M2 Max搭載MacBook Proから見渡すM2ファミリー実力の全貌(本田雅一)
ASCII.jp / 2023年2月9日 12時0分
MacBook ProとMac miniに搭載されたM2 Pro、M2 Maxの性能が明らかにできるタイミングとなった。アップルが自社開発するMac向けSoC「M2」は、すでにMacBook Airに搭載されていたが、今回はその高性能版がどのような性能を持つのか。そしてMac miniに搭載されたM2がどこまで性能を発揮するのかなどに興味を持つ読者も多いだろう。
筆者の手元には一足先にM2 Max(12コアCPU/38コアGPU/64GBメモリ)を搭載するMacBook Pro 16インチモデルが届き、短期間ながらその性能を探ってみた。
本稿は主にM2ファミリーの上位モデル展開について話を進めていくが、見た目は全く同じMacBook Pro 16インチモデルだが、Wi-Fiのスキャンをしてみると周囲に見えるWi-Fi 6Eの基地局がしっかりと見えていた。Thunderbolt端子からの映像出力も8Kディスプレイに対応可能となるなど、システム全体が最新の環境に適応できるようリフレッシュされている。
またM1 Max搭載モデルと比較しながら各種アプリケーションを使ってみたが、若干ではあるが輝度設定を同一にしてバッテリー駆動でベンチマークを動かしてみると、M2 Max搭載モデルの方が消費電力は少ない。
さて、ここから先はM2 Max搭載機の性能から、M2ファミリー全体の実力を俯瞰してみることにするが、先に大まかな結論から書いておきたい。
M2ファミリーは第2世代5ナノメートルプロセス(TSMCでいうところのN5P)で製造されているとはいうものの、M1ファミリーとトランジスタの集積度は同じ。M1からM2にかけてはMedia Engine搭載という大きなトピックもあったが、マイナーチェンジ感は否めない。
しかし蓋を開けてみると、製造プロセスの進化(TSMCによるとN5Pは消費電力効率で10%、同じ消費電力ならば最大性能は5%向上するという)をフルに生かし、SoC全体のシステム性能を大きく向上させている。これをマイナーチェンジとは言わないだろう。
M1 Pro、M1 Max搭載機のオーナーに買い替えを勧めることはしないが、メディアクリエイターがこれらの搭載機を購入するというのであれば、たとえ多少のディスカウントがあったとしてもM2ファミリー搭載機を選ぶべきだろう。また今回の結果は、将来登場するだろうM2ファミリー搭載の他モデル、およびM2 Ultraの性能を期待させるものでもある。
CPU、GPUともに期待以上に性能は向上
前述したようにテストに用いたMacBook Proには64GBメモリ版のM2 Maxが搭載されていた。高性能コア8個、高効率コア4個と38コアGPU、2個のMedia Engineを内蔵しており、M1 Max搭載モデルの実績からすると冷却性能は十分で、このSoCの性能は100%発揮できるものと考えていいだろう。
前述したようにシステム全体の電力効率は上昇しているように見受けられるため、MacBook Pro 16インチモデルの冷却容量が不足することは考えにくい。
システムトータルのピーク性能引き上げたCPU
まずはCPU性能だが、高性能コアのピーク性能はMacBook AirのM2に比べやや向上している。GeekBench 5のシングルコアのスコアはM2 MacBook Airの1892に対し2060を記録する。SoCの最高クロック周波数は3.7GHzと計測で、MacBook Airの3.5GHzよりもピークの周波数動作が高いことが理由だが、クロック周波数の増分よりも高い性能が出ているのは、MacBook Airがファンレスの薄型ノートのためだろう。
言い換えれば(ほんの少しだろうが)冷却容量に余裕のあるM2 Mac miniでは、MacBook Airよりも良い成績が得られるはずだ。なおM1 Maxのシングルコアのスコアは1785。動作クロック周波数は3.2GHzでクロック周波数を3.7GHzに換算すると2063と、ほぼM2 Maxと同じになる。
