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「少年ジャンプ+」細野編集長が語るデジタルマンガの現在

ASCII.jp / 2023年3月31日 15時0分

集英社のマンガアプリ「少年ジャンプ+」細野修平編集長による特別講義の模様をお伝えする

第2回はこちら

「少年ジャンプ+」はすでに8割超がデジタル原稿

 まつもとあつしが担当する大学講義にて2022年に開催された、「少年ジャンプ+」編集長・細野修平氏による特別講義の模様を3回に分けてお届けします。

 『SPY×FAMILY』『怪獣8号』『サマータイムレンダ』『タコピーの原罪』――人気作を次々と世に送り出すマンガアプリが誕生した経緯、「週刊少年ジャンプ超え」を目指して練られた戦略、そしてヒットではなく大ヒットを生み出すためのキーワードとは?

昨今、最新回が更新されるたびにSNSでバズるマンガが増えているが、『チェンソーマン 第二部』など「少年ジャンプ+」掲載作品は特にそのイメージが強い

まつもと 講義開始時間まであと数分ですね。……そういえば、「新潟から東京への就職」はまだまだハードルが高く、出版社の雰囲気を肌で感じることも難しい。そこで先日、学生にドラマ版『アオイホノオ』を観てもらいました。数十年前を描いた作品ですが、地方から持ち込みするといった伝統的なスタイルがリアリティーをもって描写されていると思いまして。

細野 『アオイホノオ』でのジャンプ編集部の描写ですが、私が入社した20年くらい前は、あの片鱗というか残滓が残っていました。

まつもと 『アオイホノオ』を鑑賞したあとに、『チェンソーマン』担当編集の林士平さんが登場した「ワールドビジネスサテライト」を見ると、『編集者のイメージってずいぶんスマートになったなあ』と思います。さらに印象的だったのが、Twitterで見た仕事場の写真。ディスプレーとタブレットのみで、紙の原稿の存在感があまりない。

細野 現在「少年ジャンプ+」は、8割から9割くらいまでがデジタル原稿です。投稿者もデジタルが多いので、紙の原稿を扱う編集者は少ないかもしれません。

まつもと マンガのデジタル化がよくあらわれている光景だなと感心しました。――さて、時間になったので今日の特別講義の講師、細野さんよろしくお願いします!

集英社 第3編集部 少年ジャンプ+編集部 編集長の細野修平氏

「少年ジャンプ+」とデジタルマンガの現在

細野 集英社 第3編集部 少年ジャンプ+編集部 編集長の細野です。よろしくお願いします。

 今日は『「少年ジャンプ+」とデジタルマンガの現在』というテーマでお話させていただきます。私は2000年に入社し、「月刊少年ジャンプ」に配属されました。その後2007年「ジャンプスクエア」に異動しまして、2012年に「週刊少年ジャンプ」へ。そして週刊少年ジャンプでデジタル担当副編集長になりまして、そこからデジタルへの関わりが深まっていきました。

 そして2014年、「少年ジャンプ+」創刊に関わりました。今日話すことは「少年ジャンプ+」を含めたデジタル漫画業界の話、そして今後のエンタメで大事になってくるであろう「ライブ感」、こちらに関してお話できればと思っております。

 お話する順番は以下の通りです。

・「少年ジャンプ+」の紹介 ・「少年ジャンプ+」が狙っていること ・「少年ジャンプ+」はどのように成長したのか? ・「少年ジャンプ+」の現在 ・「少年ジャンプ+」がこれからやりたいこと ・「少年ジャンプ+」の課題を解決するキーワード「ライブ感」

 まず、みなさんがマンガアプリというものをどのくらいご存知なのかわからなかったので、少しその説明をしようかなと思います。

 以下は、コトバンクというサイトからマンガアプリの定義を抜き出したものです。「電子コミックをスマートフォンやタブレット型端末などで閲覧するためのアプリ。電子コミックのコンテンツ配信サービスを兼ねており、作品の一部を無料で閲覧できるサービスなどもある」。

