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はたしてApp Storeはいいストア? 人気アプリのデベロッパーに聞いた

ASCII.jp / 2023年2月21日 12時0分

App Storeでアプリを提供するデベロッパー、2社の代表がグループインタビューに応えました

 公正取引委員会は2月9日に「モバイルOS等に関する実態調査報告書」を公開しました。レポートは、現在の市場において圧倒的なシェアを獲得しているグーグルとアップルのモバイルOS、およびアプリストアに自社のアプリやサービスを優遇し、競争者の排除を招く蓋然性が認められると伝えています。

 グーグルとアップルのように世界規模のデジタルプラットフォームを運営する事業者の活動に対して、昨今は海外の競争当局も関心を寄せ、公平な仕組みが維持されるべきとの指摘を表しています。

 では、実際にアプリストアで「商品」としてアプリを配信・販売し、デジタルエコノミーの中に身を置くデベロッパーは、アプリストア事業者との関係性をどのように受けとめているのでしょうか。アップルのApp Storeでアプリを提供するデベロッパー・2社の代表が複数の媒体・記者が参加したグループインタビューに応えました。

人気のアプリ:「UDトーク」と「辞書 by 物書堂」

 Shamrock Records(シャムロック・レコード)の代表である青木秀仁氏は、iPhoneで手軽に自動文字起こしや外国語翻訳もできるアプリ「UDトーク」のデベロッパーです。聴覚障がいを持つ方も、iPhoneがあれば手話通訳を介することなくスムーズにコミュニケーションができるアプリとしても、UDトークは注目されています。詳しい紹介はこちらの記事「iPhone対応“自動文字起こし”アプリ「UDトーク」賢い使い方を開発者に聞いた」も合わせてご覧ください。

UDトークを開発するShamrock Recordsの青木秀仁氏

 「辞書 by 物書堂」は、ひとつのアプリから様々な種類の辞書を参照できるアプリです。学問からビジネス、生涯教育にまで幅広く活用されています。アプリ内課金により購入した辞書は、App Storeのユニバーサル購入の仕組みにより、iPhone・iPad・Macをまたいで使ったり、ファミリー共有により家族と一緒に役立てられます。物書堂の代表取締役である廣瀬則仁氏は、日本のApp Storeの黎明期からiPhoneアプリの開発に携わるデベロッパーです。

辞書アプリのエキスパート、物書堂の廣瀬則仁氏
公正取引委員会が公開した「モバイルOS等に関する実態調査報告書」

デベロッパーがApp Storeを選ぶ理由

 公正取引委員会が公開した報告書は、日本国内のアプリ流通サービスにおいてアプリを開発・販売する事業者、およびアプリを購入する消費者を対象とするアンケートを行い、さらにデバイスのメーカー担当者や有識者に対するヒアリング調査の結果をまとめたものです。

 レポートはグーグルのアプリストアも調査の対象としていますが、今回は青木氏と廣瀬氏にアップルのApp Storeによるビジネスの現状を振り返ってもらいました。

 公正取引委員会のレポートも触れていますが、日本国内のモバイルOSのシェアは、2011年以降からAndroidとiOSだけでほぼ100%を占めており、うちiOSの比率が7割に迫るとも言われています。アプリデベロッパーにとってアップルのApp Storeはもはや対応が欠かせないビジネスプラットフォームです。「大勢のモバイルアプリユーザーに効率よくリーチできること」のほかに、青木氏と廣瀬氏はApp Storeにどんな魅力を感じているのでしょうか。

 「2013年にUDトークをローンチして以来、プログラマーとしてUDトークのアプリと周辺にあるサービスをほぼ一人で作ってきました。App Storeはデベロッパーにとってもシンプルに活用できる良いプラットフォームです。デベロッパーへのサポートも充実しています。OSのバージョンアップ時には端末も素速くこれに対応したり、バージョンが異なる世代間の互換性も確保されているので、デベロッパーは安定した環境で開発に集中できます。」(青木氏)

