ユーミン万歳! 松任谷由美の50周年記念アルバムほか~麻倉怜士推薦盤
ASCII.jp / 2022年12月2日 15時0分
評論家・麻倉怜士先生による、今月もぜひ聴いておきたい“ハイレゾ音源”集。おすすめ度に応じて「特薦」「推薦」のマークもつけています。優秀録音をまとめていますので、e-onkyo musicなどハイレゾ配信サイトをチェックして、ぜひ体験してみてください!!
この連載で紹介した曲がラジオで聴けます!
高音質衛星デジタル音楽放送、ミュージックバード(124チャンネル「The Audio」)にて、「麻倉怜士のハイレゾ真剣勝負」が放送中。毎週、日曜日の午前11時からの2時間番組だ。第一日曜日が初回で、残りの日曜日に再放送を行うというシークエンスで、毎月放送する。
『ユーミン万歳!~松任谷由実50周年記念ベストアルバム~』 松任谷由実
民放ラジオ99局“スピーカーでラジオを聴こう”キャンペーン企画「ユーミンリクエストWEEK」に寄せられたリクエスト曲と、エピソードを元に選曲したユーミン50周年アルバム。ハイレゾではこれまで、2019年に「40周年記念ベストアルバム 日本の恋と、ユーミンと。[Remastered 2019]」と「45周年記念ベストアルバム ユーミンからの恋のうた。[Remastered 2019]」が、リマスター作品としてe-onkyo musicからリリースされている。
今回はGOH HOTODAによる2022年最新ミックスだ。比較してみたが、もの凄く違った。「40周年記念ベストアルバム 日本の恋と、ユーミンと」の「中央フリーウェイ」ではギターが左、ヴォーカル、ベース、キーボードは中央、パーカッションとドラムスは右に位置している。[2022 mix]の「中央フリーウェイ」ではヴェールを外したように音場が透明になり、各音像が締まった。40周年版は、各音像がもう少しブロードだった。新版は音の粒子とグラテーションが緻密になり、ディテールへの描写が繊細になり、音の表面の僅かな凹凸がより明瞭に感じられるようになった。楽器の配置は基本的に同一だが、ギターソロが前面に出て、左のカッテングギターも明瞭になった。ベースの音階の輪郭もくっきりとし、キーボードサウンドに煌びやかさが加わった。一方で、右のコンガは抑制された。総合的にS/Nがよくなり、弱音部のダイナミックレンジが拡大された。
FLAC:96kHz/24bit Universal Music LLC、e-onkyo music
『エクリプス』 ヒラリー・ハーン, フランクフルト放送交響楽団, アンドレス・オロスコ=エストラーダ
長期休暇後初めての録音を“エクリプス”(日食)の後に起こる光の復活に喩えるとは、さすがヒラリー・ハーンだ。コンセプトは故郷を離れても、熱く故郷を思っていた作曲家たち---チェコのドヴォルザーク、スペインのサラサーテ、アルゼンチンのヒナステラの作品集だ。マッシブな響きと、臨場感豊かなソノリティが美質だ。ハーンの背後に控えるオーケストラが芯がしっかりとした、剛性の高い音を聴かせ、ハーンが強靱でカラフルなヴァイオリンを聴かせる。「カルメン幻想曲」はフランクフルトのアルテオーパーでライブ収録。このホールは、たいへん響きが多く、癖っぽいのだが、それを感じさせないふくよかで上質なオーケストラサウンド、切れの良い鮮明なヴァイオリンが愉しい。2021年4月、6月、フランクフルトはヘッセン放送ゼンデザール、アルテオーパーでのライヴ録音。
FLAC:48kHz/24bit Deutsche Grammophon (DG)、e-onkyo music
『Revolver[2022 Mix]』 The Beatles
『Sgt. Pepper’s Lonely Hearts Club Band』(2017年)、『The Beatles (White Album)』(2018年)、『Abbey Road』(2019年)、『Let It Be』(2021年)のリミックス&リマスター&拡張版に続く、『Revolver』スペシャル・エディションだ。オリジナルの4トラックのマスター・テープを使用し、新たにステレオ・ミックスした。音源分離技術によって、ヴォーカル、ギター、ベース、ドラムス……という個々の音源を抽出し、あるべき位置に再配置している。先ほど述べた『ユーミン万歳!~松任谷由実50周年記念ベストアルバム~』との共通項は多い。
聴いてみよう。一曲目の「Taxman」の2009年リマスター版(48KHz/24bit)はギター、ドラムスは左、パーカッションは右、ヴォーカルとコーラスはセンター。ソロギターは右だ。[2022 Mix]はまず音質がもの凄く違う。低音のベースが大きく明瞭に、輪郭がしっかりと。ヴォーカルは鮮明で、ヌケがクリヤーだ。全体にヴェールを剥がしたような鮮鋭、パワフルになった。伴奏のギターのリフも明瞭に。解像度があがり、ハイレゾ的な細部の明確さが得られた。ギター、ベースなどインストルメンタルはセンター、ヴォーカルとコーラスもセンター。ドラムスは中央やや左より。パーカッションは左。ギターソロは中央にレイアウト変更された。
FLAC:96kHz/24bit UMC (Universal Music Catalogue)、e-onkyo music
『Karol Szymanowski: Piano Works』 Krystian Zimerman
現代を代表するピアニスト、クリスチャン・ツィメルマンが生誕140周年のシマノフスキを弾く。面白いのは、新旧異なる会場で録音されていることだ。1994年5月14日-21日にコペンハーゲンのティヴォリ・コンサートホールでは「仮面劇(マスク)」が、2022年6月18日-22日の福山は、豊田泰久氏が設計を手掛けたふくやま芸術文化ホールでは、前奏曲やマズルカが録音されている。
ティヴォリ・コンサートホールの「 Masques, Op. 34 - I. Sheherazade. Lento assai. Languido」は強靱な打鍵がくっきりとした隈取りを持つ。90年代の録音だけあり、現代のピアノ録音のような徹底的な鮮明さではないが、音の芯がしっかりとした、安定したサウンドだ。ホールトーンも抑制的。
では福山のふくやま芸術文化ホールの音は?