M1の高性能コアであるFirestormとM2の高性能コアであるAbalancheは、ほぼ同じ性能といわれてきたが、計算上もそれが実証されている形だ。しかし、M1の省電力コアであるIcestormとM2の省電力コアBlizzardでは、Blizzardの方が高性能と予想される。A14とA15の比較でそうした傾向が見られるからだ。
マルチコアのスコアは14316と、M1 Maxの12197を圧倒する。もちろん、これは高効率コアが2個増え、さらにクロック周波数も上昇しているからだが、M2 Maxの数字を周波数あたりに換算してM1 Max相当にすると12381で、実はピーク性能だけで比較するとクロック周波数比+アルファ程度で、Blizzardが2個増加したほどのスコア上昇はない。
しかし、そもそも10個を超えるコアが同時に動作する状況だ。当然、局所的な熱や消費電流の上昇もある。マルチコアでのスコアが単純に掛け算とならないのは当然で、むしろピークのクロック周波数を500MHzも上昇させながら、ピーク性能をここまで引き出せていることの方を褒めるべきかもしれない。
同じくCPU性能を計測するCinebench R23のスコアはマルチコアで14680(ピーク値ではなく10分のスタビリティテスト)。対するM1 Maxは12359であり、Geekbench 5のマルチコアスコアの性能比に近似している。Cinebenchのシングルコアとマルチコアの倍率は8.61で、M1 Maxの8.08である。
コアの増分に見合う以上の性能を発揮したGPU
一方、GPUに関してはコアそのものの設計は、M1とM2での違いは大きな違いはないと見られる。ベースになっているAプロセッサのGPU設計に大差がないためだが、GPUコアが増えれば当然発熱、電流量の増加もある。
Geekbench 5のGPU演算能力スコア(Metal)の86473は、M1 Maxの64708に比べて33.6%良好な値が出た。コア数の増分は約18.7%に相当するため、コアの最大クロック周波数もCPUと同様に上がっていると考えるのが妥当だろう。
ちなみにこのスコアは9万8000円でオプション設定されているMac Pro用のGPUカード「AMD Radeon Pro W6600X」を超えるものだ。時代が異なるとはいえ、デスクトップクラスのGPU性能とは言えるだろう。
また、84万円と極めて高価なMac Pro用ハイエンドGPUカード「AMD Radeon Pro W6900X」のほぼ半分の値という言い方もできる。あくまでも推測ではあるが、M2 UltraがM2 Maxの1.9倍のGPU性能を引き出せると仮定するなら、その数字に肉薄できることが予想できる。
ゲームシーンをシミュレートするGFX Benchmark Metalも実施したが、Epic GamesのFortniteがMacから失われ、大規模な3DグラフィクスゲームがMac向けにはない現状、ゲームシミュレーションには大きな意味は現時点ではない(Apple Arcadeのゲームに関してはGPUに比較的優しいため、あまり影響はないだろう)。
Metalをもっと活用した大規模な3Dグラフィクスを駆使するゲーム登場をアップルは促しているため、将来はわからないが、現時点ではクリエイター向けの演算能力として、バッテリー駆動で利用するプラットフォームとしては最高クラスの性能と、圧倒的な省電力性能ではある。Media Engineの助けもあり、高精細なビデオストリームをProResで複数扱う編集をしていても、バッテリー残量などを気にしなければならないことはほとんどない。
Media EngineとNeural Engine
アップルはNeural Engineが4割高速化したと話している。A14からA15への進化の中でもNeural Engineの設計がリフレッシュされたことが明らかにされていたが、M1 MaxとM2 Maxの間も同様の設計変更が行われた上で、さらにクロック周波数の上限が上がってトータルで4割向上したと思われる。
機械学習処理のベンチマークを実施するテストもあるが、エンドユーザーの視点ではピークの演算性能ではなく、どのような結果が得られるかの方がよほど重要だ。そうした意味では、M1ファミリーとM2ファミリーで「異なる機能が使えるようになる」わけではない。