 ただ、これだけだと足りないかなと。もうちょっとお伝えすると、マンガアプリには大きく分けて3つのタイプがあると思っています。1つは総合型。Kindle、eBookJapanといった電子書店型ですね。集英社を含めた多くの版元が作っているコミックスなどを売っている書店です。

 次に真ん中を飛ばして、オリジナル作品限定型。まさに「少年ジャンプ+」や「マガポケ」といった出版社発のアプリが多く、文字通りオリジナルマンガを中心にしているアプリです。

 そして、中間型として「ピッコマ」「LINEマンガ」といった、電子書店もやりながらWebtoon――縦スクロールのマンガ、オリジナルも多いです――を売っているマンガアプリがあります。

タイプの違い

2021年、電子コミックは4000億円稼ぎ出した

 マンガアプリのついでに、出版業界のデジタル化の流れにも少し触れておきます。ちょっと細かいのですけれども、流れだけ見てもらえばわかると思います。

 2018年頃を底にして、出版業界は回復の基調にあります。3年連続でプラス成長しているところなのですが、紫の部分が電子コミックの売上、黄色と水色が紙です。簡単に言うと、紙は減っているのですが、電子が増えているのでその分、売上が上がっています。

出版業界のデジタル化の流れ

 この傾向がさらに顕著なのが、コミック市場です。紫が電子コミックですが、もう右肩上がりというか異常な伸び方をしています。最新の2021年のデータでは紙と電子で6759億円、前年比10.3%増で過去最大。そのなかでも電子コミックは4114億円を売り上げています。そして、電子の占有率は60.9%、つまり6割が電子コミックの売上です。

 表では2014年から急に登場しますが、それまで無かったわけではなく、おそらくこの年から統計に入ってきたのでしょう。

コミック市場のデジタル化の流れ

 ということで、業界的には電子書籍が紙を超えてきていると。講談社さんも電子書籍の売上が紙を初めて上回ると、2022年2月に発表した通期決算で発表されました。翻って、集英社ではまだ紙は超えていないのですが、いずれ超えていくのでは、というような伸び率を示しています――以上、電子書籍とマンガアプリを取り巻く状況をざっくり説明しました。

 本当はWebtoonの話もしたほうが良いのかもしれませんが、私が今日話す内容では触れないので、詳しく知りたい方は飯田一史さんの『マンガ雑誌は死んだ。で、どうなるの? マンガアプリ以降のマンガビジネス大転換時代』という本を読んでいただければ。

 2018年の本なのですが、だからこそWebtoonが与えた衝撃とそのときの未来予想図がわかるので、今から答え合わせ的なものも兼ねて読んでもらえると非常に面白いかなと思います。

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  • マンガ雑誌は死んだ。で、どうなるの? マンガアプリ以降のマンガビジネス大転換時代 (星海社新書)飯田 一史星海社

「少年ジャンプ+」は月間1250万の読者を抱えている

細野 「少年ジャンプ+」は2014年9月にスタートしました。マンガ誌発のアプリということで、我々としてはマンガ雑誌というイメージでアプリを始めています。当初からブラウザでも展開していまして、コンセプトは「ジャンプを超えるオリジナル・マンガを作る!」というものでした。ここは後ほど触れます。

「少年ジャンプ+」の概要

 アプリは現在2200万ダウンロードでして、DAU=Daily Active User――1日に訪れるユーザー・読者の数――が210万、ブラウザ込みが260万。これがWAU=週間だと480万で、ブラウザ込みだと670万です。そしてMAU=月間は650万、ブラウザ込みで1100万~1250万というかたちでユーザーが存在しています。

「少年ジャンプ+」の概要(DL数など)

 「少年ジャンプ+」はオリジナル・マンガをやっていこうという場所なので、連載作品も今は70本以上あります。「週刊少年ジャンプ」がだいたい20本なので、その3倍以上連載しているかたちになります。また、「ダウンロード後、初回全話無料」、そして「デジタル版の週刊少年ジャンプが買える」という特徴があります。

