Xeon W-3400/W-2400シリーズはワークステーション市場を奪い返せるか? インテル CPUロードマップ
ASCII.jp / 2023年2月20日 12時0分
連載702回でも言及したが、Sapphire Rapidsを利用したXeon W-3400/W-2400シリーズが2月15日に発表になった。発表こそ2月15日だが出荷は3月に入ってからとなっており、入手にはもう少し待つ必要がある。今回はその発表内容を解説しよう。
Xeon W-3400/W-2400シリーズは合計15SKU
まずSKU一覧から。Xeon W-3400シリーズはw9が2製品、w7が3製品、w5が2製品の合計7製品、Xeon W-2400シリーズはw7が2製品、w5が3製品、w3が3製品の合計8製品で、シリーズ全体では15製品となる。実は情報サイトなどでは、Xeon W-3400シリーズにはこの他に以下の2製品があり、トータル17製品という話が流れていたのだが、こちらは正式なラインナップには入っていない。
Xeon w5-3433 16core/32thread 2.0/4.2GHz TDP 270W Xeon w3-3423 12core/24thread 2.1/4.2GHz TDP 220W
Xeon w3-2423があるあたりは“23”というモデルナンバー自体はあり得る話で、おそらくラインナップの検討の中で最終的に消えたものと思われる。
さて、端的にW-3400シリーズとW-2400シリーズの違いを言えば、コアがMCCかXCCかということになる。Intel Arkによれば、Xeon W-2400シリーズはPackage CarrierがE1B、W-3400シリーズはE1Aとなっており、一方第4世代Xeonの場合MCCのものはやはりE1B、XCCのものはE1Aと記されているので間違いないだろう。余談だがXeon MAXの場合、Package CarrierはE1Cとなっている。
したがってベースは第4世代Xeon Scalable、つまりSapphire Rapidsベースなわけだが、Xeon Scalableとの違いは以下のとおりで、ワークステーション向けに必要な機能のみを残したという感じだ。
- 全製品1ソケットのみ。2ソケット以上での接続用のUPIリンクは全SKUで無効化されている。
- Optane Persistent Memory 300シリーズのサポートはなし。
- 搭載されているアクセラレーターに関しては、DSA(Data Streaming Accelerator)が1基のみ有効化されており(Xeon Scalableは4基搭載されている)、その他のアクセラレーター(QAT/DLB/IAA)は無効化されている。
- セキュリティー/管理機能も大幅に簡素化。VPro EnterpriseおよびAMT(Active Management Technology)は搭載されている(逆にこの2つはXeon Scalableにはない)し、Platform Firmware Resilience SupportやCFE(Control-Flow Enforcement Technology)、TME(Total Memory Encryption)などは有効になっている一方、Crypto Acceleration/SGX(Software Guard Extensions)/TDT(Threat Detection Technology)/RPE(Remote Platform Erase)/One-Click Recoveryなどの機能は無効化されている。
- Xeon Scalableは全製品倍率ロックがかかっているが、Xeon Wの方は一部SKUに倍率アンロック版が提供される。
では次にW-2400シリーズとW-3400シリーズの違いをみると以下のとおりになっている。
- 「相対的に」W-3400シリーズの方が多コア。W-2400シリーズは最大24コアまでとなっている。
- W-2400シリーズはメモリーが4chに制限されており、また一部のSKUはDDR5-4400までの対応である。一方W-3400シリーズは8chで、全製品DDR5-4800までの対応となっている。
- メモリーch数に絡む話だが、W-2400は最大メモリー容量が2TBに制限されている。一方W-3400シリーズは4TBまでサポートされる。
- CPUから出るPCIeレーン数は、W-2400が64レーン、W-3400は112レーンになっている。
