試してわかった「Apple Watch Ultra」ダイコン機能のメリット、デメリット
ASCII.jp / 2022年11月28日 23時0分
筆者がこの秋奮発して「Apple Watch Ultra」を購入したのは、ダイブコンピューター(以下、ダイコン)の機能が使えると聞いたからだ。そのアプリ「Oceanic+」が本体の発売から遅れること約2ヵ月、11月28日にようやくApp Storeに公開された。公開前のベータ版(英語)を一足早くテストしたので、ダイビングで使用して感じたメリットとデメリットを紹介する。
Apple Watch Ultraのダイコン機能に感じた5つのメリット
メリット1:普段使っているApple Watchがダイコンになる 最大のメリットはなんといっても、普段使っているApple Watch Ultraがそのまま海で使えることだ。Oceanic+は水深や潜水時間、水温といったデータをリアルタイムに表示&記録できるほか、減圧停止をせずにその深さに止まれる時間を示す「無減圧限界時間」や、急浮上の警告、浮上前の「安全停止」のカウントなど、安全にダイビングを楽しむために欠かせない、ダイコンの機能が不足なく備わっている。
アプリをインストールしてサブスクリプションプランを課金すれば、これらの機能がApple Watch Ultraで使える。まずはiPhoneでアカウントを登録。ライセンス情報には取得している資格と識別番号のほか、ライセンスカードの写真も保存しておける。万が一カードを忘れたりなくしたときも、これがあればなんとかなるかもしれない。
一般的なダイコンでは海に入ると自動的にデータが記録されるが、Apple Watch Ultraでダイコン機能を自動起動するには、「設定」→「一般」→「自動起動」→「水中にいるとき」の「Appを自動起動」に、Oceanic+アプリを登録しておく必要がある。
海に入ると水深1メートルほどで自動的に「プレダイブ」の画面が表示され、アクションボタンを押すとダイコンの画面に切り替わって、データが記録されるしくみ。水中ではタッチパネルは動作せず、水面にあがってデジタルクラウンを長押しし、ロック解除&水を排出するまでは、タッチ操作ができない。
メリット2:ダイビングログが自動的にアプリに保存される ダイビングのログをiPhoneに自動保存できるのも、大きなメリットだ。筆者は普段、ダイコンに記録されたデータを見ながら、ノートに手書きでログをつけているが、Oceanic+では海からあがった瞬間に、アプリのログブックにダイビングのデータが自動的に記録される。最新のダイコンの中にはBluetoothでスマートフォンと接続でき、アプリにログを記録できる製品もあるが、Apple Watch UltraとiPhoneの同期はスムーズで一切の面倒がない。
保存されたログデータはOceanic+アプリの「ログブック」からいつでも見ることができる。同時にクラウドにもバックアップされるので、機種変更をしても再びログインすれば引き継ぎが可能だ。またダイビングとダイビングの間には、「サーフェス」というメニューが追加され、水面休息時間や、飛行機搭乗禁止時間が確認できる。水面休息時間や飛行機搭乗禁止時間は、Apple Watch Ultraの時計の文字盤にコンプリケーションとして表示することも可能だ。
メリット3:画面&振動が、見やすくてわかりやすい 水中で画面が見やすいことや、バイブレーションで通知するしくみも、Apple Watch Ultraの特徴だ。2000ニトの明るいディスプレイは暗い場所ではもちろん、太陽がギラギラの水面付近でもとても見やすい。筆者が普段使っているダイコンはモノクロで、明るい場所、暗い場所ではバックライトを付けないと数字が見にくいこともあるが、Apple Watch Ultraではいつでもしっかり数字を読み取ることができた。
水中で確認できるデータは、深度、無減圧限界時間および残り時間がわかるバー、潜水時間、水面までの浮上時間、水温、最大深度、浮上速度、バッテリー残量などで、デジタルクラウンを回すと画面が切り替わるしくみ。
普段使っている筆者のダイコンは急浮上などを警告する際、「ピピピピピ」と音が鳴るのだが、Apple Watch Ultraは水中では音が鳴らない。代わりにバイブレーションで知らせるしくみだ。バイブレーションは、ウェットスーツの上からでもはっきりわかるくらい強力。一瞬ブルっとくるだけだと気づかないこともあるかもしれないが、繰り返し通知されれば必ず気づける。あわせて画面にも、赤色や黄色でわかりやすく警告画面が表示される。
警告音の場合は自分のダイコンが鳴っているのか、周りの人のダイコンが鳴っているのかわかりにくことがあるが、バイブレーションは自分だけにはっきりとわかる点がいい。
ちなみにApple Watch Ultraのオーシャンバンドには、6800円で別売されている長いエクステンションがあり、これを使用すればどんなに分厚いウェットスーツの上からもApple Watch Ultraを装着できる。ちょっと長すぎてウェットスーツを着る前はバンドの扱いに困ってしまうくらいだが、ループで折り返せばしっかり固定できる。
メリット4:セルフダイビングのプランニングに役立つ
Oceanic+アプリには、セルフダイビングに便利な機能も用意されている。ガイドについてダイビングをする場合は、あまり使う機会がないかもしれないが、「No Deco Planner」と「Location Planner」という2つの機能が利用できる。前者はエントリーの時間や目標深度を設定すると、その深度での「無減圧限界時間」を確認できるというもの。エンリッチド・エア/ナイトロックスを使用する場合は、酸素濃度を変えた計算もできる。また後者では目標地点を地図上でマークすると、その場所の3日分の天気、水温、風速、潮汐が確認できる。