「少年ジャンプ+」の概要(作品数など)

 「少年ジャンプ+」のビジネスモデルは、話単位でのレンタル販売ですが、オリジナルは初回全話無料になっていますので、あまり重要視しているわけではありません。また、広告も入っていますが、こちらも連載に付く広告売上の50%を作家さんに還元していますので、広告で儲けようと考えているわけでもないのです。あとはコミックス販売と雑誌販売の電子書籍の分ですね。

 いただいた質問にもサブスクリプションの話がありましたので、「週刊少年ジャンプ」の定期購読について詳しく説明します。紙と同時に発売していまして、月曜日の午前0時に更新されます。定期購読/サブスクリプションは月額980円、紙で買うよりも結構お得になっているのかなと。さらに現在は初月限定300円キャンペーン中で入会しやすくなっています(注:特別講義開催時点)。

「少年ジャンプ+」のビジネスモデル

 単号、つまり1冊ずつ買う場合は紙と同じ値段で売っています。定期購読は会員数が急増中で、今は定期購読で買う人と、1冊ずつ単号で買う人を合わせると、週に70万部が売れている状況になっています。おそらく、デジタル版の出版物ではかなり多いのでは。

 「少年ジャンプ+」は読者層が平均年齢が28歳〜29歳くらい、男女比が60:40。なお平均年齢は現在ふた山ありまして、まず今聞いていらっしゃる大学生を中心とした10代後半くらいの層と、20代後半から30代前半という、昔からジャンプが好きだった層の2つある感じになっています。

 また、「少年ジャンプ+」は男女比が特徴的で、今は女性が増えてきましたが、当初は女性が20〜25%くらいでした。それが最近は『SPY×FAMILY』の人気だったり、読者層が広がったりするに連れて増えています。一般的なマンガアプリはだいたい女性が多かったりするので、これは「少年ジャンプ+」の特徴かなと思っています。

『SPY×FAMILY』と『怪獣8号』が2枚看板 『チェンソーマン』第二部も連載中

 続いて、最近のヒット作について。「少年ジャンプ+」の2枚看板と言っても良いのかなと思いますが、『SPY×FAMILY』と『怪獣8号』という作品があります。

 『SPY×FAMILY』はTVアニメも放送されており、累計発行部数2700万部(講演当時)突破しています。過去に「このマンガがすごい!」「次にくるマンガ大賞」で1位を取っていて、名実ともに「少年ジャンプ+」を今支えている、そして「少年ジャンプ+」を有名にしてくれた偉大な作品だなと思っています。

 2019年に始まった作品ですが、正直ここまでヒットすることになるとは私たちも想像していなかった、というところです。

 『怪獣8号』も大人気作品です。こちらも「次にくるマンガ大賞」、そして2020年のコミックス第1巻年間売上ランキングで第1位を獲っています。アニメ化が発表されていまして、期待しており、今まさにすごい人気になっています。

近年のヒット作
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  • SPY×FAMILY 1 (ジャンプコミックスDIGITAL)遠藤達哉集英社

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  • 怪獣8号 1 (ジャンプコミックスDIGITAL)松本直也集英社

 

 さらに、『ダンダダン』は2021年4月にスタートしました。圧倒的な画力で「全国書店員が選んだおすすめコミック」で1位を獲っています。さらに、ヨーロッパでも非常に評価が高く、フランスで出版されている集英社のマンガの、初版コミック部数が過去1番だったこともあります。『ヨーロッパでは絵の上手い作家さんが好まれるのだな』ということをすごく実感しました。

 加えて『タコピーの原罪』。こちらは2021年12月から始まって2022年の3月に終了した短い作品だったのですが、とても話題になりました。最終回間際はTwitterのトレンドをめちゃくちゃ賑わすことになりまして、非常に読者の心を揺さぶる作品になっています。

 なお、タイザン5先生は「週刊少年ジャンプ」で『一ノ瀬家の大罪』という作品を始められており、これも読者の心を揺さぶりそうな作品だなと思っています。

近年のヒット作
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  • ダンダダン 1 (ジャンプコミックスDIGITAL)龍幸伸集英社

