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iPhone 14は「内部設計」も大きく変更! アップル本社担当者に聞いた進化のポイント

ASCII.jp / 2023年2月8日 23時0分

6.7インチのHDR対応Super Retina XDRディスプレイを搭載するiPhone 14 Plus

 iPhone 14は、強化されたA15 Bionicチップを搭載するiPhoneの新しいハイエンドモデルだ。高精細なHDRビデオの再生が楽しめる、大型6.7インチのSuper Retina XDRディスプレイ搭載のiPhone 14 Plusもラインナップに加わった。

 2つの新しいiPhoneがパワフルなデュアルカメラシステムを搭載し、多彩な機能を搭載しながら従来のiPhoneよりもタフなバッテリー性能を実現できた理由のひとつに、iPhone 13シリーズから内部設計を大きく見直したことがある。iPhone 14シリーズの内部設計を変えた重要なポイントと、その背景にある理由について、アップル本社のiPhoneプロダクトマーケティング ディレクターのFrancesca Sweet氏、iPhoneプロダクトデザイン シニアディレクターのRichard Dinh氏に聞いた。

「内部設計」を一新したiPhone 14

 アップルはiPhoneをはじめとするプロダクトのデザインを突き詰めるため、いつも全体を俯瞰しながら最も合理的なアプローチを選択してきた。Sweet氏はその視野をいつもユーザーに最高の利便性をもたらすため、デバイスの内側・外側、隅々にまで気を配っていると語る。

 iPhone 14/iPhone 14 Plus(2台を同時に指し示す際は以下、iPhone 14シリーズ)はiPhone 13と同じく本体の素材に航空宇宙グレードのアルミニウムを採用する。背面パネルには強化ガラスを合わせた。

前面はCeramic Shield。背面はガラスとアルミニウムのデザインを採用している

 「美しく洗練されたデザインは多くの皆様から好評価をいただいています。iPhone 14シリーズでは皆様に親しまれているデザインを維持することに注力しましたが、実は内部のアーキテクチャーを大きく刷新しています」(Sweet氏)

 iPhone 14シリーズの内部設計が変更された主な目的は本体の軽量化だけでなく、放熱設計のブラッシュアップに伴うパフォーマンス向上と、そして「Reparability=修理のしやすさ」を改善するためだ。

 詳細はプロダクトデザインの責任者であるDinh氏が説明を引き継いだ。

本体はiPhone 13。左側はシャーシから取り外したディスプレイモジュール

メインシャーシの構造・素材を大きく変えた

 「iPhone 5以降、iPhone本体のシャーシ(筐体)には継ぎ目のない『Bucket Style Design』(=バケツ構造 バスタブ構造と表現した方がイメージしやすいだろうか)を採用してきました。さらにiPhone 8以降からワイヤレス充電が導入されたことで、背面にガラスパネルを追加しています。背面ガラスはアルミニウムのシャーシに固定されています」(Dinh氏)

 iPhone 8シリーズ以来、2021年発売のiPhone 13にも踏襲されてきたという内部設計を写真で確認してみよう。

 左側は筐体から取り外したディスプレイモジュールだ。右にあるバケツ構造のシャーシ側にはメインロジックボードからデュアルカメラシステム、バッテリーパックなど主要なコンポーネント一式が組み込まれている。

上と同じiPhone 13の、ディスプレイ側とシャーシ側を裏返した写真。iPhone 13はバケツ構造のシャーシを採用しているため、ディスプレイモジュールを取り外して開かないと中のコンポーネントにアクセスができない

 「これらのコンポーネントはすべてディスプレイ側から組み付ける必要があるため、内部のコンポーネントを修理する際には、いったんディスプレイモジュールを取り外す必要があります。背面に近く配置されているコンポーネントも含むすべてです」(Dinh氏)

 ではiPhone 14シリーズの内部設計はどのように変わったのか。Dinh氏はさらに説明を続ける。

 「iPhone 14シリーズではシャーシの耐久性能を維持しながら、アルミニウム製のメインシャーシから背面ガラスモジュールを完全に分離しています」(Dinh氏)

 Dinh氏が「Central Structural Frame」と呼ぶ、iPhone 14のための新しいメインシャーシには、軽く剛性にも優れる7000系アルミニウム合金の押し出し材が使われている。放熱性能も高い素材を採用することで、ワークロードの高い処理を実行した際にも効率よく熱を逃がしパフォーマンスの低下を回避できるという。

iPhone 14はディスプレイモジュールだけでなく、背面のガラスパネル側のモジュールを取り外せる設計に変更。間のCentral Structural Frameにメインコンポーネントを配置している

 内部設計についてはiPhoneとして初めて4面積層メインロジックボードを採用したことで、iPhone 14シリーズでは基幹コンポーネントを限りある内部スペースの中により効率よく格納できたという。

Central Structural Frameは背面メインカメラ側のイメージ。左がディスプレイ側、右が背面ガラスパネル側の内部機構。背面側からも多くの内部コンポーネントにアクセスができる

 そしてバックパネルのモジュールを分離構造としたことで、前面と背面の両側からメイン基板にアクセスできるようになり、Reparabilityが格段に高くなる。Central Structural Frameの側についてもまた、前面・背面から主要なコンポーネントとコネクタにアクセスできるデザインとしている。