ほかに「No Deco Planner」で確認した深度や潜水時間にあわせて、アラームを設定できる機能もあり、設定すると目標の深度、時間になったときに、画面とバイブレーションで教えてくれる。
メリット5:ダイビングの活動量がちゃんと記録される ダイビングのデータは、iPhoneの「フィットネス」や「ヘルスケア」アプリとも連携できる。ダイビングの活動量が、ちゃんとアクティビティとして記録されるのだ。海の中のデータも含めて、自分の活動や身体に関する情報が一元管理できるのは、まさにApple Watch Ultraならではと言える。
アップデートに期待したい、4つのデメリット
さてここまでは、Apple Watch Ultraをダイコンにできるメリットについて紹介してきたが、実際に使ってみると「うーん」と思うところもあった。
デメリット1:有料プランに契約しないとダイコン機能が使えない デメリットの1つはこのダイコンの機能を利用するためには、必ず有料のサブスクリプションサービスへの課金が必要だということだ。無料プランではダイコン機能が使える「スキューバ」モードは使えず、GPSの位置情報や最大深度、経過時間などを記録できる「シュノーケリング」モードのみ選択可能になる。
プランは1日(最初の潜水から24時間)800円(初回限定割引の場合、1日160円(税込み、以下同じ)、月額1150円、年額1万200円のほか、年額1万4800円で家族5人まで一緒に利用できるファミリー共有プランが選べる。筆者のように年に数回、しかも暖かいシーズンだけしか潜らないようなリゾートダイバーは、その都度1日プランで課金するか、月額プランかを選ぶことになる。ダイコンのレンタルは1日1500~2000円程度。それを思えばそこまで高くはないのかもしれないが、1日プランは最初のダイビングから24時間で切れてしまうので、その都度更新するのが面倒。2日、3日と連続して潜るなら、月額プランが現実的な選択か。
デメリット2:ログブックの機能が物足りない 筆者がOceanic+に対して感じた最大の不満は、ログブック機能の物足りなさだ。前述のように海から上がると、潜水時間、水温、最大深度などのデータが自動的に記録される。それだけでなく、iPhoneのログブック画面では、エントリー&エグジットした場所の地図や、どんなダイビングだったか水深の変化などをグラフで見ることもできる。また透明度や波、潮流を登録したり、ダイビングを星で評価できる機能なども用意されている。
ほかにウエイトの重さも記録できるが、選択式の項目が用意されているのはこれだけ。一般的なログブックに必ずある、タンクの容量や種類(アルミ、スチール)、タンクの圧力と残圧、使用したスーツの種類といった情報を書き込む項目がない。それ以前にポイント名やダイビングのトータル本数を記載する項目もない。自由に書き込めるノートは用意されているものの、できれば簡単に書き込める選択式の項目が欲しいところ。機材を登録できる「ギアリスト」から選択できるのが、Oceanic+の提供元、Huish Outdoorsの取り扱いブランドだけというのも、ちょっと何だかなぁである。
デメリット3:デフォルトの設定ではちょっと甘い? デメリットというわけではないが、筆者が普段使っているダイコンと比べて、表示された「無減圧限界時間」が少し甘い点が気になった。「無減圧限界時間」を計算するために採用されているアルゴリズムや初期設定は、ダイコンによっても違う。そのためどちらが良いとも言えないのだが、筆者は手持ちのダイコンにあわせて設定を一段階厳しくして使用した。初めて使用する際には、一緒に潜るガイドやバディのダイコンと比較して、設定を調整した方がいいかもしれない。
デメリット4:傷だらけにしたくないけどカバーは…… 最初に、普段使っているApple Watch Ultraがそのまま海で使えると書いたが、これは逆にいえば、海で使うものをそのまま普段も使用するということだ。となると、気になるのが傷だ。海の中では岩や珊瑚、海の上ではタンクやウエイトなど、ダイビングの周囲にはApple Watch Ultraが傷付きそうなものがたくさんある。そこでApple Watch Ultraのケースをまるごと覆える、シリコンカバーをつけて潜ってみた。結論からいうとカバーを付けていても、自動起動など問題なく動作したのだが、海から上がってタッチ操作に切り替える際、カバーとディスプレイの間に水が入って、うまく反応しないことがあった。カバーを使用する場合は、バンパーと保護シートが別々になっている方がいいかもしれない。
まとめ:ログブックは今後のアップデートに期待
Apple Watch Ultraのダイコン機能は海の中で見やすく、バイブレーションもわかりやすくて、かつiPhoneにログが自動で付けられるなど、筆者が普段使っているダイコンにはないメリットがたくさんある。また講習を受けていないので今回は試せていないが、エンリッチド・エア/ナイトロックスを使用する際の、面倒な設定が簡単にできるのも便利そうだ。
一方で有料のサービスであることを考えると、ログブックはもう少し充実したものにして欲しい。たとえば海で撮影した写真を一緒に記録できれば、ログ見返す楽しさも倍増するだろう。Huish Outdoorsでは今後、iPhone向けハウジング(ダイビング用のケース)の発売も予定しているとのことなので、写真連携も含めて今後のアップデートに期待したい。
筆者紹介――太田百合子 テックライター。身近なデジタル製品とそれら通じて利用できるサービス、アプリケーション、および関連ビジネスを中心に取材・執筆活動を続けている。
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