Galaxyシリーズが「360オーディオ録音」に対応! その仕組みを解説
ASCII.jp / 2023年2月23日 10時0分
サムスン電子が年初に公開したソフトウェアアップデートにより、Galaxyシリーズのスマホとワイヤレスイヤホンを組み合わせて、360度立体サウンド付きビデオが撮れるようになりました。Bluetoothオーディオの新規格である「Bluetooth LE Audio」の技術を活用した本機能を詳しく解説します。
左右独立型ワイヤレスイヤホンによる バイノーラル録音が可能になった
今回のアップデートにより追加された「360オーディオ録音」の機能は、ワイヤレスイヤホンがGalaxy Buds2 Pro、スマホはGalaxy Z Flip4、またはGalaxy Z Fold4との組み合わせが対応します。2月上旬にグローバルモデルが発表されたGalaxy S23シリーズも対応するようです。今後はGalaxyシリーズ独自のユーザーインターフェースであるOne UI 5.0以降と、Bluetooth LE Audio(以下:LE Audio)をサポートするスマホが、Galaxy Buds2 Proとペアリングした時に360オーディオ録音が利用できるようになります。
Galaxy Buds2 Proが対応する360オーディオ録音は、バイノーラル録音と言い換えることができます。
バイノーラル録音とは、人間の耳の位置あたりにマイクを設置した状態で録音し、一般的なステレオヘッドホン/イヤホンで再生した時に、実際の音を自分の耳で聞いている感覚に近いリアルな立体音響効果を再現する録音技術です。最近はASMR(Autonomous Sensory Meridian Response)録音と呼ばれたりもします。
バイノーラル録音は、特別に新しい技術ではありません。過去にスマートフォンではソニーのXperia Z3以降のZシリーズが、ノイズキャンセリング用のマイクを内蔵するソニーの有線イヤホンMDR-NC750を組み合わせて、手軽にバイノーラルの生録が楽しめました。筆者がかつて試したLGのスマホV60 ThinQ 5Gは、本体内蔵のマイクで動画撮影時にASMR録音モード(バイノーラル録音)が選べました。
本格的なバイノーラル録音をする際には、人間の頭部を模したダミー・ヘッドや録音機材一式が必要でした。スマホと有線イヤホン、または本体に内蔵するマイクで簡易にバイノーラル録音ができる「新しい手段」ができたことが、当時の「スマホのオーディオ」まわりで起きた画期的な出来事でした。
そして近年はスマホが搭載するSoCの処理性能がますます高度化したことで、LE Audioの周辺にも新しい技術が誕生しています。その応用事例のひとつが、左右独立型のワイヤレスイヤホンによるバイノーラル録音であり、いち早く投入したのがGalaxyシリーズなのです。
Bluetooth LE Audioの要素技術が活用されている
360オーディオ録音が楽しめるGalaxyシリーズのデバイスは、スマホとワイヤレスイヤホンの両側が、LE Audioに対応するクアルコムによる最新のSoCを搭載しています。さらにサムスンはクアルコムと、Android 13のプラットフォームをLE Audioに対応させたグーグルと密接に連携を図りながら、ワイヤレスイヤホンによる360オーディオ録音を完成させました。
Galaxyシリーズのスマホでカメラアプリを起動すると、ビデオ録画の際に360オーディオ録音が利用できます。左右独立型のワイヤレスイヤホンに内蔵するマイクで集めた音声を、動画の記録から遅延することなく、高品位に記録するためにはアイソクロナス伝送、マルチストリームオーディオとLC3コーデックというLE Audioの新しい技術要素が使われています。
アイソクロナス伝送は、Bluetooth対応のデバイス間でオーディオデータが途切れないように安定させる技術です。
現行BluetoothオーディオのA2DPプロファイルでは、1台の送り出し側デバイスに接続できるワイヤレスイヤホン・ヘッドホンが1台までと決められています。LE Audioでは1台の送り出し側デバイスに対して、複数の受信デバイスを1対多の関係で接続できます。これがマルチストリームオーディオです。左右独立型のワイヤレスイヤホンもL側・R側をそれぞれ1台の受信側Bluetoothデバイスとなるため、それぞれがオーディオデータを同期しながら伝送できるようになります。従来のリレー方式による左右独立型ワイヤレスイヤホンへのオーディオ伝送に比べて、レイテンシ(遅延)や消費電力が少なく抑えられるメリットもあります。
