「エリアクオリア指標」がこれからの街づくりを面白くする!
ASCII.jp / 2023年2月17日 11時0分
Twitterトレンド解析×GPS人流データ 多層なデータで街の魅力を深掘り!
地域の課題をデータで解決に導くエリアLOVEWalker総合研究所。今回のテーマは、これからの街づくりに必須となる「エリアクオリア指標」である。
街づくりには必要とされるデータとして、コロナ禍以降評価を高めたのは動的な人流データだが、近年さらに注目されるのは、その地域にいる/訪れた人、関心を持っている人たちが「何を思っているのか?」という、気持ちの部分のデータだ。
この気持ちの部分を、角川アスキー総合研究所のTwitterトレンド解析によって、その地域にかかわる人たちのTwitter上でのつぶやきから明らかにした。この気持ちのデータ、情感データと、KDDIの提供するGPS位置情報データ、つまり動的な人流データなどをもとにした「街づくりのカルテ」。それが、今回紹介するエリアクオリア指標だ。
エリアクオリア指標は、国際的な文化都市の実現を掲げる一般社団法人国際文化都市整備機構(以下、FIACS)が提供する。FIACSには角川アスキー総合研究所をはじめ、街づくりに関心を持つハード及びソフト企業30社が参加しており、これらの企業による研究成果を生かした、ソフトを含む街づくり活動を可視化できる次世代の都市評価指標として、エリアクオリア指標はかたちづくられている。
このエリアクオリア指標がどのように街の魅力を浮き彫りにして、深掘りするのか? 街づくりにどう役立つのか? その可能性について、FIACS理事/株式会社エナジーラボ代表取締役の松岡一久氏、KDDI株式会社経営戦略本部 データマネジメント部長の山本隆広氏、株式会社角川アスキー総合研究所戦略推進室 副室長・主任研究員の中尾文宏が語った。聞き手は、FIACS理事/エリアLOVEウォーカー総編集長の玉置泰紀。
「エリアクオリア指標」は街づくりのカルテ
―― 「エリアクオリア指標」とは何か。なぜ今この指標が必要なのか。松岡さんからまずご説明いただけますか?
松岡「これまでは街づくりに関するソフト部分、街の魅力・良さがわかる資料がなかったんです。そこで『民間企業&街づくりソフトの工夫が反映できる評価指標が欲しい』という要望を受けて、エリアマネジメントが活動する、歩いて楽しい街を駅単位で定点観測・経年評価する新しい指標として生まれたのが『エリアクオリア指標』です。いわば街づくりのカルテですね。全国に100以上あるエリアマネジメントに活用するもので、街づくりを担う大手デベロッパーや自治体などに提供しています」
松岡「西新宿のサンプルデータをもとにした指標で見てみると、真ん中の円グラフで緑のところの共感人口、つまり来街者が多いと評価は高くなります。その下の文化発信など赤いところは、角川アスキー総合研究所さんのTwitterトレンド解析によるもの、その他の青いところは他社のオープンデータなどをサンプルにしています」
松岡「活用イメージでは、この4つのチャートがわかりやすいと思いますが、街の魅力を知るには、ほかのエリアとの比較も大事だし、経年的にイベントなどを続けていけばソフトの街づくり力、話題が増えていって来街者につながるということを表しています」
KDDIのGPS位置情報データ活用で人の流れを可視化する
―― 「エリアクオリア指標」ではKDDIの位置情報をどのように活用されていますか?
