第13世代Core“K無し”速報レビュー!Core i9-13900/Core i7-13700編
ASCII.jp / 2023年1月3日 23時0分
第13世代Coreに“K無し”が追加! 「Core i9-13900」「Core i7-13700」レビュー
2023年1月3日23時(日本時間)、インテルは“Raptor Lake-S”こと「第13世代インテルCoreプロセッサー」(以下、第13世代Core)へ大幅なモデル追加を行い、同時にグローバルでの販売を解禁した。
昨年10月に発売された第13世代Coreは、すべて倍率ロックフリーの“K付きモデル”であったが、パフォーマンス志向のユーザーに向けた製品であったため消費電力、特にMTP(Maximum Turbo Power)が高く、最上位の「Core i9-13900K」では、消費電力の大きさが話題になったCPUだった(レビュー記事前編と後編を参照)。
しかし、今回解禁されたモデルはMTPを抑えた“K無しモデル”。値段はもちろんだが、少々パフォーマンスは下でも扱いやすいCPU、特に高性能のCPUクーラーが使えない環境で運用しやすいCPUが欲しいという人向けの製品となる。
以下の表は今回販売が解禁されるモデルと、その予想価格となる。Core i5-13600のみ価格が明らかになっていないが、これは代理店筋の話によれば取り扱うか検討中であるためとのことだ。もちろん他の商流ではCore i5-13600を取扱う可能性があるので、国内では絶対に出回らないという話ではない。
今回筆者は“K無しモデル”の中から「Core i9-13900」「Core i7-13700」「Core i5-13400」「Core i3-13100」の4モデルをテストする機会に恵まれた。本稿ではまず第13世代CoreのK無しモデルの概要と、上位モデルであるCore i9-13900およびCore i7-13700のパフォーマンスをチェックする。高いCPUパフォーマンスの引き換えに消費電力も発熱も激増したK付きモデルとどの程度パフォーマンスが異なるのか、さまざまなベンチマークを通じて検証してみたい。
メモリーの定格最大クロックは上位と下位で異なる
まずは今回新たに投入された第13世代Coreのスペックを確認しておこう。第12世代と第13世代における最大の差分は「Eコア数の増加」にある。第13世代CoreのK無しモデルは最下位のCore i3-13100を除いた全モデルにEコアが搭載され、Core i5-13600や13500についてはCore i5-13600Kと同じ8基のEコアを搭載している。PコアとEコアの使い分けこそが第12世代以降のCoreプロセッサーの核心技術であることを考えると、安価なCore i5でもEコアが載ったことは多いに喜ぶべきだろう。
また、従来同様内蔵GPUを持たない“F付きモデル”も用意されるが、原稿執筆時点で流通が確定しているのは「Core i9-13900F」「Core i7-13700F」「Core i5-13400F」「Core i3-13100F」の4モデルのみ。それ以外のF付きモデルはインテルの資料にも掲載されていないため、出回らないと考えられる。
ここで注目すべきはDDR5メモリーの対応だ。Core i9-13900とCore i7-13700の2モデルについては、既存のK付きモデルと同様にDDR5-5600まで定格でサポートする。しかしCore i5-13600より下は第12世代Coreと同じDDR5-4800までの対応となる。実際K付きモデルでもDDR5-5600と4800で体感性能はほぼ変わらないという事実を踏まえると、コスト意識の強いユーザーが選ぶ下位モデルでDDR5-4800どまりにした点は非常に合理的な選択といえる(これについてはもっと合理的な理由があるが、これは次回解説しよう)。
動作クロックも第12世代の同格モデルより引き上げられているため、PBP/MTPも増加した。ただ、第13世代CoreのK付きモデルに比べると、MTPは30W程度下に設定されている。扱いやすくなったとも言えるが、最近のインテル製CPU向けマザーボードではBIOSのPower Limit設定次第でK付きのように全力で回ってしまうもの、安定を重視してインテルの定格設定で動くものなどがあるため、どの程度消費電力や発熱があるかはマザーボードの選択とBIOS設定次第になる点には注意しておきたい。