「20 Mazurkas, Op. 50 - No. 13, Moderato」はまったく違うホールのソノリティ。いかにこのホールの鳴きがよく、ピアノをさらに引き立てているかが分かる名録音だ。ピアノ自体の響きが実に美しく、ピアノの直接音とホールからの音響をいただく間接音のバランスも素晴らしい。豊田サウンドの凄さが明瞭に分かり、ツメルマンのシマノフスキーへの愛も痛切に感じられる名アルバムだ。
FLAC:96kHz/24bit Deutsche Grammophon (DG)、e-onkyo music
『ヒア・イット・イズ:トリビュート・トゥ・レナード・コーエン』 Here It Is
名プロデューサーのラリー・クラインが、親友のシンガーソングライター、詩人、小説家の.レナード・コーエンに捧げた作品。ノラ・ジョーンズ、ピーター・ガブリエル、グレゴリー・ポーター、サラ・マクラクラン、ルシアーナ・スーザ、ジェイムス・テイラー、イギー・ポップ、メイヴィス・ステイプルズ、デヴィッド・グレイ、ナサニエル・レイトリフという豪華アーチスト陣が迎えられている。
ノラ・ジョーンズ「1.Steer Your Way」はバックはあえて輪郭を抑え、淡い雰囲気だが、センターに大きく定位したヴォーカル音像は明瞭で、明確。ダブルトラックも豊潤だ。ノラ・ジョーンズの持ち味の、こってりとしたニュアンス再現も、クリヤーに聴ける。サラ・マクラクランの「4.Hallelujah」はセンターのヴォーカルが深く、大きなヴィブラートが濃厚な感情を聴かせる。フルートとベース、ピアノというシンプルな編成のバックが、佳い味を醸し出し、渋いヴォーカルを支える。
FLAC:96kHz/24bit Blue Note Records、e-onkyo music
『Dvorak: Poetic Tone Pictures, Op.85』 Leif Ove Andsnes
ドヴォルザークの「詩的な音画集」は あまり知られていないが、実に美しい。旋律がきれいで、親しみやすい。レイフ・オヴェ・アンスネスは、親愛の情で奏でる。
「これは19世紀ピアノ音楽の中で忘れ去られた大曲であるーーー私はドヴォルザークの『詩的な音画集』について、こう断言したい。この曲は、交響曲や弦楽四重奏曲で知られるドヴォルザークのイメージとは別の魅力を湛えているのだ。とにかく私はこの作品が大好き。でも誰も演奏しない!いくつもの物語が含まれた曲集だが、一つの大きな物語のようでもある。語り部が、分厚い本を開いて、『さあ皆さま、私の話をお聞きください』と語り始めるかのようだ。ドヴォルザークはここで、ピアノから独特の音色を生み出し、自信をもってその幅広い音のレンジを使い尽くしている。」(レイフ・オヴェ・アンスネス)。 本曲への愛情が深く感じられる演奏。響きの量が適切で、ピアノの音情報も多い。高音の打鍵のクリヤーさと、低音のスピード感が、録音の優秀さを聴かせる。2021年4月24日~28日、ノルウェーはトロントハイムのオラフ・ホールで録音。
FLAC:192kHz/24bit Sony Classical、e-onkyo music
『Brahms: Double Concerto & C. Schumann: Piano Trio』 Anne-Sophie Mutter, Pablo Ferrandez
ヴァイオリンの女王、アンネ=ゾフィー・ムターとスペインのチェロの新鋭、パブロ・フェランデスとのブラームスのドッペル・コンチェルト。ブラームスはムターにとってカラヤン&ベルリン・フィルとの1983年録音以来の約40年ぶりの再録音だ。ドイツ・グラモフォンの専属アーティストのムターが、Sony Classicalで録音するのは異例。
ムターは女王の貫禄で、フェランデスをひっぱり上げる。チェロの低音力、ムターの艶と剛性が聴きものだ。マンフレート・ホーネックとチェコ・フィルハーモニー管弦楽団は実に雄大なブラームス的なピラミッドサウンドで、2人を支える。特に低音のスケール感はまさにブラームス的。録音はスケールの大きさを素直に捉え、ゴージャスなオーケストラサウンドが楽しめる。ブラームスはプラハのCESCAフィルハーモニアで録音。
FLAC:96kHz/24bit Sony Classical、e-onkyo music
『Mahler: Symphony No. 9 (Live)』 Bavarian Radio Symphony Orchestra
