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グーグル、マイクロソフトに追いつめられる

ASCII.jp / 2023年2月13日 9時0分

Microsoft Bing

 昨年12月に登場したOpenAIのチャットAIであるChatGPTは、凄まじい勢いで話題が広がり続け、1月の月間アクティブユーザー数は1億人に達したとの調査結果をUBSが報告しています。

https://watcher.guru/news/chatgpt-touched-100-million-monthly-active-users-in-january-says-study

 チャットAIは、想像以上に私たちの生活を変えてしまうものかもしれません。

 AI研究の第一人者で日本ディープラーニング協会の理事長も務める東京大学大学院の松尾豊教授はメディアのインタビューに答え、「この言語技術は、すべてのホワイトカラーの人たちに影響が及ぶので、インターネットの黎明期かそれ以上に大きなインパクトだと思います」と語っています。

https://toyokeizai.net/articles/-/648425

 グノシーの木村新司会長は、みずからChatGPTやLangChain、GPT Indexなどの最新のAIを扱うプログラミング技術に触れた上、「ChatGPTは、産業革命並みのインパクトになると思っています」とツイートしています。

 マイクロソフトのブラッド・スミス社長は、「実際、産業革命は今、知識労働の分野に到来しようとしています」と書いていました。

https://news.microsoft.com/ja-jp/2023/02/07/230207-responsible-ai-chatgpt-artificial-intelligence/

 そしてChatGPTの登場をキッカケに、早くもビッグテックの間でチャットAI競争が始まったようです。

 マイクロソフトは自社の検索エンジンのBingにChatGPTを搭載すると発表。その後、2月8日のイベントにてチャットAIを搭載した新しいBingの詳細を発表しました。

 中国の百度(バイドゥ)もチャットAIの「ERNIE Bot(文心一言)」を3月までに一般提供する計画を発表しています。

 さらに、グーグルもチャットAI「Bard」を発表。その詳細を2月8日のイベントで満を持して紹介しました。

 しかし、紹介イベントの後、グーグル(親会社アルファベット)の株価は8%下落してしまいました。

 どうして注目されていた新しいチャットAIを発表したのに株価が下落したのでしょうか。

グーグルのチャットAI、Bardとは

 グーグルのチャットAIであるBardは現在、テスターにのみ公開されていて、まだ一般には公開されていません。

 グーグルの説明によると、「家族のために自動車を買いたいのですが、何を検討すればいいでしょう?」のような質問にも回答できます。

 ChatGPTには、最近の話題に対応しておらず、ハルシネーション(幻覚)によってデタラメな回答をでっちあげてしまうことがあるという問題がありました。

 しかし、BardはWeb上の情報を検索してきて利用できるようです。それにより、最新の話題にも対応でき、精度の高い回答を可能にしています。

 そして、Bardの中身に使用されているAIは、グーグルが2021年に開発したLaMDAです。

 LaMDAといえば以前、グーグルのエンジニアが「LaMDAには意識が芽生えている!」と主張して騒ぎになりました。それくらいに感じてしまうほどにすごいAIであると想像されます。

https://gigazine.net/news/20220725-google-fires-lamda-researcher/

 ただし、Bardに使われたのはフル版のLaMDAではなく、軽量版の方だとのこと。パラメーター数の多い大型のAIモデルを実行するのは多額のコストがかかります。

 ChatGPTは無料で使用できますが、中身はパラメーター数1750億の超大型モデルのGPT-3.5だったので、運用中に赤字が膨らんでいたようです。

 グーグルは「このはるかに小さなモデルは、必要な計算能力が著しく低いため、より多くのユーザーに対してスケールアップすることができ、より多くのフィードバックを得ることができます」と説明しています。

