは国際発信と人材育成。アニメ映画の上映に加えて、日本人が手がけたアニメや漫画の研究論文を発表する場なども設ける」とあります。

 私は現在、新潟のちょっと北のほうの小さい私立大学で教員もやっていますので、こういうこともすごく興味深いです。

数土 それは映画祭の企画自体を発案された配給会社ユーロスペースの堀越謙三さん、そして『この世界の片隅に』などをプロデュースしたジェンコの真木太郎さんから非常に強い要望をいただきました。フェスティバルディレクターの井上伸一郎さんも大賛成でして、日本の批評・評論、あるいは視点というのものを世界に送り出していきたいと考えています。

まつもと 私も研究者の端くれなので、国内外の論文を目にすることもあるのですが、残念ながら海外の方々が書いた論文に誤りがあったり、日本の事情をよく理解されていないと感じるものに当たることが多いんです。

 でもそれって彼らの勉強不足だけではなく、じつはこちらからの情報発信が足りてないんだろうと。このイベントがそうしたギャップを埋める1つのきっかけになるといいかなと思って期待しています。

富野監督が海外だと功労賞ばかり獲る理由

まつもと このへんで最後のコーナーにいきましょうか。ここまででいくつか話題は出ましたが、あらためて「海外の映画祭における“日本のアニメ”の位置付け」を。先ほどナラティブという言葉も出てきましたが、果たして海外では日本のアニメがどう評価されているのか?

数土 ああ。難しいですよね。たとえばアヌシーに行くと日本のアニメはここ10年間でよく取り上げられるようになったと思いますが、それが世界の傾向かというと……むしろアヌシーは非常に特殊なアニメーション映画祭で。

 世界のアニメーション映画祭で日本のアニメをきちんと取り上げていることは、ほぼありません。もちろん長編アニメーションのコンペには入ってきたりはするんですけれど、片渕須直さんが昔インタビューを受けたらちょっと誤解された文脈で記事が構成されて話題になった……。

まつもと 朝日グローバルの記事ですね。

数土 あの記事でも「また日本のアニメ?」って見られちゃうと。細田守監督も、映画祭に行くと日本のアニメというのはアニメーションのなかでは非常に特殊な位置付けにあるという旨の発言をしているし、それは今でもそうだと思うんですよね。選ばれた作品だけが評価されている、みたいな。

まつもと これは日本のアニメファンと映画祭で出てくる評価とのギャップの、すごく象徴的なことかなと思うんですけれども。

 事前の打ち合わせでも話題に出ましたが、海外の映画祭においては庵野秀明監督や富野由悠季監督の存在感が極めて薄い。海外のアニメファンのなかでは日本と同じように語られるわけなんですけれど、なぜ映画祭という場で存在感がそこまでないのか。このへんがちょっと切り口になりそうな気もするんです。

数土 アニメのコンベンションではとても大きく取り上げられてファンもたくさんいますが、映画の世界にはまた違う軸がある。たとえば細田守監督、宮崎駿監督、今だったら湯浅政明監督。いろんな映画祭でノミネートされて賞を獲っています。

 一方、富野監督の作品はエントリーの有無すらわからないけれども、いわゆるメジャーな映画祭でコンペインしたことは一度もないと思うんです。庵野監督も同様では。

まつもと 湯浅監督や細田監督は長編映画のなかに芸術的な描写が――これも表現が難しいんだけれど――わかりやすく入っているので、アートの軸でも評価されやすい。富野監督の作品は極めて映画的ではあるのだけれれども、映画祭で求められるアート的な何かがあるのかというと……。そんなところも影響しているんですかね。

数土 たぶんTVと映画の違いだと思うんですよね。ヨーロッパもアメリカも、映画が偉い国なんですよ。まず映画があって、そこからTVなどに展開していく。TV作品の映画化に対していまいち偏見がある。

 良い作品であっても、それはTVを基軸にした作品なので映画祭で評価するのはどうよ? みたいな感じで。たぶん、日本の映画ファンはそういうことはまったく気にしないと思うんですけれども。

まつもと そうですね。むしろうれしい、認められた感がある、みたいなところが。

数土 うん。作品としても『エヴァ』がTVシリーズだったとか全然、気にしないじゃないですか。それが良い作品であれば問題ないので。

まつもと 劇場版『Gのレコンギスタ』の1本目がイタリアの映画祭で世界初公開となったことにファンが不思議がっていたり。

数土 富野監督は僕の知っている限りでは2回、功労賞を獲っています。世界4大映画祭の次くらいに位置しているスイスのロカルノ映画祭、そしてシカゴ映画祭。

 たぶん、ヨーロッパやアメリカの映画祭は富野監督を評価したいんだけれども、どう評価していいのかわからない。じゃあ功労賞だったらいいじゃん、作品ではなくて富野由悠季だから、と。