バイエルン放送交響楽団の、2021年11月26日と27日のイザールフィルハーモニー(Isarphilharmonie)での公演は、心に染みいるマーラーだ。感情が深く感傷的で、抑揚が大きい。ソロやパートの味わいも深いが、トゥッティで大振幅の感情の揺れ動き、音色の多彩さは、刮目だ。新首席指揮者サイモン・ラトルがバイエルン放送交響楽団の高性能を十分に活かした形だ。BR-Klassik作品は、これまでホールトーン主体のものが多かったが、新しいイザールフィルハーモニーでのライブは、細部までの切れ込みが鋭く、解像度が高い。ミュンヘンを代表するコンサートホールのガスタイクが5年を掛けて改築するため、代替として。イザール川の中州の建物を利用して、一時的につくられたホールがイザールフィルハーモニー。暫定施設だが1900席を備え、設計は世界的に有名な豊田泰久氏。クリヤーで明瞭で、どの席もバランスが良いとの評判だ。その音響の優秀さは、本タイトルでも十分に感じられる。
FLAC:96kHz/24bit BR-Klassik、e-onkyo music
『Re Blue』 Sunaga t experience, J.Lamotta Suzume
ジョニ・ミッチェルのアルバム "BLUE"を、須永辰緒のソロユニットSunaga t experienceがシンガーにイスラエルのJ.Lamottaすずめを迎え、ジャズ作品として全曲カバー。プロジェクト名は "Re Blue"。ジョニ・ミッチェルのオリジナルもe-onkyo musicでリリースしているので、「All I Want」を比較してみた。ジョニ・ミッチェル版はヴォーカルとギターとベース、カホーンがセンター、右に別のギターが位置。ヴォーカルの質感はかなり、はっきり、くっきり型で、時代の香りを感じる。ヌケの良いヴォーカルの輪郭感、レンジ感で、シンプルな物言いにて明瞭にメッセージを伝えている。
Sunaga t experienceはドラムスとピアノ、SAXがゴージャスなサウンド。ヴォーカルはまったく質感が異なり、少し気だるい夜の音楽のような雰囲気。低音部がしっかりと安定したピラミッド的な周波数構造にて、センターに定位した、ヴォーカルはボディがしっかりとした大きな音像。かなりなオンマイクで、細かなニュアンスなども捉えられている。ベースとリズムを強調した現代的なアレンジ。原曲のフォーク的な香りはまったくなく、フュージョン的な仕上がりだ。
FLAC:96kHz/24bit Flower Records、e-onkyo music
『Classical Trio』 牧山純子
ヴァイオリニストの牧山純子は「クラッシックのイメージが強いヴァイオリンで、様々なジャンルの壁を乗り越えていくというのが私の目指すところです」という。プロデューサー&エンジニアのHD Impression阿部哲也氏に録音の様子をおうかがいした。
「牧山純子さんから制作依頼を受け、コンセプトなど伺い、ホールかスタジオかどちらで録音するか悩みましたが、ライブ音源などを聴かせていただくと、テーマ部分はクラシック、ジャズならではのアドリブ部分、といった2部構成の曲が目立ちましたので、今回はスタジオ録音に決めました。課題は、スタジオ録音でクラシック部分を、ホールで録ったかのような荘厳な臨場感ある音にするかでした。演奏が見える立体的な音像、ホールのような残響が動く様、これらを再現するために、アンビエンスに拘り、ピアノやチェロは音像が上がらないようなマイキングをし、ヴィオリンは立体的なサラウンドを意識したマイキングをしました。結果、トリオらしい三角形の音像が出来上がり、残響はホールのように天井に広がり後方へ動くといった再現も出来ました。残響はアンビエンスを駆使したことにより自然な広がりを出すことが出来、トリオとは思えない繊細かつ迫力ある演奏を、楽しんで頂ければ幸いです。また、サラウンドは、音像の大きさや、残響の動きなど、サラウンドでしか味わえない創りになっております。こちらも楽しんで頂ければ幸いです」
ジャズアレンジのクラシックは幾万もリリースされているが楽しさ、快活さ、微笑みでは本アルバムで決まりだ。オーソドックスなアレンジに加え、意表を衝くアレンジがなされ、全編、新鮮な体験だ。録音は空気感が透明で、ヴァイオリン、チェロ、ピアノの音色がきれいに収録されている。「12. 明るい表通りで 変奏曲」、逆にクラシカルなバリエーションだ。
FLAC:192kHz/24bit HD Impression、e-onkyo music
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