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続・v6プラスの“怪しいウワサ”は本当か? ファクトチェック

ASCII.jp / 2023年1月1日 14時30分

 本サイトで2021年5月に掲載した「IPv6とv6プラスの“怪しいウワサ”は本当か? ファクトチェック」記事には、読者から大きな反響をいただいた。IPv6やv6プラスに対するネットの“怪しいウワサ”は真実なのか、技術解説もまじえながら検証を行い、事実を正確に理解していただくために掲載したものだ。

 今回はその第2弾記事として、v6プラスにまつわるさまざまなネットの“ウワサ”を検証していきたい。ただし、今回取り上げる“ウワサ”は個々のユーザーが使うインターネット環境に依存する部分も大きく、「事実」または「誤り」と一概には断言できない部分が多い。その点をふまえつつ、それでも課題解決のために確認しておきたいポイントを紹介していきたいと考える。

 なお今回の記事では、v6プラスサービスについての基礎的な説明などは割愛させていただく。こちらの連載など、過去記事もあわせてご参照いただきたい。

「v6プラスにしたけどまったく速くならない」?

ネットのウワサ:インターネットの速度が速くなると聞いてv6プラスを契約したのに、速度がまったく改善されない。

 まず、ネットの通信スピードが「遅い」という言葉は、「自分が期待していたよりも遅い」「時間帯によっては遅い」「以前使っていたサービスよりも遅い」などさまざまな意味で使われる。考えられる原因もそれぞれに異なるので、まずはどういう意味で「遅い」と表現しているのかは確認したい。

 上述した“ウワサ”の場合は「以前使っていたサービスよりも遅い(改善されない)」という意味だ。そうしたケースがゼロだとは言い切れないが、「改善されない」と断定してしまう前にチェックしてほしいポイントもある。

 ひとつは「v6プラスに切り替えたつもりが、以前の接続方式(PPPoE接続)のままになっていないか」という点だ。PPPoE接続のサービスからv6プラス(IPoE接続)に切り替えたつもりでも、実際には以前と変わらない方式で接続されていれば、当然ながら「改善」はされない。

 ISP(インターネットサービスプロバイダー)によっては、ユーザーの利便性を考えてIPoE接続とPPPoE接続の両方のサービスを提供する会社もある。その場合、ブロードバンドルーターやクライアントデバイス(PCやスマートフォンなど)に以前のPPPoE接続の設定が残っていて、PPPoE接続されてしまうことがある。こうしたケースは意外に多く、ISPによってはサポートサイトで注意を呼びかけている会社もある。

PPPoE接続のままになっていないかどうか、注意を呼びかけるISPもある(「GMOとくとくBB」のWebサイトより)

 もうひとつ、他のIPv6/IPv4 over IPv6接続サービス(つまり他のVNE)からv6プラス(JPIX)に切り替えた場合に「以前のVNE側で解約処理が終わっているか」も確認したいポイントだ。前のVNE側で解約処理が終わっていなければ、v6プラスの通信に切り替えることができない。こちらも、接続先が切り替わっていなければ「改善」はされない。

 v6プラスで正しくインターネット接続されているかどうかは、簡単に確認できる。JPIXが提供する以下の診断ツールにアクセスして、「判定開始」ボタンをクリックするだけだ。

●「kiriwake」診断ツール   https://kiriwake.jpne.co.jp/

 kiriwakeツールでは、IPv4アクセス、IPv6アクセス、フレッツへのアクセスなどさまざまな通信テストを順に行っていく。v6プラス経由でのインターネットアクセスができたかどうかは、末尾(「結果10」)に表示される。「OK」ならばv6プラスでインターネットアクセスできているが、「NG」ならば上述したような問題を疑ってよい。

 ちなみにこのkiriwakeツールでは、ワンクリックで診断結果のテキストを丸ごとコピーしたり、結果の画面キャプチャをダウンロードしたりすることもできる。ISPに問い合わせる際にこの診断結果を添付すれば、ISP側でユーザー宅の通信環境の状態が把握しやすく、通信トラブルなども解決が早まるはずだ。ぜひご活用いただきたい。

「kiriwake」診断ツールの結果画面例

 通信速度が改善されないそのほかの要因として、使っているルーターの処理速度や、集合住宅で共有している光回線の混雑具合といったことも考えられる。通信スピードに影響を与える要素はいくつもあるので、考えられる原因を切り分けてひとつずつ確認していくのが、遠回りのようでいても最短の解決ルートになるはずだ。

「v6プラスやIPoEに変えたらネットが速くなる」?

