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ワンランク上の撮影になる、ハニカムグリッドのライティング

ASCII.jp / 2023年1月3日 16時0分

プロの現場はライトの数が多い

 テレビに出演するようになり、撮影スタジオで驚いたのは、ライトの数の多さです。その理由は、ライトの数が多いほど、きれいに撮影できるから。さらにライトの数が多いほど、光をコントロールしやすいから……。自分で撮影をするようになって、初めて気がつきました。

「WeChargeアンバサダー」(ユビ電)のCMの撮影シーン。スタジオではライトやレフ板を数多く使う

 2つのポイントを整理してみましょう。

ポイント1:ライトの数が多いほど、きれいに撮影できる  バラエティ番組などに多いライティングです。出演者やセットが明るくなり、影もないので健康的なイメージに映ります。カラフルな出演者の衣装があざやかに見えるのも特徴です。

ポイント2:ライトの数が多いほど光をコントロールしやすい  ドラマやポートレート(インタビュー)撮影で、人物やセットを立体的、ドラマティクに見せる効果があります。ただし、影の部分に光がないわけではなく、弱いライトが当てられていることがほとんどです。

 先日、日本テレビ系ドラマ『霊媒探偵・城塚翡翠』でマジックの監修を担当しました。そこでは、暗い隠れ家のシーンにおいても、本当は多くのライトが使われていました。

 そこで難しいのが、弱い光を作ること。意外ですが、光量が多く明るい光を作るよりも、弱い光を作ってコントロール(角度や光量などを変化させていくこと)するほうが、より難しい。その理由は、光のタイプにあります。

弱い光と強い光、柔らかい光と硬い光

 最近、ネットショップなどで販売される撮影用のLEDライトは、ボリュームで光量を調整できることがほとんど。弱い光も強い光も手軽に調整できます。

 しかし、LEDライトは点光源(もしくは、その集合体)ですから、ライトが当たる対象の影をくっきりさせます。プロが言う「硬い光」です。

 一方で「柔らかい光」は、ディフューザーと呼ばれる白く透過性のある布やフィルムを、ライトの前に置いたり、ライトからの光を壁や反射版に当てたりして光を拡散させて作ります。被写体の影をボンヤリとさせるのが特徴です。

 よく晴れた日に直射日光の下で撮影すると、ハッキリした影ができ、コントラストの強い写真になります。しかし、曇りの日に撮影すると柔らかい印象の写真になる。これが「硬い/柔らかい」光の違いです。

 拡散させるためのディフューザーは、ライトだけでなく空調にも使われています。以下の写真のようなディフューザーをオフィスの天井などでご覧になったことがあるかもしれません。これは、ヘアドライヤーのように直接当たる風を拡散して、柔らかい風を発生させる効果を生み出しています。

空調用ディフューザー

拡散しない、直線的な光を作るハニカムグリッド

 柔らかいだけでなく、さらに直線的な光を作るのがハニカムグリッドです。名前のとおり、蜂の巣に似た形状から名付けられました。蜂の巣は六角形ですが、ライティング用のハニカムグリッドは四角形。黒いテープの組み合わせでできている製品がほとんどです。

ライトの前のハニカムグリッド。奥には白いディフューザーが見える

ハニカムグリッドのデメリットとメリット

 ハニカムグリッドは、かゆいところに手が届く、とても便利な照明といえます。

 メリットとしては、ポートレート撮影(動画撮影を含む)で、人物などを柔らかく、コントロールしやすい光で撮影できること。具体的には、背景など周囲に光の影響を与えずに、光量の強弱、光の質、角度などがコントロールしやすいことが大きなメリットです。

ハニカムグリッドだけで撮影したポートレート。対象が背景から浮かび上がるように明るく写る
背景に光が漏れず、対象だけに光が集中して当てられる

 1980年の「フジカラープリント」のテレビCMに「美しい人はより美しく、そうでない方はそれなりに」というフレーズがあり、当時の流行語になりました。ハニカムグリッドからのライトは、そんな効果があるといっても大袈裟ではないかもしれません。

 しかし、デメリットもあります。強い光源が必要なことです。変な話ですが、ディフューザーもハニカムグリッドも、光を遮ることでその効果を生み出すからです。

 つまり「光源」→「ディフーザー(弱めて光を拡散させる)」→「ハニカムグリッド(拡散光をカットする)」という矛盾しているような構造上、ライトが大きくなり、バランスが悪くなります。機器が大きく重くなる。それが、ハニカムグリッドを使うデメリットです。

機材が大きく、重くなるので、バランスの取れるスタンドが必要になる

マジックでも光の強弱が大切

 ライティングにおける光の強弱や硬い/柔らかいの重要性ですが、マジックにも同じことがいえます。

 強烈なエフェクトも大切ですが、それを引き立たせるための要素のほうがより重要なのです。

 たとえば、クラシックなマジシャンが白い鳩を出すマジックで好評を得たのは、ライトに当たる白い鳩が膨張色の効果でより大きく見えるからです。マジシャンの衣装の色は黒系で、コントラストとして美しいわけです。スマートなマジシャンが、大きく見える鳩を何羽も出現させる……。これも光のマジックです。

 ドラマ『霊媒探偵・城塚翡翠』をご覧になった方は、主演の清原果耶さんも黒いドレスを着てマジックを披露していたことにお気づきだったでしょうか。「美しい人はより美しく……」というのが、とてもよくわかるシーンでした。

前田知洋(まえだ ともひろ)

 東京電機大学卒。卒業論文は人工知能(エキスパートシステム)。少人数の観客に対して至近距離で演じる“クロースアップ・マジシャン”の一人者。プライムタイムの特別番組をはじめ、100以上のテレビ番組やTVCMに出演。LVMH(モエ ヘネシー・ルイヴィトン)グループ企業から、ブランド・アンバサダーに任命されたほか、歴代の総理大臣をはじめ、各国大使、財界人にマジックを披露。海外での出演も多く、チャールズ英国王もメンバーである The Magic Circle Londonのゴールドスターメンバー。

 著書に『知的な距離感』(かんき出版)、『人を動かす秘密のことば』(日本実業出版社)、『芸術を創る脳』(共著、東京大学出版会)、『新入社員に贈る一冊』(共著、日本経団連出版)ほかがある。

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