LC3(Low Complexity Communication Codec)はLE Audioから採用されるオーディオデータの圧縮伝送技術(コーデック)です。音途切れに対する強さ、音質や低消費電力が特徴と言われています。最大48kHzのステレオ録音を扱えることから、今回Galaxyシリーズがこれを採用したそうです。
2022年10月にサムスンがオンラインをメインに実施した開発者向け会議「SDC22」の、LE Audioに関連するセッションがYouTubeに公開されています。同社コネクティビティR&DグループのエンジニアであるYunsik Bae氏は、今回Galaxy Buds2 Proにアップデートで追加した機能は、従来のBluetoothオーディオの技術でも工夫を凝らせば実現できるものだが、「LE Audioの登場により開発コストを抑えながら、品質の高い体験をデザインできるところに魅力がある」と説明しています。
Bae氏は今後も、LE Audioをベースにした新しいオーディオ体験をGalaxyシリーズに追加したいとコメントしています。例えばマルチストリームオーディオのバリエーションである、特定の通信エリア内にデジタルラジオのように配信する音声コンテンツを、ユーザーがワイヤレスイヤホンを使って聴く「ブロードキャストオーディオ(=Auracast)」や、ヒアリングエイド(補聴器)のデバイスとしてイヤホンの機能が拡張する計画があるといいます。
Galaxyシリーズで実践! 使い方はとても簡単
今回はGalaxy Buds2 ProとGalaxy Z Fold4を手もとに用意して、360オーディオ録音を試してみました。
設定メニューが多少入り組んだところにありますが、機能のオン・オフを切り換えること以外に複雑なパラメータ調整などもないので、気軽に楽しめる機能です。Galaxy Buds2 Proをペアリング後、カメラを起動して動画モードを選択。設定アイコンをタップして「動画の拡張オプション」から「360オーディオ録音」をオンにしましょう。
機能をオンにすると、カメラのプレビュー画面の右上隅に「360 MIC」のアイコンが表示されます。Galaxy Z Fold4が対応する8K/24fpsまですべての録画モードと併用できる機能です。
カメラアプリから録画を開始すると、イヤホンから立体感に富んだサウンドが聞こえてきます。録画中の音声モニタリングに対応しているので、歩きながら動画を撮る際にも周囲の音に気を配ることができました。
撮影したビデオには、360オーディオが記録されます。立体サウンドを再生して「聴く」ために特別なデバイスは不要です。そのままGalaxyシリーズの組み合わせで聴いても良いですし、ファイルをPCに転送して、有線のステレオヘッドホンを接続して聴いても360オーディオが楽しめます。LC3コーデックによる録音品質がとても高く、周囲を移動する人や車の音が鮮明に感じられます。
ワイヤレスイヤホンによる 360オーディオ録音がトレンドになるかも
Galaxyシリーズが先鞭を付けたことで、今後はLE Audioによる新しいオーディオコンテンツの楽しみ方に対応するデバイスが続々と増えそうです。
今回Galaxyシリーズが対応した360オーディオ録音は、今後他社の製品もLE Audioに対応すれば使えるようになるのでしょうか。サムスンに問い合わせたところ、「Galaxyシリーズのスマホとワイヤレスイヤホンの間で独自の同期処理が必要となるため、他社製品との連携はできない」という回答でした。
ただ、同様の360度録音、バイノーラル録音の機能をLE Audioの規格に従って他社のデバイスも実現する可能性は十分にあります。録音のクオリティやインターフェースの操作性など、出来映えを比べてみても楽しいと思います。例えば、Galaxyシリーズの360オーディオ録音は動画撮影を伴うので、「音だけ録れるアプリ」があってもおもしろそうです。
音楽作品のレコーディングや、旅の思い出を360度サウンドでクリッピングしたり、様々な楽しみ方に広がることを期待しましょう。
筆者紹介――山本 敦 オーディオ・ビジュアル専門誌のWeb編集・記者職を経てフリーに。取材対象はITからオーディオ・ビジュアルまで、スマート・エレクトロニクスに精通する。ヘッドホン、イヤホンは毎年300機を超える新製品を体験する。国内外のスタートアップによる製品、サービスの取材、インタビューなども数多く手がける。
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