1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. IT
  4. IT総合

13900K搭載PCは空冷でもイケる?PL1設定別に性能と温度を検証

ASCII.jp / 2022年12月28日 11時0分

 サイコムの「G-Master Spear Z790/D5」は、シングルスレッドもマルチスレッドも高性能な第13世代インテルCoreプロセッサー(以下、第13世代Core)を標準搭載した高性能ゲーミングPCだ。PCケースには通気性に優れたCooler Masterの「MasterBox CM694」。CPUクーラーには冷却性能が高いNoctuaの「NH-U12S redux」を採用している点が大きな特徴となる。

 標準構成もポテンシャルが高い。メモリーはDDR5モデルで16GB(8GB×2)、ストレージは高速なPCI Express 4.0(以下、PCIe 4.0)接続の500GB SSD、フルHD~WQHDで多くのゲームをストレスなく楽しめるGeForce RTX 3060搭載ビデオカードを採用し、ゲーミングPCとして十分な性能が期待できる。

 空冷クーラーを採用しながら、BTOオプションで第13世代Coreの最上位であるCore i9-13900K(24コア/32スレッド)を選択できるところもおもしろい。簡易水冷クーラーでなければなかなか取り扱いが難しいとされるCPUなだけに、空冷運用時の性能と温度は気になるところ。

 そんなCore i9-13900Kを搭載した試用機材を触れる機会に恵まれた。前回は外観や内部をチェックしたので、今回はその性能と温度を探っていく。

サイコムのゲーミングPC「G-Master Spear Z790/D5」。標準構成の直販価格は28万9350円~(配送料込み)

 なお、CPU以外の試用機材の構成は標準構成モデルと同じだ。

高性能CPUの性能を引き出す難しさ

 ベンチマークの前に、G-Master Spear Z790/D5におけるCore i9-13900Kの電力設定を説明しておこう。最近のCPUの多くは大きく分けて2段階の電力制限がある。簡単に言うと、最初は処理を短時間で終わらせるようフルパワーで動作するが、長時間かかる作業だとわかると(≒一定時間が経過すると)、電力効率を重視した動作に切り替える、というものだ。

 例えば、Core i9-13900KだとCPUの仕様にある「最大ターボパワー」(Power Limit 2=PL2)が短時間処理時の電力の上限で、「プロセッサーのベースパワー」(Power Limit 1=PL1)が長時間処理時における電力の上限にあたる。

インテルのウェブサイトで公開されているCore i9-13900Kの標準仕様。最大ターボパワーは253Wで、プロセッサーのベースパワーは125Wになっている

 Core i9-13900Kのプロセッサーのベースパワーは最大ターボパワーの半分以下になっている。しかし、これは性能も半分に下がるという意味ではない。ある電力時における性能を「ワットパフォーマンス」と言うが、これが一定ではないからだ。

 一般的に、性能が高くなるほど多くの電力が必要になるが、電力効率は悪くなっていく。オーバークロック動作がその最たる例で、性能は上がるもののワットパフォーマンスは標準仕様で運用している時よりも下がってしまうことがざらだ。

 また、最大ターボパワーをできるだけ長く維持するためには、電力効率以外の面でも厳しい現実がある。それが、発熱の問題だ。CPUは温度が高くなりすぎると自動で動作クロックを落とし、規定の温度(Tjunction)を超えないようになっている。Core i9-13900Kの場合は100度がその温度になる。つまり、いくら最大ターボパワーを維持しようと思っても、CPUクーラーが100度未満にまで冷却できなければ速度が落ちてしまうのだ。

 Core i7やi9といった高性能CPUを使う場合、空冷クーラーではなく簡易水冷クーラーが推奨されている背景がこれだ。一般的に、空冷クーラーよりも簡易水冷クーラーのほうが冷却能力が高い。もちろん、全製品に言えることではないが、少なくとも360mmラジエーターの簡易水冷クーラーなら大半の空冷クーラーよりも強力に冷やせる。

 では、あえて空冷クーラーを採用しているG-Master Spear Z790/D5は高性能運用をあきらめているのかというと、そうではない。電力効率とCPU温度のバランスを見極め、プロセッサーのベースパワーのみを底上げすることで性能を引き出せるようになっているのだ。具体的にどうしているのかと言えば、電力設定を標準の「PL1=125W、PL2=253W」から「PL1=160W、PL2=253W」に変更している。

BIOSをのぞいてみると「Long Duration Power Limit」(PL1)が160W、「Short Duration Power Limit」(PL2)が253Wになっていた

 このPL1=160Wという電力設定変更が性能にどう影響を与えるのか。簡単に検証してみよう。

PL1の設定別に性能と温度と電力をチェック!