パッケージそのものは(内部に相違はあるとは言え)同じLGA4677なので、マザーボードは基本的には共通(Xeon W-3400に寄せてある)で、ただしW-2400シリーズでは利用できないDIMMスロットやPCIeスロットが出る、という形になると思われる。
これは別に珍しくない。もう古い話になるが、第1世代のCore-Xの場合、Core i7-7xxxシリーズはDDR4が2chでPCIeは16/28レーン、一方i9-7xxxシリーズはDDR4が4chでPCIeは44レーンだったが、どちらもソケットはLGA2011で共通だった。これと同じ仕組みが今回も採用された格好という程度で、後はコア数と動作周波数が違うのみだ。
3次キャッシュの容量は「原則として」コアの数に比例した量になるのだが、これがわりと恣意的というか、少しおもしろい傾向にある。計算してもらうとわかるのだが、W-2400シリーズもW-3400シリーズもトップエンドは1.875MB/コアなのだが、下位モデルほど容量が増える傾向にある。実はこれ第4世代Xeon Scalableも同じである。
下のグラフは第4世代Xeon Scalable 47製品(Xeon MAXは除く)とXeon W 15製品について、グレード(Platinum/Gold/Silver/Bronze/W-2400/W-3400)は無視してコア数と3次キャッシュ容量を書き出したものである。
基本は1.875MB/コアという容量(グラフ中の破線)ながら、中にはこれを超える製品がいくつかあるのがわかる。実際16コアの場合では3次キャッシュ容量が以下の4種類あったりする。
要するにコアは無効化しても3次キャッシュは有効化したままにすることで、3次キャッシュ容量を稼いでいるわけだ。
Milanには勝てるがGenoaに勝つのは厳しい性能
さてそのXeon W-3400/W-2400シリーズだが、ターゲットとする市場はワークステーション向けでありコンテンツ制作やCAD/シミュレーション、それとAIやデータサイエンスなどの分野である。
ということでここからは性能編になるわけだが、最初にこのスライドを示すのは正直どうかと思う。
なぜかというと、Sapphire Rapidsの発表会の際に下のスライドを示しているからで、Xeon ScalableにSPEC CPUは不適当だがXeon Wには適当というのは、正直意味がわからない。
それはともかくとして、シングルススレッド性能ではXeon W-3275比で28%向上、マルチスレッド性能は同120%向上としているが、実際でどの程度か? というのがよくわからない。
マルチスレッドの方、このグラフの棒の長さを実際に測定してみると、Xeon W-3275:Xeon w9-3495Xの比が1:2.210ということでほぼ120%増(厳密には121%増)となっており、ほぼ棒の長さが性能比に等しいと考えられる。
そこで同じようにXeon Gold 6258R×2との性能差を比較すると17.9%増となる。幸いにXeon Gold 6258R×2のSPECrate2017_int_baseの数値は公開されており、一番数字が高いASUS RS720-E9(Z11PP-D24) Server Systemの数字で397である。ここからXeon w9-3495Xのスコアは468程度と推定できる。
ちなみに比較的構成が近いXeon Platinum 8480+の結果は2023年第1四半期の結果に現在19システム登録されており、最小866、最大969、平均918.9といったスコアになっている。登録されているのはいずれも2ソケットのシステムなので、半分にすると459.4といったところで468よりやや低めだが、コア数はともかく動作周波数の設定が異なるので、この程度の差があるのは当然である。
さて問題は対抗馬である。現時点ではRyzen Threadripper Pro 5995WXと比較するのが適当なのだろうが、こちらも残念ながらSPECのデータベースに結果が登録されていない。
そこで比較的近い構成ということでEPYC 7773Xの結果を拾うとこちらは1ソケットが10システム、2ソケットが15システム登録されており、1ソケットは最小382/最大440/平均410、2ソケットの方は最小794/最大864/平均829.1、要するにソケットあたり410~415程度となる。
ここから推定してRyzen Threadripper Pro 5995WXの方は420に届くかどうかというあたりで、なんとかXeon W-3400シリーズは面目を保った格好である。もっともこれはRyzen Threadripper Proの方がMilanベースだからという話である。
