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【先行レビュー】大幅進化の第2世代「HomePod」比較するライバルがいない理由(本田雅一)

ASCII.jp / 2023年2月1日 12時0分

2月3日に発売するHomePod(第2世代)

 HomePod(第2世代)が発表されたが、この製品についてのイメージは二分されると思う。初代モデルが発売された当初、この製品はさまざまな長所は備えていたものの、利用可能なシーンは限られ、多様なオーディオソースへの対応もできていなかった。結果として、音質が良い高価な、しかし連携するサービスが少ないスマートスピーカーでしかなかったが、アップルはその後、繰り返しHomePodファームウェアであるaudioOSをアップデート。

 すでに販売されていないものの、初代HomePodは発売当時と比べて利用できる場面が大幅に増え、またステレオ再生だけではなくDolby Atmos再生にも対応、さらにはApple TVと連携することでテレビ(あるいはテレビに接続された機器)の音声も再生可能になっている。

 初代モデルがアメリカなどで発売されたのが2018年だから、実に足掛け5年にわたって改良されてきたことになるが、改良はaudioOSだけではなく同時にiOS、iPad OS、macOS、tvOSにも施されており、同時にこの間、アップルはApple Musicに空間オーディオコンテンツを追加し、映像配信サービスのApple TV+を開始。トータルでオーディオ体験を高める戦略を地道に継続してきた。

 実機の第2世代HomePodを使って感じるのは、こうしたオーディオ体験を改善するためにアップルが自社製品ファミリーに施してきた戦略の集大成とも言える製品になっていることだ。結果として第2世代HomePodと似た製品はあるが、厳密に比較するライバルがいない製品になっている。

3つのHomePod活用スタイル

 HomePodの使い方は大きく分けて3つある。ひとつはシンプルにHomePodを1台配置するもの。この時、HomePodは1台のスピーカーでありながら、ステレオおよび空間オーディオ(Dolby Atmos)の再生にも対応する。これは円周状に配置するビームツイーターで、360度に音を出せるHomePodの設計上の特徴を利用したものだ。

 もうひとつはHomePodを2台ペアリングして、1台のオーディオ機器として使う場合。ステレオおよび空間オーディオ(Dolby Atmos)の再生が可能なのは同じだが、より明瞭なステレオイメージと空間オーディオの音場再生能力が得られる。1台の価格は4万4800円、ステレオペアでは8万9600円となる。

 最後に挙げておきたいのが、Apple TV 4K(第2世代モデル以降)と組み合わせて使う場合だ。Apple TV 4Kは、HomePodをスピーカー出力先として選べるだけでなく、eARCによる接続にも対応する。eARCはハイレゾやDolby Atmosなどの音声ストリームをテレビ側から送るための規格で、結果的にテレビ内のチューナやアプリ、あるいは接続されているブルーレイプレーヤーなどの音声を、HomePodから出すことが可能となる。

 Apple TV 4KのWi-Fiを加えた価格は10万9400円で、上位のWiFi+Ethernetモデル(内蔵SSDも2倍の128Gバイトになる)にグレードアップしても11万3400円。この価格設定はDolby Atmosに対応するサウンドバーと競合する。

1台使いでもステレオイメージや空間オーディオのイメージは感じられる

ほかに競合のないオーディオ体験

 このように整理すると、1台使いの場合はアマゾンのEcho Studioと競合するように感じるだろうが、実はどの構成においても、そこから得られるオーディオ体験は独特で、比べられる製品が思いつかない。

 1台使いの場合、ステレオイメージや空間オーディオのイメージは感じられるが、明瞭な音像が空間に並ぶわけではない。Echo Studioもステレオイメージは明瞭ではない、なんとなく広がりがある音という面では表現力に大きな違いはないが、どんな場所に置いてもバランスよく音楽を聴かせ、HomePodの周囲、どの位置にいても違和感がないという点で極めて特殊な体験だ(厳密にはケーブルが出ている反対側が正面で、その前から聞くべきだが)。

 近年、ルームフィリングサウンドという、部屋全体を埋め尽くしてリラックスして聴ける音の製品が登場してきているが、そうしたルームフィリングサウンドの中でも最もリッチな音を出す製品と言えるだろう。

 ただここまでなら、初代HomePodでもアップデートによって近いところまで来ていた。低域の音量感を自動調整する部分は第2世代が優れているが、第2世代が本領を発揮するのはステレオペアを組んだ場合だ。

 この場合、例えば一般的なステレオスピーカーと同じように正面に2台を設置し、その前方、正三角形の頂点に鎮座すれば明瞭なステレオイメージが得られる。音場は程よく豊かに聞こえるが、残響のバランスもよく特定の帯域にピークが立ったり、あるいは壁からの反射で低域が膨らみすぎるような傾向もない。