 「私はApp Storeが立ち上がった当時からアプリの開発に携わってきたので、アップルがデベロッパーや消費者の声を採り入れながら、ストアの機能や仕組みを地道に整えてきた経緯をよく知っています。現在のApp Storeはとても整備されて、デベロッパーにも仕事がしやすい環境になりました。特に配信システムの安定感は素晴らしいと思います。辞書アプリのように容量が大きなプログラムも、購入いただいたお客様に確実に届けられるからです。デベロッパーにとっては、コンテンツ配信の安定性を担保するための追加負担を必要とせず、世界中のユーザーにアプリを届けられるApp Storeのネットワーク網はとても魅力的です。」(廣瀬氏)

アップルが2021年1月に開始した小規模デベロッパーの開発を支援する「App Store Small Business Program」

アプリストアの手数料水準は妥当か

 公正取引委員会の報告書では、グーグルとアップルがアプリストアの利用料としてデベロッパーに課している「手数料水準の妥当性」を問うています。

 App Storeがアプリデベロッパーに課している手数料について、両氏の見解を聞きました。

 「私の場合はアプリの開発からサービスの運営をほぼ一人でやっているので、本来であれば沢山の顧客を獲得して販売管理を徹底することは困難です。App Storeがプラットフォームとして足もとを支えてくれているので、現在日本国内から世界にまで広くアプリを提供できています。小規模なデベロッパーには手数料を引き下げるプログラムも現在はありますので、私はApp Storeの手数料は妥当だと考えます。」(青木氏)

 アップルでは現在、App Storeでデジタルコンテンツを販売するすべてのデベロッパーに手数料を課しています。標準の手数料は売上の30%ですが、年間収益が100万ドル(約1億3000万円前後)の小規模なデベロッパーについては、そのビジネスを支援するためとして手数料を15%に引き下げるプログラムが2021年1月からスタートしています。これが青木氏が触れた「App Store Small Business Program」(関連記事)です。

 「App Storeが決済を取りまとめて、アプリを購入していただいたユーザーの個人情報やプライバシーの管理を安全に行ってくれることがとても助かっています。当社も4人で運営している会社なので、App Storeのおかげで各自がアプリの開発だけに集中できています。諸々の負担を考えれば現在の手数料は理にかなっているのではないでしょうか。」(廣瀬)

App Store Reviewのページでは「審査でよくある問題を回避するためのヒント」を動画にまとめて掲載しています

App Storeのエキスパートによる「審査」の公平性

 報告書の第8部では市場調査に基づく評価を踏まえて、独占禁止法上の観点からモバイルOS市場における競争上の様々な懸念事項をまとめています。

 その中で、グーグルとアップルによる垂直統合が進むことにより、モバイルOS市場、およびアプリ流通サービス市場では両社が優位を利用して、他社の代替品よりも自社の関連製品やサービスを優遇して競争者を排除したり、取引の相手方であるアプリデベロッパーの事業活動を妨げる懸念も指摘されています。

 「グーグルやアップルのアプリストアが誕生したことで、フリーランスのプログラマーが自身の発想や興味を掘り下げて、アプリ開発を生業にできるようになったことにも目向けるべき」と青木氏は見解を述べています。

 廣瀬氏によると「アップルのApp Storeの場合、小規模な人数でサービスを手がけるデベロッパーがアプリの開発からローンチしてユーザーに届けるまでのワークフローがとてもよく整備されている」といいます。App Storeに対しては、すべてのアプリに対してエキスパートと呼ばれるスタッフがストアへの公開前に審査を行う「App Store Review」による審査の公平性を指摘する声もあります。App Storeの「中の人による審査」に廣瀬氏はどう相対しているのでしょうか。

 「当社は最初、辞書ごとにアプリを開発してApp Storeで販売していました。現在は『辞書 by 物書堂』としてひとつのアプリに統合して、アプリ内課金によりコンテンツを販売しています。この仕組みは2018年にApp Storeのエキスパートから提案を受けて変更したものです。複数の辞書アプリを統合したところ、結果的に当社の売上が伸びて、アプリの認知が広がったことでファンも増えました。複数の異なる辞書を検索する『串刺し検索』という便利な機能も追加できました。App Storeのエキスパートが他の様々なアプリの成功事例を踏まえてアドバイスしてくれたのだと思います。エキスパートはデベロッパーに色々な指摘をしてくることもありますが、提案を受け入れた方がデベロッパーにとってもビジネス上のメリットがあることの方が多いと私は思います。少なくとも今まで損することをやりなさいと言われたことはありません。開発を急かされることもなければ助言もくれるので、フェアな関係を築けていると思います。」(廣瀬氏)

