Apple幹部が熊本県立大学で若き学生デベロッパーに伝えたこと
ASCII.jp / 2022年12月13日 16時30分
アップルのワールドワイドマーケティング担当 上級副社長であるグレッグ・ジョズウィアック氏が熊本県立大学を訪れ、2022年の6月に開催されたWWDC22 Swift Student Challengeの入賞者を輩出した同校総合管理学部・飯村研究室の学生たちと交流を持ちました。
WWDC 2022 Swift Student Challengeに入賞した 学生デベロッパーの素顔
Swift Student Challengeとは、世界中の学生デベロッパーが自由にテーマを選び、アップルのプログラミング開発環境であるSwift Playgroundsを使ったコーディングスキルを披露するイベントです。参加者が持ち寄った独自のアプリの中から、2022年は40ヵ国350人以上の学生たちが入賞者に選ばれました。飯村研究室に所属する4年生の中村優太氏は、クイズゲームの感覚で日本の伝統的な「色」が学べるアプリ「WA-color(和色)」により見事に入賞しました。
研究室を訪ねたジョズウィアック氏は、学生たちが開発したアプリをiPadで体験しました。iPadの画面に表示される色の名前を、7色のカラーパレットから選んで正解を引き当てるというシンプルなクイズアプリですが、難易度の高さはなかなかのもの。ジョズウィアック氏は前のめりになりながら、学生たちと楽しそうにと歓声をあげていました。
中村氏は、Swift Student Challengeが実施されていることを飯村伊智郎博士に教えてもらったことがきっかけで応募。「日本の伝統的な和の色に興味がありました。iPadの美しいグラフィックに、多彩な日本の伝統色がマッチと考えた」ことからアイデアが生まれ、中村氏がひとりでわずか3日の間に完成度させたといいます。
飯村博士は、日ごろMacやiPadなどアップルのデバイスとデベロッパー向けツールを駆使しながら学生たちを指導しています。学びのフィールドは社会科学と情報科学の両側へ広くしながら、「人とコンピューターとが豊かに共存し、安全で安心できる快適な社会の実現に向けて研究活動を行っている」のだと飯村博士は研究室での活動を説明しています。
同校の総合管理学部は文系として分類される社会科学系の学部です。WA-colorアプリを制作した中村氏は高校生の頃にプログラミングを習得されたそうですが、基本的には多くの学生たちがコーディングスキルを持たずに研究室のドアをたたき、2年生の後期から研究室に所属して以後、1からプログラミングを学ぶそうです。
かたや飯村博士の研究室に所属する学生たちは、社会の問題に目を向けて様々なことに興味、関心を抱き、解決すべき課題を見つける感度が高く、また「テクノロジーを使って社会の課題を解決すること」にも強い興味を持っているそうです。
飯村博士は、生徒たちにあえて「コーディングは教えない」のだといいます。
「指導者として、学生たちにSwift Playgroundsの課題を与えながら次に進むべき道を示したり、学習環境をデザインしますがコーディングは教えません。代わりに先輩の学生たちをメンターとして付けます。プログラミングはたくさんの機能を教えられるだけでは使いこなせるようにならないものです。自分から主体的に学ぼうとすることで力になると考えているからです」(飯村博士)
ジョズウィアック氏が語る「アップルのチームワーク」
飯村研究室の学生たちが、チームワークにより開発したアプリもApp Storeで13万を越えるダウンロード件数を獲得しています。それが「ふろジック」です。
ふろジックもまた、ゲーム感覚でトレーニングを重ねながら「楽譜が読めるようになる」ためのiPadアプリです。音楽が好きな中村氏が、小中学校の頃は「楽譜が読めないこと」から音楽に苦手意識を持っていたことを思い出し、子どもたちがアプリを使って楽しく音楽を学べる環境を作りたいという思いからアイデアが生まれたといいます。
コーディングは中村氏が担当し、アプリ内の楽曲や効果音も中村さんがGarageBandで作成しています。ゲーム以外にもビデオを見な「音楽記号」が学べるコンテンツもあり、こちらを中村氏と同学年の黒木貴蘭氏が担当しています。イラストはiPadとApple Pencilで描き、Macでビデオコンテンツとして編集したそうです。
ふろジックの開発プロジェクトが始動する頃、「アプリのテイストを楽しくするか、勉強っぽくするかを巡ってチームの中で意見が分かれた」と中村氏が振り返ります。中村氏は「アップルではチームワークの中で意見が分かれた場合には、どのように乗り越えてきたのか」とジョズウィアック氏に訊ねました。
Coding opens the doors to new opportunities. Seeing how the young developers at the Prefectural University of Kumamoto are using Apple technology to create apps that serve and support their communities is a sign of many good things to come! pic.twitter.com/ASmFDkY9TJ
— Greg Joswiak (@gregjoz) December 12, 2022
「アップルで働く私たちはチームワークの際、メンバーが互いに遠慮することなく建設的な姿勢で主張をぶつけ合うことを是としています。それぞれの考えに触れることは、他のメンバーが新たな知識を獲得することでもあり、議論を通じて良いアイデアが生まれることがあります。考え方が異なっていた場合でも、一度合意に至った後は、プロジェクトを良い方向へ導けるように皆で全力を尽くします」(ジョズウィアック氏)
ジョズウィアック氏は「ものづくりに挑んでいる時に、一番楽しかった瞬間」を学生たちに問いかけました。黒木氏は「私たちが作っているアプリを使ってくれる方々のことを思いながら、アプリのデザインを考えている時間が最も楽しかった」と振り返りました。
「あなたと同じように、アップルもまたデバイスやサービスを利用するユーザーの側に立ちながらデザインのディティールを詰めることにとても注力しています」とジョズウィアック氏は答えています。
「複雑なものよりも、シンプルな体験をデザインすることの方がとても困難です。日本のユーザーの皆様は、そのような良質なデザインが持つ価値をよくご存知です。アップルが日本のユーザーの皆さまに選んでもらえる大きな理由がここにあると考えています」(ジョズウィアック氏)
日本の学生デベロッパーと直接触れ合う機会を持てたことで、ジョズウィアック氏もイノベーションの未来に大きな可能性を感じている様子でした。中村氏と黒木氏は飯村研究室で学んだ沢山のことを携えて、間もなく卒業を迎えます。ふたりはジョズウィアック氏から得た「良きチームワーク」のアドバイスを、これから社会に出た後も活かしたいと口を揃えていました。
筆者紹介――山本 敦 オーディオ・ビジュアル専門誌のWeb編集・記者職を経てフリーに。取材対象はITからオーディオ・ビジュアルまで、スマート・エレクトロニクスに精通する。ヘッドホン、イヤホンは毎年300機を超える新製品を体験する。国内外のスタートアップによる製品、サービスの取材、インタビューなども数多く手がける。
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