まつもと とはいえ、海外の映画祭で日本アニメが存在感を出していくためには、やはりノミネートされること、そして受賞していかないといけない、という。

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数土 エントリーしたほうがいいと思いますよ。

まつもと まずはエントリーですよね。

数土 意外としていない気が。

世界での知名度が10年後のビジネスにつながっていく

まつもと その事情はいくつか聞いています。まずお金がかかる。エントリーに際してのフォーマットを揃えるためにも結構な手間が必要。そして何よりも人ですかね。海外の映画祭でアニメをノミネートしていくことのノウハウ、そして人脈が必要。それを持っている人ってじつは数えるほどしかいないのでは。

数土 そうですね。でも目指せないわけじゃないし、そんなに海外アワードを獲ることが偉いのか、という言い分もあることはわかっています。

 けれど、細田守監督とスタジオ地図は明らかに海外のアワードを最初から戦略的に獲りに行っているんですよ。それで実際にアカデミー賞にノミネートされたり、カンヌで上映されたりすることによって世界での知名度を上げている。たぶんそれは今後5年10年のビジネスにつながっていくことを考えるとすごいなと思います。

まつもと この配信の時代に、監督とスタジオのブランド・認知度を上げて価値を高めておくというのはビジネス的にとても大きなことではありますよね。

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数土 というか、日本のアニメは海外で半分以上、ひょっとすると8~9割のファンは海外にいるのではという時代に入っているので、海外で認知度を上げる、評価を得るということは非常に重要ですが、日本の映画人にとって、賞はこちらから獲りに行くものではなく、いただくものなので。

まつもと ああ、たしかに。

数土 謙虚なところが僕も好きな日本の文化なんですけれども、そこは積極的に獲りに行かなければいけないし、行けば行っただけの見返りは僕はあると思います。

まつもと たとえ受賞しなかったとしても、そのプロセスにおいて当然、向こうのキュレーターの目には止まるわけです。

数土 良いものを作っているんだから、もっともっと広く広げようよ、と単純にそういうことですよね。黙っていても広がるものではないと僕は思っているので、自信を持って「こんなすごいものを作ったんだ!」と言うのがいいんじゃないかな。

アニメ製作予算に「国際賞へのエントリー費」を組み込もう

まつもと ぜひ、製作委員会の予算に国際賞へのエントリー費も組み込んでもらいたいなと。あとは、これまた数土さんと別の機会を設けてやろうと思っているので今日はちょっと触りだけなんですけれど、配信の雲行きが変わってきました。

 要は、これまで日本のアニメは配信の力でもって海外の多くのファンに届けることがすごくやりやすくなった。制作資金も結構出してもらえる。ところが、その雲行きが変わってきて、いよいよ配信バブルが終わるかもしれない。となると、ますますもって映画祭へのエントリーが重要になりそうですね。

数土 そうですね。配信や映画祭もそうだし、ファンイベント、たとえば3年ぶりに復活するアニメEXPOとか。僕はファンイベントってすごく重要だと思っているので、そういった使えるツールを全部使って、日本のアニメをもっともっと広げていこうと。

 「結構広がって、もう天井じゃない?」と思っている人がいるかもしれないですけれど、僕はまだまだいけると思っているので。

まつもと まさにおっしゃるとおりだと思います。今度の新しい映画祭もそうですし、既存の海外映画祭が日本アニメをさらにメジャーなものにしていくための大事な足がかりになると、数土さんのお話を伺い、あらためて思いました。

 そういえば数土さん、今日は日本アニメが海外に出ていくためには、みたいな話だったと思うのですけれども、まさに今そんな内容の本を書いていらっしゃると聞きました。

数土 テーマは今日話してきたことと被っていて、日本のアニメーション、特に監督を切り口に、世界にどうやって受け入れられてきたのか、勝ち得てきたのか、みたいな話です。現在、書き直しと追加原稿執筆中で、秋頃に出たらいいなあ。

まつもと 新しい数土さんへの切り口が生まれているはずです。僕は期待しています。

数土直志さんの新刊が11月22日発売!

 まさに今回のインタビューのテーマを真正面から扱った新刊『日本のアニメ監督はいかにして世界へ打って出たのか?』(星海社)が11月22日に発売。宮崎駿、新海誠、湯浅政明、細田守といった日本のアニメ監督たちが、いかにして世界での評価を勝ち取るまでに至ったのかを数土直志さんが丁寧に解説してくれます。

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  • 日本のアニメ監督はいかにして世界へ打って出たのか? (星海社新書)数土 直志星海社

筆者の新刊も11月26日発売!

 まつもとあつしの新刊『地域創生DX―オンライン化がつなぐ地域発コンテンツの可能性―』(同文舘出版)も11月26日に発売。コロナ禍をきっかけにオンラインツールが活用され、都市-地域の垣根を越えた試みも広がっています。本書ではコンテンツビジネスを中心に、DXが生み出す地域の新たな可能性を明らかにします。

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  • 地域創生DX―オンライン化がつなぐ地域発コンテンツの可能性―松本淳同文舘出版

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