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追いつめられたザッカーバーグ 年末商戦に生き残りかかる

ASCII.jp / 2022年11月17日 16時0分

Meta

 メタは11月9日、1万1000人規模の大幅な人員削減を発表しました。メタの全従業員数約8万7000人の13%に相当する数字です。

 株価の下落が止まらないことでマーク・ザッカーバーグCEOが相当なプレッシャーを受けていたのは確かです。

 直近で株価が落ちたのは10月27日の決算発表後。ザッカーバーグが「今後も赤字は増える」「メタバースはやめない」と言ったことで一斉に売りが入りました。

 メタの株式を2%ほど持っていたAltimeter Capitalは決算直前に「従業員数を20%削減」「資本的支出を300億ドルから250億ドルに削減」「メタバースへの投資を50億ドル以上にしない」といった要求を出しました。しかし決算説明会時、ザッカーバーグはそれらの提案を蹴飛ばしています。

 結果、決算発表後の株価はついに一時90ドルを切るほどになり、ピーク時の378ドルから4分の1ほどまで下落。ついに大幅な人員削減をせざるを得ない状況にまで追い込まれることになってしまいました。

景気後退とアップルの広告規制で苦境に

 メタは以前から出血を止めるため、採用を凍結する動きを見せていました。

 今年5月には新たにシニアクラスの従業員を採用しない方針になり、今年9月には完全に新規採用を凍結していました。そして今回、メタバース部門も含めて全体をシュリンクするという方針になった形です。さらにはザッカーバーグも責任をとるという話をしていました。役員報酬の返還程度で済めばいいんですが、もしCEO交代なんて事態になってしまったら、どうなるのかわかりません。

 どうして業績がここまで悪化してしまったのか。

 今までの決算資料を見ると、毎日29億3000万人のユーザーが、「Instagram」「Messenger」「WhatsApp」など同社のアプリを何らか使用しており、ユーザー数はむしろ増加傾向にあるようです。

Alexander Shatov - Unsplash

 しかし、昨年からアップルがターゲティング広告に規制をかけたことで、広告の価値が下がってしまっていました。アップル経由の収入が減っていく中、景気後退が進んだことで各社が広告出稿を見送るようになりました。結果、広告によって成り立っていたソーシャルメディア事業の業績は苦しくなっていきました。

 そんな中でもメタバース部門への投資は変わらず進めていて、毎年約1兆円の赤字を出していたわけです。

ハードが売れてもソフトが売れないのが敗因

 メタバース部門は、業績が上がってきているならともかく、投資の割にはリターンが少ないという状況が続いています。ハードとしての「Quest 2」は5月に1500万台に達したと見られ、それなりに売れています。しかし、8月に行なった販売価格の100ドルの値上げの影響が大きいとみられ、売上も前年同期比で半減してしまっています。

Remy Gieling - Unsplash

 さらに問題はソフトの販売です。

 VR系メディア「Voices of VR」のKent Byeさんは、2019年から21年のVR部門の総収入は約39億ドルにのぼっているのに対し、ソフト売上は3億7000万~4億ドルにとどまっていると推計しています。つまり、全体の売上の中でソフトは10%程度しか販売できていないということになります。

 要するにソフトによるエコシステムが形成できていないんですね。メタは「任天堂型」「ソニー型」などと言われる、ハードは安く売ってソフトで回収するというビジネスモデルを目指していたのですが、実際には成立していなかったということです。

 10月にメタが開催した開発者会議でも、ジョン・D・カーマック(元Oculus CTO。現在はメタのアドバイザー)が、「Questで最も人気のあるアプリはVRChatやRec Roomといった無料アプリで、そこからの収益は皆無です」とコメントしていました。だからQuest 2は値上げされてしまったんだと。

 メタはメタバースという新しい産業を作ろうとしたわけですが、1社のプラットフォーマーが莫大なお金を注ぎ込んでも難しかったんだなと感じます。

 ハードを作って失敗させないように展開するというのは相当なエネルギーが必要です。あと数年続ければQuestがすごく売れるようになるかと言えばそんな未来も見えません。資金が簡単に尽きることはないでしょうが、業績としては相当苦しい状況が続くことは、多くの人が指摘していたとおりでした。

 関係者はメタが今のようにコントロールを強く立場を主張するのではなく、ハッカーを中心にOculusの開発が自由に進められていたらどうなっていたかという話をよくしていますが、どちらにしても簡単ではなかっただろうなと感じます。

年末商戦でQuest 2がどれだけ売れるかが勝負

 今回はひとまず出血を止めるということで人員削減に踏み込みましたが、今後どうなるかはまだ読めません。考えられるのはメタバース部門への投資を減らすことですが、そうするとメタバース技術の発展が鈍ってしまうことになりそうです。

 短期的に言えば、メタにとって重要なのは年末商戦です。

 去年はQuest 2がものすごく売れましたが、同じようなピークを作れるのか。売上の勢いが弱まってフェイドアウトすることになってしまうと、それもまた業績として批判される材料になってしまいます。以前はバイオハザードのような目玉タイトルが用意されていましたが、「年末商戦はこれ」というゲームが特に思いつかないのが苦しいところです。以前紹介した「BONELAB」は大ヒットしており、私の推計では販売本数は100万本に達しているのではと思っているのですが。

 またタイミングも悪いですよね。Quest 2の後継機種「Quest 3」は来秋発売と事実上予告されていますし、新製品の「Quest Pro」は値段が高すぎて売上には大きく貢献しそうにありません。Quest Proが在庫切れになるほど売れているという情報はまだ出ていません。

 ただ、リストラの発表後、株価は少し持ち直し、現在は113ドル程度で取引されています。それでも、回復までには長い道のりが待っていそうです。

 いずれにしても年末商戦の結果次第ではメタバース部門の生き残りにとっても大きな影響が出てくると思います。もしメタバース部門をシュリンクさせるということになったらこの連載も終わってしまいますので、頑張っていただきたいですね。

 

筆者紹介:新清士(しんきよし)

1970年生まれ。「バーチャルマーケット(Vket)」で知られる株式会社HIKKY所属。デジタルハリウッド大学院教授。慶應義塾大学商学部及び環境情報学部卒。ゲームジャーナリストとして活躍後、VRゲーム開発会社のよむネコ(現Thirdverse)を設立。VRマルチプレイ剣戟アクションゲーム「ソード・オブ・ガルガンチュア」の開発を主導。著書に8月に出た『メタバースビジネス覇権戦争』(NHK出版新書)がある。

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