 軽やかでノイズっぽさがなく聴きやすい音はアップルらしいが、音場表現はリッチで包み込むような音場。さらに空間オーディオの音楽を聞くと、きちんと立体的な表現力まであるのに驚かされる。

 ところが実はオフセンター、つまりスイートスポットから外れた位置に移動しても、自然に聞こえる。もちろん、ステレオイメージや空間オーディオによる立体音場は崩れるが、部屋のどの位置でもリッチな音が楽しめる。

 スピーカーに近づいてみると、それぞれのHomePodから(1台使いの場合と同様に)360度、全方位に音が出ていることがわかる。それでいてステレオイメージやDolby Atmosの再生に違和感がない理由は定かではないが、ルームフィリングサウンドとステレオ再生、空間オーディオ再生が同時に成立しているのだ。

 常に4つのマイクで周囲からの反射音をモニターしているHomePodだが、ビームツイーターは1000の設置環境で、1万曲を用いて最適化する機械学習を実施し、設置環境に応じて異なる残響のエンベロープ(減衰カーブ)を適応的にコントロールするアルゴリズムが入っているという。

 ここまでグレードアップするならば、ぜひ2台使いしたいと思おうほどの違いだが、実はこの2台使いを勧めたい理由はもうひとつある。

映像作品用スピーカーとして使うと印象がさらに変化

 ディフューザーを用いて360度に低音を放出する4インチウーファーは、長いトラベルストロークを持つことで表現できる空間を大きくしているが、音楽再生時には「欲張らない」ところに好ましさを感じた。

 再生できない音を、いかにも再生できているように誤魔化す技術はあるのだが、そうしたことはせず、このサイズに見合う、言い換えれば搭載するドライバユニットの能力を超えないように再生する。このため、曲によっては「低域がない」と感じるかもしれないが、一方で破綻がないため、どんな場合でも(低域だけではなく全帯域で)全体域にわたって破綻のない音を聴かせる。

 これはHomePod miniでも実施されていた機械学習による動的な音質調整と同様のことを、HomePodでもしているということだろう。第2世代になるにあたってビームツイーターの数は減っているが、それでも圧倒的に進化しているのは、演算によるオーディオ体験の改善が大きく変化しているからだろう。

 初代HomePodに搭載されていた「A8」に対し、第2世代ではApple Watch Series 7に搭載している「S7」がさまざまな処理を担当している。このSiPに内蔵されるオーディオDSPは、iPhone 11搭載のA13 Bionicと同世代のものだ。

Apple TV 4Kを接続し、4Kプロジェクターを用いて120インチスクリーンに映像を投射しながら、Apple TV+やPrime Video、Netflixなどの映像作品をHomePodのDolby Atmosで楽しんでみた

 しかし、こうしたインプレッションも、HomePodのごく一部の実力しか示していなかった。というのも、映像作品用スピーカーとして使い始めると、さらに異なる顔を見せ始めたからだ。Apple TV 4Kを接続し、4Kプロジェクターを用いて120インチスクリーンに映像を投射しながら、Apple TV+やPrime Video、Netflixなどの映像作品をDolby Atmosで楽しんでみたところ、音場がさらに大きくなり、またサブウーファーが表現する音も聴こえ始めた。

 どうやらHomePodは映像作品と音楽とで、異なる音の表情を見せるようだ。

ステレオペアで使う場合、Mac用のスピーカーとして使うのもいいだろう

Macユーザーならディスプレイ脇にも

 映像作品の場合、サブウーファーのチャンネルにはもちろん低域成分が入っているのだが、そこには方向性がない、しかし映像作品の場面描写に不可欠な効果音が主に入っている。ゆえに映像用のサブウーファーチャンネルは「LFE(Low Frequency Effect)」という名前が付けられているのだが、これが聴こえないとホラーやスリラー、サスペンスなどでの、不安を煽る場面で使われる低域のエフェクトの一部が、スッパリと切り取られてしまうことになる。

 ゆえにLFEに関しては聞こえるよう(しかしシステム的には破綻しないよう)動的に音質を調整しているのだろうと想像するが、実はセリフもより明瞭に聞こえる。音楽ソースでは、センター定位のヴォーカルがウェットな録音はもちろん、ドライなオンマイクで作られた楽曲でも、ほんのりと適度な潤いを感じるのに対し、映像作品のセリフは押し出しも強く明瞭に聞き取りやすく届く。

 数日使ってみての短いインプレッションではあるが、再生ジャンルが異なればまた異なる表情を見せることもあり(EDMとオーケストラ、室内楽では明確に雰囲気が違う)、音質面ではさらに掘り下げてみるとおもしろそうだ。