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  • タコピーの原罪 上 (ジャンプコミックスDIGITAL)タイザン5集英社

 

 そして、なんと言っても藤本タツキ先生は外せません。『チェンソーマン』は第一部が「週刊少年ジャンプ」で連載されたのちTVアニメが放送され、現在第二部が「少年ジャンプ+」で連載中。こちらも人気です。一方、『ルックバック』は2021年の7月に話題になった読切作品です。

 ここ2~3年のマンガ界は藤本先生がシーンを席巻していると言っても過言ではないと思うのですが、藤本先生の連載デビューは「少年ジャンプ+」なんです。

近年のヒット作
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  • チェンソーマン 1 (ジャンプコミックスDIGITAL)藤本タツキ集英社

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  • ルックバック (ジャンプコミックスDIGITAL)藤本タツキ集英社

何を達成すれば「週刊少年ジャンプを超えた」ことになるのか?

細野 次に「少年ジャンプ+」の狙い――どんな目的でやっているのかについて少し深掘りしようと思います。

 「少年ジャンプ+」の目標・コンセプトは、「ジャンプを超える」です。「超える」が何を指しているのかと言えば、2つあると思っています。1つは新しいヒットを作ること。つまり『ONE PIECE』や『鬼滅の刃』を超えるような大ヒット作を作ること。もう1つが、ヒットを作るための「仕組み」を作ることです。

 「週刊少年ジャンプ」がヒットを連発してきた理由は、彼らが持っているアンケートシステムではないかと考えています。

 ジャンプのアンケートと聞くと、『打ち切りを決めるものですよね』みたいなことを思っている人もいるかもしれませんが、私たちとしては「話が面白かったかどうかを作家さんにフィードバックするシステム」だと思っています。作家さんがマンガを面白く改善できる仕組みだと。

 これを「少年ジャンプ+」でも作りたいなと考えています。

ジャンプを超えるとは

じつは「裏の目標」もあった

細野 そんなコンセプトで始めた「少年ジャンプ+」ですけれども、誕生までにどんなことがあったのか説明します。

 2012年、私たちは「ジャンプBOOKストア!」というものを作りました。これは出版社系ではたぶん初めてとなる、直営の電子書店です。そもそも、2012年頃は電子書店自体があまりありませんでした。「ジャンプBOOKストア!」はKindleの上陸より前の2012年10月に始まっています。

 これは結構チャレンジで、正直私はそこまで上手くいくとは思っていなかったのですが、蓋を開けてみたら読者がたくさんいました。そこで、『電子の読者に向けたものを実験してみよう』と今度は「ジャンプLIVE」というものを作りました。紙の雑誌で「増刊号」ってありますよね。増刊号を作るような気持ちで「ジャンプLIVE」を作りました。

 実験だったので、マンガ以外にもアニメやゲーム、そして『ジョジョの奇妙な冒険』の荒木飛呂彦先生がなぜかパスタを作る動画、みたいなものも載せました。結果、思ったより反響はなかったので『やっぱり我々はマンガだな』ということで、マンガに注力した「少年ジャンプ+」を2014年に創刊しました。

「少年ジャンプ+」誕生まで

 コンセプトは前述の通り「ジャンプを超える」だったのですが、じつはもう1つ、裏の目標もありまして。

 それは「弱点のデジタルでもヒットを出す!」でした。どういうことかと言えば、『週刊少年ジャンプはデジタルだとちょっと弱いな』と思っていたのです。『東京喰種』や『ワンパンマン』の作者は、デジタル発でヒットになった作品を作った人たちですけれども、この2作品は結局「ヤングジャンプ」から出ていますよね。

 このように、ほかの雑誌と比べると「週刊少年ジャンプ」は紙で強すぎたためにデジタルではちょっと弱いなと思い、『デジタルでもヒットを出していく』を裏の目標に設定していました。

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