「H770」「B760」チップセット搭載マザーボードが登場
昨年10月の第13世代Coreローンチ時では、Z690チップセットの後継としてZ790チップセットが投入された。今回のK無しモデル投入に合わせて、新たに「H770」「B760」チップセットも投入された。
発売日当日の段階でも筆者のもとに公式の資料が届いてないため、網羅的解説はできないが、筆者が調査した範囲ではH670とH770の差分はPCI Express Gen3が4レーン減り、代わりにGen4が4レーン増えている。Z690→Z790で追加されたUSB 20Gbpsの増設もないため、H770を使うメリットはオンボードのM.2スロット程度のものと考えられる(B760もGen3からGen4へ4レーンぶん振り替えとなる)。そのため市場に出ている比較的安価なH670やB660、あるいはZ690マザーボードで運用してもまったく問題はない。
ただし、旧世代チップセットを搭載したマザーボードで運用するなら、最新BIOSへ事前に更新することを忘れないようにしよう。H770やB760マザーなら初期BIOSでも問題なく動作するので、面倒が嫌なら少々割高感はあるが新マザーボードを買ったほうが良い。
K付きとK無しの差をみる
今回の検証は、すでに発売済みであるCore i9-13900KおよびCore i7-13700Kと、そのK無しモデルであるCore i9-13900およびCore i7-13700を準備し、性能にどういった差が出るかをチェックする。Core i5-13600はテスト機材の用意がないという事で検証はできなかったが、K付きで一番下のCore i5-13600Kも比較対象に加えた。
検証環境は以下の通りである。Secure Bootやコア分離(VBS)、HDRといった機能はすべて有効化した状態で検証している。
なお、今回K無しモデルのPower Limitについては、2種類の設定で検証することとした。まずK付きモデルと同様にMTP無制限で運用する設定と、MTPをインテル定格仕様にした2種類である。マザーボードの設計によっては、MTPがインテル定格仕様になっている可能性があるため、このようなセットアップとした。
本稿で検証するK無しCPUのMTPは219Wであるため、グラフ中では「(MTP 219W)」を付記してMTP無制限設定と区別している。BIOS上でCPUクーラーのタイプを指定するといい塩梅のMTPに調整してくれるマザーボードもあるので、今回の検証は“性能が一番出る設定と定格の設定にした時の差を見る”のが目的となる。
MTP無制限だとそれほど差は出ない
最初に試すのは定番の「CINEBENCH R23」だ。MTPを絞るとマルチスレッドのスコアーは下がることは容易にわかるが、シングルスレッドのスコアーがどうなるかに注目したい。
まず、MTPを無制限にした時のK無しモデルは、K付きモデルよりスコアーは全体的に低くなる。シングルスレッドよりもマルチスレッドのスコアーの下げ幅の方が大きいが、それでも最大約8%程度(Core i9-13900 vs 13900K)。シングルスレッドのスコアーは4%程度下がるだけだ。
しかし、MTPを定格(219W)に絞るとマルチスレッドのスコアーは顕著に低下する。Core i7-13700もCore i9-13900も、K付きモデルに比べて40%程度マルチスレッド性能が低下した。ただ、シングルスレッド性能は5%前後下がるだけにとどまる。MTPを定格まで絞ると1ランク下(Core i9ならi7、i7ならi5)のK付きモデルよりもマルチスレッド性能は下がるという点に注目しておきたい。
CINEBENCHと系統は似ているが、マルチスレッド性能が重要なCGレンダリング系ベンチとして「Blender Benchmark」「V-Ray Benchmark」も試してみたい。どちらも演算にCPUのみを使っている。
これらのベンチでも傾向は共通であることがわかる。K無しモデルはK付きモデルよりもスコアーが下になるが、Core i9-13900対13900KのほうがCore i7-13700対13700Kよりもスコアーが大きく下がり、またMTPを定格に絞った時の性能は1ランク下のK付きモデルよりも下となる。1ランク下のモデルを買ってMTPを定格より少し上で運用するのが良いか、コアの多い上のモデルを買ってMTPを絞って運用するのが良いか悩ましいところだが、今回はそこまでの検証はしない。
続いて、総合性能をみる「CrossMark」を使ってみよう。写真や動画編集などに使われる処理性能を見るCreativity、文書やメール作成等に使われる処理性能を見るProductivity、アプリの起動やファイルオープンを含めたマルチタスク状況下での反応を見るResponsivenessテストに分かれている。
テストによりMTPを絞った時の方がわずかに絞らない時を上回るようなパターンも見られるが、総じてCore i9>i7>i5という序列ができている。スコアー差が非常に小さいのは、CPU負荷が全体に低めであるためだ。
つまり、ライトユースであれば、K付きモデルとの差はほとんどわからない事を示している。ただ、Responsivenessのスコアーが示す通り、コア数が多いほどマルチタスク状況での応答性は上がっていくため、Core i9-13900をMTP定格に絞って運用しても、Core i5-13600KのMTP無制限運用時よりも応答性の良い環境が得られることを示している。
クリエイティブ系アプリでのパフォーマンス
続いて、クリエイティブ系アプリでのパフォーマンスを検証するが、まずは「UL Procyon」の“Photo Editing Benchmark”を使い「Photoshop」「Lightroom Classic」を実際に運用した際のパフォーマンスをスコアー化する。
まず総合スコアー(青色)はコア数とクロックの高い順に並んでいる。つまり、PhotoshopやLightroom Classicの総合的なパフォーマンスでは、Core i9-13900をMTP定格で運用しても、Core i7-13700Kよりもやや上のパフォーマンスが得られるということだ。
結果をブレークダウンしてみると、MTPを絞った時のハンデが大きいのがImage Retouching(Photoshopメインの作業)で、逆にハンデがないのがBatch Processing(Lightroom Classicの作業)となる。Batch ProcessingのCore i9-13900とCore i9-13900 (MTP 219W)で微妙な逆転が見られる部分はあるが、全体としては序列通りのキレイなグラフに収まったといえる。
ここで、Lightroom Classicについて別の角度からの検証もしてみたい。ここでは61メガピクセルのDNG画像100枚を用意し、最高画質のJPEGに書き出す時間を比較する。書き出し時にシャープネス(スクリーン用、標準)を付与しているため、CPU負荷はUL Procyonのテストよりもずっと高い。
CPU負荷が高いといってもコアの利用率は激しく上下動するため、Core i9-13900KとCore i7-13700Kの差が極めて小さい。このテストではCore i9-13900とCore i7-13700の差はあって無いようなものだが、MTP無制限で回せばCore i5-13600Kよりは高速だ。しかし、MTPを219Wに絞った場合は、Core i9-13900もCore i7-13700もCore i5-13600Kより遅くなる。CINEBENCHなどで見られたようなパターンとはまた異なる傾向となった。
続いては動画エンコードで検証しよう。ここでは「Media Encoder 2023」と「Handbrake」を利用する。
まずMedia Encoder 2023では、再生時間約3分の4K動画を「Premiere Pro 2023」上で用意し、これをMedia Encoder 2023上で1本の4K動画に書き出す時間を測定した。ビットレートはVBR 50Mbps、1パスのソフトウェア(CPU)エンコードとし、コーデックはH.265とした。
MTP無制限運用であれば、K付きとK無しの差は小さく、今回の検証でも差は10秒程度に収まった。しかしMTPを定格運用にすると処理時間が一気に延び、Core i9-13900であっても処理時間はCore i5-13600Kよりも長くなる。
続いてHandbrakeでは、再生時間約3分の4K@60fps動画をプリセットの“Super HQ 1080p Surround”でフルHDのMP4に書き出す時間を計測した。なぜMedia Encoder 2023でH.265を使ったのにHandbrakeではH.264かといえば、この後検証する消費電力を測定するのにH.265よりもH.264の方がCPU負荷が高く、消費電力もより大きくなるためである。
ここでもMedia Encoder 2023と全く同じ傾向が見られた。CINEBENCHやBlenderではMTP 219WのCore i9-13900やCore i7-13700はMTP無制限のCore i5-13600Kより速いのに、Media Encoder 2023やHandbrakeではコア数の少ないCore i5-13600Kに負けてしまう理由は、CPU負荷のかかり方の違いである。
全コアがほぼ全力で回るCINEBENCHやBlenderではコア数がスコアーアップの重要な要素になるが、今のCore i7やi9程度にコアが多いCPUでの動画エンコード処理ではコアの負荷が完全に上がりきらず、ブーストのかかり方のほうが重要になるためである。
よって、CPUエンコード目的でK無しの第13世代Coreを買う場合は、高性能なクーラーを使い、MTPを無制限まで言わずとも定格よりも引き上げて使うべきである。
クリエイティブ系アプリでもCPUの差があまり付かない場合も当然ある。その例としてTopazlabのAI系アプリ「Topaz Video Enhance AI」と「Topaz DeNoise AI」を使用して検証する。
まずTopaz Video Enhance AIでは、20年ほど前に撮影した480i(720×480ドット)のAV1動画(約1分)を、インターレース解除しつつフルHD@60fpsの動画にアップスケール(Deinterlace footage and upscale to HD)する処理時間を計測した。学習モデルはデフォルト設定のままとし、出力コーデックは「Pro Res422 HQ」とした。AIプロセッサーはGPU(GeForce RTX 3080)を指定している。
このアプリでは負荷の大半がGPU側へ行くような処理であるせいか、CPUパワーはほぼオマケのようなもの。Core i9-13900KよりもCore i5-13600Kのほうが微妙に時間が短いが、Core i9-13900のMTP 219W設定と大差ないあたり、その時々のブレの範囲で結構変わってしまうことを示唆している。CPUレビューにはあまり向かないベンチマークであることは間違いないが、こういう結果も出るということで紹介した。
Topaz DeNoise AIでは、30枚のJPEG画像(24メガピクセル)を用意し、学習モデル“Severe Noise”を利用してノイズ除去処理をする時間を計測する。
なんとなくコア数と動作クロック順に並んでいるように見えるが、最速と最下位の差はわずか7秒と、CPUの性能差を論じるにはあまりにも差がない。こういったGPUに軸足の載ったアプリであれば、無理にK付きモデルと高性能クーラーでなくても良い、ということを覚えておきたい。
ゲームでのパフォーマンスは?
次は実ゲームを利用して検証しよう。ここでの検証はすべて解像度フルHD(1920×1080ドット)、画質設定はプリセットの一番下の設定とし、CPUパワーの差が出やすいようにした。ゲーム内ベンチマーク機能の有無に関係なく、フレームレート計測は「FrameView」を使用している。
まずは「Overwatch 2」から始めよう。画質“低”、FSR 1はオフとした。マップ“Eichenwalde”におけるBotマッチを観戦中のフレームレートを計測した。
毎回完全に同じ試合展開にはならないため、ブレの要素を排除しきれないベンチマークだが、それでも上位CPUほどフレームレートも伸びるという順当な結果に近いものが得られた。MTP 213W運用にすると1ランク下のCPUに負けるという傾向がCore i7-13700とCore i5-13600Kの間で観測されたが、Core i9-13900 (MTP 219W)はギリギリCore i7-13700Kの上にとどまっている。
続いてはCPUやメモリー周りの条件に割と影響されやすい「F1 22」での検証だ。画質“超低”、異方性フィルタリングは16x、アンチエイリアスは“TAA+FidelityFX”に設定。ゲーム内ベンチマーク(条件は“モナコ”+“ウエット”)再生中のフレームレートを計測した。
Overwatch 2のフレームレート傾向との共通性が各所に認められる。上位CPUほどフレームレートが高いことに加え、MTP 219Wに絞った時のフレームレートは、Core i9-13900 (MTP 219W)ではCore i7-13700Kとほぼ同等だが、Core i7-13700 (MTP 219W)はCore i5-13600Kより下回る。
この差がEコアの数にあるのか、Core i9にのみ搭載されるTVB(Thermal Velocity Boost)によるものかまでは断言できないが、Core i9-13900はMTPを絞って運用しても良好なゲームパフォーマンスを出せると考えてよいだろう。
続く「Cyberpunk 2077」では画質“低”、DLSS SRやFSR 1は明示的に無効化。ゲーム内ベンチマーク再生中のフレームレートを計測した。
Cyberpunk 2077のフレームレートの傾向はこれまでのゲーム検証とは大きく異なる。まずK付きとK無しモデルの差が非常に小さい。そして、MTP 219W設定にすると1ランク下のCPUにフレームレートで負けている。このゲームはレイトレーシング系の処理を一切排除してもCPU負荷が高く、それがMTP 219W設定時のフレームレート低下に繋がったと考えられる。
最後に試す「Forza Horizon 5」では画質“最低”、MSAAはx2に設定。ゲーム内ベンチマーク再生中のフレームレートを計測した。
どのCPUでも全体的に高フレームレートが出ているが、MTP 219W設定時のフレームレートは微妙に下がっており、さらに1ランク下のCPUよりも下回る結果となった。なるべくパフォーマンスを稼ぎたいなら、強力なCPUクーラーを用意した上で、可能な限り高いMTP設定にすることが理想的だ。
では、ここで試した4本のゲームベンチ中に、どの程度CPUが電力を使ったかをCPU Package Powerの平均値を使って比較してみよう。
どのゲームベンチにおいても、MTP 219W設定時のCore i9-13900およびCore i7-13700のCPU Package Powerは64〜70Wにとどまり、その少し上にCore i5-13600Kがいる。一方MTPを無制限にしたCore i9-13900およびCore i7-13700は、K付きよりも消費電力が大きい場合もあり、小さい場合もある。
特にCore i7-13700の消費電力がCore i7-13700Kよりだいぶ大きい点はにわかには信じがたいが、後述するエンコード時の消費電力でも同じような傾向になったのでテスト個体の特性か、そういう傾向になるBIOS(BIOSの熟成度の可能性も含む)であるから、と考えることができる。
次の4つのグラフは、各ゲームの平均フレームレートをベンチマーク中のCPU Package Powerで割り10倍したもの、即ちCPU Package Power 10Wあたりのフレームレートを出したものだ。
CPUパワーがあればそのぶんフレームレートも伸びるが、ワット数当たりの仕事ということを考えると、MTPを絞った方が効率は高くなる。特に、Core i9-13900のワットパフォーマンスは今回試したどのゲームにおいても突出して高い。
消費電力と熱もチェック
検証のラストステージは消費電力や熱といった要素の検証だ。まずはシステム全体の消費電力をラトックシステム「RS-WFWATTCH1」を利用して検証しよう。
システム起動10分後の安定値を“アイドル時”、Handbrakeエンコード(設定については前述のベンチと共通)時の“高負荷時(最大)”と、処理中盤以降に出現する“高負荷時(安定)”の値をそれぞれ計測した。また、このテストでは発熱やクロックの推移を見るため、Handbrakeでのエンコードは同じエンコードを3回繰り返している。
Core i9-13900Kの消費電力が大きい点は既知の通りだが、MTP無制限で運用するCore i9-13900の消費電力もそれなりに大きい。ただ、Core i9-13900KほどCPUの温度限界を攻めるような挙動にはなっていないため、Core i7-13700Kに近い消費電力に収まっている。
一方、Core i7-13700の消費電力はなぜかCore i7-13700Kよりも大幅に上回った。これは前述のゲーム中のCPU Package Powerでも観測されたことと根は同じだが、個体差なのか、BIOSのせいなのか、はたまた仕様なのかはまだ断言できる材料はない。