Central Structural Frameのディスプレイ側。TrueDepthカメラモジュールやディスプレイのコネクタなどにアクセスができる

本体の軽量化を実現。放熱性能も向上

 この最新の内部設計は、iPhone 14シリーズの軽量化にも大きく寄与しているという。特に6.7インチのiPhone 14 Plusが、同じ6.7インチのiPhone 14 Pro Maxよりも約37gも軽く、ディスプレイを大型化しながらiPhone 8 Plusに比べてわずか1gのサイズアップに抑えたことにあらためて注目したい。

 新しい内部設計が採用されたことで、従来は放熱性能を高めるために使われてきた銅合金のパーツが不要になった。Central Structural Frameのシャーシにはリサイクル率50%以上の再生アルミニウムを採用し、さらに厚みを最小限に抑えるため新たな技法によるブラスト加工処理を加えている。通常は金属素材のコスメティックスを磨くために用いる技術を、シャーシの強度を保ちながら限界まで薄く・軽くするために応用した格好だ。

 内部設計を見直す過程で、接続部材の使用量も削減したという。生まれたスペースの余裕は、低照度下でも優れた性能を発揮する新しいメインカメラ、ディスプレイの明るさをきめ細かく調整するデュアル環境光センサーなど革新を盛り込むため有効活用された。

 新しい内部設計は、iPhone 14シリーズのパフォーマンス向上にも大きく貢献しているという。Sweet氏が説明を続ける。

iPhone 14シリーズのA15 Bionicチップは5コアのGPUを搭載。スムーズなグラフィックス処理を実現している

 「iPhone 14シリーズにはiPhone 13シリーズと同じA15 Bionicチップが搭載されています。CPUコアの数は変わっていませんが、GPUのコアが1つ増えたことによるピークパフォーマンスの向上が期待できます。それだけでなく、ここまでRichard(Dinh氏)が紹介してきた新しい内部設計による放熱性能の向上が果たせたことにより、iPhoneによるビデオ編集やゲーミングなど、グラフィックスまわりのワークロードの大きな処理を実行する場面で直接的なメリットがあります」

 Sweet氏は新しい内部設計を採用することにより、iPhoneのシステムチップから高いパフォーマンスを安定して引き出せる語っている。新しい内部設計がもたらすパフォーマンスの向上や軽量化の恩恵が随所に活きるiPhone 14 Plusは、まさしく「画期的なiPhone」なのだ。

 新しい内部設計により得られるメリットは、今後量産される主力チップセットのパフォーマンスを限界まで引き出すことにも寄与するだろう。ならばそのチップを「次世代のiPhone」に搭載した場合も、iOSが実現する新機能や拡張されたサービスから、ユーザーは長く最良の体験が得られる可能性が高い。その結果、アップルシリコンの量産効果がiPhoneの価格面にも反映されることを望みたい。

欧米から先行する形でアップルデバイスの「Self Service Repair」サービスがスタートしている

「修理がしやすくなる」ことのメリットとは

 iPhone 14シリーズの新しい内部設計により、端末の修理に携わるエキスパートの負担も軽減される。Dinh氏は修理が必要なコンポーネントに余計な負担なくたどり着けるようになることで、偶発的に発生することのあるパーツの破損やダメージを減らすこともできるのではないかと期待を寄せる。修理の工数が短縮されればユーザーの手元にiPhoneが速やかに戻ってくるだろうし、そのほかのメリットが生まれることもあり得る。

 2022年の春から、北米ではiPhoneとAppleシリコンを採用するMac、およびApple Displayの「Self Service Repair」が開始された。従来はApple Storeや正規サービスプロバイダへの持ち込みによる対応に限定されていたデバイスの修理が「自分でできる」ようになったのだ。修理のために必要な純正部品や専用工具、マニュアルなどはApple Self Service Repair Storeから供給される。同年12月にはイギリス、ベルギー、フランス、ドイツ、イタリア、ポーランド、スペイン、スウェーデンをはじめとする欧州各国にもサービスの提供地域が拡大した。

 ただ、実際には電子機器の修理経験が必要であることから、Self Service Repairは「誰でも気軽に利用できるサービス」ではない。正規サービスプロバイダ以外の修理事業者にもビジネスの機会が広がるところに意義がある。iPhoneの内部設計が変わり、修理しやすくなればSelf Service Repairのサービス網拡大にも弾みが付く。日本の場合は先に関連する法整備が必要になることから、同じサービスがすぐに上陸することはなさそうだが、今後の動向には注目したい。

 Dinh氏は「iPhoneの“修理しやすさ”は今後も引き続き高めていきたい」と意気込みを語った。今後スマホを選ぶ際には内部設計のコンセプトや完成度にも注目する必要がありそうだ。

 

筆者紹介――山本 敦  オーディオ・ビジュアル専門誌のWeb編集・記者職を経てフリーに。取材対象はITからオーディオ・ビジュアルまで、スマート・エレクトロニクスに精通する。ヘッドホン、イヤホンは毎年300機を超える新製品を体験する。国内外のスタートアップによる製品、サービスの取材、インタビューなども数多く手がける。

 

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