ネットのウワサ:v6プラスにすれば(あるいは「IPoE接続にすれば」「IPv6にすれば」など)、インターネットアクセスが速くなる。

 前述した“ウワサ”とは正反対の内容だが、ネットではこうしたウワサ(表現)もよく目にする。そのため、v6プラスへの乗り換えに過大な期待をしてしまうユーザーもいるが、「速くなる」という表現は正確とは言えず、注意が必要だ。

 そもそもv6プラスを含むIPoE接続サービスが、PPPoE接続サービスと比べて高速なインターネットアクセスを提供できるのは、PPPoEのネットワーク設備(ISP側にある網終端装置)が混雑してインターネットアクセスが低速化しやすいためだ。つまり、v6プラスやIPoEが「速い」というよりも「PPPoEよりも遅くなりにくい」と表現するのが正確である。

 もっとも、最近ではPPPoEのサービスでも設備強化(ISP-インターネット間の接続帯域増強)が図られたり、IPoEへのユーザー流出によって“空き”が増えたりしたことで、かつての混雑状況は緩和されてきているという。

 その反対に、IPoE方式であっても、ユーザーの増加に合わせてネットワーク設備の増強を適切に行わなければ、PPPoEのような混雑=速度低下は起こりうる。どのような基準やタイミングで増強を行うのかは各VNEの判断によるので、その点でも「IPoEならば必ず速い」という理解は正確ではない。

 上述の事情はISP単位で見た場合でも同じだ。VNEから購入した一定の帯域幅を何人のユーザーで共用するか(ある帯域幅を何人のユーザーで分配するか)は、ISPごとに異なることもある。

 したがって、この“ウワサ”のように「v6プラスならば速い」「IPoEならば速い」と単純に考えるのではなく、VNEやISPの違いもふまえて考えるべきだ。その際には、実際のユーザー環境で計測したスピードが参考になる。ISPによってはユーザー環境のネット速度(実測値)を公開していることもあるが、そうでない場合でも「みんなのネット回線速度」のようなサイトが参考になるだろう。

「v6プラスは使えるポート数が少ないので使い物にならない」?

ネットのウワサ:v6プラスで使えるIPv4のポート数は、本来のIPv4環境(“IPv4オンリー”の環境)よりも少ない。したがって、1つの回線から多数のユーザー/デバイス/アプリケーションがアクセスする場合はポート数が不足して使い物にならない。

 「多数のユーザー/デバイス/アプリケーション」がどのくらいの規模を指すのかによるが、少なくとも一般家庭のインターネット環境においては、これは誤った説明だと言える。

 v6プラスでは、IPv4 over IPv6サービスにおいて「MAP-E方式」を採用し、1つのグローバルIPv4アドレスを複数のユーザーが共有する仕組みをとっている※注。これを実現するために、IPv4インターネット通信で使える送信元ポート(ソースポート)の数は、本来のIPv4環境(ネイティブのIPv4環境)のポート数(およそ6万5000)よりもかなり少ない。この点は事実である。

※具体的な仕組みについては前回記事や過去の解説記事などを参照いただきたい。

v6プラスのIPv4 over IPv6サービス(MAP-E方式)の概要

 限られた数の送信元ポートを使ってNAT(NAPT)処理を行うため、大量のデバイス/アプリケーションが同時にインターネット通信を行えば、やがてポート数が不足して通信ができなくなるはずだ――。これが“ウワサ”の背景にある考えだ。

 理屈としては正しそうだが、実際のデータを見てみたい。JPIXでは2022年、サービストラフィックの一部をサンプリングして、個々のv6プラスユーザー(ユーザー宅のCEルーター=ブロードバンドルーター)が使用している送信元ポート数を調べた。その結果、およそ90%のユーザーは割り当てポート数の5%程度しか消費していなかった。さらに、ユーザーの99.96%はポート数の消費率が50%以下にとどまっている。

 近年ではPCやスマホ、IoT家電など、一般家庭でも多数のインターネットデバイスが使われるようになっている。それでもこの調査結果からは、v6プラスのポート数不足を心配するような事態は起きていないことがわかる。

 なぜ現実にはポート数不足が起きないのか。それはユーザー宅のCEルーターが、1つの送信元ポートを“使い回す”かたちでNAT処理を行うことで、消費するポート数を節約している(節約できる)からだ。

