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【レビュー】M2搭載iPad ProはMacBook Proとも競える性能をベンチマークテストで実測

ASCII.jp / 2022年11月20日 12時0分

新iPad Proの12.9インチモデル(第6世代)

 今年のiPadの新製品は、春先に登場したiPad Air(第5世代)と、この秋に発売された2つのサイズiPad Pro、そして新しいiPad(第10世代)の合計4機種となった。すでに新しいiPadについては「【レビュー】新iPad(第10世代)は「iPad Air」の普及バージョンだ」で述べたので、ここでは、最新iPad Proの12.9インチモデル(第6世代)を取り上げる。この秋のiPadの新製品とともに登場したiPadOS 16については、改めて別記事で取り上げる予定だ。

M1からM2への進化がもたらすもの

 今回のiPad Proのアップデートは、マイナーなものだと感じている人も多いだろう。事実、前世代のモデルと外観によって区別するのは非常に困難で、機能的にもほとんど変わらないと言っていい。大きく変わったのは心臓部のチップがM1からM2に進化したことくらいだ。iPad Proの最大のウリはパフォーマンスにあると考えれば、最も重要な部分がアップグレードされたのだから、これは意義の大きな変化ということになる。

 とはいえ、2021年5月に登場した第5世代から、約1年半後に発売する新モデルのアップデートとしては、M2チップ以外、特に大きな変更は施されていないのも確かだ。アップルとしては、M2の採用以外に、現在のiPad Proに求められる改善点は特にないと判断したとも考えられる。逆に言えば、それだけ第5世代のiPad Proの完成度が高かったことになる。

 メインのチップをM1からM2へ変更するのは、さらなる性能向上を狙ったものには違いない。それでも、M2によってもたらされるのは、単なる性能向上にとどまらない。たとえば、ProRes、およびProRes RAWのハードウェアによるエンコード/デコードは、M2に内蔵のメディアエンジンによって可能となった。それによって、ビデオ撮影時にProResエンコーディングによる録画が可能となっている。

 一方、スペックを細かく比較してみると、M2チップの採用とは直接関係ないと思われる機能、性能の向上も確認できる。それはディスプレイと、カメラの2点にある。

 ディスプレイでは、iPadとして初めて「Apple Pencilによるポイント」機能が実現した。名前だけでは何のことかわからないが、これはApple Pencil(第2世代)のペン先を画面に近づけると、ペン先が画面に触れる前に、ペン先から最も近い位置の画面上にポイントが表示されるというもの。マウスのポインターのようなものと考えればいい。実際にペン先が画面に触れるまで描画などはできないが、事前に描画位置を正確に知ることができる。実測では、約12mm以下の距離に近付けると反応した。

アップルによる解説
画面にペン先が触れることなく、インデックスを選択できたため、オレンジから白に変わったことがわかる

 もう1つのカメラは、背面のメインカメラ、フロントカメラとも、従来の「写真のスマートHDR 3」から「写真のスマートHDR 4」へと、バージョンがアップしている。これは、撮影後の画像処理によるものなので、カメラモジュールというよりも、M2チップによる性能向上によって可能となったものかもしれない。

 また、ほとんど見落とされがちだが、1つだけ削られた機能もある。それはCellularモデルのGSM/EDGE対応が削除されたこと。ファームウェアの変更によって機能を停止しただけかもしれない。いずれにせよ、この変更によって困る人は、現在ではほとんどいないはずだ。

意外に大きな11インチと12.9インチの違い

 なお、今回同時に登場した新製品としては特にレビューしないが、iPad Proの11インチモデルとの違いについても簡単に確認しておこう。

 前世代からそうだったが、同じiPad Proと言いつつ違いは大きい。中でも最も重大な違いはディスプレイにある。それも、単なるサイズの違いには留まらない、表示品質に関わる違いだ。仕様を見ると、11インチモデルが「IPSテクノロジー搭載11インチ(対角)LEDバックライトMulti-Touchディスプレイ」を採用するのに対し、12.9インチモデルは「IPSテクノロジー搭載12.9インチ(対角)ミニLEDバックライトMulti-Touchディスプレイ」を採用している。

