「ヘタしたら世界10番手」日本が5Gで大きく出遅れた理由
ASCII.jp / 2022年12月29日 9時0分
スマホ業界内でよく危惧されているのが、世界と比べて「日本は5Gの普及が遅れている」という指摘だ。
実際のところどうなのか。2022年12月22日、エリクソン・ジャパンが今年11月に発表した「エリクソン・モビリティレポート」に関するオンライン会見を実施。日本が世界から5Gで大きく後れをとっている点がデータからも浮き彫りになった。
基地局が少なく、速度が遅い日本の5G
例えば2022年前半時点で日本にある5G基地局の数は14.6万局となっている。LTE基地局が75.5万局あるため、比率としては19%となっている。14.6万局の多くはLTEからの流用であり、5G用に割り当てられたサブ6の基地局は6.9万局にとどまっている。
世界中のキャリアのネットワーク品質を調べているOpensignalの調査では、東京都内での5G補足率は平均で7.3%、山手線内でも17%強となっている。
5Gのスループットに至っては、韓国が536.2Mbps、台湾が309.5Mbps、中国が296.3Mbpsなのに対して、日本は165.1Mbpsと圧倒的に遅い。
サブ6基地局の面積あたりの基地局密度や人口あたりの基地局密度で韓国や台湾に大きく差をつけられているだけに無理もない。
また、大量のアンテナ素子を搭載し、ビームで速度と安定性を実現するマッシブMIMOの基地局の割合でも、中国と台湾が90%以上、韓国が70%なのに対して、日本は10%程度にとどまっている。
実際のところ、何が原因で日本の5Gは他国よりも大きく遅れているのか。
5Gへの投資が抑制されてしまった
エリクソン・ジャパンの藤岡雅宣氏は「一番の理由は投資が抑制されている点。設備投資が遅れている。日本の場合、在宅勤務が増えたことで、モバイルのトラフィックが他国と比べてあまり増えていない。年間2割程度しか増加していないというのも理由として挙げられる」と語る。
設備投資が控えられていたという理由のひとつに「干渉問題」があった。サブ6に関しては、5G周波数の割り当て当初から衛星の地上局と干渉するという問題が指摘されていたのだ。そのため、キャリアが思うように5G基地局を設置できずに苦労していたようだ。
また、料金値下げの影響も大きそうだ。「これから5Gが始まるぞ」という2019年から2020年にかけて、政府からの「値下げ圧力」により、安価な料金プランが求められる機運が高まっていた。NTTドコモ「ahamo」、KDDI「povo」、ソフトバンク「LINEMO」といった新料金プランやブランドを始めたことで、各社ともモバイル通信料収入が数百億円レベルで減少した。5Gへの投資を一時的に抑制するという判断が効いても無理はない。
また藤岡氏は「耐震などの制度面における制約もあるのではないか」と指摘する。
通常、基地局はビルの屋上などに設置されていることが多い。ただ、マッシブMIMOのアンテナは従来のものに比べて大型で重量もそれなりにある。既存のLTE基地局と併設してしまうと重量がかさむため、屋上に設置できない問題に直面しているようだ。この点においては小型軽量のマッシブMIMOアンテナの開発が進んでいるため、問題の解消に向かっていくとされている。
円安で5Gスマホの普及も進んでいない
もうひとつ、日本が世界から5Gで遅れている理由は端末販売だろう。
総務省の意向により割引が規制されたことで、5Gスマホが買いにくくなってしまった。今年後半は円安基調にもなり、ハイエンド機種は20万円を超えるなど、簡単に手が出なくなってしまった。
最近では中古スマホの人気が高まっているようだが、4Gしか使えない中古スマホが売れていくとなると、結果として5Gスマホの普及が遅れにつながっていく。
総務省では端末割引に関する見直しを進めつつあり、現在の「通信回線とのセット割引は上限2万円まで」というルールが改正される可能性が出てきた。
キャリアからは「中古の販売価格を下回るのは常識としておかしい」という指摘がでているが、裏を返せば「中古販売価格ぐらいまでの割引なら許容される」ということでもある。
1円やゼロ円で売られることは規制されるが、2万円以上の割引が適用され、新品の5Gスマートフォンが販売されるようになりそうだ。
5Gスマートフォンのユーザーが増えれば、キャリアとしても5G基地局を増やさなくてはならないだけに、ようやく5Gの普及が加速していくかもしれない。
「ヘタしたら世界10番手」キャリアも危機感
日本の5Gが世界に比べて遅れているという危機感は、実はキャリアの社長も抱いている。
KDDIの髙橋誠社長は「5Gをきちんと発展させないとBeyond5Gはやってこない。かつて、4Gを展開し始めていたころは、世界でも1番手、2番手を争っていた。しかし5Gでは、ヘタしたら10番手ぐらいのポジション。それじゃあちょっとねということで、2023年も5Gを盛り上げる方法をいろいろと提案していきたい」と意気込む。
2023年は、ようやく「5G普及元年」と言える年になってもらいたいものだ。
筆者紹介――石川 温(いしかわ つつむ)
スマホ/ケータイジャーナリスト。「日経TRENDY」の編集記者を経て、2003年にジャーナリストとして独立。ケータイ業界の動向を報じる記事を雑誌、ウェブなどに発表。『仕事の能率を上げる最強最速のスマホ&パソコン活用術』(朝日新聞)など、著書多数。
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