 LaMDAはフル版の1370億パラメーターのモデル以外に、小型の80億と20億パラメーターモデルが用意されていたようです。

https://ai.googleblog.com/2022/01/lamda-towards-safe-grounded-and-high.html

 つまり、Bardに使われた軽量版モデルとは、80億または20億パラメーターのモデルと思われます。

 Bardとは別に、グーグル本体のWeb検索にもAIが回答してくれる機能が追加されるようです。

 今まで強調スニペットが表示されていた部分に、代わりにAIによる回答が表示されています。

 グーグルによれば、唯一の正しい答えが無いような質問、例えば「ピアノとギターはどちらが習得しやすいか?それぞれどのくらい練習が必要か?」といった質問にも洞察を与えてくれるそうです。

 検索エンジンはキーワードを入力して検索するものでしたが、最近ではキーワードでなく質問文を入力する人も多いそうです。検索エンジンは入力に関連するリンクを返してくれますが、質問に直接答えてくれるわけではありませんでした。これからはAIが質問に直接回答してくれるようになるということです。

 気になるのは料金ですが、グーグルは現時点では料金について触れていません。

 筆者の推測ですが、Web検索にもAIが統合されていることを考えると、無料で提供される可能性があります。

マイクロソフトの新しいBingとEdgeの機能

 次に、競合相手のマイクロソフトの新しいBingとEdgeの機能を見ていきましょう。

 新しいBingは、現時点で限定プレビューというものが公開されています。

 限定プレビューではBing AIへの質問と回答のいくつかの例を見ることができます。

 実際にBing AIにアクセスするには、現時点ではウエイトリストに登録して順番待ちする必要があります。以下のページからウエイトリストに登録でき、早く登録した人から順次招待されています。

https://www.bing.com/new

 BingのAIもグーグルと同様にWeb検索に統合されています。

 たとえば検索ワードに「ベジタリアンの6人でディナーパーティーを開く必要があります。チョコレートデザート付きの3品のコースメニューを提案できますか?」と入力すると、通常のWeb検索結果と共に以下のようなAIの回答が表示されます。

 限定プレビューの他の質問の例には、「旅行の計画を手伝ってください」、「クイズを作るのを手伝ってくれますか?」といったようなものがあります。

 単なる質問というよりは、提案を出させたり、計画案を出させたりする使い方を想定しているようです。

 また「プログラムコードを書いて」や「ポエムを書いて」といった創造的なタスクもこなせるようです。

 Bing AIもBardと同じように、必要に応じてAI自らWebから情報を取得してきて回答の精度を高めています。Web検索してきた時の返答には、ウィキペディアのような引用元のリンクが付けられており、ユーザーはAIの回答の根拠となったソースを確認可能です。

 さらに、AIの回答に対して次にユーザーが入力するであろう文章の候補も予測して生成してくれています。

 これらの入力候補をクリックするか、「Let’s chat」ボタンを押すとチャットモードになり、AIとの会話を続けられるようです。

 以上が新しいBing AI機能の概要ですが、マイクロソフトは自社のWebブラウザであるEdgeもAIを統合してアップデートする予定です。

 新しいEdgeブラウザでは、サイドバーからAIによるチャット機能と作成(Compose)機能が利用できるようになります。

 ここでのチャット機能は、BingでのAIチャットと大きく異なる点があります。それは、現在ブラウザで表示されているWebページやPDFファイルの内容を、AIが読み込んで把握してくれてるという点です。

 発表のデモでは、企業の財務レポートのPDFを表示した状態で、AIに「要点をまとめて」と依頼すると、PDFの内容を要約してくれていました。これにより、我々は文書の内容を理解する時間を大幅に節約できます。

 また、同時にチャットAIはWeb上の情報を参照可能です。「他の企業との比較表を作成して」と依頼すればその通りに比較表を作成してくれます。

 他の例では、プログラマ向けの質問サイトであるStack overflowでPython言語で書かれているソースコードがあったときに、「これをRust言語で書き直して」とAIに依頼することもできます。

