少年ジャンプ+が大ヒットの確率を上げるために実行中の成長戦略とは?
ASCII.jp / 2023年4月1日 15時0分
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マンガをデジタル配信する強みは「試行回数を増やせる」こと
前回に引き続き、「少年ジャンプ+」編集長・細野修平氏による特別講義をお届けする。今回は、大ヒットを目指すなら紙よりもデジタルのほうが有利だと言える理由、媒体として大きく成長するためのループが回り始めている現状などを語っていただきました。
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◆
細野 おかげさまで、「少年ジャンプ+」はその後しっかり成長していきました。次は成長のポイントを見ていきたいと思います。
「少年ジャンプ+」は初期から『課金よりもヒットを目指そう』と考えていました。デジタル――今はDXとか言われていますが――の良いところは、見える化しやすいことです。逆に言うと、見える指標を追いかけることになるので、安易にお金儲けに走りがちなのです。
私たちも初期にはLTV(=Life Time Value)、つまりユーザーが入会中にできるだけお金を落としてくれるように頑張りましょう、みたいなことを言われました。でも『それは見えやすいし、わかりやすい目標だけれど、ちょっと違うよな』と思いまして、「じゃあ私たちはお金ではなくヒットを目指そう」と。
ヒットというのは見えづらいものなので結構難しいのですが、そこで安易にお金儲けに流れずにヒットを目指そうと頑張ってきました。具体的には、デジタルの良さとマンガの良さを組み合わせて試行回数を増やそうと考えました。
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デジタルの良さとは何かと言うと、このあとちょっと説明しますが、ページ制限がないこと。紙の「週刊少年ジャンプ」は、マンガだけではなくさまざまなものが載っておおよそ週に1冊500ページくらいの雑誌になっています。
これを1000ページまで増やすと、原価と共に定価も上がってしまいます。ところが、デジタルなら紙代がかからないのです。
もちろん、お金がかかる部分はありますが、そもそもマンガの良さとして「コストが安い」ことが挙げられます。図には、1本の作品を試すときに掛かるお金の順番を書いてみました。みなさんもご存知だと思いますが、ゲームはものすごくお金が掛かります。数億円から数十億円という単位で。
次にアニメですが、今は費用が上がっていまして、1話分の制作費だけでだいたい3000万円から4000万円くらい掛かります。それ以外の費用を足すとやはり億円単位です。Webtoonも――最近はスタジオ制で作っていると聞いたことがあるのではないでしょうか――関わる人数が多いので、やはりマンガよりもお金が掛かります。
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というわけで、デジタル+マンガの良さというのは、「ページ制限がなく、制作コストが安いので、試行回数が増やせる」ことなのです。
では、なぜ試行回数を増やすのかと言えば……我々はさまざまなノウハウも持ってはいるのですが、結局のところ、繰り返し何度も試すことが重要だからです。具体的にどれくらい試しているのかと言うと、「少年ジャンプ+」の場合、2022年1月から11月までに新連載を22本始めています。そして、読切は299本載せています。
これは何を示しているかと言うと、要するにほぼ毎日読切を試しているということです。おそらくこの本数は、日本の出版界で一番多いのではないかと思います。
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さらに、配信ページ数です。これは2016年からどんどん増やしています。2019年、2020年に少し停滞があるかもしれませんが、それでも4万ページ以上試しています。
2022年の2万1940ページもじつは6月くらいの数字で、10月いっぱいの段階で4万7000ページ配信済みです。2021年に配信した総ページ数を現段階で超えています。おそらく2022年は5万ページ以上配信することになるのでは。
これがどの程度かと言うと、先ほど述べた「週刊少年ジャンプ」が1冊500ページで、合併号があるので年に50冊出ませんが、仮に50冊としても2万5000ページなので……その倍くらいを「少年ジャンプ+」は配信しています。
それもすべて「試行回数を増やすのが大事」という方針に沿った行動なのです。
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毎月3000作以上の投稿から新人を探し出す
細野 ここでもう1つ、成長のポイントという意味ですと「少年ジャンプ+」は新人主義だということです。
なぜ新人作家にこだわるのかと言えば、大ヒットするマンガは時代性と結構関係があるのではと思っているからです。その時代にウケている事柄だったり、みんなが心の奥で思っていることだったり……。
そして、その時代を作るのはみなさんのような若者だと思っています。若者=読者に描き手が近いほうがヒットする、ヒットになりやすいのではと思いまして、新人主義をとっています。