山本「人の動きを使った観光や商圏分析、観光地の人の動きの実態、そして地方の交通網の最適設計、あるいは防災という観点で街づくりを進めるための人の動きを可視化しています。
今回我々が参画させていただいた背景には、先ほど松岡さんがおっしゃったように街の良さを評価する資料がこれまでなかったということがあります。KDDIでは通信事業も含めて様々な意味で街づくりや社会に貢献していきたい。こういった指標ができることによって、いろいろなお手伝いができる機会が増えるんじゃないかと考えています」
山本「位置情報から滞在人口の属性も割り出します。例えば、夜間ずっと同じ場所にいるのは居住者、9時から17時にいるのは勤務者、それ以外の方は来街者ということで分析、推定する。今回、エリアクオリア指標で使っているのは来街者です。それでは西新宿の例で見ていきましょう」
山本「人が密集しているのは駅の周辺、居住者はちょっと駅から離れたマンションが多いエリアに、勤務者は駅と居住地の中間ぐらいに集中していると推定できます。駅前には商業施設やいろいろなものが密集しているので、来街者は比較的駅に近いところに集まる。同じエリアの中でも人の属性によってどの辺りに人がいるのかがわかります。この来街者を読み解くことによって、街の魅力がどこにあるかも読み取れるんじゃないか。また経年変化を見ていくことで長期的な街の変化、町の発展にお役立ていただけるのではないかと考えています」
―― 西新宿は狭いエリアですが、それでもはっきりと性格が出ます。
山本「渋谷など大きく街が変化しているところが、経年で見るとどうなっていくのかっていうのも結構面白い結果が出るんじゃないかと思っています」
―― KDDIさんはデジタルツインもすごいです。渋谷のデジタルツインは非常に精巧ですし、我々もプロジェクトを一緒にやらせていただいてますが、さまざまなアプローチがあるということですね。
山本「特に渋谷はバーチャルシティ、いわゆるメタバースというところもありますし、デジタルツインで都市の動きをシミュレーションする。また新しい取り組みとしましては、三井物産さんと一緒にGEOTRA(ジオトラ)という会社を立ち上げて、人流データを基に人の動きをシミュレーションするようなサービスを提供しています。
例えば災害で道路が使えなくなったときに人がどう動くのか、街づくりや組み替えの際に、何かを変えたら人の動きがどう変わるのかなどをシミュレーションできるサービスも始めましたので、こちらと組み合わせていただくとよりいろいろな検討ができるんじゃないかなと」
―― どんどん進化している印象です。
山本「我々は、観光動態調査を東北の大震災後の2013年から復興支援の一環として取り組み始めたんですが、当時は人がどう動くかの分析が主軸になっていたんです。でも現在は、デジタル化が進んでいろいろなことができるようになったので、街づくりだけでなく事業にどう生かしていくかというところにフェーズが変わってきた。データを活用していただくお客様も、民間のリテール企業や飲食業の方が出店計画や売り上げ予測に使うということが進んでいます」
角川アスキー総合研究所のTwitterトレンド解析から抽出した情感データから見えてくるもの
―― 角川アスキー総合研究所では、エリアLoveウォーカー総合研究所というものを立ち上げまして、DXデータに基づく観光というものもシンクタンク的にやっていこうと。具体的にはどんなことをやっていますか?
中尾「Twitterトレンド解析をはじめとしたビッグデータをマーケティングにどう生かすのかという研究に取り組んでおります。この研究はTwitter Japan社の協力もいただき、東大とNTTデータと共同開発した独自の解析システムを活用して推進しています。
最近では、エリアマーケティングに関するプロジェクトが増えてきて、Twitter上でのつぶやきから対象エリアの観光資源に関するツイートを抽出して、トレンドのキーワード・ランキングや話題の総量、属性を可視化してですね、定量的にエリアの魅力を指標化してレポートを出しています。
今回はFIACSさんと共同で、もう少し小さいエリア、西新宿、渋谷、丸の内などエリアマネジメントに活用できる「街」単位の「個性・文化」指標づくりに取り組んでいます。
Twitterトレンド解析は主に2つ特徴があります。1つはTwitterの一次ソースの全量データ(ポジネガ含む生の声)にアクセスしているということ、もう1つは弊社がこれまでウォーカーなど全国の地域情報メディアを運営する中で蓄積した200万語以上を収録したエンタメ辞書(エリアに基づく観光名所、グルメ、イベント、体験のアクティビティ的なキーワード)を所有しており、この2つのビックデータをマッチングしていること。その結果、街単位でTwitterのトレンドを解析してランキングにしたり、話題の総量、つまりツイート数を測ったり、そのキーワードに言及している方の性別や年齢、エリアを解析しています。
今回のいちばん面白いところが、街の名前のキーワードとともに頻出する共起語の解析ですが、それによって来訪動機や「嬉しい・楽しい・美味しい」等の街についての感情データがこのTwitterのトレンド解析からわかってきています」
―― Twitterは性別や年齢を公表しないので、属性は推定するということですか?