 作成機能の例では、LinkedInの投稿の内容案をAIに生成させていました。

 生成する文章のフォーマット(文章、Eメール、ブログ投稿、アイデア)や文章の長さも指定できるようです。

 Edgeに搭載されるこれらの機能は、我々のWeb体験を完全に変えてしまうかもしれません。

 これは、すべてのWebページ、全ての文書を対話可能なチャットボットに変えてしまうものだと言えます。対話可能というのはつまり、話しかけることができて、答えを返してくれるということです。

 たとえば、我々はベストセラー本を自分で読むのが面倒なとき、友達に「かいつまんで内容を教えて」と頼んだりします。これからはブラウザー上でAIに同じように頼むことがいつでもできるようになるでしょう。

 Edgeで利用できるAI機能は、最初はEdgeだけですが、いずれは他社を含めた全てのブラウザで利用できるようにしたいと考えているとのことです。

 もう1つ、Bingの検索アルゴリズム自体もAIによって改善されたそうです。「過去20年間で最大の関連性の飛躍をもたらしました」と書かれています。

 Bingに搭載されたAIモデルは、検索専用にカスタマイズされた、OpenAIの次世代のモデルで、ChatGPTより優れているとのことです。

 すでに新しいBingに招待されてアクセスしている方もいますが、その会話を見る限り、BingのチャットAIはChatGPTと同等以上に優れているように見えます。

 つまり、BingのAIモデルはChatGPTのGPT-3.5モデルと同等の、大規模かつ強力なものが使われていることが推測されます。

 気になる料金は、無料で提供されることが明言されています。ChatGPTでは月額20ドルの有料プランが用意されていたことを考えると、それと同等以上と思われるAIを搭載したBing AIが無料で使用できるというのは驚きです。

 ただし、代わりに広告が表示されるそうです。はたしてチャットAIと会話する中で広告がどのような表示のされ方をするのか、まだ詳細は分かりませんが気になるところです。

グーグルは追いつめられている

 さて、記事の初めに提示した疑問、どうしてBardの発表後にグーグルの株価が下落したのか。これについては、発表のデモでBardが誤った回答をしてしまったからだと報じられています。

https://gigazine.net/news/20230209-google-bard-ai-chatbot-wrong-answer/

 デモではBardに「ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の新発見について、9歳の子供に教えてあげられることは?」と質問して、Bardは「太陽系外の惑星を初めて撮影しました」と回答しましたが、これは正しくありませんでした。

 しかし、AIが誤った回答をしてしまうことがある問題は、ChatGPTにおいても知られていました。筆者はグーグル株の下落を引き起こした原因はこれだけではないと考えます。

 マイクロソフトが新しいAI機能を発表したことで、実はグーグルは追いつめられた状態にありました。

 ChatGPTがリリースされてから言われていたことですが、チャットAIは検索エンジンを置き換えてしまう可能性を持っています。調べものがある時にチャットAIに直接質問して答えてもらえるなら、わざわざ検索エンジンで情報を調べる必要がなくなるからです。検索エンジンが使われなくなれば、広告が見られなくなり、収益が減少してしまいます。

 チャットAIが検索エンジンを脅かすという理屈は、もちろんマイクロソフトのBing自身にも同様に当てはまります。それにもかかわらず、マイクロソフトは攻めに攻めたAI機能を追加しました。

 これについて、発表では「マイクロソフトはグーグルのように、既存のウェブ検索事業の利益を守る必要はありません。マイクロソフトとBingのようなことができる会社は他にありません」と語られていました。

 つまり、グーグルは検索エンジンの広告収入を収益の柱にしていますが、マイクロソフトはそうではありません。だから広告ビジネスを覆すようなAIの搭載にも躊躇がないというわけです。

 マイクロソフトのサティア・ナデラCEOはメディアの取材に答えて、「グーグルは検索における800ポンドのゴリラだ。そして私たちが彼らを踊らせたということをみんなに知ってもらいたい」と語りました。

https://www.theverge.com/23589994/microsoft-ceo-satya-nadella-bing-chatgpt-google-search-ai