 検証方法は、CPUに高い負荷をかけて、その時のCPU電力・温度・性能をチェックするというシンプルなもの。CPUの設定はPL1を変更し、仕様通りの125W、サイコム設定の160W、最大ターボパワーと同じ253Wの3パターンで試した。なお、PL2はどの場合も253Wにしている。

 使用するベンチマークソフトは「CINEBENCH R23」。これはCGレンダリング速度でCPU性能を測ってくれるもの。CGレンダリングはマルチスレッド処理のため、CPUのコア数が多く動作クロックが高いほどリニアに性能が上がりやすい。そのため、CPUの最大性能を探るには適したテストだ。

 テストはすべてのコアを使用する「Multi Core」と、シングルスレッドテストの「Single Core」の2つ。なお、電力・温度・性能はモニタリングツール「HWiNFO64 Pro」を使用。CINEBENCH R23のテスト時間約10分間に対し、PL1動作に入っていると思われる開始約9分後の値でチェックしている。まずは、インテル標準のPL1=125W設定から見てみよう。

PL1=125W設定時のCINEBENCH R23の結果

 Multi Coreは30703pts、Single Coreは2287pts。Multi Coreのスコアーはさすがに低めだ。参考までに、ASUSの360mmラジエーター搭載簡易水冷クーラー「ROG RYUJIN II 360」を使用し、PL1もPL2も無制限にした設定した場合のベンチマーク結果と比べてみよう。参照記事はASCII.jp記事「CINEBENCH番長は秒で奪還!Core i9-13900K/Core i7-13700K/Core i5-13600K速攻レビュー【前編】」。

 この記事のMulti Coreテストの結果は38632ptsと、今回のテストよりも約8000ptsほど高い。もちろん、今回のPCとはOSも環境もかなり異なるので、単純比較はできない。しかし、このデータは裏を返せば、電力や放熱の余裕があれば、まだまだ性能上昇が期待できる状態とも言える。

 では、PL1=125W設定時の電力と温度を見てみよう。

PL1=125W設定時のCPU電力(CPUパッケージのパワー)と温度(CPUパッケージ)

 PL1が125Wのため、実際のCPUパッケージのパワーも9分時点では約124.8Wに抑えられていることが確認できた。また、CPUパッケージの温度は最大90度と、Tjunctionまでにはまだ余裕がある。空冷クーラーとはいえ、冷却能力はかなり高いと言える。

 続いて、サイコム設定となるPL1=160Wの場合を見てみよう。

PL1=160W設定時のCINEBENCH R23の結果

 Multi Coreは33208pts、Single Coreは2289pts。Multi CoreがPL1=125W比で約8%上昇している。PL1の制限はやはり大きいようだ。しかし、これだけスコアーが上がると、温度もかなり上がるのではないかと気になってくる。

PL1=160W設定時のCPU電力(CPUパッケージのパワー)と温度(CPUパッケージ)

 9分時点での電力は約159.7Wと、こちらも電力制限がきちんと働いている模様。CPUパッケージ温度は確かに上昇しているが、それでも最大92度とまだTjunctionには届かない。さすがに平均は63度から72度まで上がっているが、まだ余裕がある状態と言える。これなら長時間使い続けても安心できるだろう。

 では、最後にPL1=253Wの場合を見てみよう。

PL1=253W設定時のCINEBENCH R23の結果

 スコアーはさらに伸び、Multi Coreが36205pts、Single Coreは2286ptsだった。Multi CoreがPL1=125W比で約18%もアップした。なお、Single Coreはどの設定の場合も2286~2289ptsとなっており、ほぼ差がない状態だ。シングルスレッド処理においては、今回の電力制限の範疇では変化なしと言っていい。

 空冷クーラーでもここまで性能を引き出せるという結果は、なかなかに興味深い。ただし、CPU温度は大変なことになっていた。

PL1=253W設定時のCPU電力(CPUパッケージのパワー)と温度(CPUパッケージ)