 これだけを見ると、バックライトが「LED」か「ミニLED」かの違いで、「ミニ」は劣っているのでは、と思う人もいるかもしれない。しかし、この場合の「ミニ」は、領域ごとに細かく輝度が変えられるLEDアレイを採用したという意味だ。仕様では、12.9インチのみ「2,596分割直下型ローカルディミングゾーンを採用した2Dバックライトシステム」となっている。簡単に言えば、画像の明るい部分では、バックライトを明るくし、暗い部分では暗く、あるいは消灯することで、全体としてコントラスト比を高くする仕組みだ。これにより「1,000,000:1コントラスト比」という非常に強いコントラストを実現している。iPad Proを、高精度で撮影した写真や映像の確認用ディスプレイとして使用する場合には、大きな威力を発揮する。ディスプレイに関する限り、11インチと12.9インチの各モデルは、まったくの別物と言ってもいい。

 そのほか、11インチモデルのバッテリー容量は28.65Wh、12.9インチでは40.88Whとなっていて、後者が40%以上も多い。ディスプレイの解像度は、どちらも264ppiで同じなので、ピクセル解像度から面積比を計算すると、12.9インチの方が11インチより、ちょうど40%ほど広い。バッテリーの容量の違いは、それに対応したものだろう。ただし、バッテリーは当然ながらディスプレイだけに使用されるわけではなく、ほかの部分の消費電力はほぼ同じと考えられる。とすれば、その分12.9インチの方が有利なはずだが、スペック上のバッテリー持続時間には差がないように書かれている。

Mac同様の「画面解像度の変更機能」を装備

 iPad Proのハードウェアとは直接関係がないが、12.9インチの大画面を活かす工夫として、「拡大表示」の設定で3段階の調整が可能となった。これはiPadOSの進化と連動するもので、「文字を拡大」、「デフォルト」、「スペースを拡大」のように、macOSのディスプレイの解像度設定と同じ用語に統一された。設定は、「画面表示と明るさ」にある。

 この設定によって、文字や画像、UIパーツの表示サイズだけでなく、画面全体の見かけ上の解像度が変化する。スクリーンショットのピクセル数を調べてみると、各設定に対する実質的な解像度は以下のようになっている。

 このような数字を見せられても、なかなかピンとこないので、各解像度設定におけるスプレッドシートのセル数を調べてみたのが「SSセル数」だ。これらは、Safariをフルスクリーン表示にして、新規のGoogleスプレッドシートを開いた際、1画面に収まる横方向×縦方向のセル数だ。

 それでもなお分かりにくいので、実際のスクリーンショットで、セルの細かさを確認していただきたい。

 もちろん、ユーザーの視力や、表示内容にもよるが、大量の情報を一度に扱おうとすれば、「スペースを拡大」を選択すると効果が大きい。ただし、日常の操作では、それでは表示が小さすぎると感じる人も多いだろう。

MacBook Proとも競える性能をベンチマーク

 新しいiPad Pro 12.9インチモデルのパフォーマンスは、いつもと同様のベンチマークテストで評価する。基本的には、昨年5月に登場した前世代(第5世代)のiPad Pro 12.9インチモデル、今年の3月に登場したiPad Air(第5世代)を含めた3モデルで比較する。搭載チップは、前の2つがM1、そして今回のiPad ProがM2だ。

 また、ほぼ同じ土俵で比較が可能だと思われるテストについては、今年6月に登場したM2チップ搭載のMacBook Pro 13インチモデルも加えて比較する。M1とM2チップの比較という点でも、それぞれ異なる機種に搭載されているため、興味深い結果が期待できるだろう。

 実施したテストは、Geekbench 5、Geekbench ML、Antutuの各ベンチマーク専用アプリと、Safari上で動作するJetStream 2、そしてiMovieによるビデオエンコード時間の大きく5種類だ。このうち、MacBook Proを含めた比較は、Geekbench 5、JetStream 2、iMovieによる3種のテストとなる。さらに今回のiPad Proについては、ビデオの連続再生時におけるバッテリーの持続時間も計測した。それぞれのテスト結果について考察していこう。

・Geekbench 5  Geekbenchは、CPU性能とGPU性能を計測する。CPU性能では、1つのコアだけを使用したシングルコアと、チップ内蔵のすべてのコアを使用したマルチコアの性能を別々に評価できる。一方のGPU性能は、GPU本来のグラフィック性能ではなく、GPUを数値計算に利用するテストで、「Compute」と呼ばれる。このアプリには、iPadOS版とmacOS版があるので、MacBook Proを含めたテスト結果を表で示そう。

