スマホ半導体で競争激化 クアルコムvs.メディアテック
ASCII.jp / 2022年12月1日 9時0分
ハイエンドスマートフォン向けSoCの競争が過熱している。
メディアテックは11月11日、Wi-Fi7に対応した次世代SoC「Dimensity 9200」を発表。それに対抗するかのようにクアルコムが2022年11月15日(現地時間)、同じくWi-Fi7に対応した次世代SoC「Snapdragon 8 Gen 2」を発表している。
Dimensity 9200を搭載したスマートフォンとしてvivoが「X90 Pro」を発表したかと思えば、同じくvivoがSnapdragon 8 Gen 2を搭載した「X90 Pro+」を発表している。
中国市場に注力する2大メーカー
どちらの半導体メーカーも注力しているのは中国市場だ。
クアルコムは、例年、この時期に新製品を発表するイベントをハワイ・マウイ島で開催しているのだが、元々の狙いは「中国のメディアが来たくて呼びやすい場所」として、この地を選んでいるとされている。
しかも、基調講演の開始時間はハワイ時間の午後1時に設定されていた。
通常、この手のイベントの基調講演は午前9時や10時といったように朝イチに開催するのが常識なのだが、クアルコムはなぜか午後1時から始めた。
実は、ハワイの午後1時というのは中国時間の午前8時であり、なんとか中国メディアが地元で参加できる時間帯なのだ(同じ時刻に中国でもイベントを開催)。
つまり、マウイ島で開催されているものの、かなり中国市場を意識したイベントなのがよくわかる。
フラグシップでもメディアテックが存在感
なぜクアルコムが中国市場を重視するのか。
おわかりのように、中国にはOPPOやシャオミ、vivoといった世界でもシェアの多いスマートフォンメーカーが数多い。ほかは、世界トップシェアは自社で半導体を手がけるサムスン電子だし、アップル・iPhoneも自社でAシリーズの半導体を手がけている。
日本においては、シャープやソニーなどのAndroidメーカーがあるものの、世界的なシェアはかなり小さい。結果として、クアルコムが中国市場を重視するのは当然というわけだ。
これまでエントリーやミドルクラスに強かったメディアテックに対して、クアルコムはフラグシップ向けをがっちりと押さえている印象があった。
しかし、2021年第一四半期の中国におけるフラグシップスマートフォン向けのシェアではメディアテックが12.1%だったのに対し、2022年第2四半期では33.9%もシェアが向上しているという。いまだに大部分はクアルコムがシェアを抑えているものの、着実にメディアテックの存在感が増しているのだ。
スマートテレビで知られるメディアテック
メディアテックといえば、日本ではSIMフリースマホの一部に搭載されていたり、キャリアが採用するエントリーモデルにごく一部、採用されているなど、まだまだマイナーなブランドでしかない。
しかし、世界的に見れば、スマートフォンやフィーチャーフォン、ARMベースのChromebook、Androidタブレット、ボイスアシスタントデバイスなどでトップシェアを誇っている半導体メーカーだ。
特に注目なのがスマートテレビであり、Androidが搭載されているような日本メーカーのスマートテレビにおいては、相当なシェアを誇っているのがメディアテックなのだ。
これまではエントリーやミドルクラスが中心だったスマートフォン向けの半導体であったが、フラグシップ向けも開発を強化することでクアルコムの牙城を切り崩すつもりのようだ。
クアルコムはフラグシップを“横展開”
一方、フラグシップ向け半導体「Snapdragon」を着実に縦から横に展開しつつあるのがクアルコムだ。
フラグシップ向けに「Snapdragon 8 Gen 2」を発表したばかりだが、ここで投入されている技術は数ヶ月後、Snapdragon 7や6シリーズにも搭載されていく。ミドルクラスも価格を抑えつつ、着実に進化を遂げている。
先日、開催されたSnapdragon SummitではAR向けの「Snapdragon AR Gen 1」を発表。これまでの半導体である「Snapdragon XR2+ Gen1」はVRやMR、ARなどXR向けであったが、今回はARに特化することで、メガネ型デバイスでもバッテリーを消耗しくく、小型で搭載しやすいような工夫が施されている。
Snapdragonにおいては、Windows on ARMといったようにWindows PC向けのチップもあれば、自動車の自動運転向けのプラットフォームなど多彩なラインナップを構築しつつある。
クアルコムvs.メディアテックの戦いは続く
またクアルコムは世界的に通信キャリアやマイクロソフト、メタ、グーグルなどのパートナーとも親密な関係を築いているイメージが強い。
最近ではF1のフェラーリチームや、サッカーのマンチェスターユナイテッドとパートナーを組むなど「Snapdragon」のブランドを世界に認知させようという取り組みも強化しつつある。
「チップの技術的なスペックはユーザーは理解できない」という危機感から「Snapdragonであれば、最高のユーザー体験が手に入る」というブランディングに舵を切っているようだ。
今後、スマートフォンのみならず、メタバースやクルマなどあらゆるモノが通信をしていくようになる。その時、いかにコストパフォーマンス良く「どちらが高性能で省電力で、安定した通信ができるか」という点でクアルコムとメディアテックは永遠に戦い続けることになりそうだ。
筆者紹介――石川 温(いしかわ つつむ)
スマホ/ケータイジャーナリスト。「日経TRENDY」の編集記者を経て、2003年にジャーナリストとして独立。ケータイ業界の動向を報じる記事を雑誌、ウェブなどに発表。『仕事の能率を上げる最強最速のスマホ&パソコン活用術』(朝日新聞)など、著書多数。
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