中尾「はい。ツイート内容を日本語解析してツイートした人のアカウント属性(性別・年代・居住エリア)を推定しています。この属性結果を応用することよって、属性別に街のトレンド傾向を深堀りしてみていくこともできます。 また、Twitterトレンド解析では、ダイナミックな変化を日々数字で追いかけていけるので、季節や年次ごとのエリアの変化や、街来者の期待値の変化を可視化できるのは非常に面白い取り組みかなと」
松岡「1年、2年後と長期間で取ると観光名所しかピックアップされなかったり、逆に1週間など短期間だとそのときのイベントなどがすごくクローズアップされるので、今、中尾さんと試行錯誤していています」
中尾「大きなイベントがあるとデータが引っ張られたりするので、通年の変化を見ることもこれからの課題ですね」
中尾「渋谷・新宿・丸の内のツイートデータを比較すると、つぶやかれているキーワードに、それぞれの街の特色が出ています。このデータは、昨年のゴールデンウィーク期間(4月12日〜5月12日)の1万以上のツイートを有効サンプル数として調査したものですが、山手線沿線でもエリアごとにこれだけ違う。総量は時期によっても変わりますが、こういったものを把握していくのは面白い試みかなと。
今回はツイートデータに表れる来街者がどういう気持ちで、どういう動機で来たかということを重視しています。共起語、つまりどんなキーワードを気にしながら訪れたり、行きたいと思う期待値があるかというところですね」
中尾「渋谷・新宿・丸の内の共起語1位を比べてみると、渋谷の1位が『すみっコぐらし』。このとき渋谷駅の地下にそのキャラクターの巨大看板が出現して、「見たい、行きたい」と話題になったんですが、こういった話題がリアルタイムに反映されていくのがTwitterトレンド解析の面白いところです。
このキーワードをもう少し深掘りすると、『すみっコぐらし』を話題にしているのは20代女性という属性がわかってくる。また新宿歌舞伎町では30代の男女や旅行客も含めて歌舞伎町のナイトライフやあるラーメン店が美味しいとつぶやいていたり、丸の内では、この時期神保町の書店が閉店する中で、丸善は頑張ってるよねっていうような応援ツイートが多かったり。季節性もありますが、属性だけでなく話題になる理由もわかってきます」
―― KDDIさんが実測した人流データとTwitterのつぶやきのデータを掛け合わせることの面白さ、可能性について、松岡さんはどう考えますか?
松岡「中尾さんのお話にもありましたが、Twitterでつぶやくのは街に関心のある人たち。ほかのシネコンなどのデータから、つぶやかれた後に実際来街されるというエビデンスもあるということで、まずつぶやきで大きな波が起こるとそれが最終的に来街に繋がる。こういう相関関係はすごく面白いですね。
住んでいたり働いたりしているわけでもないのに、繰り返し訪れるのが魅力な街、つまり来街者数はその街のファンの数だろう、と。この定義により来街者数を最重要視し、補完するような形での共感数をTwitterのつぶやきから拾うということが大事なんです。街づくりというと、ハードや政策しか取り上げられないんですけれども、ソフト面の努力やイベントなどの魅力で少しずつ認知が広がって、最終的にそれが街のファンに繋がる。これはわりと皆さんに納得していただきやすい相関関係だと思います」
小田急百貨店閉店と東急歌舞伎町タワー開業で新宿の人流はどう変わる?
―― 今、新宿は大きな過渡期を迎えています。西口では小田急百貨店が閉店、東口では4月に東急歌舞伎町タワーが開業したら人流はどう変わると思いますか?