 まず、シングルコア、マルチコアの両CPU性能をグラフで確認する。

 シングルコアのCPU性能は、M1とM2で大きくは変わらないが、マルチCPUの性能はM1とM2で、それなりの差が確認できる。コア数は8で同じだが、マルチコアの実行効率はM2の方が高いと考えられる。同じM2でも、iPad ProよりMacBook Proの方が、シングル、マルチいずれもじゃっかん速いが、大きな差ではない。

 次にGPU性能を表すComputeの結果をグラフで比較しよう。

 M1を採用する旧iPad ProやAirと比べて、M2を採用する新iPad ProやMacBook Proが4割以上速いという結果になった。これはGPUのコア数がM1の8に対してM2は10であることから予想される性能差よりもかなり大きい。

・Geekbench ML  Geekbench MLは、機械学習に関する性能を評価する。テストには、CPU、GPU、そしてiPadOSのAPIの1つ、Core MLを使う別々の処理が含まれている。

 CPU性能とGPU性能については、Geekbenchのそれぞれのテストと同じような傾向となった。ただし、GPUのM1とM2の差は、Geekbenchよりは詰まっている。Core MLによるテストは、M1およびM2が内蔵するNeural Engineによる処理と考えられるが、コア数はいずれも16で同じ。それでもM1とM2で、はっきりした差が付いていて、M2の優位性が感じられる。

・Antutu  Antutuは、Android搭載のスマートフォンの性能評価で有名なベンチマークテスト専用アプリ。総合得点だけで優劣を付けることが多いが、CPU、GPU、MEM(メモリ)、UX(ユーザーエクスペリエンス)の4種の性能を別々に計測して合計したものが総合得点となっている。

 この結果でも、やはりM1とM2の性能差がはっきりと表れている。特にGPU性能とメモリアクセスの性能が大きいように見える。GPUのコア数の違いについてはすでに述べたが、最初の比較表にも示したように、M1は推定68.25GB/s、M2は100GB/sというメモリ帯域幅の違いが出ているものと考えられる。

・JetStream 2  JetStream 2(https://browserbench.org/JetStream/)は、Browser Benchmarksのサイトが提供するウェブブラウザー上で動作するベンチマークテストアプリ。ブラウザー上でJavaScriptとWebAssemblyを使ったプログラムを実行して評価する。これはアップル純正ブラウザー、Safari上でテストしたので、MacBook Proも含めて評価する。

 実際のアプリを使った動作だけに、M1とM2で傾向がはっきり分かれるわけでもなく、機種間の違いとして性能差が表れている。ただし、旧iPad Proは約1年半前、iPad Airも半年以上前のテスト結果なので、Safariのバージョンも、それなりに古い。その違いが表れている可能性もある。

・iMovie  ファイルサイズが約125MB、再生時間が約50秒の4Kビデオを、iMovieのプロジェクトに取り込み、540pで再エンコードして出力する時間を計測するテスト。時間が短いほど高速であることを示す。もちろんiMovieにはmacOS版もあるので、MacBook Proを含めた結果をします。

 このテストでは、以前からmacOS上よりもiPadOS上の方が速いという結果が出ることが多い。OSも異なり、アプリの作りも異なる部分があるため、画面表示のタイミングも異なって、実際の処理時間を適切に測定できていない可能性もある。iPad同士の比較では、メディアエンジンの違いによるものか、M2を搭載した新iPad Proが、M1搭載機の2倍以上の速さを示した。

・バッテリー  バッテリー持続時間は、YouTubeのプレイリストとして編集したApple Eventのビデオを、Wi-Fi経由でインターネットに接続して連続再生し、バッテリーを使い切って強制スリープ状態になるまでの時間を計測した。音量は消音状態から1段階上げ、画面の明るさはスライダー全体の1/4程度の位置に固定して計測した。

 アップルの公式な「電源とバッテリー」の仕様では、「Wi-Fiでのインターネット利用、ビデオ再生:最大10時間」となっているが、実際の計測では19時間8分と、仕様の2倍近い時間の連続再生が可能だった。

 強制スリープ状態から、付属の20Wの電源アダプターを接続して、100%まで充電するのにかかった時間は約3時間24分だった。その際には、iPad Proの画面表示をオンにしたままで、特にアプリは動かしていない。途中経過は、25%までが約50分、50%までは約1時間37分、75%までは約2時間25分となっていて、最初から最後まで、時間の経過とともに、ほぼリニアに充電量が増えていることがわかる。