 NAT処理において、クライアント-サーバー間の通信は「セッション」という単位で管理される。ただしCEルーターがNATセッションを識別する際には、ポート番号だけを参照するのではなく、5つの要素(送信元IPアドレス/ポート番号、送信先IPアドレス/ポート番号、プロトコル)の組み合わせを参照する。

 したがって、たとえば送信先が異なるセッションであれば、同じ送信元ポート番号を使い回しても問題はない。CEルーターはこの仕組みをうまく利用して、効率的にNATセッションを管理しているわけだ。

 もっとも、企業オフィスや学校、公共施設など、一般家庭の数十倍規模のユーザー/デバイス/アプリケーションが同時に利用するネットワークの場合は、ポート数不足の問題が起きる可能性がある。そうした環境では、グローバルIPv4アドレスを1つ占有してポート数をフルに使える「v6プラス 固定IPサービス」の利用を検討してほしい。

「v6プラスでは○○○○というオンラインゲームがプレイできない」?

ネットのウワサ:v6プラス環境では「○○○○」というゲームがプレイできない!

 v6プラスの登場当初よりは減ったと思われるが、SNSなどではしばしばこうした投稿が見られる。問題なくゲームが「できる」場合は(「できて当たり前」という感覚なので)つぶやかれないが、「できない」場合はつぶやかれる。そのため余計に目立ってしまうという事情もあるだろう。

 もちろん「100%あらゆるゲームが問題なくプレイできる」と断言することはできず、こうした投稿が多く見られる場合には、JPIXでも検証テストを行うことがある。ただし、ほとんどのケースではトラブルそのものが確認できずに(再現できずに)終わるという。その原因のひとつは、ユーザーがゲームをプレイしているインターネット環境について詳しい情報が得られないからだ。

 たとえ「プレイできない」原因がユーザーのインターネット環境だったとしても、考えうる原因はv6プラスサービス以外にもあるという点は知っておきたい。

 たとえば、ユーザーが使っている特定のルーター機種が原因ということもありうる。過去には特定のルーターで、MAP-Eの標準技術仕様に沿っていない誤った挙動(実装)があり、それが原因で特定のゲームタイトルがプレイできないという事象が起きた(その後、ルーターのファームウェアバージョンアップで修正された)。

CEルーターの不適切な実装によるトラブル事例(JPIX講演資料より)。本来はユーザー間(CEルーター間)で直接通信するモード(Meshモード)で動作すべきところを、そのルーターはBRルーター経由で通信する実装になっていた(②)。相手側の正常なCEルーターからは直接通信が返ってくるが(③)、②の相手(BRルーター)とは異なるためファイアウォールがブロックしてしまう

 最近のオンラインゲームでは、対戦プレイやチームプレイのためにユーザー間で直接インターネット通信を行うものが多く、これも問題解決を複雑にしている。たとえば「IPv6環境の相手とは正常にプレイできるが、IPv4環境の相手とは通信障害が起きる」など、相手のネット環境との「組み合わせ」によって、トラブルが起きたり起きなかったりすることがあるのだ。こうした場合は、ゲームアプリの設計や実装が原因という可能性もある。

 VNEやISP、ルーターメーカー、ゲームメーカーのそれぞれで、こうした通信トラブルを回避する努力が続けられている。さらにはJAIPA(日本インターネットプロバイダー協会)のワーキンググループのように、業種の壁を超えて協調しながら課題検討に取り組もうという動きもある。それでも、多様なユーザーのあらゆるケースをもれなくカバーすることは難しい。

 問題解決を早めるためにユーザーができることは、ISPやルーターメーカー、ゲームメーカーなどへの積極的な情報提供である。どんなネット環境(ISP、サービス名、ルーター機種など)を使っていて、ゲームのどんな場面で、どんなトラブルが起きているのか。できるだけ正確に、詳しく伝えることで、メーカーやサービス提供者側は原因究明がしやすくなる。「つぶやく」よりも先に、適切な窓口への情報提供に協力いただきたいと思う。

* * *

 今回のファクトチェック記事では、前回記事のように「正しい」「誤り」などと断言できる部分は少なかった。それでも“ウワサ”の技術的な背景や周辺の事実を知ることによって、そのウワサの「確からしさ」は判断しやすくなる。より可能性の高い原因から考えていけば、原因解決にもつながりやすくなるはずだ。今回の記事が、その糸口になれば幸いだ。

(提供:株式会社JPIX)

※日本ネットワークイネイブラー株式会社と日本インターネットエクスチェンジ株式会社は合併し、2023年1月より「株式会社JPIX」としてスタートしました。

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