山本「人流データをどこまで細かくできるかというところはありますが、フォーカスして見ていくことで、もっと踏み込んだ理解ができると思います。また今回我々が作っているGPSデータをWi-Fiのデータと組み合わせたり、今、松岡さんと研究している決済データと組み合わせて見ていくと、もっといろんな視差がわかるんじゃないかと」
―― 人の動きの変化はTwitterのつぶやきにも影響しますよね。
山本「変化している街だといろんな動きがあるし、新しい文化が定着していけば人の動きにも現れる。Twitterのつぶやきの中にも新しい話題がどんどん出てくるので、それをピックアップしてどう変化していくかを見ていくと、この街づくりがどうだったのかの振り返りができると思います」
松岡「新しい都市開発をすると、容積率いっぱいに建物を作っちゃう。ハードを作って終わり、みたいな。計画側が広場も充実させましょうと言っても、エビデンスがないからなかなか反映されないんです。でも、これからKDDIさんと経年データを拾っていって、ハードを作った後、放ったらかしにしていたら、どれくらい来街者が減衰するのか、広場を作ってイベントを繰り返すとどれくらい来街者が伸びていくのか、その辺の違いを定量化できれば、非常に計画が反映されやすくなるでしょう」
Twitterのつぶやきデータ分析と人流データを掛け合わせたら3Dに見える!?
―― Twitterトレンド解析の総量分析と人流データはオンタイムで極めて細かく見られるから、経時的にも突き合わせたら面白いです。
中尾「今回弊社のTwitterトレンド解析チームが、KDDIさんの人流データと弊社の属性データを重ねてみたんですね。そうすると訪れた人とつぶやいた人の属性に相関関係が見られました。さらにTwitterトレンド解析の情感データを重ねることで、街を訪れた人がどんな気持ちになっているかというところが結構正しく反映できたので、何か出来事が起こったときの感情の変化まで見られると面白いと感じました」
山本「まさに時間軸で両方見ると立体的に見えて。実際の活動に感情を重ね合わせて細かく見ていくと、本当に何かそういう変化が見て取れる。ここは実はこういう街なんじゃないかということが目に見える形で理解が進むんじゃないかと思います」
―― 3Dデータみたいな感じですね。
松岡「最近のテレビ広告って、効果測定ができることを前提にいろいろなサービスが普及しているんですけど、まさにその人流データとTwitterトレンド解析のデータを重ね合わせると、街づくりの活動の効果測定がリアルタイムでできるようになってくると思います」
―― 新しい都市像やサービスを考えていく、そのエビデンスにもなります。
山本「デジタルツインやメタバースという世界がどんどん来たときに、そういうものと組み合わせて実際の街がどう形づくられるか。渋谷の方で我々もいろいろお手伝いさせていただいてますが、それこそリアルとバーチャルを掛け合わせたような中で、総合した街の魅力みたいな形が、まさに人流といわゆるバーチャルのつぶやきみたいなのを追っかけるって、すごく新しい世界ですね」
―― 3Dで捉えることによって、行動生物学ではないですが、都市を生き物と考えてそれを観察するように、どのように機嫌が良くなったり悪くなったり、成長していくのかといったことを、我々のデータから出していくことができるかもしれません。
山本「何かを変えたときに、ネガティブなものが増えるのか、ポジティブなものが増えるのか。まさに生き物みたいな形で見えてくるような気がしますね」 松岡「基本的に都市はコンテンツだと考えています。コンテンツだから、だんだんファンが増えていくのが財産になる。これからの日本では高齢化などで都市の人口はそんなに増えないと考えると、来街者だけでなくファンの数が日本国民を超えて世界に広がっていけば、それが日本の都市の財産になる。最終的にはそういうゴールを形状的に見せることができれば、すごく可能性が広がると思います」
―― Twitterトレンド解析の総量分析をする中で、感情が見えてくるということはありますか?