 つまり、マイクロソフトによってグーグルは対応策を講じざるを得ない状況に追いつめられたということです。

 もしグーグルが自社のビジネスを脅かさない範囲で無難な対応をすれば、マイクロソフトの攻めたAIが積まれたBingやEdgeにシェアを奪われてしまい、収益を減らしてしまいます。

 かと言って、マイクロソフトと同等の優れたチャットAIを作ってしまえば、やはり検索エンジンの利用者を減らしてしまい、収益も減らしてしまうでしょう。

 いずれにせよこのままでは減収は避けられないように見えます。

 ところで、今グーグルを追いつめているマイクロソフトのAIモデルを作ったのはOpenAIです。

 そのOpenAIのGPT-3やChatGPTといったAIは、Transformerというアーキテクチャから生まれました。

 そのTransformerを発明したのはグーグルなのですから、みずからの発明によって強力なライバルを育ててしまったことになり、考えてみれば皮肉なことです。

チャットAIがWebの在り方を変えそうだ

 グーグルのBardに使われているAIのLaMDAは、2021年には完成していて論文が発表されています。ですから、グーグルはやろうと思えばもっと早い時期にBardのようなチャットAIをリリースすることは可能だったでしょう。

 そうしていたなら、現在の展開は全く違ったものになっていたことでしょう。

 しかしグーグルにはそのときうまくいっていた検索ビジネスを破壊してまでAIを展開する動機がありませんでした。

 そのような事情があったわけですから、グーグルがBardを発表する際に市場にとって焦点になっていたのは、グーグルは検索ビジネスへの未練を捨てて、強力なAIでマイクロソフトを圧倒することができるだろうか?あるいは、検索ビジネスへの影響が出ない形で勝利することができるような起死回生の手があるのだろうか?という点でした。

 しかし、実際にグーグルから発表されたのは、無難にChatGPTに対抗できるように作られたように見えるBardだけでした。それに対して、マイクロソフトはChatGPTを強化した形でBingに統合しただけでなく、Edgeにも先進的で魅力的なAI機能を搭載しています。

 これでは、ある程度マイクロソフトにシェアを奪われるのは免れないように見えます。なおかつ、Bardを利用する人が増えれば、やっぱり検索エンジンの利用者もまた減少してしまうでしょう。

 つまり、グーグルの株価が下落した本当の理由は、グーグルがどっちつかずで何のひねりもない手を打ってしまったからかもしれません。

 まだこれらの新しいAIに実際に触れていない段階で結論付けるのは尚早ですが、今の時点ではチャットAI競争はマイクロソフトの方が優勢に見えます。

 ですが、それにも疑問があります。ChatGPTは一回返答するごとに数円のコストがかかっていました。これはBingのAIでも同様でしょう。Bing AIでは広告が表示されるようですが、AIのコストは広告モデルではまかないきれないほど大きいです。

 チャットAIのビジネスを持続可能なものにするには、広告より収益性の高いビジネスモデルを見つけるか、技術研究によってAIのコストを大幅に減らすかといった方策が必要になりそうです。

 これらのチャットAIがどれくらいの人々に浸透するのかは、まだ不透明な面がありますが、検索エンジンよりもチャットAIを利用する人が増えるほど、Web上の記事のトラフィックが減少することは免れないでしょう。

 AIに質問すれば、AIは我々の代わりにWebから情報を検索してきて、直接答えを教えてくれます。だとしたら、わざわざ自分で記事を読みに行く必要なんてなくなってしまうかもしれません。

 チャットAIによって、Web上のコンテンツの在り方もまた、変化を要求されるかもしれません。

 

筆者紹介──うみゆき

Unity3D、Unreal Engineを主に扱うフリーランスエンジニア。任天堂株式会社を退職したのち、Steamにて個人開発アプリをリリースするほか、Cygameにて「プリンセスコネクト!Re:Dive」「アイドルマスター シンデレラガールズ スターライトステージ」、カバー株式会社にてvTuber用モーショントラッキングアプリ、スマホARアプリなどの開発に携わる。現在はジェネレーティブAIを活用したゲーム、アプリケーションを開発中。

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