 CPUのパッケージ温度は最大101度とTjunctionに達している。つまり、明らかにCPUクーラーの冷却能力が間に合っていないという状態だ。また、9分時点のCPUパッケージパワーは230W台に落ちており、253W付近で維持できていないこともわかる。これはCPU温度が高くなりすぎて自動で制限がかかった結果、電力が落ちているのだろう。

 もちろん、動作が不安定になることもなければ、性能が急激に低下するといった挙動にはならないため、この設定で使い続けてもそうそう問題は起こらない。しかし、高温での長時間使用はCPUやその周辺PCパーツへのダメージが大きくなりがちだ。それだけに、フルスレッドに長時間高負荷がかかるような動画編集やCGレンダリングには、この設定はオススメできない

 しかも、今は室温の低い冬だ。夏場であれば、さらに5~10度くらい高くなってもおかしくない。このテスト結果からわかる通り、安全な温度範囲で性能を出せる設定と考えると、サイコムのPL1=160Wという設定は絶妙なものだということがわかってもらえるだろう。

一般用途では160Wのサイコム設定が253W設定と遜色ない性能に

 もちろん、PCの処理はCPUをフルに稼働させるCGレンダリングや動画エンコードといったものばかりではない。ブラウジングやオンラインMTG、ゲームなどの一般用途では数スレッドの処理になるので負荷が低く、温度問題のハードルはぐっと下がる。

 では、一般用途ではサイコム設定のPL1=160WとPL1=253Wでどのくらいの性能差があるのか。実際のアプリを使って一般用途を幅広くテストしてくれる「PCMark 10」と、「3DMark」のゲーム用途におけるCPU性能をチェックする「CPU Profile」の2つを試してみた。

 まずはPCMark 10の結果をそれぞれ見てみよう。

PL1=160W設定時のPCMark 10の結果
PL1=253W設定時のPCMark 10の結果

 結果はサイコム設定(PL1=160W)で8937スコアー、PL1=253W設定で8913スコアーと、その差は誤差の範囲。つまり、一般用途においては無理にPL1を引き上げる必要はないということだ。

 続いて、3DMarkのCPU Profileテストの結果も見てみよう。ゲームシーンにおけるCPU性能を測るためのテストで、1、2、4、8、16、MAXと使用するスレッド数ごとにスコアーが出る。

PL1=160W設定時の3DMark CPU Profileテストの結果
PL1=253W設定時の3DMark CPU Profileテストの結果

 ご覧の通り、どのスレッド数であってもPL1設定の差はほとんどなかった。ゲームではCPU負荷が高くなると考えがちだが、それでも多くても8スレッド程度になるタイトルがほとんどだ。また、全コアをフルに使うCGレンダリングのように常に最大負荷が持続するということがないため、サイコム設定のPL1=160Wでも、PL1=253W設定と変わらない性能が出せるわけだ。

 一般用途の中でも負荷が高めのゲームでも、最大負荷が続くCGレンダリングなどでも安全な温度範囲で安定した動作が期待できる……それが、サイコムのPL1=160W設定ということになる。

空冷クーラーでもCore i9-13900Kを運用可能! 不安があれば簡易水冷クーラーも選べる

 今回の試用機材のようにCore i9-13900Kでも、空冷で十分運用できることがわかった。また、CGレンダリングなどの高負荷が続く用途でも、ある程度の性能を維持しながら、安定動作できるようになっていた。PL1=160Wという絶妙な設定が最初から施されている点がいかにもサイコムらしいと言える。

 とはいえ、やっぱりCPUの性能をフルに引き出したいというのであれば、BTOオプションでCPUクーラーを簡易水冷クーラーに変更することもできる。CGレンダリングや動画エンコードなど、CPUの負荷が長時間続く用途をメインに考えているなら検討の価値アリだ。

 自分の使いたい構成に合わせ、細かくPCパーツを選べるところがBTOパソコンの醍醐味だ。G-Master Spear Z790/D5も例外ではなく、CPUやCPUクーラーはもちろん、メモリーにストレージ、ビデオカード、電源ユニットまで数多くのメニューがあるので、幅広くカスタマイズできる。気になる部分があれば変更し、納得のいく1台を手に入れよう。

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください