デノン、音のすべてが改善した中級SACDプレーヤー「DCD-1700NE」を発表
ASCII.jp / 2023年1月11日 10時0分
デノンは1月10日、SACDプレーヤー「DCD-1700NE」を発表した。価格は19万8000円。発売は1月下旬になる見込み。
ディスク需要が根強い、日本市場をメインターゲットにしたミドルクラス(10万円台)のSACDプレーヤーとなっている。音楽再生が世界的にストリーミング中心に変化する中、特に欧米ではCDやSACDの需要が減少しているが、パッケージメディアを深く愛する日本人に向けて開発した。当初は開発を見送るべきという声もあったそうで、プリメインアンプの「PMA-1700NE」と発売時期がズレた理由のひとつになっているようだ。
価格10~15万円のレンジでベストセラーとなった従来機の「DCD-1600NE」は、サウンドマスターの山内氏が独り立ちして立ち上げたシリーズということもあり、開発陣の思い入れが強いシリーズだ。市場や部品調達の面での厳しさは増しているが、こうした逆境があるからこそ、エンジニアも燃えたとする。
行きついたのはSX1 LIMITEDと同じアプローチ
基本的な設計は従来機を継承しているものの、徹底的な試聴に時間をかけ、パーツを吟味。“Vivid and Spacious”のコンセプトを追求したところ、結果的にSX1 LIMITEDと同じ手法に行きついた。音質に関係する部分だけでも80以上、全体ではその倍程度の新部品を採用することになったという。なお、SX1 LIMITEDシリーズは、開発期間やパーツのコストに制約を設けず、SX1シリーズの部品をブラッシュアップしたらどうなるかに取り組んだカスタムチューン版というコンセプト。400以上の部品を入れ替えている。感性と技術が融合した製品という点が共通している。
ただし、製品化の過程では安定した部品供給も重要となる。DCD-1700NEの開発に際しては、特にオペアンプの選定に苦労したそうだ。結果的には、TI製の音質グレードの高い部品を選べたものの、昨今の部品不足もあり、音質検討をして発注を決めても、部品の供給が受けられない状態だとわかり、再検討を余儀なくされるなど、紆余曲折があったという。
また、コンデンサーについてもSX1 LIMITEDと同じものを使いたいと考え、部品メーカーと粘り強い交渉を続けたという。具体的には、ELNA製のカスタムコンデンサー、SYコンデンサー(SYは山内慎一氏の頭文字)、SXコンデンサー、NEコンデンサーなど過去に開発した数々のカスタム部品を要所要所に配置している。結果、SX1 LIMITEDと非常によく似た部品アサインになったという。ちなみにブロックコンデンサーの一部は欧州版と日本版で異なり、日本版のほうがハイクオリティだという。
これ以外にも、抵抗、インダクタ、デジタル電源、デジタルボードのコンデンサーなどこだわった部品は多岐にわたる。S/N比の向上に効果がある、デジタル系のノイズ対策部品についても力を入れており、長さを最適化したフィルムケーブル、ワイヤリングの方法、トランスを固定するネジの変更(鉄から銅へ)など、全体のパフォーマンスを上げるための調整を細かく実施している。
苦労があったぶん、膨大なノウハウの蓄積もできたいうことで、今後のデノン製品にも生かされていくのだろう。
コストの制約がある中、必要なものだけを追究したから見えてくる
この過程についてデノンが特に強調しているのが“引き算の美学”だ。部品を絞り込んでいくことで不要パーツが分かり、それを取り除くことで、徐々に余分なものがない回路が見えてくる。つまり、デノンが基本設計思想として掲げる“シンプル&ストレート”に近づいていくわけだ。例えば、オリジナルドライブ(Advanced S.V.H. Mechanism)は汎用性を得るために、モデルによっては使わない部品も含まれているが、使わないものは取り除いたDCD-17000NE用にリファインしたドライブを採用したという。
また、オーディオ基板と電源基板も一新した。デジタル4層、アナログ2層の基板。110周年モデルのような新規開発はせず、上位モデルから共用したものだが、その中にはDCD-1600NEでは使っていないものが含まれていた。そこで、その部分を一度省いて最適化している。
こうした音質面での改善はあるが、スペック的にはDCD-1600NEと同様になっている。外見上は奥行きが伸び、ネジが減らされている。重さは9kgと従来機種より若干重くなった。なお、本体の奥行きは既発売のPMA-1700NEと同じで長く取っている。トップカバーの取り付け方法は変えており、トップの各サイドに2本あったネジをなくし、サイドの2本だけにしている。メーカーによっては天板を取った状態でデモンストレーションを行うことがあるが、敢えて天板をガチガチに固定せず、さらに容積も十分にとることで、音に開放感が得られるという。110周年モデルの「DCD-A110」も同様の考え方で開発されている。
ちなみに、SACDのドライブはピックアップなどが消耗品で、メーカーが減っている中、長く使えるかどうかは不安なところだが、デノンでは自社でメカから作っていることもあり、メンテナンスについても万全の体制を揃えているという。
改善はさまざまな領域で確認できる
デノンの試聴室で実機を体験できた。まずDCD-1600NEとの比較だが、Fourplayの「Moonjogger」では、空間がスピーカー1~2m外側に広がる感じがある。全体的に音の純度が増すというか、クリアかつクールな音調になった。DCD-1600NEはやや中低域に甘さもあったが、それがなくなり、やわらかい音とアタックのある音の対比がより明瞭になる印象だ。ダイナミックレンジが広いため、音量を上げてもうるさい感じがなく、歪み感や音の飽和感が抑えられている。
オッフェンバックのアリアでは、声の臨場感が増す。男性の歌い手が舞台の奥から前に出てきたような、あるいは部隊のかぶりつきで聴いているような、近さがある。また、弦や管の質感や輪郭感が明瞭になるのは、倍音の再現が際立っているためだろう。声そのものがニュアンスの豊かさになるだけでなく、全体に芯とハリを意識し、オーケストラの明瞭感や音色の明るさが増し、さらに声に高さ方向の広がりが加わる。まさ迫真の歌唱といった印象だ。
アタックや音の立ち上がりの良さ、低域の充実感、高域の自然な伸び、S/N感の向上など様々な要素が改善しているのが感じられた。
ミドルレンジという但し書きは不要、必要にして十分な完成度
Vivid & Spaciousはよい音を得るための手段であり、過程ともいえるが、デノンが目指す音の世界はニュートラルで音楽的なものだという。筆者に先行して試聴した人の中には、「近年まれにみる傑作」というコメントを残していった人もいるそうだが、筆者としてもミドルレンジだから、20万円以下の機種だからといったエクスキューズは付けずに使える機種であり、よりハイエンドのクラスの機器と組み合わせてもそん色のないポテンシャルを持っている製品に感じた。
また、高音質音源の世界では、ハイレゾのファイル再生やアナログレコードへの回帰が一巡して、SACDの再評価が徐々に進んでいる側面もある。DCD-1700NEは従来機種に比べて、価格が少々上がってしまった面はあるのだが、そのぶん実力の向上を感じさせる出来栄えだし、音楽が好きで自宅に多くのSACDやCDパッケージを所有している人にとっては、手を延ばすのを躊躇するような超高級機ではなく、がんばれば手の届く価格帯で上質なサウンドを体験できる機器の存在は貴重だろう。長く続き、時代時代でHi-Fiオーディオの中心的な存在として足跡を残した、デノンのミドルレンジにSACDプレーヤーのニューフェースが現われたことは嬉しい。
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