また、新人と言っても、単に若い人ということではなく、他誌出身の作家さんも新人と考えて育てています。
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そのための仕組みとして、「ジャンプルーキー!」というものをやっています。これは「少年ジャンプ+」創刊から続けていまして、簡単に言うと漫画家さんたちが自分の作品を投稿して公開できるサービスですね。
現在、投稿者は月に2000人以上。1人1本以上投稿しますので、投稿される話数は3000〜4000作に上っています。これらの作品を「少年ジャンプ+」の編集者で全作品読み、有望な人に連絡して「一緒にマンガを作りましょう」と育てています。
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そしてここで「少年ジャンプ+」の現在を。すでに少し言及しているので、ここはサラッとやっていきます。
「少年ジャンプ+」は現在、連載作品が70本以上あります。2014年の創刊からこれまでに341本の連載作品が始まっていますから、逆に言うと270本くらい終わっている、ということになります。
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ヒットを測るバロメーターと言えるものとして映像化が挙げられますが、『SPY×FAMILY』『サマータイムレンダ』といったアニメ化のほか、直近ですと『カラダ探し』という実写映画が公開され、興収も10億円とヒットしました。このほかにも次々とメディア化が決まっていまして、非常に注目していただいているのかなと思っています。
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すでにグロース・ループが回り始めている
これからの「少年ジャンプ+」についても、ちょっとお話します。
ミッションといたしましては、先ほどから申し上げている通り、「週刊少年ジャンプを超える!」「『ONE PIECE』『鬼滅の刃』を超えるような大ヒット作を出す!」です。
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そこに近づくために目標を立てています。1つめは「毎日100万閲覧を超える作品を作る」ですが、ここは達成しつつあるのかなと。次の目標は、「1週間に1000万人の読者に来てもらう」ということで、ウィークリーのアクティブユーザー1000万を目指しています。
さらにその次の目標と言いますか、最終目標になるのですが、「最新話が毎回1000万人に閲覧される作品を作る」。これがそのまま大ヒット作品を指すかなと思っています。
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そして、大ヒット作品を出すための成長戦略を3つ考えています。まず、先ほども言及した「新人主義」。次に「アンケート・システムを超える」。そして最後が「ライブ感の醸成」です。
1つめの「グロース・ループ」は下図の通りで、仮に「新連載を作る!」から始めるとすれば、まず連載を作ることで読者が集まってきます。読者が集まることで「少年ジャンプ+」の注目度が上がっていきます。そして新人作家が集まってきて、その作家陣から尖った才能があらわれ、その新人が新連載を開始することでまた読者が集まり……というループです。
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ここで大事なのは、新連載は「ここでしか読めない」こと。それが「少年ジャンプ+」という場を高めてくれると思っています。
このループを回していくうちに、尖った才能のなかからヒット作が出てくる、と。ヒット作が出ると読者がまた集まってくる……ということで、これが回り始めると、徐々に1個1個の輪が大きくなっていって、結果、大ヒット作が出てくることになるのかなと思っています。
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最近ですと、これで一番上手くいったなと思っているのが『タコピーの原罪』という作品です。タイザン5先生は、先ほど紹介したジャンプルーキー!出身。まさに、新人作家の新連載からヒットが出たということで、グロース・ループが上手く回り始めているのかなと。
そして戦略の2つめは「アンケート・システムを超える」。「週刊少年ジャンプ」のアンケート・システムというのは、他作品と切磋琢磨して、誰もが納得するフェアな基準というものを持っていますので、これによって作品を面白くするフィードバックが得られるというふうに考えています。
「ジャンプ+」もこれをやりたいと思って、今色々な数字を取っています。閲覧数、いいジャン数、完読率、面白かった率、各種アンケート……これらを活用することによって作家さんにフィードバックしてマンガを改善していければと。ちょっと前に流行った言い方だと「PDCAを回していく」ための資料として数字をどんどん取っていこうと思っています。
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