例えば、macOSにおける被写体の切り抜きや動画内での文字認識など、Neural Engineを用いた処理の的確さといった部分で「将来」体感することになるだろう。現状はエンドユーザーの立場でそれを意識することはないが、Neural Engineを活用したアプリケーションが増加していることを考えれば、フォトレタッチソフトのAI活用機能などにおいて明確な違いが出てくることもあろう。
一方、Media Engineに関しては、M1 Maxでも8KのProResをハンドリングできていたことを考えれば、大きな違いがあるというわけではない。設計そのものは同等で2基搭載されてるのも同じだ。しかし数字としての計測は困難だが、Final Cut Proで4KのProResファイルを複数ストリーム読み込みんでレイアウト、バックグラウンドでの中間ファイル生成の様子を見ていると、明らかにM2 Maxの方が早い。これもクロック周波数上昇分の違いなのだろうか。中間ファイル生成が高速になれば、当然ながらそれだけ早いタイミングでシステム負荷が下がる。
つまり素早く快適に動作する状態になるのだが、加えて省電力な状態にもなるため、バッテリーでの運用時にはさらに有効といえる。
M2 Maxから俯瞰するM2ファミリー
冒頭でも紹介したように、M1ファミリーの生産で使われているN5という技術とM2ファミリーが使うN5Pトランジスタ集積度は同等だが、電力効率はN5Pのほうが高い。同じ性能を引き出す場合、N5PはN5よりも10%消費電力が下がる。あるいは同じ消費電力で使う場合、N5Pは5%高速で動作させることができる。
これはあくまでも製造プロセスの特性にしかすぎないが、アップルはM2ファミリーを設計する上でN5Pを用いて、最大限の性能を引き出しているようだ。10%消費電力効率が向上すれば、SoC全体の熱密度を管理しやすくなる。つまり、より多くのコアを集積し、それらから多くのパフォーマンスを引き出すマネジメントが容易になる。M2 Pro、M2 Maxの処理コアを増加させることができたのは、その結果と言えるだろう。クロック周波数の上限を引き上げることに成功できたのも同様だ。
メモリ帯域に関しても、M2で拡張されたメモリ帯域のさらに4倍となる毎秒400GB(M2 Proは毎秒200GB)で、処理コアの増分に見合う広帯域が確保されている。搭載可能な最大メモリ容量はM1ファミリーの1.5倍として、プロフェッショナルのクリエイターに応えようとしている。
2019年の製品と比較するのはフェアではないが、当時、8Kビデオ編集のためにProResアクセラレータなどを導入して作業していたことが、編集などの作業に関してならば現在はM2 Maxはおろか、M2 Proでも賄える。GPU性能は最高性能ではないため、最終書き出しにおいてはMac Proの最上位構成には敵わないものの、スタンダードな構成ならば匹敵する製品を引き出せるはずだ。
また今後、M2 Ultraが登場すれば、M2 Maxの1.9倍程度のGPUスループットが見込めるだろう。遠くない将来にMac Studioに搭載されることが期待される。
ただ、個人的に期待したいのは、まだ十分な評価値が出ていないM2搭載Mac miniの性能だ。MacBook Proの13インチモデル同等の性能が出ると思われる。その価格の安さを考えれば、M2 Pro搭載モデルとともにインテル時代のiMacを置き換える製品になるはずだ。Mac Studioがオーバースペックと感じているならば、お買い得なモデルになっていると思う。
筆者紹介――本田雅一 ジャーナリスト、コラムニスト。ネット社会、スマホなどテック製品のトレンドを分析、コラムを執筆するネット/デジタルトレンド分析家。ネットやテックデバイスの普及を背景にした、現代のさまざまな社会問題やトレンドについて、テクノロジ、ビジネス、コンシューマなど多様な視点から森羅万象さまざまなジャンルを分析する。
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