中尾「1つ面白いデータがあります。これは全国ブランド茶の2021年度銘柄トップ5の総量分析ですが、ツイート総量が最も多かったのが京都の宇治抹茶、次が埼玉の狭山茶、3位が福岡の八女茶でした。これをつぶやいたファン層が、宇治抹茶と八女茶は30代女性。宇治抹茶はマクドナルドのフラッペ、八女茶はスターバックスのフラペチーノとコラボしているタイミングでした。
興味深いのは、八女茶と美味しいというキーワードを同時につぶやいた人の割合は45.4%で一番多いということ。これは話題になったものに対して美味しいとか楽しいという感情も掛け合わせて指標を出していくことが面白いということを表しているデータだと思います」
―― ブランドや街の個性を引っ張り出すことができると。
中尾「はい、街の個性やその理由までわかることが面白いです」
山本「エリアごとに特徴がすごく出ますよね」
―― 特徴を調べていけば、結果的にその都市や場所のブランドが見えてくるでしょうか?
山本「コロナになって人の動きがどう変わったかということをエリアごとに調べると、新宿の歓楽街は夜の人口が減っている一方で、豊洲みたいな街だと居住されている方と、働いている方が両方いらっしゃる。コロナでリモートの働き方が多くなると昼間の人口が増えたという変化も見えました」
―― 自宅で働く人が増えているのがわかる!
山本「数字に出てきますよね。それによってまた街の特性が改めて理解できる。豊洲ってマンションがあればオフィスもあって、働く人と住んでいる人が共存する街だと想像はできますが、実際に人の動きを合わせてみると、本当にそういう街なんだとわかる。
また今、人の動きから、その人がどういう思考を持っているかがもっとわからないかということをいろいろチャレンジしています。例えば横浜スタジアムに頻繁に行く人はたぶん野球好きでベイスターズファンだろうとか。行動からその人の思考がわかってくるということを重ね合わせて見ていくと、来街者の特徴が細かく分かれてくる。そこからさらにいろんなことがわかりますし、またTwitterのつぶやきキーワードとひっかけて掛け合わせて、どういう属性でどういう関連があるのかを見ていくと本当に面白いものになるんじゃないかと」
「エリアクオリア指標」活用で広がるエリアマネジメントの可能性
―― 非常にいろいろな可能性が見えてきたと思いますが、松岡さん、改めてFIACSとしては、どういう人に向けてこのサービスを提供して、どのように使ってもらいたいですか?
松岡「街単位でその町のファンというのをできるだけ顕在化させたい、ということが最終的なゴールとしてあります。それが結局エリアマネジメント、全国に数百あるようなエリアマネジメント団体の方たちの活動のエビデンスになる、あるいはそのモチベーションを保つということに繋がると思っています。
実際、昨年度は試験提供という形でのサービス提供ですが、サンシャインシティさんから池袋のエリアマネジメントの範囲にはどんな動向があって、新宿や渋谷と比べてどんな特徴があるのかを調べてほしいというご依頼がありました。すでに納品したのですが、彼らも非常に意を強くしたようです。
Twitterトレンド解析では、池袋の話題1位が、サンシャインシティで春に開催された『acosta!』というコスプレイベントで、これが半年経っても非常に話題になっていたということ、4位にはサンシャインシティの名前そのものが上がり、池袋の話題の半分近くはサンシャインシティが関わっていたということがわかったんです」
―― 大都市以外で、地方都市の可能性は?
松岡「基本は東京都、山手線などを中心とした指標になるので、地方では数値が少し落ちるかもしれませんが、相対評価として十分使っていただけるカルテにはなると思います。
また、なぜエリアマネジメントかっていうと、何ヘクタールって区域がはっきりしているんです。そこに対しての来街者人口と、関連した共起語などからデータ化していますが、もう少し狭い範囲、例えば先ほどのサンシャインシティ単体でも同じような測定ができますので非常に汎用性のあるカルテになると思います」
―― サンシャインシティはもう街に近いものがあります。
松岡「先ほどのTwitterトレンド解析例でも、共起語で町の名前や固有名詞が上がるってことは、それだけ認知されているということですから、街づくり、あるいはそのブランディングの効果としては非常にわかりやすいですね」
―― 松岡さんはもうずっとエリアマネジメント研究をしてきたと言っても過言ではありませんが、この分野では大丸有まちづくり協議会が30年超えで一番古いんですよね?
