楽天プラチナ問題、ドコモの提言で解決か
ASCII.jp / 2022年12月12日 9時0分
楽天モバイルのプラチナバンド再割り当てに救世主が現れた。
これまで楽天モバイルは「プラチナバンド」というつながりやすい周波数帯を持っておらず、エリア展開に苦戦を強いられていた。
2023年には全国で6万基地局を建設する計画だが、山間部などはいまだにKDDIのネットワークにローミングせざるを得ない。ユーザーがKDDIネットワークにローミングすれば、楽天モバイルはKDDIに対して接続料を支払わなくてはならず、これが赤字につながっていた。
楽天モバイルとしては早期に全国ネットワーク網を構築しなくてはならないのだが、4Gで所有している周波数帯が1.7GHzだけであるため、効率よくエリアを広げるのに限界があった。
プラチナバンドがあれば、山間部や離島、さらに都心部のビルの中など隅々にまで電波を飛ばすことができる。楽天モバイルが既存3社と互角に戦うにはプラチナバンドが不可欠なのだ。
楽天モバイルを何とか支援したい総務省が編み出したのが「既存3社のプラチナバンドを少しずつ返してもらい、楽天モバイルに渡す」という秘策であった。総務省では2022年10月1日に電気通信事業法を改正し、すでに使っている周波数帯でも、別の事業者が「うちのほうが電波の利用効率が良い感じで使えます」とアピールして認められれば、周波数帯を奪えるというルールを作ったのだった。
この法改正に合わせて有識者会議が開かれ、楽天モバイルは「1年で電波を渡してほしい。工事に関する費用は一切負担しない」と宣言。それに対して既存3社は「渡すのに10年かかる。工事費も1000億円ぐらいかかる」と猛反発した。
総務省は結局、「5年かけて移行する。工事費用は既存3社が負担」という楽天モバイルに有利な決着をつけたのだった。
不利な条件に3社が猛反発
しかし既存3社としたら、こんな一方的で不利な条件に納得できるわけがない。3社それぞれで楽天モバイルにプラチナバンドの一部を渡すために1000億円規模の工事費用が必要となる。既存3社にとってみれば、自社の収益にまったくつながらない工事のために1000億円という金が飛んでいくのだ。政府の圧力による値下げで通信料収入がガタ落ちし、ようやく立て直しつつある段階で1000億円規模は相当な負担となる。しかも、本来であれば全国に5Gの基地局を増やすための工事をしなくてはならないのだが、楽天モバイルにプラチナバンドを渡すための工事が優先されれば、5Gの展開は大きく遅れてしまう。
3社とすれば、5Gのエリアを広げることで、高速通信ができる場所を増やし、結果としてユーザーがデータ通信を使うことでデータ通信料収入を上げるのが理想であったが、それも計画が遅れることになる。
さらに、すでに所有するプラチナバンドの一部を楽天モバイルに渡すとなると、なくなるプラチナバンドを補完するため新たに基地局を作る必要も出てくる。
また、本来であればプラチナバンドに4Gと5Gを混在させる技術を入れていたとしても、プラチナバンドの幅が小さくなれば、期待していたスペックが出ないことも予想される。
楽天モバイルにほんのわずかなプラチナバンドを渡すだけなのだが、既存3社にとっては大迷惑な話なのだ。
そんななか、NTTドコモが動いた。
NTTドコモが技術提言
総務省に対して「プラチナバンドに使われていない箇所があり、そこを使えるように技術的な検証をすべきでは」と提言してきたのだ。
この使われていない場所というのは、国際規格ではバンド28に位置づけられている。イギリス、フランス、ドイツ、オーストラリア、台湾などで使われており、日本で販売されているiPhoneもしっかりと利用可能だ。
ただ、実際に使われていないプラチナバンドの幅は3MHz(×2)しかない。既存3社からはそれぞれ5MHz(×2)、合計で15MHz(×2)を再割り当てしようとしていた。
既存3社から巻き上げるよりも、かなり狭い周波数帯となるのだが、NTTドコモの試算によれば「1100万契約のユーザーを収容できる。下りの通信速度は30Mbps」という。
現在、楽天モバイル(MNO)のユーザーは2022年9月現在455万契約なので、余裕で収容することが可能だ。
また、既存3社からプラチナバンドを巻き上げるとなると、早くても2024年3月からのスタートとなりそうだが、使われていないプラチナバンドであれば、もっと早く楽天モバイルはプラチナバンドを全国一斉に開始することも可能だ。
「横取りなし」のハッピーエンドか
NTTドコモの提言を受けて、楽天モバイルは「総務省において、プラチナバンド再割当以外の新たな選択肢になりうる700MHz帯の3MHzシステムの検討が開始されたことを歓迎いたします。総務省における技術検討には、当社も参加予定であり、議論にしっかりと貢献してまいりたいと思います」とコメントしている。
仮に既存3社からプラチナバンドを巻き上げた場合、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクのユーザーも「これまでよりもつながりにくくなった」「速度が遅くなった」という悪影響が出る可能性もあった。
しかし、既存3社のプラチナバンドを横取りしなくても、新しいプラチナバンドが発掘されたことで、楽天モバイルもすぐに全国でプラチナバンドを始められ、さらに既存3社も1000億円という大金を負担することなく、プラチナバンドを死守できる。
まさに4社がいがみ合うことなく、ハッピーエンドで終わるシナリオになりそうだ。
筆者紹介――石川 温(いしかわ つつむ)
スマホ/ケータイジャーナリスト。「日経TRENDY」の編集記者を経て、2003年にジャーナリストとして独立。ケータイ業界の動向を報じる記事を雑誌、ウェブなどに発表。『仕事の能率を上げる最強最速のスマホ&パソコン活用術』(朝日新聞)など、著書多数。
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