 またステレオペアで使う場合、Mac用のスピーカーとして使うのもいいだろう。27インチのStudio Displayなどと組み合わせて使うのもいいが、内蔵スピーカーがややもったいないだろうか。他社性のスピーカー内蔵ではないディスプレイ、それに同時発表されたM2搭載Mac miniにサードパーティ製ディスプレイを組み合わせる際に横に並べると良い結果が得られるだろう。

 ほかにもホームネットワークHubとしての機能なども注目される本機だが、そのオーディオ機器としての実力は想像以上のものだった。

HomePodの実力を知るために Apple Musicで選曲したプレイリスト

 なお、本機の試聴に使ったApple Musicの上記プレイリストを紹介するとともに、いくつか聴きどころと感じたポイントについて、ショートコメントを付け加える。参考になれば幸いだ。

本来筆者が使っているメインスピーカーの前上にステレオペアで設置して聴いた

 全ての楽曲についてインプレッションは書かないが、参考にしてほしい。なお、いずれも本来筆者が使っているメインスピーカーの前上にステレオペアで設置して聴いた。

 Jack Jonsonの「I got You」は、冒頭から空の上に抜けていくような開放的な口笛とギターから始まる。ギターのアタック速度、フレットノイズの感触など鮮烈さを伴いつつ、程よく心地よい癒しが感じられるナチュラルな減衰のエンベロープ。ヴォーカルもナチュラルだ。

 「Things You Don't Have To Do」は、The Peter Malick GroupがNorah Jonesとコラボした楽曲。スタジオ内で息を合わせながら二人が掛け合う様子が感じられる、シンプルな録音の中にある雰囲気が魅力なのだが、しっかりと音場を埋める情報が表現されていた。

 ご存知、ダフトパンクの「Get Lucky」(feat. Pharrell Williams & Nile Rodgers)。打ち込み系のリズムセクションは典型的な帯域と質感だが、妙に持ち上げることもなく、かといってタイトすぎない。極めて心地よい感触で、伸びやかなヴォーカルも抜けるようで、まるで空間オーディオのようにも聞こえるが、実際にはステレオ録音。

 佐藤竹善の「らいおんハート」は、かなりタイトな録音。エコーや残響感は適度だが、音葉は小さめでアーティストとリスナーの距離が近い印象だが、HomePodでもその空気感、録音時の息遣いが見えてくるようだ。一方でリラックスできる包み込むような感触もある。単なるHiFi調ではなく、そこにリラックスできる要素が感じられるのが本機の良いところだろう。

 セルジオ・メンデスが多数のアーティストとコラボしたアルバムに収録されている「The Look of Love」(feat. Fergie)。この楽曲はイジワルというわけではないが、スタジオのラージモニターでなければ正確に表現できないような低域を含む極端なアレンジ。流石に最低域の「Boom」というスイープは聞こえなが、音楽的なバランスはよい。むしろ無理に聞かせようと演出するよりは良いだろう。

 アリアナ・グランデの「thank u, next」からは空間オーディオの楽曲。立体的に残響がうねるように響く幻想的なビブラフォンの前奏が心地よい。そこに立ち昇るアリアナのヴォーカルにベースラインが絡みつき、残響の長いビブラフォンが包み込む。

 エルトン・ジョンとDua Lipaがコラボした「Cold Heart」(PNAU Remix)も、音場の整い方も良いが、リズム全体を支えるシンセベースに個人的には着目。空間オーディオのDolby Atmosだけに、パートごとにオブジェクトで作られているためなのか、しっかりとベースラインが楽曲全体を支えており、HomePodのサイズから期待する以上の弾力感あるベースが気持ちを上げてくれた。

 シールのヒット曲、「Kiss from a Rose」を空間オーディオでリメイクしたトラック。元々、かなり立体的な音作りがされていた曲だが、Dolby Atmosにすることで、本来の狙いに近づいているのだろう。多重録音でシールの声に包まれながら、クライマックスへと感情を煽られることを感じる。

 クラフトワークの「Tour De France(Etape 2)[Edit]」は空間オーディオにおける音源オブジェクトの移動感を確認できるトラック。自分の周囲を楕円形に音が巡ったり、クローズドハイハットが飛び交う感覚は思ったよりも明快。ベースはもう少し下まで出てほしい欲はあるが、楽曲のバランスを崩すほどではない。フロントサラウンドの音場再現という意味ではかなり良い。

 

筆者紹介――本田雅一  ジャーナリスト、コラムニスト。ネット社会、スマホなどテック製品のトレンドを分析、コラムを執筆するネット/デジタルトレンド分析家。ネットやテックデバイスの普及を背景にした、現代のさまざまな社会問題やトレンドについて、テクノロジ、ビジネス、コンシューマなど多様な視点から森羅万象さまざまなジャンルを分析する。

 

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