では今年中に発表される(出荷時期はともかく発表は今年のCOMPUTEXあたりが濃厚)と思われるGenoaベースのThreadripper Proに勝てるか? というとかなり厳しい。
すでに64コアのEPYC 9554P(1P)のスコアはSPECのデータベースに登録されているが、スコアは644~654である。64コアでこれだから、96コアのEPYC 9654Pでは820~835までスコアが跳ね上がる。これと勝負するのはなかなかに大変そうだ。
つまりインテルとしては、GenoaベースのThreadripper Proが投入されるまでにどれだけのワークステーション市場を奪い返せるか、というのが目下の問題だ。
そうした市場動向の話はおいておくとして、性能として示されたのが下の画像である。Xeon Gold 6258Rの2ソケットよりも性能が伸びているというわたりで、インテル的には十分な性能と判断しているのだろう。
プラットフォームは新規のチップセット メモリークロックもオーバークロック設定が可能
プラットフォームであるが、これは先にも書いたようにLGA4677が採用される。ただXeon Scalable向けにはC741というチップセットが対応するが、Xeon-WではW790が利用される。W790はC741と似ている構成ではあるが、以下の相違点もあり、パッケージサイズも異なるあたり、C741の転用ではなく新規のチップと思われる。
- CPUとの接続はDMI 4.0×8(C741はDMI 3.0×8)
- オーバークロック動作をサポート
- PCI Expressを28レーン出せる(C741は最大20レーン)。またC741はPCIe Gen3のみの対応だが、W790はPCIe Gen3/Gen4に対応する。
- C741はUSB 3までの対応だがW790はUSB 3.2に対応。
- SATAポートはC741の20ポートから8ポートに削減。
- W790にはAX211(Wi-Fi 6E)対応のWi-Fiが搭載されるが、C741にはなし。
- W790はなぜか4ポート分のディスプレー出力に対応。
そのW790の構成は下の画像に示すとおりだ。
すでにASRockはこのW790を採用したマザーボードを発表しているため、今後他のメーカーもこれに追従するだろう。
ついでにオーバークロック周りの話を最後に書いておきたい。モデルナンバーにXが付いたSKUがいくつかあることからもわかるように、15製品のうち8製品は倍率アンロックモデルである。
これに加え、メモリークロックに関してもオーバークロック設定が可能である。ただし、Xeon W-3400/W-2400ではアンバッファドDIMMは利用できず、レジスタードDIMMのみサポートされる。
インテルによればレジスタードDIMMに対応したXMP 3.0のプロファイルがすでに存在するそうなので、いずれはオーバークロック対応のレジスタードDIMMが市場に投入されるかもしれないが、現時点では定格動作+α程度で満足するしかないだろう。
もう1つは消費電力の話。記事冒頭で示した全SKUの画像にProcessor Base Powerとして、いわゆるTDP(PL1)の値は示されているが、もう少し細かく動作周波数とPL1/PL2の値をまとめたのが下表である。
ハイエンドのXeon w9-3495Xでは実にピークで420W、リテールで購入可能なXeon w-3475Xでも360Wである。これだけでも結構どうかしていると思わなくもないのだが、2月9日にWCCFTechが伝えたところによれば、Cinebench R23をオーバークロック動作させた際にはCPU単体で700W、システム全体では900Wオーバーの消費電力だったそうだ。
この情報がもし正しかったとすれば、それだけの電力供給がW790マザーボードでは可能なように設計されていることになる。もちろんこれは空冷でどうにかできるわけもなく、水冷チラー(ジサトライッペイ氏が購入した初期不良の1KWチラーでも足りるかどうか……)が必要なレベルであろう。
もうここまでくると、真っ当な製品枠ではなくロマン枠で考えるべきなのかもしれない。まさかワークステーション向け製品の中にロマン枠の製品を紛れ込ませてるとはさすがに想像の斜め上であった。ぜひジサトライッペイ氏には、このロマン枠製品をがんばって手懐けてほしいものである。
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