松岡「そうですね。大丸有というか三菱地所さんを中心にした丸の内エリアが、やはり日本のエリアマネジメントのモデルになっているんですけれども、その彼らでも今、次の方策を考えるときに、やはり街のファンが必要だと。丸の内は当然就業人口が多いけれども、今はコロナの影響で毎日出社する方ばかりじゃない。『就業人口28万人の街じゃなくて関係人口100万人の街にしたい』とよくおっしゃっているので、エリアクオリアの指標も非常に親和性があると思います」
―― 山本さん、KDDIが今、特にエリアマネジメントで調べている場所は?
山本「自治体のお仕事をお手伝いするケースが多いですね。例えば渋谷ではハロウィンの人出を日本ディープラーニング協会さんとコラボして事前予測と結果の検証をやってみたり、西新宿のプロジェクトに参加したり。スーパーシティ関連ではつくば市や大阪府などいろんな自治体と協定を結んで、地域共創ということで地方を一緒に盛り上げていくことに積極的に取り組んでおります」
―― 中尾さん、Twitterトレンド解析で、今、取り組んでいる地域観光調査は?
中尾「こちらは鹿児島の屋久島と奄美大島と種子島の島旅観光のトレンド調査結果ですが、つぶやかれている内容が同じ鹿児島の離島でも違う。屋久島では当然世界遺産の屋久杉とか縄文杉が出てくるんですが、自治体としては海もきれいなのにあんまり話題にもなっていない、と。逆に奄美は海一色で、マリンスポーツがすごく定着している。種子島が面白くて、『宇宙』がつぶやかれる一方で、スイーツの話題がここ最近多い。女性がそこに惹かれているんですよ。
話題の総量は屋久島と奄美大島が約10万ツイートで拮抗しているので、屋久島を選んでもらうにはどうすべきか。鹿児島・島旅全体に観光需要として関心がある共通点や3つの島を比較すること各島の観光PR等の施策が上手くいって話題が作れている点や課題など、参考にすべき点が見えてきます。」
―― 人流データが加わればさらに効果的です。
中尾「屋久島は飛行機だと福岡から約1時間、東京や首都圏から約3時間。大阪からもアクセスできるので、実際どのエリアからの流入が多いんだろうとか。こういう人流データと掛け合わせたら、島の観光PRの訴求点などの特徴がもっとわかると思います」
山本「旅行分析するうえでも、来た方がどう回るかだけでなく、どこから来ているのかという流入元を見ていくのが非常に大事です。例えば関東でも横浜から来た人が多かったら、横浜にアンテナショップを出せばいいとか、宣伝やマーケティング、施策をどこで打てばいいかがわかってくるので、そういったものと組み合わせていくと非常に面白い。実際に人の動きを変える取り組みにも繋がるんじゃないかと」
中尾「KDDIさんの人流データを組み合わせて可視化できたら面白いと思うんですよ。例えば、屋久島は世界遺産めぐりを目的で訪れる方が多いのですが、他の立ち寄りスポット、周遊ルートなど行動履歴とつぶやきの総量や情感データと合わせることで、実際に訪れているけど話題が作れていないスポットを発見したり、旅中のアクティビティで「楽しい・嬉しい」などポジティブな感情を作れている理由が分かると、とても参考になります」
―― 非常にリアルなイメージが湧いてきたんですが、最後に松岡さんから、FIACSとしての今後の展望や目標をお願いします。
松岡「まず昨年度の試験提供を検証しながら本年度から本格的に提供していきたい、数を増やしたい。また先ほど少しテレビ広告の効果測定の話をしましたが、今までの街づくりというのは、経験だとか勘みたいなものでやっていた。でもエビデンスを積み重ねてシミュレーションを繰り返していけば、どの街ではどんな打ち手をするのが一番効果的なのかということがわかってくる。効率的なのだけがいいとは思いませんが、街づくりへの情熱をより生かせるような活動に繋がるお手伝いを、ぜひやっていきたいと思います」
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