そしてMTPを219Wに絞ると、最大値こそ大きくなるが安定値は165〜167Wあたりに収束する。エンコード性能などは下がるが、そのぶん消費電力も下がっているので、全体的にはワットパフォーマンスは向上しているといえる(後ほど再検証しよう)。
続いてはこのエンコード処理中のCPUクロックやCPUパッケージ温度、そしてEPS12Vコネクターに流れる電力(以降CPU Power)を追跡してみよう。クロックと温度の追跡は「HWiNFO Pro」を、EPS12Vの電力計測にはElmorlabs「PMD」を使用している。全部のデータを1枚のグラフに収めると視認性が悪いので、Core i9とCore i7+i5というように分割している。
CPUのクロックは全コアの平均値で比較した。同じCore i9やCore i7同士であればK付きモデルが最も高く、やや下にMTP無制限で運用したK無しモデルと続き、MTP 219W運用にしたK無しモデルはずっと下のクロックになる。
これだけクロックが下がるのだから、MTP 219W設定時のパフォーマンスは1ランク下のCPUに負ける事があるのは当然といえる。ただ、CPU負荷のそれほど高くない処理では問題になりにくいことも思い出していただきたい。すべてはCPUにさせたい処理と、CPUの使われ方次第なのだ。
次はCPUパッケージ温度。Core i9-13900KのCPUパッケージ温度は速攻で100℃に到達しサーマルスロットリングに入ってしまうが、Core i9-13900(MTP無制限)は90℃前後で踏みとどまる。ただ、上限90℃でもサーマルスロットリングのフラグは立つため、サーマルスロットリング前提の運用が嫌ならMTPにリミットをかけるのがオススメだ。
今回、Core i7-13700の温度はCore i7-13700Kよりも高くなるという結果が得られた。やはり個体差の問題やBIOSの問題などが考えられるが、消費電力が大きい結果と連動している。
上の2つのグラフはCPU Powerの推移だ。Core i9-13900Kは最初は非常に消費電力が大きいものの、1回目のエンコード処理が終わったあたりでCore i9-13900と同等レベルに収束するのが興味深い。そしてCore i7-13700のCPU Powerは13700Kよりも50W高かった。出荷されるCore i7-13700のすべてにおいてこうであると断言はできないが、K無しであるからといってK付きよりも無条件で消費電力が下がるわけではないということだ。
前述のHandbrakeエンコード検証で得られた「エンコードのフレームレート」を、ここで観測されたCPU Powerの平均値で割り、それを100倍するとCPU Power 100Wあたりのフレームレートが算出できる。最後にこれを比較してワットパフォーマンス比較としたい。
MTPを無制限で運用する限りでは、Core i9-13900とCore i7-13700のワットパフォーマンスは、各CPUのK付きモデルと大差ない(13700は消費電力が大きいため悪化しているが……)。だがMTP 219W設定時はワットパフォーマンスが大幅に改善する、ということが読み取れる。ただ、エンコード時間はMTPを219Wに絞ると大幅に長くなるので、エンコード前提ならばワットパフォーマンス度外視の設定にした方が良いということになる。
まとめ:上位モデルは値下げ待ちか
以上でK無し第13世代Coreのうち、Core i7-13700とCore i9-13900のレビューは終了だ。MTPを無制限に引き出すような環境であれば、順当なパフォーマンスを引き出すことは可能だが、上位モデルは値段的な魅力に乏しい。
特に2022年末に9万円前後までに落ちたCore i9-13900Kに、10万円オーバーのCore i9-13900が太刀打ちできるとは考えにくい。CPUクーラーが同梱されているのは評価したいが、それでも割高感がある。Core i7-13700についても同様だ。値段が十分に下がらない限りは、既存のK付きモデルを適切にチューニングして使ったほうが色々な意味で得策だ。
次回は原稿執筆時間の問題で触れることのできなかった下位モデル、即ちCore i5-13400とCore i3-13100の検証を試みる。
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