M2搭載13インチMacBook Proは2022年7月15日に発売した

最大のライバルはMacBook Pro

 ベンチマークテストの結果からも分かるように、M2を搭載した新しいiPad Proは、同じM2を搭載したMacBook Proと比べても、ほとんど同等の性能を発揮できるようになった。現在のタブレットやノートブックは、コアとなるチップ(SoC)によって、性能がほとんど決まってしまうようなアーキテクチャとなっているため、これは当然の結果だろう。

 特に12.9インチのiPad Proの場合、画面サイズもほぼ同じで、Magic Keyboardを装着すれば、ほとんどノートブックとして使える。MacBook Proの13インチモデルと用途として被る領域も自然と多くなる。これだけの高性能を備えたタブレットは、ほかにほとんど例がないため、MacBook Proが直接的なライバルと考えたくなる。

 12.9インチモデルの重量は682gで、Magic Keyboardは実測で約680gだった。合計すると1362gとなり、奇しくもMacBook Pro 13インチモデルの1.4kgと、ほとんど同じとなる。つまり保護カバーとしての役割も果たすMagic Keyboardとともに持ち運ぶ場合、大きさも重さも、MacBook Proとほとんど変わらないのだ。

 iPad Proは、価格的にも同じM2を採用するMacBook Proと同じ領域に入ってきた。いずれもストレージ容量によって大きく価格は異なるので、同じストレージ容量を選んだ場合の価格を比べてみよう。なお、iPad Proの実装メモリは、16GBと推測されるため、MacBook Proもメモリが16GBの価格と比べている。

 ストレージ容量が512GB以下では、MacBook ProよりもiPad Proの方が安いが、1TB以上では逆転し、iPad Proの方が高くなる。しかもストレージ容量が大きいほど価格差は広がっていく。もし同じような用途で使うとして、iPad ProにMagic Keybaordを加えると、5万3800円の追加となって、すべてのストレージ容量でiPad Proのほうが高くなる。iPad Proをノートブック代わりとしてだけ使うのは、得策ではないかもしれない。

 もちろん、iPad Proは、映画撮影にも使えるようなカメラを装備し、用途によっては不可欠で、ほかに代えがたい使い勝手のApple Pencilに対応したディスプレイを装備している。その点を考慮すれば、むしろiPad Proの方が安いと感じる人もいるだろう。iPad Proは、MacBook Proではカバーできない領域に対応しつつ、MacBook Proと同等のパフォーマンスを備えている。その両方に価値を見出すユーザーにとって、新しいiPad Proは買いだ。

 一方で、MacBook Proと同等のパフォーマンスを持ち、機能的にも上回っているのなら、MacBook Proの用途も、すべてiPad Proでカバーしたいという希望をいだきたくなるのも当然だ。ただし、使用可能なアプリの違いによって無理が出てくることもある。アップル純正アプリを見れば、KeynoteやPages、Numbers、あるいはiMovieやGarage Bandといった一般ユーザー向けのアプリについては、確かに両OS用のものが揃っている。

 しかし、それだけでは、M2のパフォーマンスを有効に活用できない。そうできるためには、プロ向けのiPadOSアプリの充実が不可欠だ。サードパーティ製のアプリについては、プロの使用に耐えるものも徐々に増えてきているとはいえ、広い用途を考えれば、まだまだmacOS用の方が充実しているのが現状だろう。

 現にアップル純正のLogic ProやFinal Cut Proは、今のところiPadOS用は登場していない。そのあたりが揃ってくれば、iPad Proの用途はさらに拡大するはずだ。アップルには、自ら率先してプロ用のiPadOSアプリ充実させてほしい。

 

筆者紹介――柴田文彦  自称エンジニアリングライター。大学時代にApple IIに感化され、パソコンに目覚める。在学中から月刊ASCII誌などに自作プログラムの解説記事を書き始める。就職後は、カラーレーザープリンターなどの研究、技術開発に従事。退社後は、Macを中心としたパソコンの技術解説記事や書籍を執筆するライターとして活動。近著に『6502とApple II システムROMの秘密』(ラトルズ)などがある。時折、テレビ番組「開運!なんでも鑑定団」の鑑定士として、コンピューターや電子機器関連品の鑑定、解説を担当している。

 

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