アップルはサイドローディングの問題点をまとめたデジタル冊子を公開しています

複数のアプリストアに出展するメリットはあるか

 アップルではデバイスやサービスのセキュリティを強化し、ユーザーのプライバシーを護るため、サードパーティーがアップルのモバイルOSに独自のアプリストアを開設したり、Webページを通じてアプリをダウンロードできるサイドローディングを制限してきました。

 一方で、大手のITテクノロジー企業のOSやアプリストアにサイドローディングを促進するような議論も活発化しています。

 2022年11月には欧州連合で「デジタル市場法(DMA)」が発行されました。今後、EU地域ではアップルなど大手のITテクノロジー企業は、モバイルOSのプラットフォームをサードパーティにも開放しつつ、新たにユーザーのプライバシーを護る仕組みを再構築する必要に迫られます。

 日本国内でも内閣官房デジタル市場競争本部(DMCH)によりモバイルOSのサイドローディングを促進する議論が交わされています。公正取引委員会の報告書もまた、モバイルOSとアプリ流通サービスの市場において健全な競争環境を確保するために、グーグルやアップルが自社の運営するアプリストアを経由するか否かを問わず、アプリをダウンロードできるようにすることが望ましいとしています。

 青木氏と廣瀬氏は、今後サードパーティーがアップルのモバイルOSに、ユーザーとデベロッパーの双方が使いやすさを実感できるストアの仕組みを作ることは難しく、結果ユーザーにも選ばれないだろうと口を揃えています。青木氏は「方々のストアでアプリを販売した場合、各プラットフォームごとにバグをチェックしたり、バージョン管理を継続することの負担の大きさは計り知れない」といいます。小規模アプリデベロッパーの多くは「最も出来のよいアプリストア」を選択することになりそうです。

ユーザーは安全なアプリストアを求めている

 国内ではiPadが多く小中学校の授業に活用されています。教育関係者の中には、現在の安全なApp Storeの仕組みが、サードパーティによるサイドローディングが許可されることによって崩れることを懸念する声もあります。生徒がマルウェア感染の脅威により多くさらされることになれば、これまでに築いてきたデジタルツールを活用する教育手法の足もとが揺らいでしまうからです。

 アップルは日本の公正取引委員会による独禁法調査の結果を受けてガイドラインを改訂。デジタルコンテンツの視聴・購読を目的とする「リーダー」アプリを提供するデベロッパーは、アップルのアプリケーション内決済システム(IAP)を使わずに外部リンク先のウェブサイト等で行えるようになりました。該当するアプリのデベロッパーは、ユーザーのアカウント管理や決済について一元化されたWeb上のプラットフォームからサービスを提供したり、独自の決済システムによる販売管理ができるようになりました。

Analysis Groupの独立系エコノミストによる報告書「Spotlight on Small Business & App Creators on the App Store」では、App Storeの小規模デベロッパーの収益が近年伸び盛りを迎えていることがレポートされています

 アップルが昨年の5月に公開したプレスリリースでは、外部の独立系エコノミストが実施した調査の結果から、2019年にはApp Storeにおける小規模デベロッパーのビジネスによる収益が、大規模デベロッパーの増収を上回るペースで伸びたと伝えられています。

 Shamrock Recordsの青木氏は、UDトークアプリが海外法人のパートナーの目に留まり、その後App Storeのプラットフォームを通じてスムーズに契約が締結できたと語っています。自社によるアプリストアや決済サービスを既に確立している大手の企業は、App Storeの手数料やサイドローディングのガイドラインに対して不足を感じるところがあるかもしれません。

 でも一方では、アップルやグーグルが小規模事業者や多くのインディペンデントなアプリデベロッパーにチャンスをつかむ契機を提供してきたことにも目を向けながら、今後も健全なモバイルOSの仕組みやアプリストアの在り方を模索することが肝要ではないかと筆者は思います。

 

筆者紹介――山本 敦  オーディオ・ビジュアル専門誌のWeb編集・記者職を経てフリーに。取材対象はITからオーディオ・ビジュアルまで、スマート・エレクトロニクスに精通する。ヘッドホン、イヤホンは毎年300機を超える新製品を体験する。国内外のスタートアップによる製品、サービスの取材、インタビューなども数多く手がける。

 

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